美人
美人(びじん)または美女(びじょ)とは、主に人となりに優れ外見共に美しい女性をさす言葉。別嬪(べっぴん)・麗人(れいじん)・佳人(かじん)とも呼ばれる。男性に対して用いる際も美人と呼称される[1]。しかし、男性に対しては美人ではなく、美男、イケメン、美男子、美少年などの言葉を用いることが一般的である。少女には美少女と呼ぶのが一般的であり、少年に対しては美少年という。
概要
編集何をもって美とするかは、主観的なものであり、個人の嗜好によって美人の基準は異なる。ある共同体において一般的とされる美人像がその共同体内の全ての個人に共通して美人と見なされるとは限らず、価値観の多様化が進んだ社会であれば美の基準においても個人差が大きくなる。
一方、美人とは多くの人が一致して美しいと見なす女性を指すものであり、ある女性に対する美的評価において、不特定多数の個人の嗜好が一致する場合があることも確かである。後述する平均美人説や黄金比率美人説などに見られるように、多くの人が美と感じる容姿を科学的に説明しようという試みも行われている。
ただし、美は社会的に共有されるものでもあり、時代や文化によって美の基準も変動しており、形質に対する科学的な分析だけでは説明のつかない要素もある。ある時代や文化において多くの人に美と認識される要素が、他の時代や文化でも同様の評価を受けるとは限らない。同様に、ある社会で一般的に美とされる要素がすべての個人の嗜好を全面的に規定するわけではないが、その社会固有の文化として多かれ少なかれ個人に影響を与えることもまた事実である。日本でも特定の芸能人が時代を代表する美人及び美女として扱われ、それに似せたファッションが流行することがある[注 1]。
このように、美人という審美的判断は、判断主体個人の嗜好・その文化的背景・対象の客観的形質という複数の要素によって総合的に形成され、いずれか一つの要素によって排他的に決定されるものではない。
また、俗に言う「世界で最も美しい顔ランキング」など、容姿の美しさを基準にして人を評価することは、ルッキズムを批判する者やフェミニストから問題視される傾向にあるが、こうした批判は美を礼賛するという自然な欲求を抑圧し党派的議論を押しつけるものとして反発も強い[2]。
しかし、結果として本質的な美人のあり方については主に国や世界を代表する「ミスインターナショナル」などの本格的な「美人コンテスト」においてスピーチ力やパフォーマンス力などといった人となりを近年一段と厳しく詮議し、いくら外見を磨いも内面性や品性が劣っていれば「真の美人」としてみなされないために「内面性の美しさ」を強く問われる[3][4][5][6]。よって、世界全体が一般的に示す美人及び美女の定義は一概に外見のみにとらわれるのではなく内面性の美しさも美人の要件の根幹となる大切な要素である。
黄金比率美人説
編集カナダのトロント大学のカン・リー(Kang Lee)が視覚研究の専門誌「Vision Research」で白人女性のみを対象にした研究結果を発表した。そこで女性の見た目の美しさは両目の間隔や目鼻と口の距離が顔全体に占める割合によって決まるという研究結果が発表されている。その研究結果は目と口の距離は顔の長さの36%のときに一番美しいと感じられ、両目の間隔は顔の幅の46%のときに一番美しいと感じられることが分かった[7]。 これを数学理論における「黄金比」と関連付けて論じられることが多く、容姿の美しさの指標としての黄金比は美容業界でもよく用いられ、身体において足底から臍(へそ)までの長さと臍から頭頂までの長さの比が黄金比であれば美しい、また、顔面の構成要素である目、鼻、口などの長さや間隔、細かな形態も黄金比に合致すれば美しいとされている。 なお、黄金比に近い容貌はコーカソイド(白人)に多く[8]、日本人を含むアジア人は黄金比とはかけ離れていることが多いため[9]、日本においてはアジア人に近い「白銀比」(別名「大和比」)という比率で美しさを論じる審美観が存在する[10][11][12][13]。
平均美人説
編集Judith LangloisとLori Roggmanは、無作為に抽出した顔写真の合成写真を被験者に示した時に、その写真が魅力的であると判断されることが多いとする研究結果を発表した(Psychological Science 1990)。この事から、美人とはそのコミュニティにおいて最も平均的な容姿を持つものであるという仮説が提唱された。この説によると、美人像の変遷は、そのコミュニティの構成員の変化を背景としているものと考えられる(鼻が高い人が多くなれば、鼻が高いことが美人の要素となる)。このように平均的な女性が美しいと感じられる理由としては、平均的であるということが、当該コミュニティで失敗のない生殖を行う可能性が高いことを示している(繁殖実績が多い)と考えられるためと説明されている。
