有袋類(ゆうたいるい、Marsupialia)は、哺乳綱獣亜綱後獣下綱の1グループ。かつては有袋目フクロネズミ目)の1目が置かれていた[3]。しかし、哺乳類の歴史において有袋類の適応放散有胎盤類適応放散と同等のものであり、有胎盤類と同様にいくつかの目に分けるべきだという主張が強くなった[4]1980年代以降は2大目7目とする分類が主流である[5][6]

有袋類
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 後獣下綱 Metatheria
階級なし : Marsupialiformes
階級なし : 有袋類 Marsupialia
学名
Marsupialia
Illiger1811[1][2]
大目・目
ポッサム

後獣下綱唯一の現生群であり、後獣下綱のシノニムのようにあつかうことがあるが[1]、狭義の有袋類は後獣下綱のうちデルタテリディウム類Deltatheroideaなどを含まない系統として扱われる[7]。有袋類全体は下綱上区上目などとされ、分類階級に複数の見解がある[1][2][8]

特徴

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有袋類は、現生哺乳類の主流である有胎盤類と異なり、胎盤が高機能の漿尿膜胎盤ではなく低機能の卵黄嚢胎盤であるため、子宮内で胎児を大きく育てることができない。このため、未熟な状態で生まれた子どもを、育児嚢で育てる。育児嚢は通常腹部にある袋で、中には乳頭があり、子どもはこれをくわえて母乳を摂取する。フクロアリクイなど一部の有袋類には育児嚢が無い[9]

恒温動物ながら有胎盤類に比べ体温調節機能がやや低いが、カモノハシ目(単孔類)の動物よりはその機能が高い。

分布

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2億2500万年前に、最古の哺乳類アデロバシレウスが出現している。有袋類(後獣下綱)と真獣下綱とが分岐したのが1億2500万年以上前であるといわれている[10]。1億4000万年前の白亜紀に入ると、西ゴンドワナ大陸は1億500万年前頃[11]アフリカ大陸南アメリカ大陸に分裂し、その間に大西洋が成立した。また、東ゴンドワナ大陸は、インド亜大陸及びマダガスカル島と、南極大陸及びオーストラリア大陸に分裂した。中生代白亜紀末(6500万年前)にはアフリカから南米、南極、インド、オーストラリアの各プレートが離れたとされている[12]。6000万年前には南アメリカの有袋類の祖先が当時陸続きであった南極を経由して同じく陸続きのオーストラリア大陸に移住して様々な有袋類へと進化することとなった。南極大陸は3500万年前には完全に孤立し、オーストラリア大陸も孤立することとなった[11]。この分裂が、オーストラリア大陸でのその後の単孔類の生き残りや有袋類の独自進化につながることになる[13]

一般に有袋類はオーストラリアに生息するものがよく知られるが、オポッサム北アメリカ大陸から南アメリカ大陸にかけて生息する。このオポッサム科の種数は70種以上と、有袋類のなかで最大である。 有袋類は有胎盤類より先に出現し、その後に現われた有胎盤類により生態系の位置を奪われた。しかしオーストラリア大陸南アメリカ大陸は他の大陸から遠く隔絶していたため、ユーラシア大陸の有胎盤類はこの2大陸に侵入できず、この地域のみ有袋類の世界が残った。オーストラリア大陸は隔絶状態が続いたために、現在でも有袋類は生態系の重要な地位にある。しかし、南アメリカ大陸は大陸移動の結果、北アメリカ大陸陸橋で300万年前頃[11]に接続し、これを通って侵入した有胎盤類によって、有袋類中心の生態系は崩壊した。 しかし、オポッサム類だけは生き残り、逆に陸橋を通って北アメリカ大陸に進出している。

有袋類の化石が世界中から見つかることから、有袋類はかつて世界中の広い地域に生息していたことが知られているが、現在では主にオーストラリア区オーストラリア大陸パプアニューギニア等)および新熱帯区南米大陸)にのみ生息し、オポッサム類のみが新北区北米)に進出している。特にオーストラリアには、競争相手となる他の大形哺乳類がいなかったため、他の地域では見られない多様な有袋類が生息している。

かつてはフクロオオカミのような大型の肉食有袋類がオーストラリアに生息していたが、人間が持ち込んだイヌ(野生化したものをディンゴとよぶ)などとの生存競争に敗れてしまった。フクロオオカミは1936年に死亡した個体を最後に、生存が確認された例はなく、絶滅したと考えられる。

また、長らく他の大陸から孤立していた南米大陸には巨大な犬歯を持った肉食有袋類のティラコスミルスが生息していた。しかし地殻変動によって北米大陸と繋がると、北米に生息していた同じく巨大な犬歯を持つ肉食有胎盤類のスミロドン(サーベルタイガー)が南米に流入し、生存競争に敗れて300万年ほど前に絶滅した。

分類

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現生有袋類は7目に分類される[8]。アメリカ有袋大目とオーストラリア有袋大目に大別されるが、アメリカ有袋大目は側系統群である[14][15]。ミクロビオテリウム目はアメリカに生息するが、オーストラリア有袋大目に含まれる[5]。アメリカ有袋類の化石群として砕歯目を認める分類体系もあり[1]、これらの初期群を含めたグループとしてMarsupialiformes(有袋形類)という高次分類群が提唱されている[7]

