偽鰐類(ぎがくるい、Pseudosuchia)は、爬虫類のうち鳥頸類恐竜翼竜)と共に主竜類を二分する系統群。

偽鰐類
現生のイリエワニ(上)
ポストスクス(下奥)とデスマトスクス(下手前)
地質時代
三畳紀 - 現代
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 四肢動物上綱 Tetrapoda
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
: 主竜区 Archosauria
階級なし : 偽鰐類 Pseudosuchia
学名
Pseudosuchia Zittel1887

本文参照

概要

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地面を這うものや直立歩行をするものなど多様性に富む。ジュラ紀までに大部分が絶滅したが、現在でもワニ形上目、特にワニ目は生き残っている[1]。代表的な初期の偽鰐類には後期三畳紀アルゼンチンに生息したリオジャスクスがおり[2]、他に有名な属にはラウイスクス類サウロスクス鷲竜類デスマトスクスなどがいる[3]

2021年時点で、偽鰐類は現生のワニを内包する分類群として扱われている[2]。1990年にノード(分岐点)ベースの系統群として提唱された腿跗類Crurotarsi、クルロタルシ)とほぼ同義であった[4] が、後の系統解析により植竜類の位置づけが変化したため、2011年以降は腿跗類を偽鰐類よりも包括的な系統群と見る見解がある[5]。2016年には再び植竜類を偽鰐類に含める説も出されており、腿跗類の位置づけは主竜類の上下に揺れ動いている[6]

特徴

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偽鰐類の特徴としては、顎の骨にセメント質の歯槽が形成され、そこに歯根がはめ込まれるようになっている点が挙げられる。これは偽鰐類のみでなく主竜形類に広く共通する特徴ではあるが[7]、歯槽を持つ爬虫類を纏め、現在では単系統群とはみなされないものの「槽歯類」として扱うこともある[8]

また、偽鰐類は歩行姿勢が直立に近い点も特徴である。恐竜も直立歩行を実現させているが、彼らが腸骨寛骨臼を貫通させて大腿骨を下向きにしたのに対し、偽鰐類は寛骨臼(そして大腿骨)が下向きになるように股関節が膨らむことで直立を可能としている[8]。ただし、偽鰐類の中でも現生のワニは四肢が体の横に付き出しており、直立歩行を行わなくなっている[9]。基盤的な偽鰐類は半水棲に適応した現生のワニと違って扁平な体型でもなく、陸棲に適応していた。また頸部も獣脚類の恐竜のように細長くなっていた[2]

分類と系統

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偽鰐類はワニに似た外見を示す一方で、ワニそのものを含む系統とはみなされてこなかった[10]。1980年代には「槽歯類」は恐竜の祖先にあたる分類群として扱われており、偽鰐類も恐竜(特に竜盤類)の直系の祖先として「槽歯類」に分類されていた[11][12]

偽鰐類は1985年にステム(幹)ベースのクレードとして定義された[13]。その定義とは、ワニと、鳥類よりもワニに近縁な全ての生物を含むものであった[14]。伝統的には鷲竜類のみを含んでいたが、系統群として定義されてからは偽鰐類という名称に反して広義のワニ類Suchiaや正鰐類も包含するようになった[15]。なお、腿跗類はステムベースの系統群としては偽鰐類と同義であるが、ノード(分岐点)ベースの系統群としては同義ではない[4]。2011年の系統解析で植竜類の位置付けが変更されたため、腿跗類の範囲は変化した。Nesbitt (2011) では植竜類が主竜類の姉妹群に位置付けられ、腿跗類は系統学的には偽鰐類だけでなく鳥類系統の主竜類(鳥頸類)と植竜類を含む系統群となった。すなわち、腿跗類には恐竜・翼竜・植竜類も含まれるようになり、偽鰐類は依然としてワニ系統の主竜類だけを含んでいる[5]

以下は Nesbitt (2011) に基づいてワニ形上目の系統学的位置を示したクラドグラムである[5]

主竜形類 

プロテロスクス科英語版  

エリスロスクス英語版  

ヴァンクレアヴェア英語版  

プロテロチャンプサ英語版 

ユーパルケリア  

 腿跗類 

植竜類  

 主竜類 

鳥中足骨類恐竜翼竜 

 偽鰐類 

オルニトスクス科  

 Suchia 

グラキリスクス英語版  

ツルファノスクス英語版  

レヴェルトサウルス英語版  

鷲竜類  

チキノスクス英語版  

 Paracrocodylomorpha 

ポポサウルス上科英語版  

 ロリカタ類 

プレストスクス  

サウロスクス  

バトラコトムス英語版  

ファソラスクス  

ラウィスクス科  

ワニ形上目 

側ワニ形類英語版
ワニ類英語版

以下は Brusatte et al. (2010) に基づくクラドグラム。この系統樹においては、クルロタルシ類と偽鰐類は同義である[16]

