アセノイラミン酸: Aceneuramic acid)は、N-アセチルノイラミン酸の開環型化合物である。縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)の治療薬として使用される[1][2]。体内のシアル酸を補充することにより縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの進行を抑制させる[1]。縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーにおいて、初めての根本的な原因に働きかける薬となる[3]希少疾病用医薬品に指定されている[4]。投与経路は経口投与[5]。商品名は「アセノベル」[6]

アセノイラミン酸
IUPAC命名法による物質名
データベースID
CAS番号
131-48-6
DrugBank 11797
UNII GZP2782OP0
KEGG D11016
ChEBI CHEBI:173082
ChEMBL CHEMBL2105945
日化辞番号 J10.009I
別名 5-acetamido-3,5-dideoxy-D-glycero-D-galacto-non-2-ulosonic acid
化学的データ
化学式C11H19NO9
分子量309.27
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概要

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2009年、国立精神・神経医療研究センターのグループが縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーのモデルマウスにシアル酸を投与することにより、発症を防ぐことに成功し、製品化の道が開かれた[3]。患者数が日本国内でおよそ400人と非常に少ないため、薬の開発に乗り出す製薬会社がなく、患者団体が開発実現に向けて研究者や製薬会社を訪ね歩き、ノーベルファーマが「公的助成が得られるのなら」と開発を引き受けた[3][7]。シアル酸を補充することにより進行抑制の効果は認められているが、進行した症状を元に戻すこと効果は認められていない[3]

臨床試験(治験)結果

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  • 日本国内
    • 第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(シアル酸-3試験):医師主導治験として行われ、登録患者 20例(実薬群16例、プラセボ群4例)の48週後の上肢筋力の合計点数の変化で比較[8]。19例が48週まで残り、1例は治験中に妊娠が発覚したため離脱した[8]。48週後、実薬群の点数は-1.0 kg (-2.5 ~ 0.5)、プラセボ群では -5.7 kg (-8.0 ~ -3.4) で  2つの群で4.7 kg (1.8 ~ 7.5)の差があり、実薬群は統計的に有意に筋力の低下を防止できた[8]P値 = 0.0013[8]
    • 第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(シアル酸-4試験、長期投与試験):シアル酸-3試験48週を終了した被験者19人をオープンラベル化し、追加で72週間アセノイラミン酸を投与し、長期の安全性と有効性を評価[9]。被験者19人のうち18人が試験終了し、1人は本人の申し出により試験から脱落した[9]。安全性について:120週(48週+72週)後、臨床検査データ、体重、バイタルサインのいずれも臨床上有意な変化は確認されず長期の安全性が確認された[9]。長期の有効性:上肢筋力の合計点数の変化で継続試験の最終評価時(120週)で−3.48 kgで非服薬群の−8.10 kgと比較し、数値的な差は認めたが、t検定でp値0.1324であり統計的な有意差を認めなかった[9]
    • 第Ⅲ相臨床試験(NPC-09-1試験):企業治験として行われ、登録患者 14例(実薬群10例、プラセボ群4例)の48週後の上肢筋力の合計点数の変化で比較[6]。48週後、実薬群の点数-0.12±1.09、プラセボ群では-2.63±1.73で実薬群のほうが筋力低下が少なかった[6]。本試験では統計学的な検定は計画されなかった[6]
  • 海外
    • 第3相臨床試験:登録患者88例(実薬群45例、プラセボ群43例)で上肢筋力の合計点数の変化で評価され、48週後、実薬群-2.25±0.77、プラセボ群-2.99±0.87で実薬群が合計点数の低下が小さかったが、P値0.5387となり、実薬群とプラセボ群の間で統計的な有意差を認めなかった[6]

副作用

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副作用として、主なものに便秘、軟便(各5%以上)、頭痛、口角口唇炎、発疹、四肢痛、尿中蛋白陽性、尿中ケトン体陽性(各5%未満)などが報告されている[10]

