爺ヶ岳

富山県・長野県の山
冷池山荘から転送)

爺ヶ岳(じいがたけ)は、富山県中新川郡立山町長野県大町市にまたがる、飛騨山脈(北アルプス)・後立山連峰南部の標高2,670 m。山名は長野県側では「いがたけ」と頭高型アクセントで発音される。また栂山・栂谷ノ峯・後立山・五六ヶ岳・爺岳・爺子岳の別称を持つ[3]

爺ヶ岳
種池山荘から望む爺ヶ岳(左から北峰・本峰・南峰)
種池山荘から望む爺ヶ岳
標高 2,669.82[1] m
所在地 日本の旗 日本
富山県中新川郡立山町
長野県大町市
位置 北緯36度35分18秒 東経137度45分03秒 / 北緯36.58833度 東経137.75083度 / 36.58833; 137.75083座標: 北緯36度35分18秒 東経137度45分03秒 / 北緯36.58833度 東経137.75083度 / 36.58833; 137.75083[2]
山系 飛騨山脈後立山連峰
種類 褶曲隆起
爺ヶ岳の位置(日本内)
爺ヶ岳
爺ヶ岳の位置
プロジェクト 山
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概要

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北峰(標高2,630 m)・本峰(中央峰)・南峰(標高2,660 m)の3峰からなり、女性的な山容である[3][4]。南下してきた稜線は、ここで西に向きを変えている[3][5]。南峰と本峰の間の白沢の上部には、春に種蒔きをする老爺の雪形が見られ、農耕の目安に利用されてきた[3][4][5][6][7]。この雪形が山名の由来である[4][5][6]

中部山岳国立公園内にあり、山頂部がその特別保護地区、東山腹の一部地域がその特別地域と普通地域に指定されている[8]。さらに日本三百名山[4]新日本百名山[9]花の百名山[10]の一つに選定されている。白沢天狗尾根の南東山腹には爺ヶ岳スキー場がある。

環境

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地理

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鹿島槍ヶ岳から布引山を経て爺ヶ岳へと延びる稜線、この山で西側に約90度向きを変える。中央最奥の槍ヶ岳穂高岳へと飛騨山脈の稜線が連なる

飛騨山脈北部の後立山連峰の南部に位置し、鹿島槍ヶ岳方面の北側から南北に連なる稜線はこの山で西側に約90度向きを変え岩小屋沢岳へと連なる[5][11]北峰の少し北側から信州方面に赤岩尾根が延び、北峰からは冷尾根、本峰からは南東に尾根が伸び東尾根と白沢天狗尾根に分岐する[11]。南峰からは南尾根が延びる[11]。北側の布引山との鞍部には冷池、西側の岩小屋沢岳との鞍部には種池のごく小さながある[5][12]

地質

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山体は約160万年前に発生した噴火による溶結凝灰岩(大峰火砕流)などで構成される[3]。南峰の西側には3本の線状凹地があり、多重稜線となっている[3]

植物相

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その周辺には「種池」と呼ばれる池塘があり、クロサンショウウオルリボシヤンマなどが生息する[3]。山頂部は森林限界の高山帯であり、ハイマツウサギギクカライトソウ[10]コバイケイソウコマクサトウヤクリンドウチングルマミヤマリンドウなどの高山植物が自生している。中腹の亜高山帯にはコメツガオオシラビソクロベなどの針葉樹や、ダケカンバハンノキなどの落葉広葉樹が分布している[3]ニホンカモシカホンドギツネホンドテンイワヒバリホシガラスライチョウコマドリミヤマモンキチョウなどが生息している[3][4]

周辺の山

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後立山連峰の西側には黒部川を挟んで剱岳立山などの立山連峰が対峙し、両者は南側へ稜線が延び三俣蓮華岳で合流する。

山容 山名 標高
(m)[1][2]
三角点等級
基準点名[1]
爺ヶ岳からの
方角と距離 (km)
備考
  鹿島槍ヶ岳 2,889.08 二等「鹿島入」  北 4.0 日本百名山
針ノ木小屋
  布引山 2,683  北 3.1
  爺ヶ岳 2,669.82 二等「祖父岳」   0 日本三百名山
種池山荘・冷池山荘
  岩小屋沢岳 2,630.32 三等「西岳」  西南西 3.6
  鳴沢岳 2,641  西南西 5.4 新越山荘
  蓮華岳 2,798.61 二等「蓮華岳」  南南西 6.9 日本三百名山
コマクサ群生地
  針ノ木岳 2,820.60 三等「野口」  南西 8.1 日本二百名山
針ノ木小屋
  立山 3,015 (雄山 2,991.59 m)
(一等「立山」)
 西 11.8 富山県の最高峰
日本百名山

周辺の峠

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  • 冷乗越 - 布引山との鞍部
  • 棒小屋乗越 - 岩小屋沢岳との鞍部
  • 新越乗越 - 鳴沢岳と赤沢岳との鞍部、標高2,462 m。山頂の4.8 km西南西に位置する。
  • 針ノ木峠 - 針ノ木岳と蓮華岳との鞍部、標高2,536 m。山頂の7.6 km南西に位置する。

