行動する保守
行動する保守(こうどうするほしゅ)は、2000年代後半より日本でおこった保守系政治運動のうち、特定の団体ないし集団、およびその現象を指す言葉である。
概説
編集西村修平によれば、単に言論を説くだけの既存の保守政治運動を「語るだけの保守」と批判し、また街宣右翼(行動右翼)とも異なり、2008年北京オリンピックの聖火リレー、NHKスペシャル シリーズ 「JAPANデビュー」や朝鮮学校に対する抗議行動のようなデモ、街頭での署名や募金活動といった市民運動を通じて有言実行の「行動する保守」を標榜している[2]。
桜井誠によれば、「行動する保守運動」は平成18年(2006年)に行われた「河野談話の白紙撤回を求める署名活動」から始まったとしている[3]。また、瀬戸弘幸は、「保守という概念では説明できない」として、自身の活動を「行動する社会運動」と呼んでいる[4]。
活動
編集市民運動的スタイルの街頭宣伝
編集行動する保守の政治活動スタイルは、従来の街宣右翼のように街宣車を連ねて大音響で軍歌を流しながら抗議や街宣活動をするのではなく、一般的な市民運動と同様に署名活動やプラカードを掲げシュプレヒコールを叫びながらデモ行進する。一方、街宣車を使用した活動を中心とした従来の右翼団体の中にも、集会や徒歩によるデモを活動に採り入れる団体も目立つようになってきている[5]。
デモ
編集在特会など、「行動する保守」と言われる保守系市民団体が主催する反韓デモにおいて、過激なコールが頻繁に行われている。在特会会長の桜井誠自ら「在日韓国人をテポドンにくくりつけ、韓国に打ち込みましょう!」とデモの最中に叫んでいる[6]。
2014年3月には、川崎駅構内で、対抗勢力からビラをたまたま受け取った、通りすがりの者を対抗勢力の関係者と勘違いし、その者を模造刀で切りつけたとして、行動する保守系のデモに参加していた男が神奈川県警察警備部公安第二課に傷害容疑で逮捕されている[7]。
2014年10月25日、在特会会員を含む5名[8]が対立団体憂国我道会会長の山口祐二郎ら2名に対する傷害容疑で逮捕された[9]。琉球新報によると、終戦記念日、カウンター勢力への抗議活動の後の打ち上げ後、偶然通りかかったと憂国我道会側と乱闘騒ぎになり、在特会会員を含む5名が男性2名の首を絞め怪我を負わせた容疑と警視庁公安部は発表した[10]。公安部の事情聴取に対し、在特会の同メンバーは羽交い締めにしたことは間違いないと思うが、ケガを負わすようなことはしていないとしている。同メンバーと桜井が立ち会うなかで事務所の家宅捜索が行われ、後に公安部は桜井からも事情を聴いた[11]。
2018年6月、池袋で「悪質な中国人の国民健康保険利用をただせ」など主張するデモを池袋を開催し、主催者がデモ中に暴行容疑で現行犯逮捕された[12]。
週刊金曜日によると、2012年10月には在特会らは「史上最大の反中デモ」と称して池袋でデモを開催し、「ゴキブリシナ人を日本から叩き出せ」などと叫ぶ者がいたという。また、デモ終了後に桜井誠らは「パトロール」と称して、華僑の商店の多い一角に向かって、そこで「日本が戦前大陸に行ったことが侵略なら、てめえらが日本にいること自体が侵略なんだよ!」と叫んだという[13]。
公安調査庁は『内外情勢の回顧と展望(平成23年1月)』において、「排外的主張を掲げ執拗な糾弾活動を展開する右派系グループ」とするコラムにおいてこれらの動きを紹介している[14]。
「行動する保守」を標榜する諸団体とその共闘団体
編集在日特権を許さない市民の会
編集桜井誠が2006年に設立した団体。前身は東亜細亜問題研究会で、発足当初は20人ほどの小さな団体だった。現在は行動する保守における主力ともいえる存在となっており、国内における会員数・支部数は最大を誇る。在日特権の廃止など、国内外におけるさまざまな問題に対して抗議を上げている。下記の主権回復を目指す会と共闘していたが、2009年の京都朝鮮学校公園占用抗議事件の対応を巡って、のちに決裂した。現在の活動状況は不明。
主権回復を目指す会
編集西村修平が2006年に設立した団体。在特会と共闘していたが、2009年の京都朝鮮学校公園占用抗議事件の対応を巡り、のちに在特会側と決裂。現在は行動する保守系団体とのかかわりは薄く、独自の活動を行う。2012年5月には、自団体の開催する講演会に在特会に批判的なジャーナリスト安田浩一をゲストとして招いた。顧問として名を連ねた古賀俊昭と酒井信彦、黄文雄 (評論家)が相次いで死去している。
チーム関西
編集在特会・主権会などが共闘することにより発足した混成メンバーによる団体。在特会と主権会が決裂したことにより、チーム関西としての活動は事実上停止している。
新攘夷運動 排害社
編集金友隆幸が2010年(平成22年)に結成。2012年(平成24年)に金友が解散宣言を行った。各支部の活動は2012年まで確認された[15]。
河野談話の白紙撤回を求める市民の会
編集台灣建國應援團
編集神鷲皇國會
編集新社会運動
編集建国義勇軍
編集日本女性の会 そよ風
編集見解
編集以下に上げるように右派系の団体からの批判も多い[16]。統一戦線義勇軍の2代目議長・針谷大輔は「行動する保守」に対して、「日常生活のなかで物理的な衝突も経験していない」者が「ネット言論をそのまま現実社会に移行させただけの運動」との批判をしたとしている。同義勇軍の元構成員にして現憂国我道会会長の山口祐二郎は「人間をゴキブリ呼ばわりする」程度の運動に留まっていると評価したとされる[17]。