歴史

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  • 2009年
  • 2010年
    • 11月 - 東北大学で医師主導第Ⅰ相臨床試験開始[12][13]
  • 2016年
    • 3月 - 日本国内5施設(東北大学、NCNP、名古屋大学、大阪大学、熊本大学)で「アセノイラミン酸」徐放錠6g/日の有効性と安全性を検証する医師主導第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(シアル酸-3試験)開始[14]
  • 2017年
    • 3月 - 長期投与試験(シアル酸-4試験)開始[4][15]。第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(シアル酸-3試験)を終了した患者を対象にさらにオープン試験にてアセノイラミン酸を投与し、長期投与の安全性及び有効性を評価[15]
    • 8月22日 - 日本国内と並行して第Ⅲ相国際共同治験を行っていたアメリカのultragenyx社英語版が主要評価項目を達成できなかったと発表し、同社は開発からの撤退を発表した[16]
    • 10月24日 - 開発番号「NPC-09」と呼ばれていた本剤の一般名称が、日本語:アセノイラミン酸、英語:Aceneuramic acidに厚生労働省により決定された[17]
  • 2018年
    • 9月6日 - 第Ⅰ相臨床試験の結果をまとめた論文がTranslational Medicine Communications誌に掲載される[18]
  • 2020年
    • 12月 - ノーベルファーマが治験依頼者となる企業治験(NPC-09-1試験、第Ⅲ相臨床試験、有効性確認試験)が開始[19][20]
  • 2021年
    • 2月19日 - 厚生労働大臣により、希少疾病用医薬品として指定される[4]
  • 2022年
    • 11月3日 -東北大学が日本神経治療学会学術集会で、医師主導第 Ⅱ/Ⅲ 相臨床試験において、「アセノイラミン酸」群がプラセボ群と比較して48週時点の上肢筋力合計点数の低下(悪化)が抑制されたと発表[21]
  • 2023年
    • 3月31日 - 第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(シアル酸-3試験)の結果をまとめた論文がJournal of Neuromuscular Diseases 誌にアクセプトされる[8]
    • 7月26日 - ノーベルファーマが厚生労働省に対して「アセノイラミン酸」を承認申請[7]
  • 2024年
    • 2月29日 - 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会が「アセノイラミン酸」の製造販売の承認を了承[22][23]
    • 3月26日 - 厚生労働省が「アセノイラミン酸」の製造販売を承認[1][3][24]
    • 6月5日 - 長期投与試験(シアル酸-4試験)の結果がJournal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry誌に掲載[25]

