現役ドラフト
現役ドラフト(げんえきドラフト)は、日本野球機構(NPB)で導入されている現役選手の移籍制度である[1]。2022年(令和4年)より開始し、以降毎年12月に行なわれている。
導入の経緯
編集日本プロ野球選手会が、メジャーリーグベースボール(MLB)が導入している『ルール・ファイブ・ドラフト』を参考に、出場機会が少ない中堅選手の移籍活性化を狙いとし、導入を希望していたもの[2][3]。
2018年7月に選手会の臨時大会においてその議論が交わされ[4]、2018年8月から選手会とNPBの選手関係委員会との間で事務折衝を続けた[4]。
2019年3月に選手会がNPBとの事務折衝で、この制度の導入を正式に提案した[3]。素案が提出された当初は「ブレークスルードラフト」の仮称で報じられた[5]。
NPBにおいては、1970年から1972年に選抜会議(トレード会議)が行われ、フリーエージェント制の代案としてセレクション会議が1990年に2度行われたが、いずれも定着に至らなかった経緯がある[4][6]。しかも、1990年のセレクション会議では、当時ダイエー監督の田淵幸一が、長嶋清幸と長内孝が広島東洋カープのリストに入っていることをマスコミに漏らしたために[7]、広島側が激怒して大騒動に発展した[8]。
2020年1月21日に、プロ野球実行委員会によって制度案を取りまとめ、2020年1月22日に、NPBと選手会の間で現役ドラフトについての事務折衝が行われ、プロ野球実行委員会によって取りまとめた制度案が提示された[9]。
選手関係委員会の委員長で阪神タイガース副社長兼球団本部長の谷本修は報道陣に対し、12球団の方針が大筋合意したと明らかにした[9]。
2020年2月中には、それぞれの球団を巡回し、NPBがまとめた案を持参し、選手側の意見を集めた。
もし、選手会が合意すれば、2020年3月5日のプロ野球実行委員会で2020年からの導入が決定される予定であった[9]。
しかし、新型コロナウイルスの流行による同年のシーズン開幕延期などで議論が中断。
4月6日のプロ野球実行委員会後に、谷本が選手会とのやりとりを行っているとした上で「2020年中には難しくなったのは共通の理解」と語った[10]。
その後も協議が続き、2022年9月に指名方式が判明[11]。
10月7日、NPBと選手会は同年12月9日に開催することで合意した[12]。
制度
編集2022年11月7日にNPBが公表した制度規定は以下の通り[13]。
指名対象選手
編集現役ドラフトでは、NPB12球団が提出した選手が指名対象選手となる。
ただし、以下の選手は指名対象とすることができない。
- 外国人選手
- 複数年契約を結んでいる選手
- 翌季の年俸が5000万円以上(ただし、1名に限り年俸5000万円以上1億円未満の選手を対象とすることができる)
- FA権を保有している、または行使したことがある
- 育成選手
- 前年の年度連盟選手権試合終了の日の翌日以降に、選手契約の譲渡によって獲得した選手
- シーズン終了後に育成から支配下契約となった選手
各球団は、シーズン終了後の全保留選手名簿の提出と同時に、指名対象として2人以上を提出する必要がある。
第2回となる2023年では、リストアップする選手について「年俸が5000万円以上1億円未満の選手をリストアップした球団は、5000万円未満の選手を追加し、3人以上の対象選手をリストアップする」ことが新たに定められた。これにより必ず各球団から2人は年俸5000万円未満の選手がリストアップされることになる[14]。
指名方式
編集各球団が指名したい選手1名に投票(予備指名)を行い、最も多くの票を獲得した球団が1番目の指名権を獲得する。最多得票の球団が複数となった場合、同年のドラフト会議におけるウエーバー順で指名権を決定する。指名権を獲得した球団が予備指名を行った選手を指名し、指名権は選手を指名された球団に移行する。同様の手順で、12球団が各1人を指名した時点で1巡目の指名を終了する[15]。
選手が指名された球団が既に指名を終えている場合、指名権は予備指名の得票順(同数の場合ウエーバー順)により移行先を決定する。1巡目では、
- すでに指名を受けた選手
- 指名された選手の所属球団の選手
を指名することはできない。予備指名の選手が上記の条件により指名できない場合、指名可能な別の球団の選手を指名する。また11番目に指名を行う球団は、12番目の指名順の球団の所属選手を指名しなければならない。
1巡目終了後、2巡目の指名意思を示した球団で2巡目の指名を行う。2巡目は参加球団の中で1巡目の指名の逆順で行われるが、参加球団は指名順になった段階で指名を棄権することもできる。2巡目では、
