木工用ボンド
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木工用ボンド(もっこうようボンド)は、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤の通称。木工用接着剤の一種。略称で「木工ボンド」とも呼ばれる。英語では"White glue"と呼ばれる。また「ボンド」はコニシの登録商標である。
概要
編集第二次世界大戦の開戦によって接着剤の製造に使っていた膠の供給が逼迫し、1943年(昭和17年)頃からアメリカ合衆国政府出版局(GPO)が製本用の合成樹脂接着剤の研究を始めた。そこで生まれた背張り用の接着剤がポリ酢酸ビニル乳濁液に可塑剤を加えたものであった[1]。この時の研究レポートを元にして大蔵省印刷局が1951年(昭和26年)に追試と試作を行い、戦後日本においても原材料が入手可能で、性能とコスト面での実用性があると確認された[2]。
1952年(昭和27年)に、コニシから合成接着剤「ボンド」第一号が発売された。当初は主に製本用の接着剤だった。その後、コニシは様々な企業へサンプルを配布した。すると、名刺製本用としてサンプルを配っていた朝日新聞社から「これは下駄の歯をつなぐのに便利だね」と言われた[3][4]。そして、「酢酸ビニルエマルジョンは木材にも応用できるのではないか」と考え、そして1953年、可塑剤の量を調節し、木材用として最適な柔軟性と強度を持たせた新製品「CHシリーズ」を発売。これが木工用ボンドの直接の元祖となった[5]。
1957年には、コニシが「小型チューブ入りボンド木工用」を発売。国内初の家庭向け木工用ボンドとなった[5]。以降、他社からも同様の製品が製造・販売されるようになる。
由来
編集英語の「bond」(つなぐ・接着・接着剤)という単語から来ている。そのため「木工用」・「接着」の複合語として「木工用ボンド」となる。
成分
編集木工用ボンドは、酢酸ビニル樹脂(C₄H₆O₂)を主成分とした水性系の接着剤である。また、接着剤に含まれている水分が、木材・紙・布に吸収し蒸発することによって固化する「機械的結合」[6]である[7]。特徴として、固まっても弾力性があり、通常の状態では乳白色だが硬化すると無色透明になる特徴を持っている。
特性
編集酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤を木工用として使用する際、以下のような利点と欠点がある。
利点
編集- 安価[8]
- 一液性で簡単に使用できる[8]
- 膠や溶剤系接着剤と比べると衛生上無害で清潔[8]
- 接着剤を塗布してから貼るまでの時間に余裕がある[9]
- 室温で容易に乾燥する[8]
- 圧力を掛けて締めることで接着力が増す[9]
- 接着面が柔軟で耐衝撃性がある[8]
- 乾燥後は半透明になり、はみ出しても汚れて見えない[8]
- 乾燥後の強度が高い[8]
- 接着後に加工してもノコギリや鉋の刃を傷めない[10]
- 接着後の対老化性が大きく経年変化に強い[8]
- 未使用で長期の保存に耐える[11]
欠点
編集種類
編集木工用(白ボンド)
編集樹脂41%・水59%の割合で有ることが多い(メーカーで多少変化)。欧米でも「白ボンド(White glue)」「学校ボンド(School Glue)」の呼称で広く親しまれている大衆向けボンドである[15]。
木工用速乾
編集樹脂55%、水45%の割合で有ることが多い(メーカーで多少変化)。水よりも樹脂の割合が高く水分が少ないので、乾燥が早い特徴がある。
木工用多用途
編集エチレン酢酸ビニル樹脂を主成分としており、「木・皮・布・紙」と「塩化ビニル樹脂・金属」をお互いに接着できるもの。機械的特性は一般的な木工用ボンド(ポリ酢酸ビニル接着剤)と同等ながら、無孔質の平滑面に対する接着力が優れ、耐湿性も高い[16]。市販品にはコニシの「木工用多用途」、アルテコ「速乾アクリア」などがある。
その他
編集- 手芸用ボンド
- 学校教材用ボンド(学校工作用ボンド)
- 建築用木工ボンド 他
競合製品
編集木工用ボンドはコニシ以外からも発売されている。
主に一般用
-
フエキボンド
-
ミツヱボンド
商標
編集「ボンド」はコニシの登録商標である。(ボンド/BONDの二段併記商標 登録商標第433890号等)
コニシの接着剤のブランド「ボンド」の中で、木工用だけが突出して有名になってしまい、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤の商標由来の代名詞として「木工用ボンド」が通名するようになった。なお、コニシでは「ボンド」が普通名称化しないように自社サイトで登録商標を管理している[18][19]。
その他
- コニシ ボンド木工用(立体登録商標 日本第5053354号)
- コニシ ボンド木工用速乾(立体登録商標 日本第5331532号)
- ボンド(登録商標 日本第第429201号)
- フエキボンド(登録商標 日本第3046010号)
- ボンドタッチ(登録商標 日本第5380962号)
規格
編集日本工業規格では、「酢酸ビニル樹脂エマルジョン木材接着剤 / Poly (vinylacetate) emulsion adhesives for woods」として、規格を設けている。「JIS K 6804:2003」
使用例
編集- 建築内装木工事、家具・建具の製作[20]。
- 木・合板・紙・布・フェルト・パーティクルボード・ハードボード・インシュレーションボード・MDFの相互の接着、工作での使用。
その他
編集海外では、アメリカのフランクリン社製の「タイトボンド」が木工用ボンドとして広く普及しているが、脂肪族樹脂を主に使用しているため、日本でいう『酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(通称 : 木工用ボンド)』の分類には入らない。
脚注
編集- ^ , 大蔵省印刷局 & 1951-02, p. 45.