論文

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脚注

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  1. ^ a b c 難病「遠位型ミオパチー」薬承認 世界初、筋力低下の進行抑える|全国のニュース|京都新聞”. 京都新聞. 京都新聞社 (2024年3月26日). 2024年3月26日閲覧。
  2. ^ KEGG DRUG: アセノイラミン酸”. www.genome.jp. 2024年3月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e 国内患者は300人の超希少疾患「採算取れない薬」の開発を実現させた患者の思い 診断から20年、「遠位型ミオパチー」の治療薬が世界で初めて承認”. 47NEWS. 共同通信社 (2024年3月26日). 2024年3月26日閲覧。
  4. ^ a b c 希少疾病用医薬品の指定のお知らせ”. ノーベルファーマ (2021年4月1日). 2024年3月27日閲覧。
  5. ^ 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(指定難病)に対する世界初のウルトラオーファンドラッグ、アセノベル®徐放錠500㎎の製造販売承認を取得”. 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-. 東北大学 (2024年3月27日). 2024年3月27日閲覧。
  6. ^ a b c d e アセノベル徐放錠500mg”. www.info.pmda.go.jp. Pmda 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (2024年3月27日). 2024年3月30日閲覧。
  7. ^ a b 日本テレビ (2023年8月2日). “難病「遠位型ミオパチー」ついに治療薬 患者自ら研究者を訪ね歩いて15年|日テレNEWS NNN”. 日テレNEWS NNN. 日本テレビ. 2024年3月26日閲覧。
  8. ^ a b c d e Suzuki, Naoki; Mori-Yoshimura, Madoka; Katsuno, Masahisa; Takahashi, Masanori P.; Yamashita, Satoshi; Oya, Yasushi; Hashizume, Atsushi; Yamada, Shinichiro et al. (2023-01-01). “Phase II/III Study of Aceneuramic Acid Administration for GNE Myopathy in Japan” (英語). Journal of Neuromuscular Diseases 10 (4): 555–566. doi:10.3233/JND-230029. ISSN 2214-3599. https://content.iospress.com/articles/journal-of-neuromuscular-diseases/jnd230029. 
  9. ^ a b c d Naoki Suzuki,Madoka Mori-Yoshimura, hMasahisa Katsuno, Masanori P Takahashi, Satoshi Yamashita, Yasushi Oya, Atsushi Hashizume, Shinichiro Yamada, Masayuki Nakamori, Rumiko Izumi, Masaaki Kato, Hitoshi Warita, Maki Tateyama, Hiroshi Kuroda, Ryuta Asada, Takuhiro Yamaguchi, Ichizo Nishino, Masashi Aoki (2024-06-05). “Safety and efficacy of aceneuramic acid in GNE myopathy: open-label extension study”. Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry online (online): online. 
  10. ^ 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーでの筋力低下抑制薬”. 日本経済新聞社 (2024年7月19日). 2024年7月21日閲覧。
  11. ^ Malicdan, May Christine V.; Noguchi, Satoru; Hayashi, Yukiko K.; Nonaka, Ikuya; Nishino, Ichizo (2009-06). “Prophylactic treatment with sialic acid metabolites precludes the development of the myopathic phenotype in the DMRV-hIBM mouse model” (英語). Nature Medicine 15 (6): 690–695. doi:10.1038/nm.1956. ISSN 1546-170X. https://www.nature.com/articles/nm.1956. 
  12. ^ 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーを対象とした N-アセチルノイラミン酸の第Ⅱ/Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始”. 東北大学病院臨床研究推進センター. 東北大学 (2016年2月8日). 2024年3月26日閲覧。
  13. ^ NPO法人パダム (2024年2月29日). “シアル酸徐放錠(製品名:アセノベル)の薬事承認了承のご報告”. NPO法人PADM. NPO法人PADM遠位型ミオパチー患者会. 2024年3月26日閲覧。
  14. ^ 神経治療 vol36 No6 2009年 「GNEミオパチー治療法開発」
  15. ^ a b 臨床試験登録”. center6.umin.ac.jp. 大学病院医療情報ネットワーク (2017年3月20日). 2024年4月1日閲覧。
  16. ^ Ultragenyx shelves genetic disease drug after trial failure” (英語). BioPharma Dive. Industry Dive. (2017年8月23日). 2024年3月27日閲覧。
  17. ^ 医薬品の一般名称について”. 厚生労働省 (2017年10月24日). 2024年4月2日閲覧。
  18. ^ Phase I clinical trial results of aceneuramic acid for GNE myopathy in Japan”. Translational Medicine Communications (2018-0906). 2024年4月3日閲覧。
  19. ^ 臨床研究等提出・公開システム”. jrct.niph.go.jp. National Institute of Public Health. 2024年3月31日閲覧。
  20. ^ 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(指定難病)に対する 世界初のウルトラオーファンドラッグ、 アセノベル🄬徐放錠500㎎の製造販売承認を取得」『ニュース&イベント』名古屋大学、2024年3月26日。2024年3月31日閲覧。
  21. ^ 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(指定難病)を対象とした アセノイラミン酸の有効性確認試験結果”. 東北大学 (2022年11月4日). 2024年3月27日閲覧。
  22. ^ 難病・遠位型ミオパチー薬承認へ 世界初、筋力低下の進行抑制期待”. 47NEWS. 共同通信社 (2024年2月29日). 2024年3月26日閲覧。
  23. ^ 難病「遠位型ミオパチー」 世界初の治療薬の販売承認へ 厚労省”. 毎日新聞. 毎日新聞社 (2024年3月2日). 2024年3月26日閲覧。
  24. ^ 難病「遠位型ミオパチー」薬承認 世界初、筋力低下の進行抑える:山陽新聞デジタル|さんデジ”. 山陽新聞デジタル|さんデジ. 山陽新聞社. 2024年3月26日閲覧。
  25. ^ 指定難病・縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの治療薬 「アセノベル®徐放錠500mg」の 長期投与における安全性と有効性を確認”. 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-. 東北大学 (2024年6月10日). 2024年6月18日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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