欧米における美人像
編集欧米社会における理想の美人像は、ヨーロッパ系の白人女性であることが多い[14][15][16]。世界最大のファッションイベントの一つであるニューヨーク·ファッションウィークの2014年のレポートによると、参加モデルの内訳は、白人82.7%、アジア系9%、黒人6%、ラテン系2%であり、白人モデルが圧倒的多数を占めている[17]。
日本における美人像
編集日本の平安時代には、肌理(きめ)の細かい色白の肌、ふっくらした頬、長くしなやかな黒髪が典型的な美人の条件として尊ばれた。ただし、一定以上の身分のある女性は近親者以外の男性に顔を見せないものとされたため、男性はめあての女性の寝所に忍んで行き、ほの暗い灯火の下で初めてその姿を見るということが普通であった。化粧は、顔に白粉を塗り、眉を除去して墨で描き(引眉)、歯を黒く染める(お歯黒)といったもので、健康美よりはむしろ妖艶さが強調された。当時の女性の成年年齢は初潮を迎える12~14歳であり、30代はすでに盛りを過ぎた年齢とみなされていた。ちなみに、しばしば言及される引目鉤鼻は源氏物語絵巻等の平安絵画において高貴な人物を描く際に用いられた表現技法の名称である。六歌仙の一人である女流歌人小野小町は、当時の美人像からして絶世の美女であったとされている。
戦国時代に日本に30年以上滞在した西洋人ルイス・フロイスは「ヨーロッパ人は大きな目を美しいとしている。日本人はそれを恐ろしいものと考え、涙の出る部分の閉じているのを美しいとしている。」[18]と、当時の日本人が大きな目よりも絵巻物や美人画に描かれるような涼しい目を理想としていた様子を記している。
江戸時代には、日本では色白できめ細かい肌、細面、小ぶりな口、富士額、涼しい目元、鼻筋が通り、豊かな黒髪が美人の典型とされた(浮世絵で見られる女性は、当時の理想的な美人を様式化した作品である。詳しくは美人画を参照)。当時最も売れた化粧指南書『都風俗化粧伝』において「目の大なるをほそく見する伝」という項が存在し、目に関しては現在とは異なる美意識だったことを表している。井原西鶴の『好色五人女』には、低い鼻を高くしてほしいと神社で無理な願いことをする、との記述があり[19]、当時鼻の高さを好んだ傾向が窺える。こうした美意識は、明治時代から大正時代に至るまで美人像の基調となった。
一方で、明治時代に入ると欧化主義とそれに伴う洋装化の動きが起こり、大正時代の関東大震災後からパーマネントや断髪、口紅を唇全体に塗るなど、従来の美意識と相容れないような西洋式の美容が広まり[20]、欧米の影響を強く受けて、白人に近い顔立ちが美人とされ、白人の特徴であるブロンドや茶髪、大きな眼や碧眼(青い目)、薄い唇、高い鼻、スマートな体型などが憧れの対象となった[21]。
戦後では雑誌やマスメディアを通じて化粧品やメイクに関する情報が広く共有され、白い肌・ムダ毛や毛穴のない美肌のための全身脱毛 [22][23] 容貌については美容外科界隈に基づく美肌・小顔・やや細面・大きな目・二重まぶた・鼻筋は細く程良く高い鼻である。身体的特徴については美白系美肌や妊娠力を示すセックスアピールとしての曲線美[24][25]・細くしなやかな脚線美・女性自身からも支持の高い人気のある160cmを目安とする身長[26]等・要は顔や姿スタイル共に美肌さと端正でメリハリのある引き締まった人相や痩せ型体形など、ファッションモデル産業からの理想像ならびに健康美も合さり基づいた審美観が現代では普及している[21][27]。
また、プリクラや加工アプリなどの画像加工による美の追求も盛んに行われている。その反面、容姿の美醜が従来以上に女性の幸福感を左右するようになり、こうした傾向は摂食障害や美容整形への過度の依存など、身体的・精神的健康をむしばむ新たな問題を抱えている者も中にはいる[28]。
ただ、ここ近年になってより外見だけにとらわれずに女性の「人となり」に焦点を当てて「内面性の美しさ」などが注視されている[29][30]。反対に外見だけが秀でていても内面性がよくないと昨今の「美人」や「美女」としての定義に入らず認知されないケースも当たり前にある。
日本における美人の比喩表現