※現生分類群の分類は Marshall (1990)。現生科・属・種の数はWilson & Reeder (2005) によったので、科数が一致しない目がある。

目同士の系統関係

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双前歯目とバンディクート目をあわせたSyndactyla(手が融合しているのが特徴)、バンディクート目以外のオーストラリア有袋類をあわせたEometatheriaなどを単系統とする説があるが、広い支持は得られていない。

Maria A. Nilsson et al.(2010)のレトロポゾンを用いた解析では、次のような系統樹が得られている[18]

有袋類

オポッサム目 Didelphimorphia

ケノレステス目 Paucituberculata

オーストラリア有袋類

ミクロビオテリウム目 Microbiotheria

Euaustralidelphia

フクロモグラ目 Notoryctemorphia

バンディクート目 Peramelemorphia

フクロネコ目 Dasyuromorphia

双前歯目 Diprotodontia

Australidelphia

この結果からは、アメリカ有袋類は側系統で、オポッサム目が現生有袋類の中で最初に分岐したことが分かる。

古い分類

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かつては、次の2亜目に分ける分類がされていた。

  • 双前歯亜目(双門歯亜目) = 双前歯目。下門歯が2本で、植物食
  • 多前歯亜目(多門歯亜目) = 双前歯目以外の全て。多数の門歯があり、肉食昆虫食

脚注

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  1. ^ a b c d Malcolm C. McKenna & Susan K. Bell, “Cohort Marsupialia,” Classification of Mammals: Above the Species Level, Columbia University Press, 1997, Pages 51-80.
  2. ^ a b Stephen Jackson & Colin Groves, “Supercohort Marsupialia,” Taxonomy of Australian Mammals, CSIRO Publishing, 2015, Pages 43-48.
  3. ^ 『動物のふしぎ』ポプラ社、134頁。 
  4. ^ Eleanor M. Russell「有袋目総論」白石哲 訳、D.W.マクドナルド 編『動物大百科 6 有袋類ほか』今泉吉典 監修、平凡社、1986年、98-103頁。
  5. ^ a b 遠藤秀紀「第1章 有袋類の多様性」『有袋類学』東京大学出版会、2018年、1-25頁。
  6. ^ 冨田幸光「有袋類」『新版 絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄・岡本泰子イラスト、丸善出版、2011年、51-61頁。
  7. ^ a b 遠藤秀紀「第3章 化石と分子による歴史」『有袋類学』東京大学出版会、2018年、81-122頁。
  8. ^ a b D.E. Wilson & D.M. Reeder, Class Mammalia Linnaeus, 1758. In: Zhang, Z.-Q. (Ed.) “Animal biodiversity: An outline of higher-level classification and survey of taxonomic richness,” Zootaxa, Volume 3148, Magnolia Press, 2011, Pages 56-60.
  9. ^ 『世界文化生物大図鑑 動物 改訂新版』世界文化社、2004年、39頁
  10. ^ 鈴木、 最近の研究成果 レトロトランスポゾン由来の遺伝子PEG10の起源とゲノムインプリンティングの成立 doi:10.1371/journal.pgen.0030055の紹介 石野研究室ホームページ
  11. ^ a b c 長谷川政美、「系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史」p84ほか、2014年10月25日、ベレ出版、ISBN 978-4-86064-410-9
  12. ^ 足立 守、「ケニア東部 Mombasa 付近の中生層、ゴンドワナ大陸復元によせて」、『アフリカ研究』Vol. 1974 (1974) No. 14 P 14-20
  13. ^ 山賀進 第3部生命 第2章 生物の進化(5)われわれはどこから来て、どこへ行こうとしているのかそして、われわれは何者か」 2005年12月28日完成との記述。
  14. ^ Schiewe, Jessie (2010年7月28日). “Australia's marsupials originated in what is now South America, study says”. Los Angeles Times. 1 August 2010時点のオリジナルよりアーカイブ2010年8月1日閲覧。
  15. ^ Nilsson, M. A.; Churakov, G.; Sommer, M.; Van Tran, N.; Zemann, A.; Brosius, J.; Schmitz, J. (2010-07-27). “Tracking Marsupial Evolution Using Archaic Genomic Retroposon Insertions”. PLOS Biology (Public Library of Science) 8 (7): e1000436. doi:10.1371/journal.pbio.1000436. PMC 2910653. PMID 20668664. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2910653/. 
  16. ^ 冨田 2011, pp. 53, 57.
  17. ^ Mark D.B. Eldridge, Robin M.D. Beck, Darin A. Croft, Kenny J. Travouillon, Barry J. Fox, “An emerging consensus in the evolution, phylogeny, and systematics of marsupials and their fossil relatives (Metatheria), ”Journal of Mammalogy, Volume 100, Issue 3, American Society of Mammalogists, 2019, Pages 802–837.
  18. ^ Maria A. Nilsson et al. (2010). “Tracking Marsupial Evolution Using Archaic Genomic Retroposon Insertions”. PLoS biology. doi:10.1371/journal.pbio.1000436. 

参考文献

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  • 冨田幸光(文)『絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄・岡本泰子(イラスト)(新版)、丸善、2011年1月。ISBN 9784621082904 

関連項目

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  • 哺乳類
  • 収斂進化 -「フクロ」+「有胎盤類の動物名」(フクロモモンガなど)がしばしば典型例とされる。