バンレイシ科(バンレイシか、学名: Annonaceae)とは、モクレン目に分類されるの1つである。多くは常緑性木本であり、互生し、はふつう3枚の萼片、3枚ずつ2輪の花弁、多数の雄しべ雌しべをもつ(図1b)。果実はふつう液果であり、集合果を形成する(図1a)。世界中の熱帯から亜熱帯域に分布し、およそ1102,400程が知られ、モクレン目では最大のグループである。日本には、ただ1種クロボウモドキ八重山諸島に自生している。

バンレイシ科

(上) 1a. バンレイシの果実
(下) 1b. Xylopia laevigata の花
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: バンレイシ科 Annonaceae
学名
Annonaceae Juss. (1789)[1]
タイプ属
バンレイシ属 Annona L. (1753)[2]
英名
custard apple family[2], soursop family, pawpaw family[3], annona family[3]
下位分類

バンレイシ属バンレイシ(蕃茘枝、釈迦頭、スイートソップ、シュガーアップル)、トゲバンレイシ(サワーソップ)、チェリモヤなどの果実は熱帯域で広く食用とされるが、輸送が困難なためほとんど現地で消費される。また北米産のポポー(ポーポー)は、ときに日本でも植栽される。イランイランノキの花から得られる精油は、香水などに利用される。

特徴

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高木から低木、またはつる性木本(藤本)であり(下図2a, b)、多くは常緑性であるが、落葉性のものも知られる[3][1][4][5][6]。精油細胞をもち、しばしば芳香をもつ[1][4][5]。毛(毛状突起)は単純または星状[3][1][4]。茎の髄はときに隔壁をもつ[1][5]。一次維管束はときに管状[5]道管要素は非常に細く、隔壁は直角、単穿孔をもつ[3][5][7]。しばしば材の放射組織が目立つ[3][5][7][6]師管色素体はP-type、繊維状タンパク質を含む[5][7]。節は3葉隙性[3][7]

葉はふつう2列互生し(上図2c)、単葉全縁托葉を欠き、葉脈は羽状、ときに腺点をもち、気孔は平行型[3][1][4][5][7][6]。ときに分泌道をもつ[5]

は単生、または総状花序を形成する[1][4][5]花序は頂生するが、しばしば葉に対生または腋生状、ときに幹生する[1][4][7][6]。花は放射相称、ふつう両性、ときに単性で雌雄異株(まれに雌雄同株[1][4][5][6]。ふつう、小苞をもつ[4]花被片はしばしば肉質で厚い[1](下図2d, g)。萼片はふつう3枚、瓦重ね状または敷石状、早落性または宿存性、離生または基部で合生する[3][1][4][5][7][6](下図2f, h)。花弁は3–6(–12)枚、ふつう3枚2輪で外花弁と内花弁がときに分化している(ときに3–6枚が1輪)、瓦重ね状または敷石状、離生または基部で合生する[3][1][4][5][7][6](下図2d–h)。花被片が雄しべ・雌しべを包み込んでいることがあり[6]、またしばしば開花後も花被片が成長する[3][4][6]雄しべはふつう多数、離生、螺生(輪生ともされる[7])、求心的に成熟し、花糸は短く太く、1本の維管束が入る[3][1][4][5][7][6]。まれに最外部の雄しべが仮雄しべになる[5][1]。しばしば雄しべが密集しており、発達した葯隔によって雌しべの柱頭を取り囲む半球状の塊を形成する[3][6](下図2e, g)。発達した葯隔は花粉の保護のためであると考えられている[7]は花糸に沿着し外向または側向(ごくまれに内向)、縦裂開する[1][4][5][6]。バンレイシ亜科では葯はしばしば多室であり、また四集粒や多集粒として花粉を放出する[7]。小胞子形成は連続型または同時型[5]タペート組織は分泌型[5]花粉は単溝粒または無孔粒、2細胞性[3][5]心皮は二つ折り型、ふつう多数(まれに1個)、螺生または輪生し、ふつう離生するが、ごくまれに合生して1室の子房を形成する(Monodora, Isolona[3][1][4][5][7][6]花柱は太く短く、離生まれ合生、柱頭は頭状から花柱に沿って線状、まれに2裂する[3][4][6]子房上位、ふつう基底胎座または縁辺胎座胚珠は1個から多数、倒生胚珠、2珠皮性、厚層珠心[3][4][5]胚嚢はタデ型[5]内胚乳形成は細胞型[5]

