聴覚

一定範囲の周波数の音波を感じて生じる感覚

聴覚(ちょうかく)とは、一定範囲の周波数音波を感じて生じる感覚のこと[1]

Duration: 2 minutes and 27 seconds.Subtitles available.
どのように音が脳に伝わるか(英語)
マカルト五感フランス語版』より『聴覚』

概説

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外耳中耳内耳聴神経聴覚皮質などの器官を使い、の信号を神経活動情報に変換し、音の3属性(音の大きさ音の高さ音色[2]のほか、音源方向リズム言語などを認識(知覚)する能力、機能を指す。いわゆる五感の一つである。

可聴域

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空気中の音圧の変化が耳に達すると、音がするという感覚が得られる。耳では音圧の振幅の大小により基底膜の振幅が定まり、それに応じた数のインパルスをコルチ器官が発して大脳へ伝えることで、知覚される音の大きさの大小が定まる。一方で、基底膜の振動部位は音の周波数によって異なるため、音の大きさは周波数によっても左右される[3]

そのため、ある個体が音として知覚できる空気の振動(音波)の周波数と音圧(あるいは音の強さ)には範囲があり、それを可聴範囲(かちょうはんい : area of audibility[4])や可聴域(かちょういき)という。この範囲はそれぞれの個体に特有のものであるが、健常な聴力を有する個体が知覚できる範囲を意味することも多い[4]

音圧(音の強さ)の可聴範囲

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音圧(あるいは音の強さ)の可聴範囲について、下限は最小可聴値聴覚閾値などと呼ばれる。上限は最大可聴値であり、これを上回る大きさの圧力変化では鼓膜が空気振動により傷つけられ、痛みが感じられることから[5]痛覚閾値: threshold of pain[6])と呼ばれることもある[4]

一般的に人間の聴覚で音としてとらえられる音圧(実効値[注釈 1])は、最小で20 μPa程度、最大で20 Pa程度(音圧レベルで0 - 120 dB)とされるが[5]、最小可聴値と最大可聴値は、音の周波数によって異なる値をとる。これら両可聴値の周波数特性曲線によって囲まれた領域[注釈 2]が可聴範囲となる[4]

音の周波数の可聴範囲

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周波数に関する可聴範囲(可聴域)は、可聴周波数: audible frequency range[10])と呼ばれる[4]

個人差はあるがヒトでは通常、下は20Hz程度から、上は14,000Hzから20,000Hz程度までの周波数帯域の空気振動を音として感じることができる[11]。可聴周波数の上限を超えた周波数の音は超音波という。ただし大半の人間は15,000Hzが上限とされる[11]

日常会話では540Hzから4000Hzの帯域が使われるため[12]、日本の健康診断で行なわれる簡易的な聴力検査では1,000Hzと4,000Hzの正弦波の音(純音)を利用している[11]騒音性難聴の危険がある場所で働く者向けの精密検査においては250Hz、500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hz、8,000Hzが使われている[13]

20,000Hzより高い周波数は内耳で遮断されているが、可聴域の範囲にある音と同時に聴くと脳が反応することが分かっている[11]。可聴域を下回る、あるいは可聴域下限付近の低周波音は、騒音被害(低周波騒音)を引き起こすものとして注目されている(低周波音参照)[11]

加齢による可聴域の変化

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上記の通り、ヒトには限られた周波数帯の音しか聞き取れないが、さらに加齢によって可聴域が縮小する。高周波の聴力から先に失われる傾向にあることを利用して、20代くらいまでのヒトには十分聞き取れるが、それ以上の年代では聞き取りにくい(場合によっては聞き取れない)ことを利用した商品開発も進んでいる(→モスキート音)。さらに、20代を過ぎると、個人差はあるものの、どの周波数の音に対しても徐々に聴力が低下し始め、最終的には老人性難聴になる。しかし、老人性難聴となっても、比較的低い周波数帯の音に対する聴力は良好に保たれている場合がある。

音楽における可聴域

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ヒトは、様々なアナログ楽器から発する音波を素材として広く音楽に採り入れ、聴覚の範囲を開拓してきた。楽器が発することのできる音波の特徴や周波数帯域は様々であるが、特に低音域については可聴域の限界を超えた試みがなされている。それに対して高音域については、超音波に近づくにしたがい物理的に発生が困難となる理由も相まって、素材として開拓の余地がまだ大きく残されている。