エリスロスクス英語版  

ユーパルケリア  

プロテロチャンプサ科英語版  

 主竜類 

鳥中足骨類  

 偽鰐類/腿跗類 

植竜類  

 Suchia 

鷲竜類  

 Paracrocodylomorpha 

グラキリスクス英語版  

 Bathyotica (en 

エルペトスクス  

ワニ形上目  

側ワニ形類英語版

ルヴェルトサウルス英語版  

オルニトスクス科  

 ラウイスクス類 

ポポサウルス上科英語版  

 ラウイスクス上科 

アルガナスクス英語版

ファソラスクス  

スタゴノスクス英語版

チキノスクス英語版  

ラウィスクス科  

 プレストスクス科 

サウロスクス  

バトラコトムス英語版  

プレストスクス  

ワニ類英語版

出典

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  1. ^ D・E・ファストヴスキー、D・B・ウェイシャンペル『恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─』真鍋真監訳、東京科学同人、2015年1月30日、310-311頁。ISBN 978-4-8079-0856-1 
  2. ^ a b c 土屋健『ifの地球生命史』技術評論社、2021年2月13日、90-91頁。ISBN 978-4-297-11920-1 
  3. ^ 土屋健リアルサイズ古生物図鑑 中生代編』技術評論社、2019年8月3日、53-55頁。ISBN 978-4-297-10656-0 
  4. ^ a b Brochu, C.A. (1997). “Synonymy, redundancy, and the name of the crocodile stem-group”. Journal of Vertebrate Paleontology 17 (2): 448–449. doi:10.1080/02724634.1997.10010992. 
  5. ^ a b c Nesbitt 2011, pp. 1–292.
  6. ^ Ezcurra, Martín D. (2016). “The phylogenetic relationships of basal archosauromorphs, with an emphasis on the systematics of proterosuchian archosauriforms”. PeerJ 4: e1778. doi:10.7717/peerj.1778. ISSN 2167-8359. PMC 4860341. PMID 27162705. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4860341/. 
  7. ^ 木曽太郎「多面発現的変異が形態進化に及ぼす影響」『化石』第67巻、日本古生物学会、2000年、45-46頁、doi:10.14825/kaseki.67.0_44  
  8. ^ a b グレゴリー・ポール『グレゴリー・ポール恐竜事典 原著第2版』東洋一今井拓哉(監訳)、共立出版、2020年8月30日。ISBN 978-4-320-04738-9 
  9. ^ 鈴木大輔、千葉謙太郎、田中康平、林昭次「ワニの筋学-古脊椎動物学者に必要な解剖- : III.腰帯・後肢」『化石』第90巻、日本古生物学会、2011年、doi:10.14825/kaseki.90.0_37 
  10. ^ 鹿間時夫「満洲國に於けるリコブテラ層の地質時代に就いて」『地学雑誌』第54巻第3号、1942年、89頁、doi:10.5026/jgeography.54.87  
  11. ^ 井尻正二「否定とは何か」『地球科学』第41巻第2号、1987年、135頁、doi:10.15080/agcjchikyukagaku.41.2_131  
  12. ^ 黒田長久「鳥類対哺乳類の社会」『山階鳥類研究所研究報告』第13巻第1号、1981年、9頁、doi:10.3312/jyio1952.13.1  
  13. ^ Gauthier, J. A.; Padian, K. (1985). "Phylogenetic, functional, and aerodynamic analyses of the origin of birds and their flight". In Hecht, M. K.; Ostrom, J. H.; Viohl, G.; Wellnhofer, P. (eds.). The Beginnings of Birds. International Archaeopteryx Conference 1984. Eichstätt: Freunde des Jura-Museums. pp. 185–197.
  14. ^ Benton, Michael J.; Clark, James M. (1988). “Archosaur phylogeny and the relationships of the Crocodylia”. In Benton, Michael J.. Phylogeny and Classification of the Tetrapods. 1. Oxford: Clarendon Press. pp. 295–338. https://www.academia.edu/4843561 
  15. ^ スティーヴ・パーカー編、日暮雅通・中川泉 訳「第5章 爬虫類」『生物の進化大事典』養老孟司 総監修・犬塚則久 4-7章監修、三省堂、2020年、228–229頁。
  16. ^ Stephen L. Brusatte; Michael J. Benton; Julia B. Desojo; Max C. Langer. 2010. The higher-level phylogeny of Archosauria (Tetrapoda: Diapsida). Journal of Systematic Palaeontology, 8: 1, 3 — 47pp. doi:10.1080/14772010903537732

参考文献

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