編集日本では木花咲耶姫になぞらえて、正真正銘の美人を比喩する際に花が多く用いられる。たとえば、日本の美しくしたたかな女性たちを撫子の花に見立てて大和撫子と称する他、古来より和歌などのさまざまな場面で「花の比喩」が登場する。
花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに―小野小町
これは日本の文化(大和民族の文化)における伝統的美意識による発想である。たとえば金田一京助は、アイヌに「お前、桜の花きれいだと思わないか」と訊いたところ「きれいだ」と答えたので、「じゃ美人のときに、花のようだと言ったら」と重ねて問うと、「だって全然違うじゃないか。花はこんな形をしているし、顔とは全然違う」と笑われたと記している[31]。
また、日本や中国では、美人を比喩したことわざ・四字熟語が多数存在
- 別嬪 - →詳細は「別嬪」を参照「別品」(特別に良い品)から転じて美しいを表すようになり、のちに美人を表すようになった。
「定評の別嬪さん」「町一番の別嬪さん」 - やまとなでしこ-→詳細は「やまとなでしこ」を参照容姿端麗で淑やかさと内面性に優れ家庭を大切にする日本の理想の美人像。女性のこと。
- 名花 - 美人を花でたとえた比喩的表現。周囲から華やかで際立って美しい女性のこと。
「舞踏界の名花」「社交界の名花」 - 小町 - 平安時代の美人で有名な小野小町の名が由来で、「若く美しいと評判の名高い女性」や未婚女性をいう語。
「ミスグランプリ秋田小町」「評判の小町娘」 - シャン - ドイツ語のschön(美しい。の意)から美人をいう語。
「バックシャン」(後ろ姿が美しい女性のこと) - 才色兼備(さいしょくけんび) - 知性及び品性と容姿の美しさを併せ持つ女性のこと。
「才色兼備は女性の鑑」「憧れの才色兼備」 - マドンナ - 多くの男性からあこがれの対象となる女性。美人。
「クラスのマドンナ」「会社のマドンナ」 - 傾城(けいせい) - 。君主が政にかまけて国を滅ぼしかねない蠱惑的で絶世の美女。
「傾国の美女」「傾国傾城」 - 色女 - 魅惑的で妖艶な美女。美人。
「色女の艶姿」「婀娜っぽい色女」 - 美人には容姿端麗、美男子には眉目秀麗。
- 美人薄命 - 美人は薄幸であるという意味。佳人薄命、美女薄命ともいう。
- 手弱女 - しなやかでたおやかな優美な女性。気立ての優しい女性。
- 八方美人 - どこから見ても美人という意味から、誰からもよく思われようとする人を表す言葉
- 明眸皓歯 - 杜甫の哀江頭で楊貴妃について書かれた表現
- 雲鬢花顔・雲鬢花顔金歩揺 - 白楽天の長恨歌で楊貴妃について書かれた表現
- 朱唇皓歯 - 微笑む女性の口紅と白い歯を表した表現
- 仙姿玉質 - 仙女の様な優雅な姿と玉のように滑らかな肌を表した表現
日本における美人統計
編集日本国内において、特に美人が多いのは日本海側であるとする主張がある[32][33]。具体的には、秋田美人をはじめ、津軽美人、庄内美人、越後美人、加賀美人、越前美人、京美人、出雲美人、博多美人などである。
また、本州日本人と遺伝的に異なる沖縄美人は芸能界で多く活躍しており、県民自体も美人の多さを自負している傾向にある[34]。
美人の呼称
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ “美人 (読み)びじん”. コトバンク. 2023年10月11日閲覧。
- ^ 【西村宏堂の“Out of the Box!”#11】ルッキズムには反対。でも美しい人に惹かれるし、見た目は大事──これって矛盾?:telling,(テリング)
- ^ “ミス・インターナショナル日本代表募集”. Miss International . 2023年5月17日閲覧。
- ^ “ミスインターナショナル日本大会 応募要件”. BEAUTY PAGEANT MEDIA All Rights Reserved.. 2023年5月17日閲覧。
- ^ “【雰囲気美人】とはどんな人のこと?見た目・しぐさ・内面から出る美しさの特徴まとめ”. Domani. 2021年5月6日閲覧。
- ^ “(なんて優しいんだろう…)男性に人気の「性格美人」の特徴4”. mimot.(ミモット). 2021年11月28日閲覧。
- ^ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2814183/
- ^ A・ジョリーにはあてはまらない? 現代美人顔の基準「新黄金律」が判明、米加研究
- ^ 黄金比は比較的、白人種の顔に近い
- ^ 日本人に似合う白銀比メイクとは?