2d. Xylopia laevigata の花: 3枚2輪の花弁
2e. ポポーの花: 3枚2輪の花弁
2f. Asimina reticulata の花の裏面: 3枚の萼片と外、内花弁
2g. Uvaria narum の花: 中央の黄色の部分が柱頭、それを囲む白い部分が雄しべ
2h. Monodora grandidieri の花: 内花弁が雄しべ・雌しべを包んでいる

ふつう1心皮性の果実(ときに数珠状; 下図4d)が集まった集合果を形成する[3][4](下図2i–l)。果実はふつう液果で非裂開性、まれに裂開性で袋果状(Anaxagorea, Xylopia など; 下図2l)[3][1][4][5][6]。しばしば子房基部が伸長して果柄となる[4][6](下図2j)。バンレイシ属などでは、多数の果実が融合する[4][6](下図2k)。果実1個あたり種子数は1個から多数、しばしば仮種皮がある[3][1][4]内胚乳は多く、虫食い状に陥入構造(錯道)があり、は小さい[3][1][4][5][6](下図2m)。染色体基本数は x = 7, 8, 9[3][5][7]

2j. Uvaria narum の果実(集合果)
2k. バンレイシの果実(集合果)
2l. Xylopia aromatica の裂開した果実(集合果)
2m. チェリモヤの種子の断面

成分

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バンレイシ科の植物は、ふつうアルカロイド(ベンジル-イソキノリン系)、プロアンソシアニジンフラボノールクェルセチン)をもつ[3][5]

バンレイシ科から見つかる特徴的な物質として、アセトゲニンがある。アセトゲニンは炭素数が35または37であり、C-34またはC-36位にテトラヒドロフラン環(またはテトラヒドロピラン環、エポキシド二重結合など)とγ-ラクトンをもつ物質である[8]。1982年に Xylopia aethiopicaから単離されたウバリシン(下図3a)が、バンレイシ科から初めて報告されたアセトゲニンである[9]。その後、バンレイシ科からは550種以上ものアセトゲニンが報告されている[7](下図3b–e)。植物においてアセトゲニンはおそらく抗菌物質や植食者に対する忌避物質として機能しているが[7]、他にも抗腫瘍、細胞毒性、免疫抑制、殺虫、抗寄生虫などのさまざまな生理活性作用があり、応用的見地から注目されている[8]。これら機能のメカニズムの詳細は明らかではないが、ミトコンドリア電子伝達系NADHデヒドロゲナーゼを阻害することが報告されている[8][10]

分布・生態

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中南米アフリカ南アジアから東南アジアオセアニアなど世界中の熱帯から亜熱帯域に広く分布している[7]ポポーなど温帯域に分布するものもわずかに知られる。特に東南アジアでは、バンレイシ科は多雨林の重要な構成要素である[7]アマゾンでも種数や個体数が多いが、大きくなるものはほとんどいない(ある地域で幹直径 10 cm以上になる227種のうちバンレイシ科は4種のみ)[7]

雌性先熟であり、多くの場合、個体において雌雄期が同調することで自家受粉を避けている[7]。多くは甲虫によって送粉されるが、他に双翅類アザミウマハナバチゴキブリによる送粉も知られている[3][7]。一部の種では花の開閉によって甲虫をトラップし(circadian pollination trap, pollination chamber)、花粉媒介することが報告されている[3][7]。この場合、内花被片の内面に蜜腺や食料となる構造がある。花の匂いは多様で腐敗臭を発するものもあり、また花が発熱するものも多い[3][7]

おもに哺乳類に果実が食べられることによって種子散布される[3][7]

