ロボノート
ロボノート(英: Robonaut)はNASAのジョンソン宇宙センターにあるデクストラウス・ロボティックス研究所(Dextrous Robotics Laboratory)が行っているヒューマノイドロボット開発計画[1]。しかし完全な運用タイプは未完成であり技術的に停滞状態である。
概要
編集ロボノートシリーズ開発の背景にある中心的アイディアは宇宙飛行士と共に働くマシンを作ることである。そのため、宇宙服を着た宇宙飛行士と同様の環境で同じ工具を使用して作業できるよう設計されている。
ロボノートは他の宇宙ロボットとは異なるタイプのロボットで、例えばローバー(火星探査機のマーズ・エクスプロレーション・ローバーなど)といったものより非常に繊細さの要求される作業に焦点を置いている。
1990年代に開発が始まり[2]、ロボノートシリーズ第1世代(R1)の開発は国防高等研究計画局を含む多くの共同開発者によって行われた。第2世代(R2)はNASAとゼネラルモーターズ(GM)の共同プロジェクトで行われている。
R2は2011年2月24日に打ち上げられたディスカバリー(STS-133)によって国際宇宙ステーション(ISS)へ輸送され、与圧室内に保管された[2][3][4]。
初期の計画
編集ロボノートの初期設計では国際宇宙ステーションに搭載されているカナダアーム2のエンドエフェクタとして用いられ、宇宙飛行士の代わりにステーションの外部メンテナンスを行うことになっていた。
その他にも惑星表面で遠隔操作ロボットとして使用する、といった案も提案されている[5]。
2003年に発表された初の試作機ロボノート1(R1)は上半身が人型で、4自由度のアームを持ち、指の先端にはタッチセンサーが用いられている[2][6][7][8]。
ロボノート2
編集次世代のロボノートはNASAとゼネラルモーターズ(GM)の共同開発によって誕生した。NASAとGMの協力は2007年に始まり、2010年2月4日に公表された。
R2はR1の4倍の速さで動け、より小型軽量化した設計となっている。アームを最大2m/sで動かし、40ポンドの物体を持つことができる。握力は指1本あたり約5lb。350個以上のセンサがロボットに搭載されており、腕は衝突しても自動停止する機能を有している。重さは約136キロ[2]。
R1は地上試験のみだったが、R2は宇宙試験も行われ、2011年2月24日に打ち上げられたディスカバリーによってISSへ輸送され、アメリカの実験棟デスティニー内で試験が行われている。2013年12月にはR2に追加するために開発された2本脚が公開された。脚を装着した時の長さは9ft(2m74cm)になる。各脚には関節7個を装備し、両脚の先端にはエンドエフェクタが装着されており、これを使って船内・船外のハンドレールやソケットに固定させることができる。 エンドエフェクタ用の視覚装置も装備しているため、自動で把持することができる。この脚は2014年4月のドラゴン宇宙船(SpX-4)でISSに運ばれた。なお、この脚は船外での使用も可能な設計であるが、上半身の方は船外で使用する前に改良を行う必要がある
[10]。2014年12月には、軌道上で脚を装着したロボノートの姿が披露された[11]。
なお、R2は2基製造されており、1台は地上に残されてソフトウエアの開発・検証に使われる。地上のR2で検証されたプログラムが軌道上にも送られて実行されることになる。
またプロジェクトMと呼ばれる将来構想も提案されており、もしミッションが承認されれば1,000日以内にR2ロボットを月面に着陸させるという[12]。
ヴァルキリー
編集ロボノートの3番目のバージョン、ヴァルキリー(Valkyrie、正式名称:R5)は、身長約188cm、体重約136kgのヒューマノイドロボット。2個の「Intel Core i7」で稼動している[13][14][15][16]。
「ヴァルキリー」という名は北欧神話に登場するワルキューレの英語読み[13]。
当初はDARPAロボティクス・チャレンジに出場する災害対応ロボットとしてジョンソン宇宙センターにより設計されたが圧倒的な能力不足を指摘され、現在はマサチューセッツ工科大学などの研究施設に提供されて改良が進められており、数世紀先の人類の火星移住計画などでの活躍が期待されている[17][13][14]。
他国の宇宙ロボット計画
編集Justin
編集- 2008年発表(ドイツ連邦共和国・ドイツ航空宇宙センター[18][19])。
- 正式名称は『Rollin' Justin(愛称:Justin)』。NASAが2010年2月4日に発表した『ロボノート2(R2)』同様の作業を担う事を想定して開発された。
TORO
編集- 2013年3月発表(ドイツ連邦共和国・ドイツ航空宇宙センター[20][21][22])。
- 正式名称は『TORO:Torque Controlled Humanoid Robot』。NASAが2013年12月に発表した『ヴァルキリー(Valkyrie、正式名称:R5)』同様、宇宙空間で宇宙飛行士と共同作業を行なう目的で開発された二足歩行ロボット。身長174cm、体重76.4kg。[23][24]
SAR-401
編集- 2013年発表(ロシア連邦・Android Technics[25],TsNIITochMash[26])。
- NASAが2010年2月4日に発表した『ロボノート2(R2)』同様の作業を担う事を想定して開発された。[27][28]
- 2016年10月発表(ロシア連邦・Android Technics[25],Advanced Research Foundation)。正式名称は『FEDOR:Final Experimental Demonstration Object Research』[29]。型式番号は「AR-705RH」。
- 2019年7月23日、音声アシスタント機能を追加して小型・軽量化にも成功した新型二足歩行ロボット『Skybot F-850』[30]がツイッターのページで公開された。[31][32][33]
小天
編集キロボ
編集- キロボは2013年8月10日にISSへ到着し、同年8月21日には日本実験棟「きぼう」で起動(日本・トヨタ自動車[35]/東京大学先端科学技術研究センター[36])[37][38]。人類初[39]のロボット宇宙飛行士としてこうのとり4号機に積載されて国際宇宙ステーション(ISS)に運ばれ、ISS内で若田光一飛行士との会話を行った[40][41][42]。
- 実験終了後しばらく保管されていたが、2015年2月11日にドラゴン宇宙船の5号機(SpX-5)で回収され、地球に帰還した[43][44][45]。
- 「地上から一番高い場所で対話をしたロボット」と「初めて宇宙に行った寄り添いロボット」として、2つのギネス世界記録に認定された[46]。
出典
編集- ^ Robonaut 2 Joins ISS Crew
- ^ a b c d “ロボット宇宙飛行士「ロボノート2」、ケネディ宇宙センターに到着”. sorae.jp. 2010年8月12日閲覧。
- ^ “NASA Prepares for Robonaut Launch to ISS on STS-133/Discovery”. NASA spaceflight.com. 2010年8月12日閲覧。
- ^ “ISS to get 'Man Cave' Complete with Robot Butler”. Universe Today. 2010年8月12日閲覧。
- ^ “Future Mars Explorers Might Only See the Planet from Orbit”. Universe Today (December 3rd, 2007). 12 August 2009閲覧。
