アンジオテンシン変換酵素2
アンジオテンシン変換酵素2(アンジオテンシンへんかんこうそ2、英語: Angiotensin-converting enzyme 2 : ACE2)は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に属する酵素で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の相同体である[5]。
総説
編集アンジオテンシン変換酵素2 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
識別子 | |||||||||
EC番号 | 3.4.17.23 | ||||||||
データベース | |||||||||
IntEnz | IntEnz view | ||||||||
BRENDA | BRENDA entry | ||||||||
ExPASy | NiceZyme view | ||||||||
KEGG | KEGG entry | ||||||||
MetaCyc | metabolic pathway | ||||||||
PRIAM | profile | ||||||||
PDB構造 | RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum | ||||||||
|
ACE2はACEと構造が類似しているものの別物であり、ACE2は主にアンジオテンシンIIからアンジオテンシン-(1-7)への変換を行って血圧上昇のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する[6]。ACE2には敗血症などによる肺損傷からの保護作用がある[7]。またACE2は小腸上皮においてB0AT1と結合し、トリプトファンを吸収する中性アミノ酸輸送体として動作し、これによって抗菌ペプチドが発現されると見られている[8]。ACE2ノックアウトマウスは腸炎を引き起こすが、トリプトファンまたはニコチンアミドの摂取によってこの腸炎を軽減できる[8]。
またACE2で生成されるアンジオテンシン-(1-7)は心筋梗塞モデルラットでの実験において心臓の保護作用があることが確認されている[9]。ただしアンジオテンシン-(1-7)の投与は左室収縮能が悪化していた[9] (なお左室機能低下の急性冠症候群 (ACS)にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB)が有効とされる[10])。
ACE2は十二指腸、小腸、胆嚢、腎臓、精巣に高く発現しており、副腎、結腸、直腸、精嚢に低く発現している[11]。
ACE2はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)によって抑制されない[6]。ACE2活性化剤としてはオルメサルタンが存在する[6]。
コロナウイルスの宿主細胞受容体としての働き
編集肺炎などを引き起こすSARSコロナウイルスおよび2019新型コロナウイルスはACE2を宿主細胞受容体として利用する。増殖したSARSコロナウイルスはACE2の発現を低下させ、急性肺不全など重大な症状を引き起こす[12]。そのためSARSに対するリコンビナント(組み換え)ACE2の投与がマウスにおいて研究されており[7]、また発見された大量生産しやすいバクテリア由来ACE2様酵素も症状への効果が期待されている[13][14]。
ACE/ACE2発現に影響するもの
編集この節の加筆が望まれています。 |
煙草のニコチンは短期的にはACEの発現か活性を増加させ、一方でACE2の発現か活性を減少させ[15]、血圧を上昇させる。しかし、喫煙者及び元喫煙者はACE2の発現が増えているとする査読前論文が存在する[16]。また、喫煙者及び元喫煙者は上腕収縮期血圧が普通なものの、中心収縮期血圧が高いとの報告もある[17]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000130234 - Ensembl, May 2017
- ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000015405 - Ensembl, May 2017
- ^ Human PubMed Reference:
- ^ Mouse PubMed Reference:
- ^ 小堀, 浩幸 (2010). “腎内アンジオテンシンⅡ産生機構”. 日本腎臓学会誌 52-2: 92-100 2020年6月3日閲覧。.
- ^ a b c 田野中浩一、丸ノ内徹郎「アンジオテンシン変換酵素2」『日本薬理学雑誌』第147巻第2号、日本薬理学会、2016年、120-121頁、doi:10.1254/fpj.147.120、2020年4月1日閲覧。
- ^ a b Imai, Yumiko (2005). “Angiotensin-converting enzyme 2 protects from severe acute lung failure”. Nature 436: 112–116. doi:10.1038/nature03712 2020年4月1日閲覧。.
- ^ a b Hashimoto, Tatsuo (2012). “ACE2 links amino acid malnutrition to microbial ecology and intestinal inflammation”. Nature 487: 477–481. doi:10.1038/nature11228 2020年4月1日閲覧。.
- ^ a b アンジオテンシン-(1-7)の心保護作用、動物実験で示唆 日経メディカル 2002年4月8日
- ^ 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版) P.55 日本循環器学会 2018年
- ^ Tissue expression of ACE2 Human Protein Atlas
- ^ Kuba, Keiji (2005). “A crucial role of angiotensin converting enzyme 2 (ACE2) in SARS coronavirus–induced lung injury”. Nature Medicine 11: 875–879. doi:10.1038/nm1267 2020年4月1日閲覧。.
- ^ 新型コロナ対策に新酵素‐医薬基盤研が発見 薬事日報 2020年3月3日
- ^ 新型コロナウイルス受容体ACE2と同じ機能を持つ微生物酵素B38-CAPを発見 医薬基盤・健康・栄養研究所 2020年2月27日
- ^ Joshua M. Oakes; Robert M. Fuchs; Jason D. Gardner; Eric Lazartigues; Xinping Yue (2018). “Nicotine and the renin-angiotensin system”. American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology (American Physiological Society) 315 (75): R895–R906. doi:10.1152/ajpregu.00099.2018 2020年4月10日閲覧。.
- ^ Tobacco-Use Disparity in Gene Expression of ACE2, the Receptor of 2019-nCov Preprint 2020年
- ^ Junichi Minami; Toshihiko Ishimitsu; Masam Ohrui; Hiroaki Matsuoka (2009). “Association of Smoking With Aortic Wave Reflection and Central Systolic Pressure and Metabolic Syndrome in Normotensive Japanese Men”. American Journal of Hypertension (Oxford Academic) 22 (6): 617–623. doi:10.1038/ajh.2009.62 2020年4月10日閲覧。.