さらば青春の光 (映画)
『さらば青春の光』(さらばせいしゅんのひかり、原題:Quadrophenia[2])は、フランク・ロッダム監督による1979年のイギリス映画。1960年代初期のイギリスのユース・カルチャーの2大勢力だったモッズとロッカーズの日常生活や両者の対立を軸として、ある架空の熱狂的なモッズ青年と彼の仲間達との青春の光と影、彼等と彼女等が現実世界と理想(モッズワールド)[独自研究?]とのギャップによる苦悩などを乗り越え成長して行く姿を描いた作品である[3]。
さらば青春の光 | |
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Quadrophenia | |
監督 | フランク・ロッダム |
脚本 |
デイヴ・ハンフリーズ マーティン・スティルマン フランク・ロッダム ピート・タウンゼント |
原作 | ザ・フー『四重人格』 |
製作 |
ロイ・ベアード ビル・カービシュリー |
製作総指揮 |
ピート・タウンゼント ロジャー・ダルトリー ジョン・エントウィッスル キース・ムーン |
出演者 |
フィル・ダニエルズ レスリー・アッシュ トーヤ・ウィルコックス フィリップ・デイヴィス マーク・ウィンゲット スティング レイモンド・ウィンストン |
音楽 | ジョン・エントウィッスル |
撮影 | ブライアン・テュファーノ |
編集 |
ショーン・バートン マイク・テイラー |
製作会社 | ザ・フー・フィルム |
配給 |
ユニバーサル・ピクチャーズ 松竹富士 |
公開 |
1979年9月14日(トロント国際映画祭) 1979年11月2日 1979年11月17日 |
上映時間 | 120分[1] |
製作国 | イギリス |
言語 | 英語 |
ストーリー
編集1964年のイギリス。広告会社の郵便室係、ジミー・クーパーは、週末ともなればデイブや通称「スパイダー」などのモッズ仲間と共に、乱交パーティー、改造スクーターでの暴走、アンフェタミン(覚醒剤)の乱用、そして、敵対するロッカーズたちとの乱闘に明け暮れていた。ジミーは仲間の女性の一人であるステフの気を引こうとするが、彼女にはボーイフレンドがいるので、彼の試みはうまくいかない。
ある日、ジミーは幼なじみで数か月前に除隊して帰還したケヴィンと久々に再会する。彼はケヴィンがロッカーズになっていたことを知って大いに戸惑うが、ケヴィンは彼がモッズであることを知っても意に介さなかったので、対立が激化する中にあっても2人は友情を保っていた。しかしある夜、ジミー達がバイクでダンス・クラブに向かう途中、故障で離脱したスパイダーとガールフレンドが通りかかったロッカーズたちに暴行を受ける。ダンス・クラブにたどり着いた二人から事の顛末を聞いたジミーたちは激怒して報復に繰り出し、たまたま見かけた二人連れのロッカーズを襲撃して叩きのめすが、そのうちの一人はケヴィンだった。ジミーは途中でそれに気づくが為す術もなく、その場から独り「そいつは違う!」と叫びながら猛スピードで逃げるように走り去る。
ジミーたちのドラッグ中毒はますます深刻な状態となり、彼等は薬局での窃盗や職場の無断欠勤を起こすようになる。さらに彼等はバンク・ホリデーにバイクで海沿いのブライトンで開かれたモッズの集会へ向かう。そこには各地から集結したモッズに加え、ロッカーズも集結していた。モッズたちは自己陶酔して"We are the Mods!"と叫びながら行進する。ブライトンに来る道中でまたもやロッカーズの一群に絡まれたスパイダーが、バイクで通りかかったカップルを指さして「あいつだ!」と叫んだので、その場にいた全員が、そのカップルが合流したロッカーズの一群を襲撃して叩きのめし、さらに彼等が逃げ込んだ飲食店や立ち並ぶ店を破壊した。勝利の雄叫びをあげるモッズにロッカーズの大群が逆襲をかけた結果、モッズ対ロッカーズの大乱闘が発生。事態は暴動へと発展し、警察が出動して双方の若者を次々と逮捕していく[注釈 1]。ジミーはステフと共に警察から逃れて人気のない路地裏へ逃げ込み、二人は騒ぎの興奮冷めやらぬなかで交じり合い愛し合う。しかし路地裏から出たところでジミーが警察の目に留まり、逮捕されて護送車に放り込まれた。取り残されたステフをどこからともなく現れたデイブが連れ去って行った。
ジミーの護送車に、モッズのカリスマ的存在として憧れの的であるエース・フェイスも放り込まれた。裁判でエースは75ポンドの罰金を科せられるも、その場で小切手で払うことを申し出て治安判事を虚仮にして、出廷していたモッズたちの歓声を浴びた。同じ法廷に立ったジミーも50ポンドの罰金を科せられる。彼は釈放されて帰宅すると、留守中に部屋でドラッグを見つけニュースでブライトンの乱闘を知った母親に家から叩き出される。出勤すると、上司に度重なる無断欠勤を責められたうえに乱闘に参加したことを疑われ、口論になって衝動的に仕事をやめてしまう。
