積分変換
数学の分野における積分変換(せきぶんへんかん、英: Integral transform)とは、次の形をとるような変換 T のことである:
この積分変換の入力は関数 f であり、出力は関数 Tf である。積分変換は作用素の一種である。
多くの便利な積分変換が存在する。個々の積分変換は、その変換の核関数 (kernel function) あるいは核 (kernel, nucleus) と呼ばれる二変数関数 K を定めれば決まる。また、積分区間は,核によって適当に定められる。 いくつかの核関数には逆 K−1(u, t) が存在し、それは(大まかに言えば)次のような逆変換を満たす:
このような公式は反転公式と呼ばれる。二変数の順番が変わっても変化しないような核は対称核と呼ばれる。
動機
編集数学に関する記述はさておき、積分変換が用いられる動機は理解しやすいものである。もともとの表記法では、解くことの難しい(少なくとも代数的に扱いづらい)問題が多く存在する。積分変換は、それらの問題の方程式を、元の「領域」から別の領域へと「写す」。その写された領域で方程式を扱い、そして解くことの方が、元の領域で行うよりもはるかに簡単であるような場合がある。そうして得られた解を、積分変換の逆によって元の領域へと戻すのである。
歴史
編集積分変換の前身は、有限区間における関数の表現のためのフーリエ級数である。その後、有限区間という制限を取り払うために、フーリエ変換が開発された。
フーリエ級数を用いることで、どのような実践的な時間依存の関数(例えば、電子装置のターミナルを通過する電圧など)でも正弦関数と余弦関数の和で表すことが出来、それらは定数係数をかけることによりスケールが適正に調整され、時間に関して前進あるいは後退させることでシフトされ、振動数を増加あるいは減少することにより「圧縮」あるいは「伸長」される。フーリエ級数における正弦関数および余弦関数は正規直交基底の例である。
積分変換の表
編集名称 | 記号 | t1 | t2 | u1 | u2 | ||
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フーリエ変換 | |||||||
フーリエ正弦変換 | |||||||
フーリエ余弦変換 | |||||||
ハートレー変換 | |||||||
メリン変換 | |||||||
両側ラプラス変換 | |||||||
ラプラス変換 | |||||||
ワイエルシュトラス変換 | |||||||
ハンケル変換 | |||||||
アーベル変換 | |||||||
ヒルベルト変換 | |||||||
ポアソン核 | |||||||
恒等変換 |
逆変換に対する積分の極限において、上の表における c は変換関数の性質に依存する定数となる。例えば、ラプラス変換あるいは両側ラプラス変換に対し、c は変換関数の零点の実部のうち最大のものよりも必ず大きい定数となる。
定義域が異なる場合
編集本項では主に、実数全体で定義された関数に対して定義される積分変換を扱うが、より一般な群上で定義された関数に対してもその積分変換を定義することが出来る。
一般論
編集各々の積分変換が持つ性質は多岐に渡るが、いくつかの性質は共通のものとなっている。例えば、すべての積分変換は線形作用素である。実は、核函数が超関数となることをも許せば、すべての線形作用素は積分変換になる(このことをきちんと定式化したものがシュワルツの核定理である)。
そのような積分方程式に関する一般論はフレドホルム理論として知られている。この理論では、核とは「関数からなる或るバナッハ空間上のコンパクト作用素」のことであるものと理解される。状況に応じてその核はフレドホルム作用素、核作用素、フレドホルム核など様々な呼ばれ方をする。
参考文献
編集- A. D. Polyanin and A. V. Manzhirov, Handbook of Integral Equations, CRC Press, Boca Raton, 1998. ISBN 0-8493-2876-4
- R. K. M. Thambynayagam, The Diffusion Handbook: Applied Solutions for Engineers, McGraw-Hill, New York, 2011. ISBN 978-0-07-175184-1
- Tables of Integral Transforms at EqWorld: The World of Mathematical Equations.