TDI (自動車)
TDI(Turbocharged Direct Injection)は、フォルクスワーゲン・グループ(VW)の販売する直噴ターボディーゼルエンジンの商標である。
概要
編集1989年に発売されたアウディ・100の直噴ターボディーゼルエンジンに、TDIの名称が初めて使われた。当時、直噴ターボディーゼルは1986年にフィアット・クロマで初採用されたばかりの先進技術で、ターボによる高効率化と、筒内への直接噴射による高燃焼効率化が特徴である[1][2]。
100の発売以来、TDIはVW・アウディ・セアト・シュコダといったVWグループの乗用車ブランドで広く採用されている。加えて、船舶部門のフォルクスワーゲン・マーリンがマーキュリーに対して船舶用のTDIエンジンを供給している[3][4]。
なお、TDIという名称はVWの商標だが、マツダ・SKYACTIV-Dなど、直噴ターボディーゼル自体はVW以外のメーカーでも製造されている。また、ターボを搭載しないVWの直噴ディーゼルにはSDI(Suction Diesel Injection)という商標が付けられている。2024年4月現在、SDI搭載車は日本で販売されていない。
歴史
編集1989年に発売されたアウディ・100に、2.5L直列5気筒のTDIエンジンが初採用された。100のTDIエンジンにはボッシュ製の電子制御式分配型ポンプが搭載され、最大900barの圧力で筒内へ燃料を直接噴射した。初期モデルでの最高出力は85kW(116ps)、最大トルクは265Nmだった[1]。
1991年に発売されたアウディ・80には、初の直列4気筒TDIエンジンが採用された[2]。このエンジンにはハネウェル製のVGTが初採用され、低回転域から大トルクを発生させることが可能となった[1]。
1998年、第2世代TDIを初採用したパサートが発売した。第2世代のTDIでは分配型ポンプがユニットインジェクタに置き換えられ、シリンダーごとに圧力を調整することが可能となった[5]。
1999年、第3世代TDIがアウディ・A8の3.3LV型8気筒ディーゼルに初採用された。第3世代ではポンプがコモンレール式に置き換わったことで、燃料供給圧は1350barにまで増加した。これ以降、TDIの燃料ポンプはコモンレール式へ徐々に切り替わっていく[2][5]。また同年、1.2L・1.9L・2.5LのTDIエンジンが第1回インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞した[6]。
2008年のパリモーターショーにて「パサート・BlueTDI」が発表された。BlueTDIは環境性能を高めた新しいレーベルで、尿素SCRの採用などにより欧州排ガス規制ユーロ6などの基準をクリアした[7]。
2015年、後述する排出ガス規制不正問題が発生した。
2018年、日本市場では初のTDIモデルとなる「パサート/パサートヴァリアント 2.0L TDI」が日本で発売された[8]。
2019年、改良型の2.0L直列4気筒TDIエンジン「EA288 evo」がゴルフVIIIに搭載された。EA288 evoには新開発のツインドージングシステムが搭載され、直列に配置された2基のSCR触媒コンバーターから排気ガス温度に応じて最適な量のAdBlueを噴射する。加えて、EGRや噴射ポンプなどを改良し、燃焼プロセスが最適化された。これらの改良により、EA288 evoは欧州排ガス規制ユーロ6dの基準をクリアした[9]。
排出ガス規制不正問題
編集2015年9月18日、アメリカの排出ガス試験にてディフィートデバイスを使用し、試験を不正にクリアしていたことが判明した。該当モデルは2009~2015年モデルの直列4気筒TDIエンジンを搭載したパサート・ゴルフなどで、およそ48万2000台が該当した[10]。不正発覚後の9月23日にはマルティン・ヴィンターコルンがCEOを辞任する事態となった[11]。
2018年、一連のディーゼル車の排ガス不正問題により、本社を管轄するブラウンシュヴァイク検察当局から10億ユーロ(約1300億円)の罰金を命じられた[12]。
モータースポーツ
編集2005年12月に発表されたアウディ・R10 TDIに5.5LのV型12気筒TDIエンジンが搭載された。R10は2006年のル・マン24時間レースに参戦し、ディーゼルエンジン車初の総合優勝を果たした[13]。
翌年以降も、アウディはR10および後継マシンのR15・R18でル・マン、ALMS、ILMC、WECに参戦し、2014年までにTDI搭載マシンで合計8回のル・マン総合優勝を達成した。
脚注
編集- ^ a b c 「ディーゼル覇権の歴史 DEを高度に作り上げた日本・ドイツ・イタリアの技術」『モーターファン』2022年8月4日。2024年3月24日閲覧。
- ^ a b c Brent Dunn (2014年10月19日). “25 Years of Audi TDI Diesel Engines” (英語). autobytel 2024年3月24日閲覧。
- ^ “Volkswagen Marine” (オランダ語). Volkswagen Marine. 2024年4月2日閲覧。
- ^ “Mercury Diesel - Motoren” (オランダ語). Mercury Diesel. 2024年4月2日閲覧。
- ^ a b “AUTODOC BLOG - TDI” (英語). AUTODOC. 2024年4月2日閲覧。
- ^ “International Engine of the Year - Archive” (英語). International Engine of the Year. 2024年4月2日閲覧。
- ^ 『フォルクスワーゲン@パリモーターショー2008』(pdf)(プレスリリース)フォルクスワーゲングループジャパン、2008年9月29日 。2024年4月2日閲覧。
- ^ 『フォルクスワーゲン「Passat/Passat Variant」のTDIモデルを発売』(pdf)(プレスリリース)フォルクスワーゲングループジャパン、2018年2月14日 。2024年4月8日閲覧。
- ^ "Clean and cultivated: the 2.0 TDI engine with new Euro 6d emission standard" (Press release) (英語). Volkswagen newsroom. 14 December 2020. 2024年4月2日閲覧。
- ^ 「米VW、排出ガステストで違法なソフトウェアを使用」『Response.』2015年9月21日。2024年4月2日閲覧。
- ^ 「「普通の会社」になれないVW、社長が引責辞任」『日本経済新聞』2015年9月25日。2024年4月2日閲覧。
- ^ 「独でVWに1300億円罰金 ディーゼル不正」『日本経済新聞』2018年6月14日。2024年4月2日閲覧。
- ^ 島村元子「【ルマン2006】No.8アウディR10、ディーゼルエンジン初勝利を飾る!」『WebCG』2006年6月19日。2024年4月2日閲覧。