は、ハングルを構成する子音字母のひとつ。現在は使用されない古いハングル字母である。呼称はヨリンヒウッ여린히읗、足りないヒウッ)。この字母は世祖15世紀中葉)以降には使われなくなった。

ハングル字母
基本字母
合成字母
古字母

歴史的には、配列順は『訓民正音』当時は最初の「ㄱ」から濃音を含めなければ13番目、濃音も含めれば18番目であった。

音韻

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訓民正音初声体系では全清喉音に分類されており、訓民正音の世宗序では「喉音如挹字初發聲」と規定されている。しかし、この字母は『東国正韻』(1448年)の漢字音表記のために中国語の子音体系を表す三十六字母全清の字母である影母に合わせて形式的に作られたものであって、朝鮮語音韻体系から作られたものではないと考えられている。このため『訓民正音解例』の用字例からも除外されている。影母とは中国語の漢字音が母音から始まる音節であることを示すゼロ子音であるが、中国語の母音から始まる音節の前には喉頭緊張が見られるので声門破裂音[ʔ]ともされるものである。『東国正韻』で「安()」や「音()」などの漢字音の初声にこの字母が用いられているが、実際はと差異がなかったのではないかと考えられる。

また単体や終声でも用いられたが、独立した音韻として用いられることはなく、終声ではとともに「」という形で使われた。その用法には以下のようなものがある。

  1. 冠形格促音:名詞と名詞が修飾関係にあることを示すために用いる。漢字語では「虚字」のように母音で終わる語と無声音で始まる語の間に置かれた。固有語ではという形で終声の//と//という初声で始まる語を結んだ。
  2. 用言の連体形:用言の連体形を表すの後ろでという形で使われ、次の音が濃音であることを示した。
  3. 以影補来:朝鮮漢字音では中国中古音入声[t̚]が//で現れる。このため東国正韻漢字音では漢字本来の中国語音が//の音であることを示すためにという形で表記された。例えば日 、月  などの終声がで表記された。

字形

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『訓民正音解例』制字解によると喉の形を象った喉音筆画を足して作られた加画字とされる。これにさらに筆画を加えるととなる。

名称

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この字母は(ヒウッ、히읗)の字形に対して1画足りない形であるので、ヨリンヒウッ여린히읗、足りないヒウッ)と呼ばれることが多い。また音価が喉頭緊張を伴うものだとして同じ喉音(イウン)に対してトゥウェンイウン된이응、音の硬いイウン)と呼ぶ人もいる。

文字コード

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Unicodeにおける文字コード
名称 種類 コード HTML実体参照コード 表示
HANGUL LETTER YEORINHIEUH 単体 U+3186 ㆆ
HANGUL CHOSEONG YEORINHIEUH 初声用 U+1159 ᅙ
HANGUL JONGSEONG YEORINHIEUH 終声用 U+11F9 ᇹ