リオレ(仏:riz au lait)は、ライスプディングフランスでの名称。ミルクで炊き、甘くした料理。フランスでは家庭的なデザートで、ヨーグルトクレームブリュレ、ムースオショコラと同様にフランスのスーパーでは商品として並んでいる[1]。ライスプディングと同義であるが、フランス料理(デザート)として供される場合はリオレと呼ばれる。

リオレ
バラを使ったリオレ
種類 プディング
主な材料 コメ牛乳
その他お好みで 砂糖
類似料理
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
テンプレートを表示

名称と発音

編集

"riz" はフランス語で米、"lait" はミルク、"au" は 「〜と」「〜に」という意味の前置詞である。"riz"はリゾットなどの語に見られ、"au lait"はカフェ・オ・レと同様「ミルクと」という意味である[1]。「米とミルク」という意味を持つ語で、「riz」の「z」は発音せず、リオレと発音する[2]

歴史

編集
 
カラメルとヘーゼルナッツのリオレ

フランスでのリオレの歴史は、16世紀ごろからの記録があり、サンフォリヤン・シャンピエ(Symphorien Champier)の孫で[3]フランソワ1世の医師ジャン・ブリュイエラン・シャンピエが書いた『De re cibaria』(1530年から1547年の間に書かれたもの)の一節を、食品に関する歴史家のマドレーヌ・フェリエール(Madeleine Ferrières)が訳している。同書では、「米は太ると考えられており、宮廷や大都市では、痩せすぎの女性たちがよく米を食べている。(中略)ミルクや大量の砂糖と一緒に食べている」と書かれていた[4]

18世紀末までは、主に人や動物用のダイエットとして医薬品の形で使用されていた[5][6]

1615年、イギリスの詩人、ジャーヴェス・マーカム(Gervase Markham)は、Whitepot[注釈 1]レシピを紹介している。このレシピは、クリームローズウォーターを加えたもので、現代のライスプディングのすべての要素を備えていた[7]

1787年に、8種類の米の調理法の中に、ピエール=ジョゼフ・ビュショによる rice à la chancelièreのレシピがあり、これは卵を使わないリオレと同様のものだった。米をミルクで炊いてペースト状にならないよう調理し、調理の最後に砂糖を入れ数粒のを入れるというもので、彼はそれをスープと呼んでいる[8][9]

1813年に書かれた『Grammaire de la langue arabe』(1813年)の中で、フランス人のエジプト学者であるクロード・エティエンヌ・サヴァリ(Claude-Étienne Savary)は、「リオレは麝香龍涎香を混ぜると絶品である」と記している。

フランス料理においてリオレは、「ボリュームのあるスープ」(フランス人シェフ兼パティシエであるジュール・グーフェ(Jules Gouffé)の1870年の本にはまだあった)や「リオレと小麦粉のケーキ」としての地位を徐々に失い、世紀の後半になってからデザートになった。

1868年、フランスの料理研究家であるユルバン・デュボワ(Urbain Dubois)の『La Cuisine classique』には、バニラ風味のリオレにメレンゲ状のリンゴアプリコットソースを添えたものが掲載されているが、これはもともと1815年のアントナン・カレームの作品にあったレシピであり、ミルクではなく水で米を炊いたものである[10][11][12]。1869年、コーラ・ミレー・ロビネ(Cora Millet-Robinet)による著書「La Maison rustique des dames」では、レモンオレンジ花水で香り付けをし、ブラックコーヒーチョコレートで香り付けをすることをが提案されていた[13][14]

レシピと材料

編集

家庭的なデザートであるためレシピは一定しておらず、基本的な牛乳と米のほか、砂糖、卵、バニラ、クローブバターマーガリン、クリーム、シナモンフルーツドライフルーツナッツ類、など使う材料もさまざまである[15][16][17][18]。小麦粉を使わないのでグルテンフリーのデザートとしても紹介される[19]

NHKが運営するサイト「みんなのきょうの料理」では、脇雅世によるリオレ(「リ・オーレ」表記)のレシピが公開されており、米、牛乳、グラニュー糖、バニラオイルをベースに、キャラメルソースで生キャラメル(またはキャラメル)牛乳、ドライフルーツを使うものとなっている[20]

