アグスタウエストランド AW139
アグスタウェストランド AW139(AgustaWestland AW139)は、アグスタウェストランド社が生産する15席の6.8トン中型双発ヘリコプターである。救命救急や要人の輸送、捜索救難、海上油田への送迎を想定している。
設計と開発
編集当初は、アグスタとベル・ヘリコプターテキストロンが共同で開発を進めていたためAB139と呼ばれており、ベルが計画から撤退した後AW139に改名された。
AW139は、2基のプラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6C ターボシャフトエンジンを搭載していて、2基で3360馬力を出し、片発停止時の緊急出力(緊急時は片方のエンジンで2.5分制限で1872馬力を出すことが可能)が大きいため、AW139は片発のみでも全備重量を支えられる世界初の双発ヘリコプターとなった。これによって、最大離陸重量でも屋上ヘリポートからカテゴリーA(日本の耐空類別輸送TA級)での離陸が可能である。キャビン容積はこのクラスでは最大の7.6m2を確保している。
最初のAW139は、2001年2月3日にイタリアのヴェルジャーテで初飛行した。最初の量産型は2002年6月24日に生産され、2003年には受領された。
2006年7月時点で会社は190機受注して30機が納入された。2007年には2番目の生産ラインがフィラデルフィアに開業した。2022年5月現在、世界のありとあらゆるユーザーに認められ、既に1100機以上を受注し活躍している[1]。
軍用機としては要人輸送用としての採用が多く、純粋な軍用としては救難機として採用したイタリア空軍の他、アイルランドやカタール空軍(救急機型3機を含む21機[2])、キプロス国家守備隊(2023年時点で捜索救難型3機[3])、ネパール軍航空隊(2023年時点で1機[4])が運用している程度である。アメリカ合衆国軽量多目的ヘリコプターにも提案したが、EC 145を元にしたUH-72Aに敗れている。
2006年のファーンボロー国際航空ショーでは、AW139の拡大版である軍用ヘリコプターAW149を発表した。
派生型
編集- AW139M
- 軍事仕様。武装の搭載が可能。
- HH-139A
- 戦闘捜索救難機、現在イタリア空軍が運用している。
- VH-139A
- 要人輸送機、現在イタリア空軍が運用している。
- MH-139
- アメリカ空軍仕様。UH-1N ツインヒューイの後継となる大陸間弾道ミサイル基地の警備用ヘリコプターとして2018年9月に採用が発表された[5]。北アメリカ北部に生息する狼に由来する「グレイウルフ」と命名された[6]。アメリカ空軍によると、今までに配備されていた同程度の大きさのUH-1Nと比べると、速度で50%アップ、航続距離においても50%アップ、キャビンにおいては30%アップ、持ち上げる能力は2.2トンになったと紹介されている。生産はフィラデルフィアにあるレオナルドの工場で行われ、ボーイングが各種軍用機器の設置と納入後のサポートを担当する[7]。
- AW149
- AW139の拡大型。民間型はAW189と呼ばれる。
日本における採用
編集主に公的機関での採用が多いが、報道取材用途でも使用されていて、日本国内では60機以上が活躍している。
- 海上保安庁 - 2006年にAW139をベル 212の更新として選択したと発表した。24機が2008年から納入されたが、納入時に定点に飛行を維持するSAR モードソフトウェアの開発が間に合わず搭載されていなかった。納入金額は3機で50億円であった[8]。なお、海上保安庁の機体はメインローターの折りたたみ機構は搭載されなかったため地上専用機として運用されており[9]、美保、鹿児島、那覇、石垣、仙台、新潟、北九州、中部、広島の各航空基地に配備されている。
- 警察航空隊 - 大阪府警察・千葉県警察・北海道警察・宮城県警察・福島県警察・警視庁・新潟県警察・長野県警察・宮城県警察・富山県警察・鹿児島県警察に配備されている[10][11]。
- 消防防災航空隊 - 埼玉県防災航空隊・横浜市消防局[12]・東京消防庁航空隊[13]・札幌市消防局・山形県消防防災航空隊・鳥取県消防防災航空隊・栃木県消防防災航空隊・岩手県防災航空隊・新潟県消防防災航空隊・群馬県防災航空隊・広島県防災航空隊[14]・鹿児島県防災航空隊・静岡県消防防災航空隊・富山県消防防災航空隊に配備。総務省消防庁も埼玉県防災航空隊および高知県消防防災航空隊に無償で貸与[15]。
- 国土交通省 - 関東地方整備局[16]、近畿地方整備局[17]に導入済み。九州地方整備局に導入予定。