源流の河川

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以下が源流となる河川で、日本海へ流れる[11][12]

爺ヶ岳の風景

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登山

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爺ヶ岳本峰から望む南峰、富山県側の巻道がある

登山ルート

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扇沢駅からの柏原新道と、赤岩尾根からの登山道の2ルートがある[4][10][12]。後立山連峰縦走時に登頂されることもある。本峰と南峰の巻道が縦走路の富山県側にある。積雪期には、東尾根が利用されることがある[13]。白沢天狗尾根と扇沢にかつてあった登山道は廃道となった[6][7]。「柏原新道」は、周辺の種池山荘の運営管理をしていた開拓者の柏原正泰にちなんだものである[3]1964年(昭和39年)頃から3年程柏原が測量しルートの選定がなされ、大町市当局から建設業者に発注された工事であったが、3年間で1,500 mほどの山道がつけられた程度だった。柏原はこれに業を煮やして、自らの手で残りの4,800 mの部分を含め1年間で扇沢から種池山荘までのルートを完成させた[14][15]

学校集団登山 - 夏休みに池田町立高瀬中学校などの中学生の授業の一環として行う「学校集団登山」が柏原新道を利用して賑わっている[16][17]
  • 柏原新道:柏原新道登山口 - ケルン - 種池山荘 - 南峰 - 爺ヶ岳
  • 赤岩尾根:大谷原 - 西俣出合 - 高千穂平 - 冷乗越 - (北峰) - 爺ヶ岳
  • 後立山連峰縦走路

周辺の山小屋

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稜線の鞍部などの登山道には、山小屋キャンプ指定地がある[12][18]。登山シーズン中の一部期間に有人の営業を行っている。最寄りの山小屋は種池山荘と冷池山荘で、登山口周辺の扇沢駅には一般の宿泊施設がある。積雪量の多い地域であり、営業期間外には閉鎖される[19]

  • 冷池山荘、種池山荘の各テント場は、週末等の完全予約必要日に張り数を適正数にするために、特定日は予約制である。
    • 白馬岳方面で冷池山荘の次のテント指定地は五竜山荘である。キレット小屋にはテント場はない[20]
    • 針ノ木岳方面で種池山荘の次のテント指定地は針ノ木小屋である。新越山荘にはテント場はない。
名称 所在地 標高
(m)
爺ヶ岳からの
方角と距離 (km)
収容
人数
キャンプ指定地 備考
冷池山荘
 
布引山と爺ヶ岳との鞍部 2,410  北 1.7 250 テント40張
冷池山荘から北に約250 m
1929年開業
夏山診療所
種池山荘
 
岩小屋沢岳と爺ヶ岳との鞍部 2,450  西 1.4 200 テント20張
種池山荘から西に約100 m
1919年建造
新越山荘
 
新越乗越の北東近傍 2,465  南西 4.7 80 なし 1971年建造

冷池山荘

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(つめたいけさんそう)

  • 歴史
    • 1929年昭和4年)に「平村営冷池小屋」として開業した[14]
    • 1931年(昭和6年)に、管理人であった荒井思衛ら2人が山中で滑落死する遭難事故が起き、翌年の秋には次の管理人であった吉田浦一郎も岩場で転落死した[14]。その後柏原長寿が村からの委託を受けて、借入制度のもと小屋の管理・運営を始めた。当時の小屋の賃料は年間130円だったとする説がある[14]
    • 1943年(昭和18年)に柏原長寿が村から小屋を買い取った[14]。小屋での水は当初天水を利用していたが、1960年頃から設置された発電機により富山県側の棒小屋沢の水源から水をポンプアップする給水設備が導入された[14][15]
    • 1955年 - 1965年(昭和30年代)に登山者が増加し、鹿島槍ヶ岳に登頂する登山者で小屋が賑わい、収容しきれない客を小屋先にテントを設置して対応していた[14]
    • 1963年(昭和38年)に、北アルプスの山小屋で初めてヘリコプターによる資材の運搬が行われ[3]、2階建ての本館が建造された[14]
    • 1967年(昭和42年)に、鉄筋コンクリート構造厨房の建物が併設され、冷池小屋から冷池山荘に改名された[14]
    • 1976年(昭和51年)に、鉄骨構造の2階建ての新館が建造された[14]
    • 1979年(昭和54年)に夏山診療所が開設された[14]。7月中旬から8月中旬にかけて、千葉大学医学部により運営が行われている[21]

