ディナモスクス
ディナモスクス(学名:Dynamosuchus)は、約2億3000万年前の南アメリカ大陸に生息した、オルニトスクス科に属する偽鰐類の属[1]。化石はブラジル南部の山麓で発見されており、本属は同国で発見された初のオルニトスクス科の動物である[1]。保存されている化石は頭蓋骨や一部の体骨格であり、強い咬合力や獲物の食い千切る鋭利な歯があったと推測されている[1]。高速移動はしていなかったと見られており、現代のハゲワシのような腐肉食動物としての生態的地位にあった可能性が考えられている[1]。
ディナモスクス | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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発見された部位と復元骨格図
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
後期三畳紀カーニアン期 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Dynamosuchus Müller et al., 2020 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Dynamosuchus collisensis Müller et al., 2020 |
発見
編集ディナモスクスはサンタマリア連邦大学のCentro de Apoio à Pesquisa Paleontológica da Quarta Colônia (CAPPA)が所蔵する単一の部分的骨格CAPPA/UFSM 0248が知られている。CAPPA/UFSM 0248は部分的な頭蓋骨、複数の頸椎・胴椎、四肢の大部分からなる。発見地はブラジルのリオグランデ・ド・スル州のアグド付近に位置するJannerサイトであり、当該サイトにはサンタマリア層の後期白亜紀の堆積物が保存されている。エクサエレトドン(大型の植物食性キノドン類)やヒペロダペドン(リンコサウルス類)の化石記録に富むことから、カーニアン階にあたるアルゼンチンのイスキガラスト層と時代・堆積環境が共通していた可能性が高く見積もられている。Janeerサイトから知られる他の動物には、基盤的竜脚形類であるパンパドロマエウスやバグアロサウルス、大型肉食キノドン類のトルシキノドンが居る[2]。
属名 Dynamosuchus はギリシア語で「力強いワニ」を意味し、他のオルニトスクス科の動物に対して提唱されているように、偽鰐類に属することと強い咬合力を有したことを反映している。種小名 collisensis はラテン語で「丘」を意味する collis に基づいており、Jannerサイトが丘の麓に位置することを踏まえている。ホロタイプの骨格は2019年3月に収集され[3]、記載論文はロドリゴ・ミュラーを筆頭著者として2020年1月31日付けで学術誌「Acta Palaeontologica Polonica」上で公開された[1]。
特徴
編集頭蓋骨
編集他のオルニトスクス科の動物と同様に、ディナモスクスの吻部には3本の歯が生えたフック状の前上顎骨があり、その後側に歯隙および6本から8本の歯が生えた深い上顎骨が存在する。上顎骨はオルニトスクスのものと類似しており、ヴェナチコスクスやリオジャスクスに存在しない外側面の孔が存在し、またリオジャスクスと異なって部分的でない深い前眼窩孔が存在する。保存された頭蓋骨の骨は一般的にリオジャスクスと同様の小型の眼窩と上側頭窓を持つ頭蓋骨をなすが、鱗状骨はリオジャスクスと比較して厚くない。方形頬骨は表面が粗く、全体はL字型をなし、リオジャスクスほど鋭利な角度でない。quadrate foramenとして知られる孔が方形頬骨と方形骨を区分しており、また方形骨に存在するさらなる別の小さな孔がquadrate foramen中に開口する。このもう一個の孔は他のオルニトスクス科に存在しないディナモスクスの固有派生形質である[2]。
神経頭蓋の底に位置する副基蝶形骨にはヴェナチコスクスと同様の半月状の窪みが存在するが、基蝶形骨突起とbasituberaとの間のギャップはヴェナチコスクスと比較して先鋭でない。ディナモスクスの基翼状骨はヴェナチコスクスと比較して間隙が狭く、また後側に先鋭である。上角骨はリオジャスクスのものと同様であり、顎の後側でsurangular foramenという大型の孔と外側面上に発達したブレード状のクレストが存在する。顎は顎に向かって深くなり、また長い下顎窓を持つ[2]。
体骨格