- ^ 「白銀比メイク」で旬な美人になれるワケ
- ^ 美人顔の条件&特徴6つ!可愛い顔になる方法はバランスにあり!黄金比/白銀比
- ^ 白銀比の顔診断!比率・芸能人・調べ方・測り方
- ^ 10 Ways the Beauty Industry Tells You Being Beautiful Means Being White
- ^ When Whiteness is the Standard of Beauty
- ^ Beauty standards are rooted in whiteness
- ^ The Fashion Industry's Racism Harms Everyone
- ^ ヨーロッパ文化と日本文化 (岩波文庫)ルイス・フロイス (著), 岡田 章雄 (訳注)ISBN 978 4003345917
- ^ 井原西鶴 『好色五人女』 岩波書店、1927年、13頁。
- ^ 日本の美人アニメキャラも実はコーカソイドの形質がベース
- ^ a b 白人に美女が多い2つの理由
- ^ 白い肌は女性の味方!清潔感のある美白肌を目指しましょう。
- ^ すぐに真似できる! 男性に聞いた「清潔感がある女性」の特徴4つ
- ^ 曲線美とは - コトバンク
- ^ “女性の魅力は〇〇で決まる!”. 荻窪南口整体院. 2023年12月16日閲覧。
- ^ “女性のイメージは身長で決まるのか?男性との考え方の違いとは?”. 革靴本舗. 2023年12月16日閲覧。
- ^ “美人さんの特徴11ヶ条!近づくために普段からできるケア方法や習慣とは?”. 楽天市場. 2023年12月16日閲覧。
- ^ バラエティ「美人だから今回は特別に…」への違和感 いま見た目、持ち出す必要ありますか?【#令和サバイブ】Yahooニュース
- ^ “【雰囲気美人】とはどんな人のこと?見た目・しぐさ・内面から出る美しさの特徴まとめ”. Domani. 2021年5月6日閲覧。
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- ^ 金田一春彦と團伊玖磨の対談「別れのことば『思うわよォ』」〜「週刊読売」1972年12月16日号
- ^ 伊藤洋、「秋田県の資源行政」『石油技術協会誌』 1992年 57巻 4号 p.334-344, doi:10.3720/japt.57.334
- ^ 吉阪隆生(1970)、「(5) 雪国の都市と建築について」『雪氷』 1970年 32巻 4-5号 p.110-114, doi:10.5331/seppyo.32.110
- ^ 美男美女が最も多いのは沖縄県!?~全国47都道府県「見た目に関する意識調査」実施~|聖心美容クリニックのプレスリリース
参考文献
編集- 井上章一『美人論』 朝日新聞社<朝日文芸文庫>、1995年。ISBN 4022640952
- 井上章一『美人コンテスト百年史-―芸妓の時代から美少女まで』 朝日新聞社<朝日文芸文庫>、1997年。ISBN 4022641452
- 山本桂子『お化粧しないは不良のはじまり』講談社、2006年。 ISBN 4-06-213311-3