- ^ M.K. O'Malley and R.O. Ambrose, "Haptic feedback applications for Robonaut," Industrial Robot: An International Journal, Vol. 30, pp. 531-542 (2003) DOI: 10.1108/01439910310506800
- ^ “Robonaut Hand subsystem”. NASA. 2010年8月12日閲覧。
- ^ C. S. Lovchik and M. A. Diftler, "The Robonaut hand: a dexterous robot hand for space," 1999 IEEE International Conference on Robotics and Automation,Vol. 2, pp. 907-912, DOI 10.1109/ROBOT.1999.772420
- ^ “Mobility Concepts”. NASA. 2010年8月12日閲覧。
- ^ “NASA Developing Legs for Space Station's Robonaut 2”. NASA. (2013年12月9日) 2014年1月7日閲覧。
- ^ “Crew Works Multitude of Advanced Robotics”. NASA. (2014年12月11日) 2015年1月18日閲覧。
- ^ “Will NASA Send Robots to the Moon with "Project M?"”. Universe Today. 2010年8月12日閲覧。
- ^ a b c “火星を目指すNASAの人型ロボット「ヴァルキリー」、その驚くべきスペック”. WIRED.jp (2016年10月13日). 2017年1月9日閲覧。
- ^ a b “NASA Looks to University Robotics Groups to Advance Latest Humanoid Robot”. NASA (2015年12月12日). 2017年1月9日閲覧。
- ^ Valkyrie Scaffolding Demo - YouTube
- ^ Valkyrie Autonomous Path Planning over Curved Uneven Path - YouTube
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- ^ DLR - Institute of Robotics and Mechatronics - Rollin' Justin
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- ^ The robot is complete – arms and hands for TORO, the walking machine
- ^ Video Friday TORO Humanoid Robot Learning to Balance, and More - IEEE Spectrumspectrum.ieee.org |2018年7月31日閲覧
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- ^ “Russia’s FEDOR robot to spend 1.5 weeks in space - Roscosmos - Science & Space - TASS”. TASS. 2019年7月21日閲覧。
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- ^ ロボット宇宙飛行士、中国国際工業博覧会に登場
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】6-26記者発表映像その3 - トヨタ自動車株式会社 製品企画室 主査 片岡史憲
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】6-26記者発表映像その2 - 東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授 高橋智隆
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】KIROBO、「宇宙でのロボットの発話」に成功 - YouTube
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】宇宙でのアクション - YouTube
- ^ 人類初は日本の報道での表現。ISSには他にロボノート(NASA)もある
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】宇宙からのラストメッセージ - YouTube
- ^ 日本生まれ、人類初のロボット宇宙飛行士「キロボ」に世界が注目 | NewSphere(ニュースフィア)
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】若田宇宙飛行士との別れ - YouTube
- ^ ロボット宇宙飛行士「KIROBO」、地球帰還へ - 2015年2月10日 - KIBO ROBOT PROJECT事務局 (PDF)
- ^ “ロボット宇宙飛行士「KIROBO」、地球帰還へ”. 電通. (2015年2月10日) 2015年2月11日閲覧。
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】キロボ地球帰還、第一声 - YouTube
- ^ 【KIBO ROBOT PROJECT】KIBO ROBOT PROJECT 総集編 - YouTube
参考文献
編集- R.O. Ambrose, H. Aldridge, R.S. Askew, R. Burridge, W. Bluethman, M.A. Diftler, C. Lovchik, D. Magruder, F. Rehnmark, ROBONAUT: NASA’s Space Humanoid, IEEE Intelligent Systems Journal, Vol. 15, No. 4, pp. 57-63, July/Aug. 2000, doi:10.1109/5254.867913.
- M. A. Diftler, C. J. Culbert, and R.O. Ambrose, "Evolution of the NASA/DARPA Robonaut Control System," in IEEE International Conf. Robotics Automation, pp. 2543-2548, 2003.
- G. Landis, "Teleoperation from Mars Orbit: A Proposal for Human Exploration," Acta Astronautica, Vol. 61, No. 1, 59-65 (Jan. 2008); also paper IAC-04-IAA.3.7.2.05, 55th International Astronautical Federation Congress (2004). (A popular version is available from NASA.)