Frutiger Aero
Frutiger Aero(フルティガー・エアロ、別名:Web 2.0 Gloss[1])は、2004年から2013年頃まで流行したユーザインタフェース(以下、UI)を始めとした様々な分野のデザイントレンドに名付けられたレトロニムであり、インターネット美学の一種である。
Frutiger Aeroという用語は消費者美学研究所(CARI)のソフィ・リーによって2017年に名付けられ、トレンドを形作ったGUIのWindows Aeroと当時のUIに多く使われていた書体のFrutiger(もしくはデザイナーのアドリアン・フルティガー)に由来している[2][3]。
特徴
編集Frutiger Aeroのデザインの特徴として、3DCGによるトランスルーセントやスキューモーフィズムを用いたガラスのような光沢や立体感のある要素、金属光沢や蛍光色などの明るく鮮やかな配色、自然(植物、空や海、オーロラ、熱帯魚の魚群や周囲の風景を反射する水滴など)の写真・モチーフといったものが挙げられる[3][4]。
Frutiger Aeroは1990年代末期に流行したY2K[5]から派生したものであり多くの共通点を持っているが[6]、インターネット・バブルに由来するテクノロジーの進化へのSF的期待が全面に出された、硬質な印象を受けるサイバーパンク的要素の強いY2Kと異なり[7]、Frutiger Aeroは当時高まりを見せていた環境主義やヒューマニズム、iPhoneの発売を機に発生していたフィーチャーフォンからスマートフォンへのパラダイムシフト、デジタルネイティブ世代の台頭などの影響が顕著に見られ、より自然に近い見た目が重視されている。こうしたデザインは、進化したテクノロジーの斬新さやエコ・フレンドリーを強調しつつ、テクノロジーに疎い消費者にも親しみやすさ(ユーザビリティ)をアピールできることから広い分野で流行していったものと考えられている[2]。
歴史
編集Y2Kからの移行と主流化
編集Frutiger Aeroの萌芽とも呼べるのが、2001年に発売されたAppleのMac OS X v10.0のAquaと、マイクロソフトのWindows XPのLunaである[3]。これらは基本的にY2Kに分類されるデザインだが、1990年代末までの無機質な印象の強かったデスクトップ環境のイメージを大幅に変え、UIを親しみやすいデザインで彩るというトレンドを生み出した。その後、2003年に発表されたWindows Longhorn(2004年に開発リセット)のコンセプトデザインで更に洗練されたUIデザインが提案され、煌びやかな光沢や透明効果に彩られたUIとアイコンというFrutiger Aeroの特徴がここから現れ始めた[8]。
Frutiger Aeroは2004年頃からGPUの描画技術の向上に伴いモバイルOSやゲーム機等の組み込みOSでも見られ始め、PlayStation PortableのクロスメディアバーやニンテンドーDS、その後の任天堂のWiiを始めとした第7世代ゲーム機やPocket PC等のPDA[9]、MSN TVのUIデザインにも広がっていき、次第にY2Kに代わる主流のデザイン言語となっていった[10]。
Frutiger Aeroの特徴的なデザインを確立させたのは2007年に発売されたWindows VistaのWindows Aeroと、AppleのiPhoneに搭載されたiPhone OS(後のiOS)である。Windows AeroはLonghornの流れを汲んだ透明効果とオーロラのような光沢の表現が多用されたUIやアイコンのデザインに特徴付けられ[11]、iPhone OSは当時主流ではなかったマルチタッチパネルでの操作にユーザーが早く順応できるようスキューモーフィズムが多用されており[2]、いずれもその後のコンピュータやモバイル向けのUIデザインに大きな影響を与えた。
2010年代初頭までには任天堂のWii UやソニーのPlayStation Vita、AndroidやLinux[12]などのUIデザイン、『ザ・シムズ3』や『Fruit Ninja』[4]、『ミラーズエッジ』などのコンピュータゲームの他、『WALL・E』や『ルイスと未来泥棒』などの未来をテーマとした映画[3]、エコ・フレンドリーや省エネルギーを謳う様々な家電や自動車(低公害車、コンセプトカー)、住宅用ソーラーパネルや洗濯用洗剤といった製品の広告やコマーシャルなどにもFrutiger Aeroやそれに類似したデザインが見られるなど隆盛を極めた[2]。
衰退
編集しかし、2012年のWindows 8のModern UIや翌年のiOS 7ではスキューモーフィズムを極力取り払ったフラットデザインが採用された。フラットデザインはそのシンプルな見た目と情報の伝えやすさ、GPUに掛かる負荷が少なく済むなどの利点から評価が高まり[13]、そこからいわゆるミニマリズムの流行が始まった。
逆にFrutiger Aeroのような立体的なUIデザインはUIの主張が激しい[14]、アイコンやUIのデザイン作成に手間がかかる等の欠点が目立ち始めて次第に主流ではなくなり、その後はコンピュータ以外の分野でもフラットデザインや2017年に登場したコーポレート・メンフィスに取って代わられ、2010年代後半頃にはFrutiger Aeroに基づいたデザインはほとんど見られなくなり、事実上衰退した[15]。
再発掘
編集2022年末にTikTokやYouTubeのユーザーの間でFrutiger Aeroの持つ未来的な美しいデザインが話題を呼び、特にFrutiger Aeroの全盛期と世代が重なるジェネレーションZの人々にノスタルジアを引き起こすことや、代わって主流となったフラットデザインやコーポレート・メンフィスに対する無個性・無機質さへの不満などが相まって懐古主義的人気が広がり、リバイバルブームが発生した[16][17]。
それと同時に、Frutiger Aero全盛期当時のゲーム機の内蔵ソフトウェアのBGM(Wii、Wii U、ニンテンドー3DS等)やゲームのサウンドトラック(阿保剛、C418等)が美学と関連づけられる形で発掘され、更にFrutiger Aeroの世界観を表現した透明感のある穏やかな音色を出すシンセサイザーをメロディに用いた電子音楽(チルウェイヴ、ヴェイパーウェイヴ、アンビエント・ミュージック、EDM等)がブームに触発される形でリリースされた。それらは纏めて「Frutiger Aero Music」と総称され、リバイバルブームの一翼を担っている[3]。