- すでに指名を受けた選手
- 2巡目において指名された選手の所属球団の選手
- 2巡目の指名を棄権した球団の選手
を指名することはできない。
2022年・23年といずれも各球団は1巡目のみで指名で終了していたが、2024年は制度創設から3年目で初めて広島東洋が2巡目の指名を実施した[16]。
なお各球団が提出する現役ドラフトのリストは秘密情報として開示されず、当日の会議も非公開で行われ、移籍が決定した選手のみのリストが会議終了後に発表される[17]。対象選手リストの情報のうち指名を受けた選手の氏名以外の情報について、各球団は秘密保持の義務を負う。
議論
編集第1回を経た2023年オフ以降、「『出場機会に恵まれない選手の移籍活性化』を意図しながら、移籍しても出場機会が与えられず短期間で戦力外となる可能性がある」点が議論となっている。
2022年の第1回を例にとっても、細川成也や大竹耕太郎のように前所属球団と比較して出場機会・成績共に大幅に伸ばす事例があった一方で、同年に指名された12人中6人が移籍後1年で戦力外通告を受けた(このうち2名は育成選手として再契約[18])。
野球評論家の野口寿浩は、「何人か戦力外になってしまいましたが、現役ドラフトで移らなくても、同じことになっていたと思います」とした上で、「移籍して自分の立場を掴めなかったのは、現役ドラフトだろうが、なんだろうが変わらない。12球団で(成功した選手が)いただけでも意義はあるんじゃないでしょうか」と制度の有効性を語った[19]。
一方、スポーツジャーナリストの西尾典文は「出場機会が少ない中堅選手の移籍活性化と飼い殺しを防ぐという狙いから考えると、改善の余地がある」とした上で、2022年開始直後のルールでは対象となる選手が少なすぎると批判している[20]。
各年の結果
編集開催日 | 指名球団 | 選手名(指名時点の所属球団) | 守備 | 出典 | 翌年の去就 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2022年12月9日 | 1巡目 | オリックス | 渡邉大樹(ヤクルト) | 外野手 | [21] | 戦力外通告[18]→現役引退 |
ソフトバンク | 古川侑利(日本ハム) | 投手 | 戦力外通告[18]→育成契約 | |||
西武 | 陽川尚将(阪神) | 内野手 | ||||
楽天 | 正隨優弥(広島) | 外野手 | 戦力外通告[18]→現役引退 | |||
ロッテ | 大下誠一郎(オリックス) | 内野手 | ||||
日本ハム | 松岡洸希(西武) | 投手 | 戦力外通告[18]→育成契約 | |||
ヤクルト | 成田翔(ロッテ) | 投手 | 戦力外通告[18]→退団 | |||
DeNA | 笠原祥太郎(中日) | 投手 | 戦力外通告[18]→退団 | |||
阪神 | 大竹耕太郎(ソフトバンク) | 投手 | ||||
巨人 | オコエ瑠偉(楽天) | 外野手 | ||||
広島 | 戸根千明(巨人) | 投手 | ||||
中日 | 細川成也(DeNA) | 外野手 | ||||
2023年12月8日 | 1巡目 | 阪神 | 漆原大晟(オリックス) | 投手 | [22] | |
広島 | 内間拓馬(楽天) | 投手 | 戦力外通告[23] | |||
DeNA | 佐々木千隼(ロッテ) | 投手 | ||||
巨人 | 馬場皐輔(阪神) | 投手 | ||||
ヤクルト | 北村拓己(巨人) | 内野手 | ||||
中日 | 梅野雄吾(ヤクルト) | 投手 | ||||
オリックス | 鈴木博志(中日) | 投手 | ||||
ロッテ | 愛斗(西武) | 外野手 | ||||
ソフトバンク | 長谷川威展(日本ハム) | 投手 | ||||
楽天 | 櫻井周斗(DeNA) | 投手 | 戦力外通告[23] | |||
西武 | 中村祐太(広島) | 投手 | ||||
日本ハム | 水谷瞬(ソフトバンク) | 外野手 | ||||
2024年12月9日 | 1巡目 | 巨人 | 田中瑛斗(日本ハム) | 投手 | [24] | |
阪神 | 畠世周(巨人) | 投手 | ||||
DeNA | 浜地真澄(阪神) | 投手 | ||||
広島 | 山足達也(オリックス) | 内野手 | ||||
ヤクルト | 矢崎拓也(広島) | 投手 | ||||
中日 | 伊藤茉央(楽天) | 投手 | ||||
ソフトバンク | 上茶谷大河(DeNA) | 投手 | ||||
日本ハム | 吉田賢吾(ソフトバンク) | 捕手 | ||||
ロッテ | 石垣雅海(中日) | 内野手 | ||||
楽天 | 柴田大地(ヤクルト) | 投手 | ||||