- 報道取材 - オールニッポンヘリコプター(日本放送協会(NHK))[18]、朝日航洋(日本テレビ放送網・関西テレビ放送)、中日本航空(中京テレビ放送)が運航している。
諸元・性能 (洋上仕様)
編集出典: アグスタウェストランド. “AW139 Offshore” (英語). 2015年6月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月5日閲覧。
諸元
- 乗員: 1~2名
- 定員: 15名
- 全長: 16.66m (54 ft 8 in)
- 全高: 4.98 m (16 ft 4 in)
- ローター直径: 13.8 m (45 ft 3 in)
- 空虚重量: 3,622 kg (7,985 lb)
- 運用時重量: 4,400 kg (9,700 lbs)
- 最大離陸重量: 6,800 kg (14,991 lbs)
- 動力: プラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6C-67C ターボシャフトエンジン、1,252 kW (1,679 shp) ※離陸時最大出力 × 2
性能
- 最大速度: 310 km/h=M0.25 (167 kt)
- 巡航速度: 306 km/h=M0.25 (165 kt)
- 航続距離: 1,250 km (675 nmi)
- 実用上昇限度: 6,096 m (20,000 ft)
- 上昇率: 10.9 m/s (2,140 ft/min)
関連項目
編集脚注
編集- ^ “レオナルド社製ヘリコプター AW139”. 三井物産エアロスペース株式会社. 2022年5月28日閲覧。
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 350. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 81. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 277. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ “ボーイング、アメリカ空軍UH-1N更新でMH-139を84機受注”. FlyTeam ニュース. (2018年9月25日)
- ^ “USAF concludes test flight of MH-139A Grey Wolf helicopter” (英語). Airforce Technology (2020年2月20日). 2020年3月2日閲覧。
- ^ “イタリア生まれの傑作機が原型 新汎用ヘリMH139A「グレイウルフ」米空軍に納入”. 乗りものニュース. (2022年8月30日) 2022年9月2日閲覧。
- ^ 海上保安庁が頭を抱える「欠陥ヘリ」導入問題
- ^ 『オールアバウト海上保安庁』イカロス出版、2022年4月5日。
- ^ 『警察庁がAW139を3機発注』(プレスリリース)AgustaWestland Japan、2011年9月21日 。2013年5月4日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 『AW139、更に4機受注』(プレスリリース)AgustaWestland Japan、2012年3月14日 。2013年5月4日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 高性能ヘリで救助力向上 横浜市消防局2機更新[リンク切れ]
- ^ ちどり(東消ヘリ1) AW139就航式
- ^ 『広島県 防災ヘリAW139を発注』(プレスリリース)AgustaWestland Japan、2011年8月31日 。2013年5月4日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 『AW139消防防災ヘリに更に2機受注』(プレスリリース)AgustaWestland Japan、2012年7月20日 。2013年5月4日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 『国土交通省関東地方整備局の防災ヘリとしてAW139型ヘリコプターを納入』(プレスリリース)三井物産エアロスペース株式会社、2018年3月30日 。
- ^ 『国土交通省近畿地方整備局に防災ヘリコプターAW139を納入』(プレスリリース)三井物産エアロスペース株式会社、2020年6月9日 。
- ^ 『オールニッポンヘリコプターより3機目のAW139を受注』(プレスリリース)AgustaWestland Japan、2012年7月27日 。2013年5月4日閲覧。[リンク切れ]