低音域については、西洋音楽におけるコントラバスより低い特殊な音域を大太鼓銅鑼の打楽器で発することができることは古い時代より世界各地で知られており、これらは皮膚に振動を感じさせる特殊な効果を持っているため、独特な扱われ方を呼んできた。それ以外に、通常大型とされているパイプ・オルガンでは、巨大な32'ストップが常設されており、弱音から強音に至るまで全身に振動を感じさせる効果はある意味で聴覚の限界を追求しようという挑戦であるが、更に現代では、アトランティック・シティ・コンヴェンション・ホール(外部リンク:公式サイトによる写真)やシドニー・タウン・ホールにおいて64'ストップも登場し、音とは言いがたいほど超低音の空気振動を発する巨大な管によってより聴覚を超えた音素材の効果を活用しようという挑戦が続けられている。

音響機器の例

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音楽CDサンプリング周波数に44,100Hzを採用しているが、これは理論上22,050Hzまで再現できるため(標本化定理 実際には音声出力時にローパスフィルタに通すため、22,050Hzよりは帯域が狭くなるが、フィルタによる減衰域を除外しても)ヒトの可聴域は十分カバーできると考えられたからである。ハイレゾリューションオーディオや高音質を標榜する音楽配信サービスでは、サンプリング周波数や量子化ビット数をCD以上とすることで可聴域を超える周波数を収録した音源も存在する。またスピーカーやヘッドフォンにおいても、高価格帯では再生可能な周波数帯域が可聴域を超える製品が販売されている[14]

身近な例としては、FMラジオの19kHzのパイロット信号がある。比較的高い周波数であるため安価な機器では除去していないものも多いが、人によっては可聴域を超えるため、聴取にあまり影響を与えない。

古い時代のブラウン管テレビでは、走査線の走査回数は15,750Hz(525本×30フレーム/秒、NTSCを採用している地域)であるため人によっては可聴域内に入り、走査に伴って生じる高周波の雑音が聴こえてしまうことがあった。後にノッチフィルタを入れて高周波を除去することが一般的となった。また、デジタル放送ではこの種の高周波は含まれない。

聴覚系の感覚器

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聴覚系 外耳から聴覚皮質まで

外耳は耳介(じかい)、外耳道からなる。耳介は、パラボラアンテナのように空気中を伝わる音声の音圧をあげて集音する機能を持つのみならず、その複雑な形態から、音源の方向によって音響伝達特性が変わることで上・前後・左右といった音源定位に役立っている。外耳道は約20 - 30mmの長さを持っており、鼓膜で終わる。

中耳は、鼓膜、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の3つの耳小骨(じしょうこつ)よりなる。空気振動による鼓膜の振動が内耳のリンパ液に伝わる際、3つの耳小骨を伝わることで、鼓膜とあぶみ骨の面積比の関係とてこの原理により圧力が約22倍に上昇する。つまり天然の物理的変圧器の役割を果たしている。作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは耳小骨の動きが悪くなる耳硬化症に罹患していたといわれている。

内耳は側頭骨の中に位置し、直径1cm程度で2回り半巻いておりカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)、半規管、前庭よりなる。蝸牛は内部が3層構造になっており(上から前庭階、蝸牛管、鼓室階)それぞれリンパ液などで満たされている。あぶみ骨の振動が蝸牛の入り口の小窓(卵円窓:らんえんそう)に伝わり、内部のリンパ液を振動させ、コルチ器を載せた基底膜を振動させる。このとき最も強く振動する基底膜の位置が音の周波数により異なり、高い音の方が入り口付近、低い音の方が入り口から遠い位置の基底膜を振動させる。この振動がコルチ器のうちの内有毛細胞の不動毛を変形させ、イオンチャネルを開かせ細胞を電気的に興奮させ、内耳神経へと伝えられる。

このような基底膜の物理的な周波数特性に加え、内有毛細胞の特定の周波数への「チューニング」という生物的な要素により、我々は音声認知の初期から、周波数情報を神経細胞興奮という情報に変換しているのである。基底膜の周波数特性を発見したゲオルク・フォン・ベーケーシはその業績で1961年のノーベル医学生理学賞を受賞している。

その後内耳神経に伝達された神経興奮は背側と腹側の蝸牛神経核を経て、ほとんどは対側の(一部同側の)上オリーブ核に中継され、外側毛帯、下丘内側膝状体を経て大脳の聴覚皮質に伝達される。

