クリオネ
クリオネ(Clione)は、腹足綱翼足目ハダカカメガイ科、ハダカカメガイ属に属する貝の総称。日本ではハダカカメガイ(裸亀貝) Clione elegantissima とダルマハダカカメガイClione okhotensisが知られる。
クリオネ | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Clione Pallas, 1774 | ||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||
由来
編集特徴
編集巻貝の仲間であるが、成長すると完全に貝殻を失う。これは裸殻翼足類共通の特徴である。 本属はバッカルコーン(buccal cone、口円錐)と呼ばれる触手が6本あることで定義される。
体は透明な部分が多く、体の前半に局在する内臓のみが不透明である。胴体の前部に透明な1対2枚の翼足(pteropods)があり、翼足を動かして遊泳する。この姿から「流氷の天使」[1]あるいは「氷の妖精」と呼ばれ[2]、英語では sea angel とも呼ばれる[3]。ただしsea angel はもっと広く、裸殻翼足類の総称的に使われることが多い。その流氷の天使のイメージとは裏腹に、上記のように捕食時にバッカルコーンで獲物を捕らえ養分を啜り採る姿は、悪魔の如く野性的で恐ろしく見える。
分布
編集両極を囲む寒流域に広く分布している。日本でも北海道沿岸の海でハダカカメガイ Clione elegantissima が一年中見られる。カナダ西海岸のクリオネは、体長が一回り大きく、食物の違いで内臓が緑色をしている場合もある。[要出典]オホーツク海沿岸では、冬に見られる「冬クリオネ」、春に見られる「春クリオネ」が存在し、体サイズも出現時期や場所が異なるが、遺伝的に同一種であることが判明している[4]。
2017年に富山湾で世界最小となる5種目の新種が発見された[5]。日本海の固有種とみられ、深海の低水温帯にも生息域があることが明らかとなった[6]。
種
編集
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ミトコンドリアDNA・COI領域の分子系統解析に基づく属内の系統樹[4]。 |
ハダカカメガイ Clione elegantissima Dall, 1871
編集北極海、北太平洋、の寒流域に棲息する。表層0mから600mまで生息し、表層(200m以浅)を中心に分布する[7]。
体長は約1 - 3cm。体はほぼ円筒形、前方にある左右に張った翼状の足(翼足)を羽ばたくようにして水中を泳ぐ。体は頭部と腹部に分かれており、半透明で体内が透けて見える。赤く見えるのは生殖腺や中腸腺である。遊泳力は強いものではなく、プランクトンとして生活している[7]。幼年期初期には植物プランクトンをろ過捕食し、成長後に肉食性を示す[7]。餌は小動物、特に近縁な翼足類のミジンウキマイマイ(Limacina helicina)など巻貝を嗅覚により見つけると接近し、頭部からバッカルコーン(buccal cone 口円錐)と呼ばれる6本の触手を伸ばし、それで餌を抱え込むようにして、その養分をゆっくりと吸収するため、天使や妖精と呼ばれることとはギャップがある捉え方がある[8]。肉食に成長したクリオネは飢餓に強く、1年間の絶食にも耐える場合もある[7]。海洋酸性化により、クリオネの餌である巻貝の殻が弱くなっており、クリオネの生存を脅かす可能性が指摘されている[9]。
Pelseneer (1887)でC. limacinaのシノニムであるされて以降、同種であると考えられてきたが、遺伝的に区別できることが明らかになった[10]。
ダイオウハダカカメガイ Clione limacina (Phipps, 1774)
編集北極海、北大西洋に分布する世界最大のハダカカメガイ属。体長は10cmにもなる。
種小名の limacina はラテン語のナメクジ limax の女性属格(ナメクジの)である。
ナンキョクハダカカメガイ Clione antarctica Smith, 1902
編集南極海に棲息する。
ダルマハダカカメガイ Clione okhotensis Yamazaki & Kuwahara, 2017
編集オホーツク海に生息する小型のハダカカメガイ属。幼形成熟する。体長は8mm程度[10]。
日本海個体群 Clione sp.(学名未決定種)
編集2016年8月に富山大学大学院の教授らが児童向けの海洋教室を開催した折、富山湾の水深700m域でプランクトンを捕獲していた際初めて捕獲された[5]。その後の調査で水深約250mから1,050mの水温2度以下の帯域に生息しているのが確認され、遺伝子解析の結果、2017年になって世界で5種目となる新種であることが確認された[6][11]。体長は最大でも約5mmと世界最小で、体形は楕円形をしている[6]。富山湾中心とした日本海の固有種とみられ、それまでオホーツク海など北海道沿岸が生息域の南限とされていた分布が限定的ではあるが拡大されることとなった[6][11][12]。2018年の追加調査では富山湾より北側にあたる日本海の複数の地点で生息個体が発見され、日本海で独自に進化した固有種であることが示唆された[13]。研究者によるとオホーツク海から流れ込んだ海水に生息していたものが日本海内に閉じ込められ独自進化した分化種と考えられるというが、閉鎖的環境特性と日本海の酸性化の進行速度から発見から2年足らずで早くも絶滅が懸念されているという[13]。夏季には海流などの影響により、知床半島沖合などオホーツク海周辺にも出現することがわかっている[14]。正式な学名や和名は今後決められ、正式決定後に魚津水族館(富山県魚津市)や蘭越町貝の館(北海道蘭越町)で公開される予定[5]。