また、2020年代に入りWindows 11のフルーエント・デザイン・システムといった、GUIに再びスキューモーフィズムやトランスルーセントを部分的に取り入れる動きも起こっており(いわゆるグラスモーフィズムやニューモーフィズム[18])、そうした新たなトレンドはFrutiger Aeroに因み『ネオ・エアロ(Neo Aero)』と呼ばれている[3]。
ギャラリー
編集UIデザイン
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GNOME上で再現されたWindows Aero(2007年)
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KDE Plasma 4のデスクトップUI(2011年)
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iPhone OS 3が動作しているiPhone (初代)
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Android 1.0のホーム画面
デバイス
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iPod nano(第2世代、2006年)
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ノキアのコンセプト携帯電話「Morph」(2008年)
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LG Crystal(2009年)
その他
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ダーバンの未来予想図
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E3 2005のマイクロソフトブース
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E3 2005のマイクロソフトブース
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E3 2006の任天堂ブース
脚注
編集- ^ Salah, Faisal. “Niche aesthetics finding popularity on social media, from Frasurbane to Frutiger Aero” (英語). The National. 2024年10月12日閲覧。
- ^ a b c d Dazed (2023年2月3日). “What is frutiger aero, the aesthetic taking over from Y2K?” (英語). Dazed. 2024年10月12日閲覧。
- ^ a b c d e f “Frutiger Aero” (英語). Aesthetics Wiki. 2024年10月14日閲覧。
- ^ a b “Unveiling the Mystery: Exploring the Fascinating World of Frutiger Aero”. www.reeditionmagazine.com. 2024年10月12日閲覧。
- ^ “Y2K Futurism” (英語). Aesthetics Wiki. 2024年12月11日閲覧。
- ^ “ニッチなトレンド!Frutiger Aeroの未来的世界観とは|しんや@レトロ系Webデザイナー|coconalaブログ”. ココナラ. 2024年10月12日閲覧。
- ^ “Y2KからFrutiger Aeroへ くわしく考察してみる|monomon”. note(ノート) (2023年11月28日). 2024年10月13日閲覧。
- ^ “Windows Longhorn/Longhorn Days - BetaArchive Wiki” (英語). www.betaarchive.com. 2024年12月14日閲覧。
- ^ “Windows Mobile 6” (英語). PCMag UK (2015年6月30日). 2024年11月18日閲覧。
- ^ “2023年トレンド必至!ポストY2Kこと「Frutiger Aero」とは?|Z△IK△”. note(ノート) (2023年1月15日). 2024年10月12日閲覧。
- ^ “Windows Vista登場!!:新刊ピックアップ”. 技術評論社. 2024年10月13日閲覧。
- ^ Biggs, John (2008年3月24日). “All About Linux 2008: Why use Linux?” (英語). TechCrunch. 2024年11月18日閲覧。
- ^ “GUIの歴史とこれから - MdN Design Interactive” (日本語). MdN Design Interactive 2024年12月14日閲覧。
- ^ 秋葉秀樹. “第2回 フラットデザインの主役は誰だ? - 秋葉秀樹の人に伝えるデザイン”. MdN Design Interactive. 2024年12月14日閲覧。
- ^ “Frutiger Aeroの全て - 体系化された”Frutiger Family”|Z△IK△”. note(ノート) (2024年1月28日). 2024年10月12日閲覧。
- ^ Bramley, Ellie Violet (2023年12月14日). “Frutiger Aero: the Windows screen saver design trend taking TikTok by storm” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2024年10月12日閲覧。
- ^ ecoloma (2023年6月7日). “Let’s all welcome back the Frutiger Aero aesthetic, to give us a whiplash of good nostalgia in these trying times” (英語). POP!. 2024年10月12日閲覧。
- ^ “Cybermorphism” (英語). Aesthetics Wiki. 2024年12月14日閲覧。