- ^ , 大蔵省印刷局 & 1951-12, pp. 1–6.
- ^ となりのカインズさん (2023年12月7日). “世界遺産も接着!? 木工用だけじゃない「ボンド」の接着史【創業150年コニシ】”. となりのカインズさん. 2024年7月6日閲覧。
- ^ “コニシ150年のあゆみ|150周年記念サイト|コニシ株式会社”. www.bond.co.jp. 2024年7月6日閲覧。
- ^ a b “ボンド木工用 ニッポン・ロングセラー考 - COMZINE by nttコムウェア”. www.nttcom.co.jp. 2024年7月7日閲覧。
- ^ “接着基礎知識|セメダイン株式会社”. www.cemedine.co.jp. 2024年7月23日閲覧。
- ^ 荒神 (2019年3月25日). “「木工用ボンド」の「成分」とは?接着剤の科学!!”. 行雲流水/荒神ライフ. 2024年7月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 桜田 1962, p. 182.
- ^ a b 桜田 1962, p. 186.
- ^ 桜田 1962, p. 188.
- ^ a b 桜田 1962, p. 184.
- ^ 桜田 1962, p. 179.
- ^ 桜田 1962, p. 187.
- ^ 桜田 1962, p. 183.
- ^ 終末 (2023年7月21日). “タイトボンド各種とコニシボンド【木工用ボンドの沼】”. 終末DIY. 2024年7月7日閲覧。
- ^ “水性接着剤 幅広い用途に対応する持続可能な水性接着剤溶液”. ヘンケル. 2024年9月1日閲覧。
- ^ “接着剤の充填、製造 ナカイ[会社紹介]”. www14.plala.or.jp. 2024年7月13日閲覧。
- ^ “コニシのブランドについて|企業情報|コニシ株式会社”. www.bond.co.jp. 2024年7月23日閲覧。
- ^ “実は〇〇〇の登録商標です!有名すぎて意外と知らないジャンル別商品名22選”. 特許一年生 (2014年2月15日). 2024年7月23日閲覧。
- ^ “ボンド 木工用速乾 500g | コニシ株式会社”. www.bond.co.jp. 2024年7月24日閲覧。
- ^ “塗って乾燥、ペロンと剥がせば頑固な汚れや錆(サビ)をゴッソリ落とせます”. www.haikanbuhin.com. 2024年7月29日閲覧。
- ^ “工具をサビ取りする8つの方法とは?絶対NGの方法も解説! | 工具をサビ取りする8つの方法とは?絶対NGの方法も解説!”. 2024年7月29日閲覧。
- ^ “木工用ボンドでサビがごっそり落ちる?裏技を試した結果「思っていたのと違った」 - macaroni”. macaroni [マカロニ]. 2024年7月29日閲覧。
参考文献
編集- “米国政府印刷局(The Government Printing Office)使用の製本用接着剤に就いて(承前)”. 大蔵省印刷庁研究所時報 (大蔵省印刷庁研究所) 3 (2): 15-20. (02 1951). NDLJP:11206043/9.
- 市川家康,室井徳造,村沢光博 (12 1951). “ポリ醋酸ビニル乳濁液の製本用接着剤への応用に就いて”. 大蔵省印刷庁研究所時報 (大蔵省印刷庁研究所) 3 (12): 1-6. NDLJP:11206053/2.
- 桜田一郎 編「5.エマルジョンの応用 3.接着」『酢酸ビニル樹脂』高分子化学刊行会、1975年、181-191頁。NDLJP:9573485/121。