日傘効果
日傘効果(ひがさこうか)とは、火山の大規模噴火や排ガスなどのエアロゾルによって生じた雲が太陽の光を反射させて地球の平均気温を下げる効果。
解説
編集厳密に言えば、地上気温が低下し、上空の気温がやや上昇する。日傘により日光が遮られ、影となる部分が涼しくなることから、この名が付いた。英語のParasol effect(Umbrella Effect, Vailing effectとも)の訳語。[要出典]環境問題という観点から見ると地球温暖化防止の役割を果たすように思われるが、大気汚染や、酸性降下物の増加などの悪影響を伴うという欠点がある。
メカニズム
編集大気中に存在する水蒸気は、周囲の気温の低下によって次第に凝結し始め、雲を形作る。凝結の際、水蒸気は核(凝結核)となる物質が多ければ多いほど、凝結が促進され、雲が作られやすくなる。同じ気温の低下であっても、凝結核が多いほど、雲ができやすいということである。その凝結核となるのが、チリやほこりなどの微粒子(エアロゾル)である。
風による砂ぼこりの巻き上げや、土砂崩れ、花粉の飛散などによって、大気中には常にエアロゾルが漂っている。その量はさまざまな要因によって変化するが、特に大きな要因として、火山の噴火と、人類の活動による煤煙がある。
エアロゾルは、それ自体が光を吸収したり反射したりするため、地表に届く太陽放射の量を低下させる。吸収された分は赤外線を主とする電磁波となって再び放射され、一部は地上にも届く。しかし、その量はエアロゾルが遮った太陽放射の量よりも少ないため、結果的に地表に届く放射の量が減少し、地上気温が低下することとなる。
火山の噴火のような場合、二酸化炭素などの温室効果ガスがエアロゾルとともに放出されるため、エアロゾルからの赤外線放射が近くにある温室効果ガスに吸収されやすくなり、他の場合に比べて地表に届く放射量の減少幅が大きくなってしまい、気温の低下も著しくなる。また、火山の大噴火の場合は特に、エアロゾルが成層圏まで達し、成層圏の強い風によって急速に地球全体にエアロゾルが拡散するため、地球規模で地上気温の低下が起こる。
エアロゾルを凝結核として作られる雲も、エアロゾルの増加に伴って増え、同様に地表に届く放射の量を減少させると考えられているが、エアロゾルと雲の増加の関係は正確には解明されていない。エアロゾルも水蒸気も、均一ではなくややムラのある分布をしており、分布によって雲のできやすさが変わるためである。しかし、ある程度分布が均一であることを考えれば、エアロゾルの増加と雲の増加は伴って変化するものだと言える。
また、雲は太陽の光を反射するだけでなく、地球からの赤外線の再放射を吸収しやすいため、それ自体が温室効果も持っている。十種雲形のうち、巻雲については、温室効果による気温上昇が日傘効果による気温低下を上回るため、結果的に温室効果をもたらすが、そのほかの雲は日傘効果による気温低下のほうが大きく、全体的には気温低下をもたらす。
日傘効果による天候異常の事例
編集- 1783年 アイスランド、ラキ山噴火
- 火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、冷害によりヨーロッパなどで飢饉、日本では天明の大飢饉が発生。
- 1815年 インドネシア、タンボラ山噴火
- 火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、ヨーロッパ北部・アメリカ北東部・カナダで冷害。1816年は"Year Without a Summer"(夏のない年)と呼ばれた。
- 1883年 インドネシア、クラカタウ噴火
- 火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、北半球全体の平均気温が0.5〜0.8°C低下。世界各地で夕焼けの鮮明化を観測。
- 1991年 フィリピン、ピナトゥボ山噴火
- 火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、日本でも日射量、全天日照射量が減少した。