ある夜、ステフや仲間が集まるパブに現れたジミーは、退職金を全額はたいてドラッグを購入する。そこでステフとのことを冷やかしたデイブを殴り飛ばす。その時のステフの反応を見たジミーは、彼女とデイブの関係に気づく。翌朝、ジミーは出勤途中のステフをランブレッタで待ち伏せるが「ブライトンでのことはただの遊びよ。本気にしないで」と冷たく告げられた挙句、悪し様に罵られる。彼は街中をあてもなくランブレッタで彷徨っているうちに、郵便車と衝突しそうになり転倒。自分は無傷だったが、無人の愛車はそのまま郵便車と激しく衝突して大破してしまう。
失意と傷心のジミーは鉄道で再びブライトンへと向かい、乱闘が起きた海岸を歩き回りステフと共に逃げた路地を訪れた。彷徨いの果てに、彼は豪華なホテルの傍らにエースの銀色のベスパが停められているのを見つける。喜びも束の間、彼はホテルからベルボーイの制服に身を固めたエースが小走りに出てきたのを見て唖然とする。彼は客に小言を言われながらいそいそと働くエースの姿に著しく落胆して、その後ろ姿に向かって"Bellboy!"と叫ぶと、持っていた鍵で彼のベスパを発進させて逃走し、ビーチー岬を駆け回る。やがてベスパを停めてキラキラと美しく光る海面を見つめ何かに思いと考えを巡らせた後、彼は崖に向かって一気にべスバで走り出す。次の瞬間、無人のべスバは崖から飛び出して、空中を舞いながら100メートル以上もの距離を落下して、崖下の岩場に叩きつけられて破壊された。
こうしてジミーは青春の光(モッズ)と決別した[注釈 2]。
キャスト
編集役名 | 俳優 | 日本語吹替 | ||
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テレビ版 | VOD版[4] | |||
ジェイムズ(ジミー)・マイケル・クーパー |
フィル・ダニエルズ | 池田秀一 | 立花慎之介 | |
ステフ |
レスリー・アッシュ | 永宝千晶 | ||
チャーキー (ジミーのモッズ仲間) |
フィリップ・デイヴィス | 烏丸祐一 | ||
デイブ (ジミーのモッズ仲間) |
マーク・ウィンゲット | 神奈延年 | ||
エース・フェイス | スティング | 岡井カツノリ | ||
ケヴィン・ヘリオット (ロッカーズ・ジミーの子供時代の友人) |
レイモンド・ウィンストン | 菅原雅芳 | ||
ピーター(ピート)・フェントン (ステフのボーイフレンド) |
ギャリー・クーパー | |||
スパイダー (ジミーのモッズ仲間) |
ゲイリー・シェイル | |||
モンキー (ジミーのモッズ仲間) |
トーヤ・ウィルコックス | |||
ファーディ (ジミーのモッズ仲間) |
トレヴァー・レアード | 北田理道 | ||
ケニー | アンディ・セイス | |||
ジミーの母 | ケイト・ウィリアムズ | 入江純 | ||
ジミーの父 | マイケル・エルフィック | さかき孝輔 | ||
イヴォンヌ (ジミーの姉) |
キム・ネイヴ | 堀井千砂 | ||
フルフォード氏 (ジミーの上司) |
ベンジャミン・ウィットロウ | 伊藤和晃 | ||
ダニー | ダニエル・ピーコック | |||
機関職員 | ジェレミー・チャイルド | |||
治安判事 | ジョン・フィリップス | 西村知道 | さかき孝輔 | |
映写技師 | ティモシー・スポール | 関口雄吾 | ||
映写技師アシスタント | パトリック・マレー | |||
仕立て屋 | オリヴィエ・ピエール | |||
カフェ店主 | ジョージ・イネス | さかき孝輔 | ||
ハリー・ノース (ギャングスター) |
ジョン・ビンドン | |||
クラブのバーテンダー | P・H・モリアーティ | |||
カール氏 | ヒュー・ロイド | |||
ジョニー・フェイギン | ジョン・アルトマン | |||
ロッカーの青年1 | ギャリー・ホールトン | |||
ロッカーの青年2 | ジェシー・バードサル | |||
ドラッグ売人 | ジュリアン・ファース | |||
パーティー主催者 | サイモン・ギプス=ケント | |||
ケン・ジョーンズ | ミッキー・ロイス | |||
ニッキー | ファズ | |||
その他 | — | 下妻由幸 土井真理 橋本雅史 三好晃祐 稲垣拓哉 山口協佳 下川涼 海老名翔太 真木駿一 森下由樹子 | ||
演出 | 中野洋志 | |||
翻訳 | 橋本真砂子 | |||