編集頸椎は他の偽鰐類と共通する様々な特徴を持っており、後関節突起の直下の窪みや、拡大した神経棘、下側の強いキールが挙げられる。肩の付近の胴椎には1対のcentrodiapophyseal laminaeが存在しており、このバトレス状のクレストが肋骨と関節する椎骨の横突起を椎体と接続する。これらのクレストはオルニトスクスと共通する一方、リオジャスクスとヴェナチコスクスに存在しない。一方、他の大部分の観点でディナモスクスの胴椎はオルニトスクスよりもリオジャスクスの胴椎と類似する。例えば、ディナモスクスはprezygodiapophyseal laminaeとpostzygodiapophyseal laminaeを欠くが、オルニトスクスはこの構造が横突起を脊椎関節突起に接続している[2]。
ディナモスクスは背部に沿って2列の皮骨板を持ち、その形状は四角形に近く、またその表面には放射状の稜と溝が密に存在する。体の前方の皮骨板はしばしば横向きの峰状の突起を持つ。前肢の骨は厚く、全体として強固な構造である。橈骨はオルニトスクスのものと比較して手首に向かって拡大するが、上腕骨頭はリオジャスクスのものと比較して発達しない。臀部は全体的にオルニトスクスのものと類似しており、腸骨の上部は滑らかかつ直線的で、恥骨は長く、仙椎は3個存在する。他のオルニトスクス科の動物と同様に、後肢の骨は大型で、発達しているかあるいは異様な筋痕を示す。これらには、大腿骨近位端の前側転子や、腓骨体の腸腓骨筋のノブ状の痕が含まれる。腸腓骨筋の付着面はディナモスクスにおいて腓骨体の下側約三分の一に位置するが、リオジャスクスにおいて下側半分を占める[2]。
分類
編集ディナモスクスの系統解析においては、Ezcurra et al. (2017)[4]の形質行列を改変したものが用いられた。解析の結果、ディナモスクスは副基蝶形骨の半月状の窪みとL字型の方形頬骨を根拠としてヴェナチコスクスとの姉妹群に位置付けられた。ディナモスクスとヴェナチコスクスを纏めた分岐群はリオジャスクスとの姉妹群に位置付けられており、強く下側に向いた前上顎骨と拡大した外側の橈骨が根拠とされている。オルニトスクスは最も基盤的なオルニトスクス科の動物として位置づけられ、オルニトスクス科自体は鷲竜類やエルペトスクス科と近い位置に置かれた。これはEzcurra et al. (2017)の結果と整合する[2]。
以下のクラドグラムは系統解析の結果に基づく[2]。
偽鰐類 |
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出典
編集- ^ a b c d e “2.3億年前のワニに近い動物「偽鰐類」の新種を発見、レア”. 日経ナショナルジオグラフィック (2020年2月7日). 2024年1月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g Müller, Rodrigo T.; Von Baczko, M. Belén; Desojo, Julia B.; Nesbitt, Sterling J. (31 January 2020). “The first ornithosuchid from Brazil and its macroevolutionary and phylogenetic implications for Late Triassic faunas in Gondwana”. Acta Palaeontologica Polonica 65. doi:10.4202/app.00652.2019 .
- ^ “Descoberta nova espécie de réptil que conviveu com os dinossauros” (ポルトガル語). CAPPA (2020年1月31日). 2020年2月14日閲覧。
- ^ Martín D. Ezcurra; Lucas E. Fiorelli; Agustín G. Martinelli; Sebastián Rocher; M. Belén von Baczko; Miguel Ezpeleta; Jeremías R. A. Taborda; E. Martín Hechenleitner et al. (2017). “Deep faunistic turnovers preceded the rise of dinosaurs in southwestern Pangaea”. Nature Ecology & Evolution 1 (10): 1477–1483. doi:10.1038/s41559-017-0305-5. PMID 29185518 .