対州そば
沿革
編集ソバの原産地は中国雲南省と四川省の間の山間部であると言われる[1]。ソバが日本にいつから存在するかは定かでないが、少なくとも縄文時代後期にはソバ利用の痕跡が残っている[2]。日本へ伝来した経路については、朝鮮半島から[3]対馬を経て[4]各地に広まったという説がある。
対馬においてソバの栽培がいつから行われていたかは、はっきり分からないが[5]、平地が少なく水田稲作に不利な対馬[4]では、古くからソバが栽培されている。かつ、離島という地理的条件ゆえ他の品種と交配する可能性が低く、原種に近い特性を残したまま栽培されてきた [6]。
記録によると、昭和30年代まで[5]、木庭作(こばさく)と呼ばれる、山の傾斜を使用した焼畑の一種で栽培されてきた[7]。
いつしか対州そばは対馬の食生活に欠かせないものとなり、年越しそばはもちろん、冠婚葬祭、地域の祭り、冬至など行事ごとに食べられており、今でも一部の家には蕎麦打ちの道具があり、現役で使われている[8]。
江戸時代、厳原城下には多くの蕎麦屋が営業していたが、1794年開業の老舗が昭和の終わり頃に廃業すると、対馬から蕎麦専門店が消失する。これにより、対州そばは「幻のそば」と呼ばれたこともあったが、近年、関係者の努力により復活し、観光客の人気を博している[4]。収量の高い島外の品種が持ち込まれ、交雑が進んだこともあったが、対州そば振興協議会は、総合農林試験場(現・長崎県農林技術開発センター)で選抜を実施し、その種子を原種として採種栽培し逐次切り替えを行った。2006年、対州そばに100%切り替わった[9]。
2018年4月9日、地理的表示保護制度にもとづき特定農林水産物等に登録される[5](長崎県初)。
2018年の栽培面積は85ヘクタールで、年間生産量は40トン[6]。
特徴
編集他の品種に比べ種子は小粒である(1/3程度)。風味が強く香り高いのが特徴[10]。ナッツのような香りがする、と記す資料もある[8]。
ソバの実にはルチン(フラボノイド配糖体の一種)[11]が多く含まれる。その他、タンパク質、ビタミンC・Eが豊富である[12]。ルチンには抗酸化作用、抗炎症作用および血流改善作用があるという報告がある[13]。ソバの葉・茎には実より多くルチンが含まれているが、ラットに対州そばの葉を与えたところ、血清脂質および肝臓脂質のトリグリセリド濃度低下、肝臓脂質のコレステロール濃度低下が見られた[13]。
利用
編集つなぎを使わず、蕎麦粉のみで打つのが特徴[4]。
特筆すべき郷土料理として、いりやきそばが挙げられる。「いりやき」は、地鶏または魚(ブリ、メジナなど)と、たっぷりの野菜を入れた鍋である。人が集まるときに振る舞われる対馬の郷土料理であるが、この「いりやき」の最後には、素麺または蕎麦に鍋の汁をかけて食す[8]。
国境の島・対馬には韓国からの観光客が多く訪れるが、対州そばは韓国人の嗜好とは合わず、市場に限りがあった。そこで蕎麦粉を使用したソフトクリーム、アイスクリーム、コーヒー(コーヒー豆と蕎麦粉の混合物)、ガレット(クレープ)を開発し、観光客向けに販売している[14]。
出典
編集- ^ 井上直人『そば学 sobalogy―食品科学から民俗学まで』柴田書店、2019年8月30日、14-18頁。ISBN 978-4-388-35355-2。
- ^ 杉野ヒロコ(監修)『食の文化話題事典』ぎょうせい、1993年10月1日、33頁。ISBN 4-324-03404-4。
- ^ 『日本大百科全書』 14巻、小学館、1987年3月10日、192-194頁。ISBN 4-09-526014-9。
- ^ a b c d 「ながさき美味遊学…対州そば(対馬市)」『ながさき夢百景:長崎県の「今」にふれ、「あす」に出会う情報誌』第32号、長崎県、2006年、22頁。
- ^ a b c 食料産業局知的財産課地理的表示保護制度担当 (1990年2月24日). “登録の公示(登録番号第61号)”. 農林水産省. 2020年2月28日閲覧。
- ^ a b 堀田浩一 (2018年4月14日). “長崎)対馬の「対州そば」県内初登録 国のGI制度”. 朝日新聞DIGITAL. The Asahi Shimbun Company. 2020年2月28日閲覧。
- ^ “対州そば そば打ち体験”. (一社)対馬観光物産協会 (2011年2月28日). 2020年2月28日閲覧。
- ^ a b c 佐々木達也. “蕎麦好きなら一度は味わいたい「対州そば」とは”. Re島PROJECT. 2020年2月28日閲覧。
- ^ 土井香織. “対州そばの品質特性” (PDF). 長崎県農林技術開発センター. 2020年2月28日閲覧。
- ^ “対州そば集荷で大忙し”. JA対馬ニュース. 対馬農業協同組合 (2011年12月26日). 2020年2月28日閲覧。
- ^ 小原哲二郎, 細谷憲政(監修) 編『簡明 食辞林』樹村房、1987年3月10日、872頁。ISBN 4-915507-18-1。
- ^ 『園芸植物大辞典<コンパクト版>』 1巻、小学館、1994年4月20日、1328-1329頁。ISBN 4-09-305111-9。
- ^ a b 田中一成, 宮田裕次, 須澤佳子『長崎県産農産物の機能性解明に関する研究』(レポート) 平成29年度、シーボルト校、長崎県立大学、2018年、1-7頁。hdl:10561/1497 。2024年4月3日閲覧。
- ^ “対州そばde国境を超えた名物デザート開発プロジェクト” (PDF). furusato-zaidan.or.jp. 一般財団法人地域総合整備財団. 2020年2月28日閲覧。