制作 | ACクリエイト |
概要と制作
編集本作は、イングランドのロック・バンドのザ・フーが1973年に発表した2枚組アルバム『四重人格』(Quadrophenia)を原作とした[5][注釈 3][注釈 4][注釈 5]。
当時ザ・フーのマネージャーだったビル・カービシュリーがロイ・ベアードと共にプロデューサーを務め、『四重人格』の全曲の作者であるピート・タウンゼントをはじめザ・フーのメンバー全員がエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねた。本作制作中の1978年8月にはドラマーのキース・ムーンが急死したので、ロッダム監督は映画の制作を中止する意向であったが、ベアードとカービシュリーが「一緒にまとめあげて」制作を続行させた。
タイトスーツやM51 (モッズコート)などのモッズとロッカーズのファッション、ウインドシールドが装備され多数のミラーとライトで飾られたベスパやランブレッタなどのスクーター、ロッカーズのカフェレーサー)、音楽、ドラッグなどの1960年代文化が詳細に再現されている[3]。
スタジオ内での撮影は作中の1シーンのみで、ほかのすべてのシーンはロケーション撮影で撮られた。ラストシーンのロケ地であるビーチー岬は自殺の名所として知られ、これが映画の結末に影響を与えたと考えられている。ロッダム監督と撮影チームは無人のスクーターが崖から落下していく場面をヘリコプターから撮影していたが、スタントコーディネーターがスクーターが崖から空中に飛び出す距離を低く見積もりすぎていたので、彼等が搭乗していたヘリはスクーターと接触しそうになった。
60年代のロンドン・ミュージック界のDJかつダンサーであるジェフ・デクスターはクラブの場面でDJを演じたほか、クレジットされてはいないが、ダンス場とクラブのシーンで、エース・フェイス役のスティングのクローズアップされた足の動きや500人のエキストラを振り付けた。
1964年にデビューしてモッズの人気を得たザ・フーが様々な形で登場する。当時のロック/ポップ音楽専門の人気テレビ番組『レディ・ステディ・ゴー』で2作目のシングル「エニウェイ・エニハウ・エニホエア」(1965年)を演奏する姿にジミーが熱狂する場面、壁に「Maximum R&B」のキャッチフレーズが書かれたポスターや写真が貼られている彼の部屋の場面、彼がパーティーで3作目のシングル「マイ・ジェネレーション」(1965年)のレコードをかける場面、このパーティーに使われているレコード・プレーヤーの背後にザ・フーのアルバムA Quick One (Happy Jack) / The Who Sell Out[6]が立てかけられている[注釈 6]場面などである。
サウンドトラック
編集1979年10月、2枚組のサウンドトラック・アルバム『さらば青春の光 (オリジナル・サウンドトラック)』がポリドール・レコードから発表された[7]。このアルバムは、ザ・フーの初代マネージャーで有名なモッズでもあり、発売の1年前の1978年6月に亡くなったピーター・ミーデン[8]に捧げられた。
ザ・フーの楽曲と彼等に関連した楽曲[注釈 7]に加えて、以下の挿入歌が収録された。
- 「ハイ・ヒール・スニーカーズ」[注釈 8](クロス・セクション)
- 「ナイト・トレイン」(ジェームス・ブラウン)
- 「ルイ・ルイ」(ザ・キングスメン)
- 「グリーン・オニオン」(ブッカー・T&ザ・MG's)
- 「悲しき雨音」(ザ・カスケーズ)
- 「いかした彼」(シフォンズ)
- 「ビー・マイ・ベイビー」(ザ・ロネッツ)
- 「ハイ・ロン・ロン」(クリスタルズ)
1993年と2001年には、CDとして再びリリースされた。
その他
編集脚注
編集注釈
編集- ^ このシーンは1964年にブライトンで実際に起きた、モッズとロッカーズの衝突騒動に基づく
- ^ 映画の冒頭、彼は沈みゆく夕陽(もしくは上りゆく朝陽)を背に、ビーチー岬から歩いて引き揚げていく。
- ^ ジミーという名の架空のモッズの人格が暴力的(A tough guy)、ロマンティック(A romantic)、絶望(A beggar, a hypocritic)、狂人(A bloody lunatic)という4つの人格から成り立っていることを取り上げた作品である。本作の原題は原作と同じくQuadropheniaであるが、本作ではジミーの人格が4つの人格によって形作られているという点は触れられない。ただし本作も原作と同様に、4つの人格のテーマ曲である'Helpless Dancer', 'Is It Me?', 'Love Reign o'er Me', 'Bellboy'の一節から構成された'I am the Sea'に始まる。さらに、この4曲は部分的にではあるが、劇中('Is It Me?'が含まれる'Dr. Jimmy'はクレジットタイトルの部分)の挿入歌に用いられた。