聴覚に関連する話題

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  • 聴覚障害者
  • 鼓室形成術
    慢性中耳炎等により耳小骨の機能が失われると、中耳のインピーダンス整合がうまくいかなくなり、難聴になる。耳小骨の代わりに人工骨を外科的に取り付けることで難聴が軽減する。
  • 人工内耳
    内耳に障害があるために難聴になっている患者に対して、人工内耳を埋め込む手術がなされることがある。これはマイクロフォンで拾った音を小型のコンピュータにより電気信号に変換し、内耳に挿入した電極から音の高さに応じて違う箇所を刺激することで聴覚を補助するものである。
  • 聴覚皮質のトノトピー
    内耳の基底膜において音が周波数分解されているのと対応するように、聴覚皮質においても音の高低に対応する配列があることが以前から電気生理学的に知られており、近年の脳機能イメージング研究でも確認されている。この周波数に対応する中枢神経系の配列を「トノトピー」(tonotopy ← tono:音の、topos:場所)という。
  • 絶対音感
    ある音を単独に聞いてその音の高さ(音高)を記憶に基づいて絶対的に認識する能力である[15]
  • 共感覚
    音が色彩など別の感覚として感じられること[15]
  • 幻聴(Auditory hallucination
    幻覚の一つ[15]
  • 耳の虫(Earworm
    CMのフレーズが繰り返されることなど音楽がしつこく耳から離れない状態[15]
  • 両耳聴効果
    両耳で聞くことによって得られる聴覚状の効果。方向知覚、距離知覚、音像定位、マスキング効果、両耳加算、カクテルパーティ効果、先行音効果などがあげられる。

人間以外の聴覚

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動物の可聴範囲英語版比較
カエル
カエルの一部は鼓膜がないが、皮膚や骨から伝わる振動を内耳に受けて音を感知していると考えられている[16]
昆虫の一部
ハエトリグモなどは、脚に生えている非常に敏感な毛で音を感知していると考えられている[16]
無脊椎動物
カエノラブディティス・エレガンスが音に反応することが確認された[16]

脚注

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注釈

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  1. ^ 音圧はある時間内の瞬時値(瞬時音圧)の2乗平均の平方根(RMS; root mean square)で表される実効値(実効音圧)を用いることが多い。なお、時間については周期の整数倍もしくは周期に対して充分に長い時間である[7]。(→「音圧」の記事を参照。)
  2. ^ JISではこれを聴野: auditory sensation area[8])と定義する[9]

出典

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  1. ^ 広辞苑 第5版 p.1738
  2. ^ 『新版 音響用語辞典』 (2003), p. 40, 「音の3属性」.
  3. ^ 山本剛夫; 高木興一『環境衛生工学』朝倉書店、1988年、72-77,80頁。ISBN 4-254-26123-3 
  4. ^ a b c d e 『新版 音響用語辞典』 (2003), p. 75, 「可聴範囲」.
  5. ^ a b 清水響『一般音楽論』リットーミュージック、2021年、306,307頁。 
  6. ^ 『新版 音響用語辞典』 (2003), p. 258, 「痛覚域(閾)値」.
  7. ^ 阪上公博『建築音響』コロナ社、2019年、9頁。ISBN 978-4-339-01363-4 
  8. ^ IEC 60050 - International Electrotechnical Vocabulary - Details for IEV number 801-29-27: "auditory sensation area"”. electropedia.org. 2025年1月4日閲覧。
  9. ^ 周波数の関数として聴覚域値を結んだ線と痛覚域値を結んだ線に囲まれた領域。(JIS Z 8106:2000, 聴野) 。
  10. ^ 『新版 音響用語辞典』 (2003), pp. 74–75, 「可聴周波数」"audible frequency"とも。
  11. ^ a b c d e 株式会社インプレス (2017年10月4日). “高音聞こえないオヤジにハイレゾ音源の意味はある? ~大学教授が回答”. PC Watch. 2021年6月15日閲覧。
  12. ^ 聴力検査 - 一般社団法人半田市医師会健康管理センター
  13. ^ 医師会健診センター<精密聴力検査> - 釧路市医師会健診センター”. www.kushiro-ishikai.or.jp. 2021年6月15日閲覧。
  14. ^ 株式会社インプレス (2021年5月25日). “FOSTEX、ヘッドフォン「TH900mk2」に漆塗りの限定パールホワイト”. AV Watch. 2021年6月15日閲覧。
  15. ^ a b c d オリバー・サックス『音楽嗜好症』(早川書房 2010年)。
  16. ^ a b c ミミズのような線虫も音を聞く、驚きの仕組みが判明、定説覆す ナショナルジオグラフィック 更新日:2021.10.11 参照日:2021.10.11

参考文献

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関連項目

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検査

外部リンク

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