一方、徳島大学大学院准教授で社会学者の樋口直人によれば、在特会について、「右翼崩れからノウハウを、歴史修正主義から係争課題を、インターネットからネット右翼という動員ポテンシャルを得てきた。」とし、在特会など「行動する保守」の新しさは、インターネットへの依存度が極端に高く、組織されざるネット右翼を組織化したことであるなどと分析している[18]。
漫画家の小林よしのりは、安田の主張を支持して「行動する保守」は「陰謀論で、自分の差別感情を正当化しているだけ」であり、「弱者が人を差別する」という持論に基づき彼らを「小泉構造改革によって生まれた弱者の集まり」と評し、「レイシスト」「ならず者」とする表現を用いて厳しく批判している[19]。
対立者による批判
編集安田浩一は、桜井誠は2011年5月に京都市内で開催した、在特会の講演会の中で「在日韓国人・朝鮮人・そして反日極左と本気で命のやりとりをやって叩き殺さなきゃいけない時が必ず来るんです。」「泣いて許しを乞う相手を貴方達本当に一刀両断で斬り捨てることが出来るか?と。大変厳しい選択です。朝鮮人であってもまだ子供です。この子供をでも生かしておいたらね、また同じ事を繰り返される。」という発言をしたと主張し、これに対し、ジェノサイドを煽る発言まで行っているとしている[20]。
朝日新聞による問題批判
編集朝日新聞は平成22年(2010年)5月の特集記事「扇動社会」において「反日マスゴミ」というインターネットで多用されるキーワードに注目し、「行動する保守」グループの扇動性を取り上げた[21]。
2015年8月、朝日新聞の冨永格特別編集委員が「東京での日本人の国家主義者によるデモ。彼らは安倍首相と彼の保守的な政権を支持している」と英語とフランス語でツイートして問題となり、朝日新聞の社名などを名乗ってツイッターを利用できる「公認記者」や、コラム「日曜に想う」の執筆者から外される処分を受けた[22][23]。
脚注
編集- ^ 尖閣諸島と秋葉原をシナから守れデモ行進、決行![リンク切れ] 排害社 2010年10月18日
- ^ 『3・1緊急国民集会「行動する保守」の総括 語るだけの保守をぶっ壊せ 永遠の危機に浸る偽善から決別を』(プレスリリース)主権回復を目指す会、2009年3月1日 。2010年11月4日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 桜井誠 (2009年10月7日). “行動する保守運動から育つ新たな芽”. Doronpaの独り言. 2010年11月4日閲覧。
- ^ 瀬戸弘幸 (2010年3月14日). “救国の社会運動について”. せと弘幸Blog『日本よ何処へ』. 2010年11月4日閲覧。
- ^ 「第3 平成21年の国内情 4 右翼団体 コラム 変化する右翼の街宣活動」 (PDF) 『内外情勢の回顧と展望』, 公安調査庁, 平成22年(2010年)1月, p. 58.
- ^ 朝日新聞2013年4月28日朝刊、35面「敵がいる」
- ^ 模造刀で切り付け、傷害容疑で無職の男逮捕/川崎 2014年3月3日神奈川新聞(アーカイブ版)
- ^ 内訳は在特会員1名、チーム関西系の「純心同盟」のメンバー4名(本部長の山本雅人を含む)、外撲協系の「護国志士の会」の突撃隊長を名乗る会員1名(逮捕後、活動から離脱している)。
- ^ 在特会壊滅への道 山口祐二郎 週刊金曜日 2015年9月17日
- ^ 「在特会会員、傷害容疑で逮捕 終戦記念日に乱闘騒ぎ」琉球新報2014年10月25日
- ^ 『NNN』(10/25 16:04)
- ^ 右派系デモ抗議の男性に暴行容疑 大学生の男逮捕 警視庁 産経新聞2018年6月11日
- ^ 在日中国人に罵詈雑言を展開するも取材は拒否――在特会が池袋で「反中デモ」2012年10月17日
- ^ 『内外情勢の回顧と展望(平成23年1月)』 (PDF) 公安調査庁
- ^ 在日特権を許さない市民の会 - 9・23 全国一斉 日韓国交断絶 国民大行進 in 大阪 【関西各支部】
- ^ 安田浩一『ネットと愛国』講談社、2012年、p.161, 248, 252
- ^ 安田浩一 「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の正体 いまや日本で最もやっかいな存在「ネット右翼」とは何者か, 「G2 (雑誌)」. Vol.6 (2010年12月)
- ^ 「日本型排外主義―在特会・外国人参政権・東アジア地政学」樋口直人著。名古屋大学出版会
- ^ SAPIO2012年8月29日号「ゴーマニズム宣言」
- ^ 安田浩一 『ネットと愛国――在特会の「闇」を追いかけて』 講談社〈g2 book〉、2012年4月17日。ISBN 978-4-06-217112-0
- ^ “世論挑発 集める支持――扇動社会5”. 朝日新聞. (2010年5月7日)
- ^ “報道姿勢に疑念抱かせおわびします 朝日新聞社特別編集委員、不適切なツイッター”. 朝日新聞. (2015年8月5日) 2015年8月17日閲覧。
- ^ “朝日編集委員、首相にレッテル「ナチ支援者は安倍支持者」 ツイート削除し謝罪”. 産経新聞. (2015年8月3日) 2015年8月17日閲覧。