オリックス | 本田圭佑(西武) | 投手 | ||||
西武 | 平沢大河(ロッテ) | 内野手 | ||||
2巡目 | 広島 | 鈴木健矢(日本ハム) | 投手 |
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ 「NPB現役ドラフト議論「選手会と大きな齟齬ない」」『日刊スポーツ』2019年10月1日。2022年10月7日閲覧。
- ^ 「労組プロ野球選手会が定期大会 現役ドラフトの来季実施を強く要望」『スポニチ』2019年12月5日。2022年10月7日閲覧。
- ^ a b 鷲田康「ついに実施される「現役ドラフト」。でもこのままでは選手救済できない。」『Number Web』2020年1月24日。2020年1月31日閲覧。
- ^ a b c 「現役ドラフト協議、過去複数の移籍活性化策定着せず」『日刊スポーツ』2019年12月6日。2020年2月8日閲覧。
- ^ 「出場機会少ない選手のドラフト案、各球団で検討へ」『日刊スポーツ』2019年11月11日。2022年10月7日閲覧。
- ^ 「「令和」の野球~現役ドラフトの時代はやって来る?~」『BASEBALL KING』2019年5月3日。2023年12月9日閲覧。
- ^ 「【田淵幸一物語・第4部(15)】情けなや「機密漏洩」事件 「自分の軽率さを深く反省する」(1/2ページ)」『産経ニュース』2017年6月15日。2024年9月23日閲覧。
- ^ 「【田淵幸一物語・第4部(15)】情けなや「機密漏洩」事件 「自分の軽率さを深く反省する」(2/2ページ)」『産経ニュース』2017年6月15日。2024年9月23日閲覧。
- ^ a b c 「現役ドラフト、7・20前後に実施へ 東京五輪直前の“ビッグイベント”」『サンケイスポーツ』2020年1月23日。2020年1月29日閲覧。
- ^ 「NPB、現役ドラフトは来季へ先送りも」『サンケイスポーツ』2020年4月7日。2020年4月10日閲覧。
- ^ 「現役ドラフトの指名方式判明 12球団がリストから指名したい選手に投票 最多得票球団に1番目指名権」『スポニチ』2022年9月10日。2022年10月7日閲覧。
- ^ 「「現役ドラフト」12月9日開催決定 出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化」『日刊スポーツ』2022年10月7日。2022年10月7日閲覧。
- ^ 「NPBが「現役ドラフト」の制度規定公表 全部で10項目 開催時期や開催方法など定める」『日刊スポーツ』2022年11月7日。2022年11月7日閲覧。
- ^ 「【現役ドラフト】新規定発表 各球団、年俸5000万円未満の選手を必ず2人以上リストアップ」『日刊スポーツ』2023年12月4日。2024年9月8日閲覧。
- ^ 「【現役ドラフト】セ・リーグ 現役ドラフトの対象になりえる選手一覧(写真ニュース)」『日刊スポーツ』日刊スポーツ新聞社、2023年12月7日。2023年12月11日閲覧。
- ^ 広島が現役ドラフト初の2巡目指名 日本ハム・鈴木健矢、オリックス・山足達也の2人を獲得 - Sponichi Annex 2024年12月9日
- ^ 「移籍活性化へ9日午後1時から初の現役ドラフト…非公開で開催し終了後に発表」『スポーツ報知』2022年12月9日。2024年9月8日閲覧。
- ^ a b c d e f g 「現役ドラフト組が「1年で半減」阪神・大竹耕太郎らがブレークの陰で厳しい現実」『東スポWEB』2023年10月29日。2023年12月4日閲覧。
- ^ 「早くも5人戦力外「移らなくても同じことに」 専門家が語る…現役ドラフトの”現実”」『Full-Count』株式会社Creative2、2023年10月28日。2023年12月4日閲覧。
- ^ 「現役ドラフトから1年で“戦力外”が多数 本来の趣旨からズレも、“改善点”は」『AREA.dot』朝日新聞出版、2023年10月24日。2023年12月4日閲覧。
- ^ 「2022年度現役ドラフト結果」『NPB.jp 日本野球機構』2022年12月9日。2022年12月9日閲覧。
- ^ 「2023年度現役ドラフト結果」『NPB.jp 日本野球機構』2023年12月8日。2023年12月8日閲覧。
- ^ a b 「現ドラから1年…2人が戦力外に 防御率1点台&交流戦MVPで大ブレークも分かれた明暗」『Full-Count』2024年10月30日。2024年11月21日閲覧。
- ^ 「2024年度現役ドラフト結果」『NPB.jp 日本野球機構』2024年12月9日。2024年12月9日閲覧。