商品

編集

フランスでは、ネスレユニリーバダノンなど、乳製品を専門とする大手食品グループが、すぐに食べられるパッケージ入りのリオレを商品ラインナップに加えており[21][22]、ネスレの商品パッケージにはフェルメールの絵画『牛乳を注ぐ女』がデザインされている[23]。バニラやカラメル風味のものが多く、オーガニックビーガンラクトースフリーのものも増えている[24]

日本での展開

編集
 
#CookForJapanと食べチョクによる#RESQ イベントの際に作られた小泉敦子シェフによるおおた農場の渡津米を使ったリオレ

米が主食の日本人にとっては、米を使った甘いデザートをなかなか受け入れがたいというエピソードもあり、フランスを拠点とする辻仁成は最初にリオレを見た時に驚いたと語り[25]銀座のフレンチレストラン「サラマンジェ」のオーナーシェフである脇坂尚は「作るのは難しくないが、客から高評価を得るのは難しい」としている[26]

日本のフランス料理店でのメニューやレシピは多くみられ[27][28][29]四谷の「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナシェフ三國清三は、甜菜糖甘酒を使用したリオレのレシピを、自らのYouTubeチャンネルで公開している[30]

2019年に放映されたテレビドラマ『グランメゾン東京』の第7話においてリオレは物語のカギとなる料理として登場し、親子をつなぐ思い出のデザートとして描かれている[31]

ハーゲンダッツではアイスクリームを使ったリオレのレシピを公開している[32]

2021年、「食べチョク」や「#CookForJapan」では、米の消費量の減少や生産者支援の一環として、地域特産品をつかったリオレのレシピや料理の販売を行い[33][34][35][36]、2022年も牛乳の消費減少や、肥料などの価格高騰の影響を受ける生産者支援として、東京の虎ノ門ヒルズイタリア料理の関口幸秀シェフが期間限定のレストラン「リオレに夢中」をオープンし、メインで提供した[37][38]

予約制レストランやミールキットを展開する「あめつち」ではピエール・エルメとのコラボレーションによるリオレを手掛けた[39]

千代田区神田神保町にある、こどもの本とカフェの店「ブックハウスカフェ」には、カフェメニューに管理栄養士の植野美枝子の監修によるリオレがあり、押し麦ブラウンシュガーアイスクリームなどが使われている[40]

愛知県常滑市の西浦南小学校では、フランス料理店のシェフが母校の卒業予定の生徒に向けて地元の食材を使った料理をふるまい、美浜町の米と常滑の牛乳で作られたリオレがメニューに入っていた[41]

山形県ではブランド米「つや姫」を使ったリオレが、2021年に行われた「山形のうまいものファインフードコンテスト」で大賞を獲得した[42]

言及

編集
 
神保町『ブックハウスカフェ』の押し麦、ブラウンシュガー、アイスクリーム、福来みかんのジャムを使ったリオレ

ピエール・ブルデューは「ディスタンクシオン」の中で以下のようにリオレに言及しており、リオレは大衆的なものと位置付けている[43]

たとえば一口に「米」と言っても、そのなかにはどちらかといえば大衆的な「リオレ」や「リオグラ」もあれば、むしろブルジョワ的な、というより正確に言えばインテリ的な「リオキュリ[注釈 2]」――それだけでひとつの生活様式を思わせる「リ・コンプレ」は言うに及ばず――などもあるのだから

またカミーユ・ルモニエ(fr:Camille Lemonnier)の小説「Le vent dans les moulins」では、リオレがはいった食器を錫製のスプーンとともに持ち、ネコの食事と対比させている様子が描かれている[44]

Tout le monde tenait dans les mains des écuelles de riz au lait et en raclait le fond avec des cuillères d'étain. L'enfant aussi, assis sur une botte de paille près du chat, mangeait dans une petite écuelle.