種池山荘

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岩小屋沢岳と爺ヶ岳との鞍部にある種池山荘と立山連峰別山
  • 歴史
    • 1919年大正8年)に当時の平村により、29石室の種池小屋が建造された[14]。柏原長寿が村からの委託を受けて、小屋の管理を行っていた[14]
    • 1930年(昭和5年)に木造小屋に建て替えられたが、この年の冬に積雪のため倒壊した[14][15]。その後も積雪により小屋が押しつぶされることが何度もあり、登山シーズン後に小屋を解体し次の年の開業時に組み立てる方式とした時期もあった[15]
    • 1940年(昭和15年)8月12日に久邇宮家彦王一行が、白馬岳から蓮華岳への縦走時、鹿島槍ヶ岳に登頂した後に種池山荘に宿泊した[14]
    • 1943年(昭和18年)に柏原長寿が村から小屋を買い取り、戦後娘婿の柏原正泰が小屋の管理を行った[14][15]
    • 1959年(昭和34年)に伊勢湾台風により屋根が吹き飛ばされるほぼ全壊の被害を受け、翌年木造2階建ての旧館が再建された[14]
    • 1968年(昭和43年)に、1階が鉄筋コンクリート構造、2-3階が鉄骨構造の頑丈な小屋に建て替えられ、種池小屋から種池山荘(たねいけさんそう)に改名された[14][15]
    • 1971年(昭和46年)に当時の林野庁の要請を受けて、柏原正泰が岩小屋沢岳と鳴沢岳との鞍部に新越山荘を建造した[14]
    • 1994年平成6年)旧館が全面改築された[14]

交通アクセス

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南山麓の篭川左岸沿いに長野県道45号扇沢大町線が通り、立山黒部アルペンルート関電トンネル電気バス扇沢駅の北東4.2 kmに位置する。

脚注

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  1. ^ a b c 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2013年4月11日閲覧。
  2. ^ a b 日本の主な山岳標高(富山県・長野県)”. 国土地理院. 2013年4月11日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 新日本山岳誌 (2005)、887-888頁
  4. ^ a b c d e f 日本三百名山 (1997)、211頁
  5. ^ a b c d e f 日本山名辞典 (1992)、238頁
  6. ^ a b c 日本の山1000 (1992)、386頁
  7. ^ a b 日本登山図集 (1986)、33-37頁
  8. ^ 中部山岳国立公園の区域図” (PDF). 環境省. 2013年4月12日閲覧。
  9. ^ 新日本百名山 (2006)、25-27頁
  10. ^ a b c 花の百名山 (1997)、292-295頁
  11. ^ a b c d 地図閲覧サービス「爺ヶ岳(富山県中新川郡立山町)」”. 国土地理院. 2013年4月12日閲覧。
  12. ^ a b c d 山と高原地図 (2013)、地図表面
  13. ^ 日本雪山登山ルート集 (1996)、112-113頁
  14. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 北アルプス山小屋物語 (1990)、110-116頁
  15. ^ a b c d e f 北アルプス山小屋案内 (1987)、41頁
  16. ^ 学校集団登山”. 長野県山岳総合センター. 2023年7月18日閲覧。
  17. ^ 「長野県中学校集団登山動向調査」のまとめ” (pdf). 長野県山岳総合センター (2013年). 2023年7月18日閲覧。
  18. ^ 『山と溪谷2011年1月号付録(山の便利手帳2011)』山と溪谷社、2010年12月、159頁。ASIN B004DPEH6G 
  19. ^ 鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳、鳴沢岳、針の木岳へ行こう”. 新越山荘・種池山荘・冷池山荘. 2013年4月12日閲覧。
  20. ^ 鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳、鳴沢岳、針ノ木岳へ行こう”. 冷池山荘(TSUMETAIKE) 種池山荘(TANEIKE) 新越山荘(SHINKOSHI) (2023年7月17日). 2023年7月17日閲覧。
  21. ^ 夏期山岳診療所”. 日本登山医学会. 2013年4月12日閲覧。

参考文献

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  • 『日本登山図集』日地出版、1986年10月。ISBN 4527002333 
  • 金子博文『北アルプス山小屋案内』山と溪谷社、1987年6月。ISBN 4635170225 
  • 柳原修一『北アルプス山小屋物語』東京新聞出版局、1990年6月。ISBN 4808303744 
  • 『日本の山1000』山と溪谷社、1992年8月。ISBN 4635090256 
  • 徳久球雄 編『コンサイス日本山名辞典』(修訂版)三省堂、1992年10月。ISBN 4-385-15403-1 
  • 中村成勝『日本雪山登山ルート集』山と溪谷社、1996年12月1日。ISBN 4-635-18003-4 
  • 日本三百名山毎日新聞社、1997年3月。ISBN 4620605247 
  • 田中澄江花の百名山文春文庫、1997年6月。ISBN 4-16-352790-7 
  • 日本山岳会 編『新日本山岳誌』ナカニシヤ出版、2005年11月。ISBN 4-779-50000-1 
  • 岩崎元郎新日本百名山登山ガイド〈下〉』山と溪谷社、2006年3月。ISBN 4635530477 
  • 山と溪谷社 編『花の百名山地図帳』山と溪谷社、2007年6月20日。ISBN 9784635922463 
  • 『鹿島槍・五竜岳』昭文社山と高原地図2013年版〉、2013年3月15日。ISBN 978-4398758934 

関連項目

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外部リンク

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