白ポスト

有害図書を回収するための箱

白ポスト(しろポスト)は、日本において有害図書の投入を呼び掛ける白い箱である。

佐世保駅に設置されている白ポスト
猪苗代町青少年問題対策協議会」によって路線バス待合所に設置された白ポスト
香呂駅の出入り口に設置されている白ポスト(2022年11月現在は投入口が閉鎖されている)
二日市駅近辺に設置されている白ポスト
水戸駅の北口に設置されている白ポスト
松阪駅近辺に設置されている「やぎの箱」

概要

編集

広場のゴミ箱や列車の網棚に捨てられたポルノ雑誌などを投入し、子供の目に触れないようにするため駅前に設置される[1]

形状も様々で箱型以外に、やぎひつじ型(を食べる動物であるため)[1]ナナホシテントウ型(益虫であるため)[1]円筒[2]埴輪[3]などがある。色も白色に塗装されているもの[1][4]だけでなく、に塗装されているもの[5]やステンレス製もある。

名称

編集

「白ポスト」の名称は、同じく投函口がある郵便ポストに対して名付けられた[6]。白ポストは地域により「やぎ[1]」、「ひつじの箱[1]」、「有害図書回収箱[1]」、「悪書ポスト[1]」、「有害図書ポスト[3]」、「グリーンポスト[3]」など様々な名前で呼ばれている。

管理

編集

投入された有害図書は設置主体によって仕分けや処分が行われるが、2024年時点での回収量は減少傾向にある[7]。回収時に本来の目的ではないごみ郵便物年賀状が投入されている事例があるという[7]

設置主体も地域によって異なる。地域の「少年センター」「青少年センター」などの条例設置組織が設置しているもの[8]教育委員会が設置しているもの[9][10]任意団体が設置しているもの[11]、などがある。

歴史

編集

白ポストが登場したのは、1963年昭和38年)に尼崎市において、ドラム缶を白く塗り、有害図書を入れるように設置されたのが最初と見られている[1][2]。1950年(昭和25年)頃から日本の出版業界では『暴力麻薬』を扱うものが登場するようになり、教育者・青少年の保護者(特に教育委員会PTAなどの団体)は「性と暴力の商品化」が顕著になっている事に危機感を覚えて「悪書追放運動」を展開、その流れであるとされる[12]

江戸時代の艶本や春画明治時代錦絵戦後カストリ雑誌など、悪書と呼ばれる図書は以前からもあったが、大人と子供には明確な「境界」があり、児童性欲があるとは考えられていなかった[1]。しかし、1960年代に入ると少年向けマンガ雑誌が次々創刊され、マンガを真似たごっこ遊びが教師や母親の間で懸念されるようになる[1][注 1]。また同時期に、戦後の少子化と3DK以上の住宅の普及から、家庭に子供部屋が確保されるようになった[1]。子供部屋は豊かさの象徴であり受験戦争に備える環境作りでもあったが、子供の遊び場所が外から室内に変化することになり、有害図書が子供部屋に持ち込まれる危険が高まった[1]。こうして、1960年代中に有害図書を家庭に持ち込まない趣旨で、主に白く塗られた箱型の物が全国的に広まり、現在にいたる[2][注 2]

白ポストの設置が始まった時期の有害図書は紙媒体が主流であったが、1980年代アダルトビデオ1990年代のアダルトDVDが登場するとそれらも回収の対象とした[1]。しかし、大人のマナーの悪さからゴミ箱代わりにゴミを投げ入れられたり、鍵を壊して中の雑誌を盗まれたりなど、管理が難しくなっている上、インターネットの普及によって、の画像や動画へ容易にアクセスできるようになったため、白ポストは数を減らしている[1]。一方、長崎県内においては2010年代に入り回収数が1万6千から1万7千点ほどに増加するなど、利用件数の増加が見られる地域もある[13]。また姫路市や西宮市のように近年の利用減や想定外の使われ方(業者による投棄)により利用を停止したり、加古川市のようにポスト本体を撤去をする自治体もある[14]

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 1970年頃には永井豪の『ハレンチ学園』 の影響で「モーレツごっこ」と呼ばれるスカートめくりが小学校で流行し、社会問題となった[1]
  2. ^ 朝日新聞 1966年5月25日 「悪書、家へ持ち込まないで」で、山手線巣鴨駅における「白いポスト」の設置が報じられており、この頃には「目新しく、歓迎すべきもの」であったことがわかる。

出典

編集
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 風きよし「住宅街を歩く」『古今東西 風俗散歩 歩いて知る日本の大衆文化史』トランスワールドジャパン、2012年5月30日、136-141頁。ISBN 4862561004 
  2. ^ a b c 読売新聞 (東京本社-茨城東版): p. 23. (2009年10月11日) 
  3. ^ a b c 毎日新聞 (宮崎地方版): p. 20. (2006年1月24日) 
  4. ^ 朝日新聞 (東京地方版): p. 14. (1966年10月1日) 
  5. ^ 朝日新聞 (大分全県版): p. 31. (2008年4月12日) 
  6. ^ 町田忍「駅前・森羅万象」『現代風俗 駅前観測 数えてみればこんなに分かる』新宿書房、2009年12月24日、106-108頁。ISBN 9784880084039 
  7. ^ a b 堤冬樹「滋賀県の駅前で見かける白いポスト 京都では見かけなくなったけど、その存在意義は?」『京都新聞』2024年11月14日。2024年11月17日閲覧。
  8. ^ 毎日新聞 (福島地方版). (2006年8月28日) 
  9. ^ 高崎市防犯・青少年課: “青少年補導センター│高崎市”. 2015年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月10日閲覧。
  10. ^ 内閣府: “平成22年度「青少年の非行・被害防止全国強調月間」の取組結果について 08:茨城県” (PDF). 2013年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月10日閲覧。
  11. ^ 内閣府: “平成25年度「青少年の非行・被害防止全国強調月間」の取組結果について 14:神奈川県” (PDF). 2015年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月10日閲覧。
  12. ^ 毎日新聞 (東京本社-群馬地方版): p. 23. (2008年2月3日) 
  13. ^ withnews編集部. “「白ポスト」王国、長崎の特殊事情 「有害図書」回収に同行してみた”. withnews.jp. 2020年6月22日閲覧。
  14. ^ https://whitepost.hateblo.jp/entry/whitepostnews220703

関連項目

編集