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ WhitePotはブレッド・アンド・バター・プディングのこととされる場合があるが、米を使用するレシピがある[7]
  2. ^ 原文では「riz au curry」でカレーライスのこと

出典

編集
  1. ^ a b ほぼ日刊イトイ新聞 - バブー&とのまりこのパリこれ!”. www.1101.com. 2021年9月30日閲覧。
  2. ^ riz au lait — Wiktionnaire” (フランス語). fr.wiktionary.org. 2021年4月11日閲覧。
  3. ^ Jean Bruyérin-Champier”. www.summagallicana.it. 2021年9月27日閲覧。
  4. ^ Madeleine Ferriéres sous la direction de Pascal Brioist et Florent Quellier (2018) (français). La table de la Renaissance, le mythe italien (Presses Universitaires de Rennes- P U François-Rabelais de Tours ed.). Rennes. p. p; 187. ISBN 978-2-7535-7406-9 
  5. ^ Aimé-Henri (1722-1801) Auteur du texte Paulian, La physique à la portée de tout le monde. Tome 1 / ... par M. Aimé-Henri Paulian,... Seconde édition...,‎ 1791 (lire en ligne)
  6. ^ Antoine Augustin Parmentier, Formulaire pharmaceutique à l'usage des hôpitaux militaires de la République française...,‎ 1793 (lire en ligne)
  7. ^ a b Whitepot (Rice Pudding) Recipe - Historical Foods”. web.archive.org (2011年6月24日). 2021年9月27日閲覧。
  8. ^ PERRIER-ROBERT, Annie (2012-10-18) (フランス語). Dictionnaire de la gourmandise (Groupe Robert Laffont ed.). ISBN 978-2-221-13403-0. https://books.google.fr/books?id=gk2xWRx5sgIC&lpg=PT1341&hl=fr&pg=PT1341#v=onepage&q&f=false 2021年1月5日閲覧。 
  9. ^ Buc'hoz, Pierre-Joseph (1731-1807) Auteur du texte (1787) (フランス語). L'Art de préparer les alimens, suivant les différens peuples de la terre. Tome 1 /, auquel on a joint une notice succincte sur leur salubrité ou insalubrité. Par M. Buc'hoz,... 2e édition. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k96332081 2021年1月4日閲覧。 
  10. ^ en 1868, La Cuisine classique d'Urbain Dubois entoure un riz au lait à la vanille de pommes meringuées nappé de sauce abricot, recette qu'on trouve chez Carême dès 1815 mais avec un riz cuit à l'eau ,,.
  11. ^ Marie-Antoine (1784-1833) Auteur du texte Carême, Le pâtissier royal parisien ou Traité élémentaire et pratique de la pâtisserie ancienne et moderne.... Tome II / composé par M. A. Carême...,‎ 1815 (lire en ligne)
  12. ^ Urbain Dubois, La Cuisine classique: études pratiques, raisonnées et démonstratives de l'Ecole française appliquée au service à la russe, E. Dentu,‎ 1868 (lire en ligne)
  13. ^ Jules Gouffé, “Le” livre de cuisine: comprenant la cuisine de ménage et la grande cuisine ; avec 4 planches imprimées en chromolithographie et 182 gravures sur bois, Hachette,‎ 1870 (lire en ligne)
  14. ^ Cora Élisabeth Millet-Robinet, Maison rustique des dames, Librairie agricole de la Maison rustique,‎ 1859 (lire en ligne)
  15. ^ Marmiton-aufeminin. “le bon riz au lait de Bonne-Maman...” (フランス語). Marmiton. 2021年9月30日閲覧。
  16. ^ Marmiton-aufeminin. “Riz au lait à l'ancienne” (フランス語). Marmiton. 2021年9月30日閲覧。