脚注
編集- ^ 流氷の天使クリオネが絶滅の危機!? 好物「海のカタツムリ」に異変
- ^ 大泰司紀之、本間浩昭『知床・北方四島 カラー版 流氷が育む自然遺産』岩波書店、2008年、32頁。ISBN 978-4-00-431135-5。
- ^ 日本おさかな雑学研究会『頭がよくなる おさかな雑学大事典』(幻冬舎文庫 2002年)p.100
- ^ a b Yamazaki T, Kuwahara T, Takahashi K.T. (2018) Genetic differences in spatially and temporally isolated populations: winter and spring populations of pelagic Mollusk Clione (Mollusk: Gymnosomata), southern Okhotsk Sea, Japan. Thalassas, 34: 447–45. https://doi.org/10.1007/s41208-018-0092-z.
- ^ a b c “クリオネの新種、富山湾で発見 世界5種類目、固有種か”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017年10月12日18時35分) 2017年10月13日閲覧。
- ^ a b c d “富山湾にクリオネ新種=最大5ミリ、日本海固有か”. 時事ドットコムニュース (時事通信社). (2017年10月12日18時23分) 2017年10月13日閲覧。
- ^ a b c d 浜岡荘司紋別市流氷都市推進室参事:地球の鼓動に耳をすませば -東海大学新聞連載コラム- (32)流氷の使者クリオネ『東海大学新聞』掲載日2004年2月20日(東海大学新聞編集委員会)、沼津港深海水族館シーラカンスミュージアム公式ブログ:深海の天使♥ 2013-01-26 13:14:28 どちらも2013年1月28日閲覧。
- ^ フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 2』講談社、2003年。
- ^ 「流氷の天使」クリオネの涙 進む海洋酸性化「主食」の巻貝(ミジンウキマイマイ)消滅の恐れ『朝日新聞』夕刊2023年3月15日1面(2023年4月16日閲覧)
- ^ a b Yamazaki, Tomoyasu; Kuwahara, Takashi (2017). “A new species of Clione distinguished from sympatric C. limacina (Gastropoda: Gymnosomata) in the southern Okhotsk Sea, Japan, with remarks on the taxonomy of the genus”. Journal of Molluscan Studies 83 (1): 19–26. doi:10.1093/mollus/eyw032.
- ^ a b “「流氷の天使」クリオネの新種見つかる 富山湾、日本海固有種の可能性”. 産経ニュース(産経WEST) (産経新聞社). (2017年10月12日10時02分) 2017年10月13日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 山崎友資・嶋田 宏・堀川恵司・張 勁. 2018. 日本海固有水から発見された固有水に固有なハダカカメガイの1新種. O-12. 口頭発表、2018年5月、東京海洋大学品川キャンパス.日本貝類学会平成30年度大会.
- ^ a b “「流氷の天使」が伝える海洋の危機-富山で発見、新種クリオネ絶滅懸念 日本海、速い酸性化で”. 産経新聞(THE SANKEI NEWS) (産経新聞社). (2018年5月1日 09時04分)[リンク切れ]
- ^ Takeshi Sonoda, Susumu Chiba, Tomoyasu Yamazaki, Takahiro Nobetsu, Hideaki Fujiya, Tomoyuki Komai, Noboru Nunomura, Michitaka Shimomura, Ko Tomikawa, Keiichi Kakui, Takashi Hosono, Atsushi Ito, Toshihiko Fujita, Itaru Kobayashi & Seiji Goshima (2024).“Marine macroinvertebrate fauna of the shallow coastal waters of the Shiretoko Peninsula, a World Natural Heritage at Hokkaido, Japan.” Plankton and Benthos Research, Volume 19, Issue 1, Pages 1-16. doi:10.3800/pbr.19.1.
外部リンク
編集- ウィキスピーシーズには、クリオネに関する情報があります。