物権変動
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物権変動(ぶっけんへんどう)とは、物権の発生・変更・消滅の総称[1][2]。物権の主体の立場からは物権の得喪及び内容変更をいう[1]。
物権変動の原因
編集物権変動の主要なものは法律行為及び相続である[1]。このほかに時効、無主物先占、遺失物拾得、埋蔵物発見、添付、混同、放棄、公用徴収、没収などがある[1][2]。
- 物権の発生
- 物権の変更
- 物権の消滅
公示の原則と公信の原則
編集公示の原則
編集公示の原則(消極的信頼の原則)とは、物権変動には外部から認識しうるように対抗要件を伴うことを要するという原則をいう。
物権には排他性があり物権変動の事実は第三者の権利関係に大きく影響するので、物権変動を第三者に対抗するためには対抗要件を備える必要がある。
公信の原則
編集公信の原則(積極的信頼の原則)とは、対抗要件を伴った物権変動の外観が存在し、それを第三者が信頼した場合には実体的な物権変動が存在しなくてもその信頼を保護すべきという原則をいう。
日本では動産物権変動については即時取得制度によって公信の原則が採用されている一方、不動産物権変動については不動産登記に公信力を認めなかったので民法第94条2項類推適用(権利外観法理)によって取引の安全を図っている。
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契約による物権変動に関する立法例
編集形式主義と意思主義
編集物権変動のための要件について形式主義と意思主義に分かれる[5]。
成立要件主義と対抗要件主義
編集登記の持つ意味について成立要件主義と対抗要件主義に分かれる[5]。
- ドイツ法(成立要件主義)
- 公示手段である登記は単に対第三者関係でのみ意味をもつものではなく、同時に当事者間では物権変動を成立させる要件であるとする立法例[5]。
- フランス法(対抗要件主義)
- 公示手段である登記は当事者間での物権変動とは直接の関係はなく、単に対第三者関係で物権変動を対抗するための要件であるとする立法例[5]。
物権行為の独自性
編集物権行為の独自性とは債権行為と物権移転行為の分離の有無の問題である[5]。
- ドイツ法(物権行為の独自性を肯定)
- 売買契約等の原因行為のみでは当事者双方に債権的義務を生じるのみで、物権変動のためには原因行為とは別個の法律行為を必要とする立法例[5]。
- フランス法(物権行為の独自性を否定)
- 売買契約等の原因行為によって当事者双方に債権的義務を生じるとともに、物権変動も債権の効力として生じるとする立法例[5]。
物権行為の無因性
編集物権行為の無因性とは原因行為の瑕疵が物権変動に及ぼす影響の有無の問題である[5]。
日本法における契約による物権変動
編集意思主義の採用
編集日本の民法176条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定め、民法177条と民法178条では登記又は引渡しを第三者に対する対抗要件としている。民法176条が形式主義を採用していないことは確かであり[6]、一般には意思主義に立ったものと理解されている[7][8]。
意思主義の下でも例外的に所有権移転等の物権変動が契約成立時に生じない場合(当事者間に特約がある場合、不特定物売買で特定がなされていない場合、他人物売買の場合など)がある点に注意を要する。
また、先述のように日本法では対抗要件主義が採用されている。物権変動を第三者に対抗するためには対抗要件を備えなければならない[8]。
- 不動産物権変動の対抗要件
- 動産物権変動の対抗要件
- 慣習法上の対抗要件
- 立木や未分離果実などについては慣習法上、「明認方法」と呼ばれる対抗要件が認められている。
物権行為の独自性に関する論点
編集民法第176条の「意思表示」が債権的意思表示を指しているのか、それとも債権的意思表示とは別個に必要とされる物権的意思表示を必要とするのかは必ずしも明らかではない[6]。日本の民法の解釈においても、民法第176条の「意思表示」とは物権的意思表示を指すもので債権的意思表示とは別個に必要とされると解する少数説(物権行為独自性肯定説)があるが、通説・判例は民法第176条の「意思表示」とは債権的意思表示でありこれによって物権変動も生じるのであり別個の物権的意思表示は不要であると解している(物権行為独自性否定説)。民法176条の「意思表示」を債権契約とは別個の物権変動を目的とする物権的合意と解することは、ドイツ法のように物権の成立に法定の方式を必要とする立法のもとでは意味があるが、日本の法制のようにいずれにしても物権の成立のために何ら方式を要求しない立法のもとでは意味がなく無用の理論構成であると解されるためである[7][9]。民法制定作業の沿革からは176条はフランス法の系統を引くものとされ判例は物権行為の独自性を否定している[10]。学説も当初そのように解釈していたが、明治末期に独自性の支持に移り、大正末期から再び判例を支持するに至っている[10]。
物権行為の無因性に関する論点
編集意思主義のもとでは債権行為と物権行為とは峻別されてはない[11]。債権行為と物権行為は同じ意思表示によって生じることから有因無因の問題もそもそも生じない[11]。
日本の通説・判例は物権行為独自性否定説に立つが、物権行為独自性否定説からは物権行為の無因性の問題を生じないものと解されており、物権行為の無因性を肯定することは民法の法解釈の点でも難があるとして、日本では物権行為は有因であるとする物権行為無因性否定説が通説となっている[12]。ここでいう有因とは債権的効果が発生しない場合には物権変動も生じないという意味において結果的に有因主義と同じこととなるということである[11]。
なお、当事者間の特約により物権的意思表示が別個に切り離されている場合の扱いについては物権行為無因性否定説の中で議論がある[13]。
物権変動の時期
編集意思主義のもとで債権行為と物権行為とは峻別されていないとすると、物権変動は当事者間の意思表示と同時に生じることとなる[11]。これは日本の民法176条の文理に忠実な解釈である[11]。しかし、特に不動産売買のような場合に口頭の売買契約があれば直ちに所有権が移転するというのは一般の人々の意識に反するという問題が指摘される[11]。そこで大部分の学説は意思主義に立ちつつ[7]、物権変動の生じる時期について特約のない限り契約時であるという学説(判例の立場)とは別に代金支払い又は引渡し・登記のいずれかが行われた時点であるとする学説や所有権は段階的に移転するとみる学説もあり分かれている[11][14]。
脚注
編集- ^ a b c d 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、111頁。
- ^ a b c d e f g h 田山輝明『物権法 第3版』弘文堂、2008年、30頁。
- ^ 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、112頁。
- ^ 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、113頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、115頁。
- ^ a b 田山輝明『物権法 第3版』弘文堂、2008年、34頁。
- ^ a b c 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、116頁。
- ^ a b 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法1 総則・物権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、276頁
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法1 総則・物権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、279頁
- ^ a b 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法1 総則・物権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、277頁
- ^ a b c d e f g 鈴木禄彌『物権法講義 5訂版』創文社、2007年、118頁。
- ^ 我妻栄著『新訂 物権法』69頁、岩波書店、1983年
- ^ 舟橋諄一・徳本鎭編『注釈民法(6)物権(1)物権総則』249頁、有斐閣、1997年
- ^ a b 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法1 総則・物権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、281-282頁
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法1 総則・物権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、278-279頁