  17. ^ Recette de Riz au lait : la meilleure recette” (フランス語). Journal des Femmes Cuisiner. 2021年9月30日閲覧。
  18. ^ Marmiton-aufeminin. “Riz au lait suédois” (フランス語). Marmiton. 2021年9月30日閲覧。
  19. ^ Riz au Lait Vegan et Sans Gluten” (フランス語). Free The Pickle (2019年5月4日). 2021年10月1日閲覧。
  20. ^ リ・オー・レ レシピ 脇 雅世さん|【みんなのきょうの料理】おいしいレシピや献立を探そう”. みんなのきょうの料理. 2021年10月10日閲覧。
  21. ^ ほぼ日刊イトイ新聞 - バブー&とのまりこのパリこれ!”. www.1101.com. 2021年9月30日閲覧。
  22. ^ Le riz au lait, un plaisir international” (フランス語). Les produits laitiers (2014年4月25日). 2021年9月30日閲覧。
  23. ^ Riz au Lait Saveur Vanille - La Laitière - 920 g (8 * 115 g)” (フランス語). fr.openfoodfacts.org. 2021年9月30日閲覧。
  24. ^ Team, EthicAdvisor. “EthicAdvisor” (フランス語). www.ethicadvisor.org. 2021年9月30日閲覧。
  25. ^ 世界の日本人妻は見た! 2015/05/05(火)19:56 の放送内容 ページ2”. TVでた蔵. 2021年9月30日閲覧。
  26. ^ Riz au lait | 銀座|フレンチ|サラマンジェ” (2017年9月23日). 2021年9月30日閲覧。
  27. ^ 一流ホテルの星付きフレンチで知る、今だけの高級食材「黒トリュフ」(東龍) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2021年9月30日閲覧。
  28. ^ 一生に一度は味わいたい超高級食材、白トリュフを使う理由とこだわり(東龍) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2021年9月30日閲覧。
  29. ^ 須賀洋介シェフの山形・つや姫のリオレレシピ【sugalaboの薦める地方食材】より”. Fujingaho (2019年5月1日). 2021年9月30日閲覧。
  30. ^ (日本語) #231『AMAZAKEリオレ』甘酒でお米のスイーツ! シェフ三國の簡単レシピ, https://www.youtube.com/watch?v=Tm31WGehZ3s 2021年10月1日閲覧。 
  31. ^ 『グランメゾン東京』幼い料理人の手が絆をつなぐ 及川光博が見せたほろ苦い決断”. Real Sound|リアルサウンド 映画部. 2021年9月30日閲覧。
  32. ^ リオレ 赤いフルーツを添えて|ハーゲンダッツ ジャパン”. ハーゲンダッツ ジャパン Häagen-Dazs. 2021年9月30日閲覧。
  33. ^ 「食べチョクSOSマルシェ」をシェフとコラボしたレストランで開催!コロナでお困りの食材を中心に販売。”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2021年9月30日閲覧。
  34. ^ 米の消費量減少を受け、食べチョクが「米の消費応援プログラム」を開始。お米スイーツ「リオレ」のレシピを生産者に無償提供し、レシピ付き商品を販売。米の新しい楽し...”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2021年9月30日閲覧。
  35. ^ 米の消費量減少を受け、食べチョクが「米の消費応援プログラム」を開始。お米スイーツ「リオレ」のレシピを生産者に無償提供し、レシピ付き商品を販売。米の新しい楽しみ方を提案。:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2021年9月30日閲覧。
  36. ^ 【お米の生産者さん応援】『米の消費応援プログラム』を開始しました🌾 | 食べチョク”. www.tabechoku.com. 2021年9月30日閲覧。
  37. ^ コメスイーツのレストラン開業、国産食材の消費後押し”. 日本経済新聞 (2022年7月28日). 2022年8月20日閲覧。
  38. ^ 米と牛乳の消費拡大へ スイーツ「リオレ」で応援 「食べチョク」が期間限定レストラン / 日本農業新聞公式ウェブサイト”. 日本農業新聞公式ウェブサイト. 2022年8月20日閲覧。
  39. ^ Made in ピエール・エルメ監修!”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2021年9月30日閲覧。
  40. ^ カフェメニュー”. ブックハウスカフェ. 2022年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月21日閲覧。
  41. ^ 小学校給食にフルコース…有名フレンチシェフが母校に恩返し「この地域で育って良かったと思えるように」(東海テレビ)”. Yahoo!ニュース. 2021年9月30日閲覧。
  42. ^ つや姫リオレが最高賞 山形のうまいものコンテスト、たかはたファーム製造”. やまがたニュースオンライン. 2021年9月30日閲覧。
  43. ^ ピエール・ブルデュー (訳:石井洋二郎)『普及版 ディスタンクシオン 社会的判断力批判 1』藤原書店、2020年12月10日、45頁。ISBN 9784865782875 
  44. ^ Lemonnier, Camille (1901) (フランス語). Le vent dans les moulins: roman. Librairie Paul Ollendorff. https://books.google.co.jp/books?id=A5_xLHQgk88C 

関連項目

編集