- ^ 原作では、ジミー以外の登場人物はゴッドファーザーとベルボーイだけで、17曲の収録曲のうちゴッドファーザーが'The Punk and The Godfather'、ベル・ボーイが'Bellboy'で、それぞれジミーと短い会話をかわすかたちで登場した。残りの15曲のうち、インストゥルメンタルの2曲を除いた13曲は全てジミーの独白で、彼の父親も憧れの女の子も彼の独白で描写されただけだった。本作の製作に際して多数の登場人物が加えられて物語が加筆され、ジミーの独白によってではなく登場人物の日常会話によって物語が展開する形式になった。その結果、原作の楽曲は挿入曲として部分的に用いられるに留まった。
- ^ 原作は、ジミーがボートを盗み出して沖にこぎだして岩にたどり着いて、人格の一体化を示唆するLove Reign o'er Meの叫びを上げる場面て終わる。彼の生死は彼自身の決断に委ねられている。
- ^ このアルバムはザ・フーのセカンド・アルバム『ア・クイック・ワン』(1966年)とサード・アルバム『セル・アウト』(1967年)とを合わせた2枚組で、1973年に発売された。つまり厳密に言うと、この場面の時代考証は誤っていることになる。
- ^ ザ・フーの楽曲は13曲。内訳は10曲が『四重人格』の収録曲で、3曲が未発表曲。『四重人格』の収録曲の幾つかには、音楽監督を務めたメンバーのジョン・エントウィッスルによってリミックスやベース・ギターのパートの再録音が施された。未発表曲は『四重人格』に使用されなかった楽曲の再録音で、映画の製作中に急死したムーンに代わって加入した新メンバーのケニー・ジョーンズが参加した。これら13曲にうち映画に挿入されたのは、ごく部分的な使用を含めると、未発表曲の2曲を除いた11曲である。また、ザ・フーに関連した曲として、彼等がピーター・ミーデンのマネージメントの下にあった1964年にザ・ハイ・ナンバーズの名義でシングル発表したZoot Suitが収録された。
- ^ 原曲は、シンガーのトミー・タッカーが1964年に発表した楽曲。
- ^ タウンゼントの自伝によると、本作の製作が決まった頃、彼はライドンと酒を飲みながらライドンが主役を演じる可能性について話し合ったという。
- ^ ロック・シンガーでもある。イングランドのロック・バンドであるキング・クリムゾンのロバート・フリップの夫人。
出典
編集- ^ “Quadrophenia (X)”. 全英映像等級審査機構 (19 March 1979). 15 October 2016閲覧。
- ^ “The Who Official Band Website – Roger Daltrey, Pete Townshend, John Entwistle, and Keith Moon | | Quadrophenia – Original Soundtrack”. Thewho.com. 2011年12月3日閲覧。
- ^ a b c 「さらば青春の光」デジタルリマスター版が40年ぶりに劇場公開(動画あり) - 映画ナタリー
- ^ “さらば青春の光[デジタルリマスター版][吹]”. 2024年9月27日閲覧。
- ^ Townshend (2012), pp. 250, 253.
- ^ “Discogs”. 2023年9月2日閲覧。
- ^ “www.thewho.com”. 2024年3月28日閲覧。
- ^ Townshend (2012), pp. 69–71.
- ^ Townshend (2012), p. 310.
- ^ 映画『さらば青春の新宿JAM』は、1980年代ノスタルジーを否定する! - シネマズ PLUS
引用文献
編集- Townshend, Pete (2012). Who I Am. London: HarperCollins. ISBN 978-0-00-747916-0
参考資料
編集- Ali Catterall and Simon Wells, Your Face Here: British Cult Movies Since The Sixties (Fourth Estate, 2001), ISBN 0-00-714554-3
関連項目
編集- さらば青春の光 (お笑いコンビ) - メンバー2人が命名の相談に訪れた先輩芸人が偶然その直前に本作を鑑賞していたことがきっかけになって、本作の題名がコンビの名前に採用された。