人間との関わり

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バンレイシ属Rolinia を含む)の果実は多数の果実が融合して大きくなり、美味であるため熱帯域では広く栽培・食用とされている[11][12][13]。例としてバンレイシ(釈迦頭、スイートソップ、シュガーアップル)やトゲバンレイシ(サワーソップ)、チェリモヤアテモヤギュウシンリなどがあるが(下図3a)、いずれも輸送性に乏しいためほとんどが現地消費されており、温帯域などに流通することは少ない[6][14]。他にもポポー(ポーポー; 下図3b)[6][15]、ポポーヤ(Popowia diospyrifolia[12]、スイギュウノチチ(Uvaria rufa[12][13][16]、クブル(Stelechocarpus burahol[12]Polyalthia[17]などの果実も食用とされる。


4a. 露店で売られるアテモヤの果実(香港)
4b. ポポーの果実断面

バンレイシ科は精油を含み、香料として利用される例がある。特にイランイランノキCananga odorata)の花は香水の原料となることで有名であり(上図4c)、栽培もされている[6][18]。他にも Cymbopetalum penduliflorum の花[19]Monodora myristica の果実・種子[3][20]ギニアペッパーグローブX. aethiopica)の果実[21](上図4d)は香料香辛料として利用されることがある。

バンレイシ属の種子や根[14]Desmos cochinchinensis の葉(酒餅葉とよばれる)[22]などいくつかの種の樹皮種子などは民間薬に使われることがある。

イランイランノキ[18]、オウソウカ属(Artabotrys[6][23]Desmos cochinchinensis[22]、マストツリー(Monoon longifolium = Polyalthia longifolia[17]ポポー[6]は生花や庭木、街路樹などに利用されることがある(上図4e)。シンガポールにあるイランイランノキの並木はよく知られている[6][18]

マストツリーなどは木材として利用されることがあるが[17]、バンレイシ科の幹は一概に太くならないため、木材利用上ではあまり重要視されず、日本ではさまざまな種が混在した状態で雑材として輸入される[24]

系統と分類

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古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系クロンキスト体系では、バンレイシ科はモクレン目に分類されていた[25][26][27][28]。その後一般的となったAPG分類体系でも、バンレイシ科はモクレン目に分類されている[29]。モクレン目の中では、バンレイシ科はエウポマティア科の姉妹群であると考えられている[7]

中生代の終わり頃には、バンレイシ科の植物は広く分布していたと考えられている[7]。後期白亜紀(約8,900万年前)の花化石である Futabanthus は、バンレイシ科に関連するものとも考えられている[7]

バンレイシ科の中には、およそ110属2,400種ほどが知られている[7]モクレン目の中では、属数・種数ともに最大の科である。科内の分類については諸説あり安定していなかったが[6]分子系統学的研究が行われるようになり、おおよそ整理された[7][30][31]

5亜科または4亜科(MeiocarpidioideaeAmbavioideae を分ける[7][32]、または前者を後者に含める[31])に分けられるが、ほとんどの種はクロボウモドキ亜科(Malmeoideae)およびバンレイシ亜科(Annonoideae)に含まれる[7][31]。以下に、バンレイシ科内の系統仮説(下図5)と分類体系(下表1)を示す。

バンレイシ科

アナクサゴレア亜科 Anaxagoreoideae

亜科 Meiocarpidioideae

イランイランノキ亜科 Ambavioideae

クロボウモドキ亜科 Malmeoideae

Annickieae

Piptostigmateae

Malmeeae

Maasieae

Fenerivieae

Phoenicantheae

Dendrokingstonieae

Monocarpieae

クロボウモドキ連 Miliuseae

バンレイシ亜科 Annonoideae

Bocageeae

Guatterieae

オウソウカ連 Xylopieae

Duguetieae

バンレイシ連 Annoneae

モノドラ連 Monodoreae

ウバリア連 Uvarieae

5. バンレイシ科内の系統仮説の1例[7][31][30]

表1. バンレイシ科の分類体系の1例[1][7][31][32][33]

ギャラリー

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脚注

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出典

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外部リンク

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