ポール・アンダースン

アメリカ合衆国の作家

ポール・ウィリアム・アンダースン(Poul William Anderson、1926年11月25日 - 2001年7月31日)は、アメリカ合衆国小説家SF作家。北欧系で、名のPoulは英語名のPaulとは異なる。姓はアンダーソンと表記することもある。ファンタジー歴史小説もいくつか書いている。ヒューゴー賞を7度、ネビュラ賞を3度など、様々な賞を受賞している。

ポール・アンダースン
Poul Anderson
1985年のポール・アンダースン
ペンネーム A. A. Craig, Michael Karageorge, Winston P. Sanders, P. A. Kingsley[1]
誕生 (1926-11-25) 1926年11月25日
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
ペンシルベニア州の旗 ペンシルベニア州ブリストル
死没 2001年7月31日(2001-07-31)(74歳没)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
カリフォルニア州の旗 カリフォルニア州オリンダ
職業 小説家
ジャンル SFファンタジー歴史小説
ウィキポータル 文学
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多作かつ「はずれのない作家」と言われる。ハードSFの書き手として知られ、相対論的効果を正面から扱った『タウ・ゼロ』は評判となった。他にはタイム・パトロールものの古典『タイム・パトロール』なども有名。作品の一部は「惑星間協調機関」(The Psychotechnic League)シリーズという独自の未来史を形成していた(日本語にはあまり訳されていない)。「リアリティーを高めるため、常に五感のうちの三つ以上に言及する」という独自の手法を持っていた。

生涯

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1926年11月25日、ペンシルベニア州ブリストルで生まれる。誕生後まもなく一家はテキサス州に引越し、10年以上を過ごした。父が亡くなると、未亡人となった母は子供たちをつれてデンマークに帰国した。アメリカに戻ったのは第二次世界大戦勃発後で、ミネソタ州の農場に落ち着いた。

ミネソタ大学で物理学を専攻し、1948年に卒業。しかし、物理学者になろうとはしなかった。というのも大学在学中の1947年、『アスタウンディング』誌に発表した「明日の子供たち」(F・ウォルドロップと共作)で作家デビューしていたためである。大学卒業後はフリーランスのライターとして働き始めた。長編第1作『脳波』は1951年に出版された。

1953年、カレン・クルーゼと結婚し、サンフランシスコのベイエリアに引っ越した。1954年に生まれた一人娘は、後にSF作家グレッグ・ベアと結婚した。後にバークレーにほど近いカリフォルニア州オリンダに家を建て、亡くなるまでそこで過ごすことになった。

1960年代にはヒロイック・ファンタジー作家のグループ Swordsmen and Sorcerers' Guild of America の一員としてファンタジー小説も書き、リン・カーターのアンソロジー Flashing Swords! に掲載されている。1966年、中世ヨーロッパの文化を研究・再現する団体 Society for Creative Anachronism の創設に関わった。

1972年、アメリカSFファンタジー作家協会の第6代会長を務めた。

ロバート・A・ハインラインの1985年の小説『ウロボロス・サークル』の献辞にある「ポウル」はポール・アンダースンのことである[2][3]

癌のため1か月間入院したのち、2001年7月31日に死去[4]

受賞歴

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  • ガンダルフ賞グランドマスター賞 (en)(1978年)
  • ヒューゴー賞
    • 短編「長い旅路」(1961年)
    • 短編「王に対して休戦なし」(1964年)
    • 中編『肉の分かち合い』(1969年)
    • 中長編『空気と闇の女王』(1972年)
    • 中編『トラジェディ』(1973年)
    • 中編 Hunter's Moon(1979年)
    • 中長編 The Saturn Game(1982年)
  • ジョン・W・キャンベル記念賞
    • Genesis (2001年)[5]
  • ローカス賞
    • 短編『空気と闇の女王』(1972年) [6]
  • ネビュラ賞
    • 中編 『空気と闇の女王』(1971年)
    • 中編 『トラジェディ』(1972年)
    • 中長編 The Saturn Game(1981年)
  • プロメテウス賞
    • 殿堂賞 Trader to the Stars(1985年)
    • The Stars are also Fire(1995年)
    • 殿堂賞 The Star Fox(1995年)
    • 特別賞 (2001年)
  • SFWA グランド・マスター賞(1997年)

評価

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  • 英米のSF界ではかつて、クラークアシモフブラッドベリハインラインとともに「ビッグ5」と呼ばれた[7]
  • SF評論家の水鏡子は、『脳波』(ハヤカワ文庫)の解説として書かれた「アンダーソン・ノート」において、(大作家ではないが)アメリカSFの根幹をなす作家として論じている。

作品リスト

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単発長編

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  • 『脳波』(Brain Wave(1954)、山田純訳、元々社、最新科学小説全集14) 1956、のち林克巳訳、ハヤカワSFシリーズ 1962、のちハヤカワ文庫 1978
  • 『折れた魔剣』(The Broken Sword(1954)、関口幸男訳、ハヤカワ文庫SF) 1974、のち新訳 2005
  • 『鳥人大戦争』(War of the Wing-Men(1958)、関口幸男訳、双葉社、双葉ノベルス) 1981
  • 『敵の星』(The Enemy Stars(1959)、岡部宏之訳、ハヤカワSFシリーズ) 1969
  • 『天翔ける十字軍』(The High Crusade(1960)、豊田有恒訳、ハヤカワSFシリーズ) 1966、のちハヤカワ文庫SF 1980
  • 『無限軌道』(Orbit Unlimited(1961)、浅倉久志訳、ハヤカワSFシリーズ) 1969
  • 『魔界の紋章』(Three Hearts and Three Lions(1961)、豊田有恒訳、ハヤカワSFシリーズ)1970、のちハヤカワ文庫SF 1978
  • 『たそがれの地球』(Twilight World(1961)、船戸牧子訳、ハヤカワSFシリーズ) 1971
  • 『審判の日』(After Doomsday(1963)、砧一郎訳、ハヤカワSFシリーズ) 1964
  • 『最後の障壁』(Shield(1963)、井上一夫訳、ハヤカワSFシリーズ) 1964
  • 『時の歩廊』(The Corridor of Time(1965)、浅倉久志訳、ハヤカワSFシリーズ) 1967、のちハヤカワ文庫SF 1979
  • 『タウ・ゼロ』(Tau Zero(1970)、浅倉久志訳、創元SF文庫) 1992 - 1993年星雲賞受賞
  • 『大魔王作戦』(Operation Chaos(1971)、浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF) 1983
  • 『焦熱期』(Fire Time(1974)、関口幸男訳、ハヤカワ文庫SF) 1983
  • 『アーヴァタール』上・下(The Avatar(1978)、小隅黎訳、創元推理文庫) 1981
  • 『百万年の船』1 - 3(The Boat of a Million Years(1989)、岡部宏之訳、ハヤカワ文庫SF) 1993 - 1994

「惑星間協調機関」シリーズ

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  • 『銀河よ永遠なれ』(The Star Ways(1956)、三田村裕訳、ハヤカワ文庫SF)1973
  • 『処女惑星』(Virgin Planet(1959)、榎林哲訳、創元推理文庫) 1970

「タイム・パトロール」シリーズ

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  • 『タイム・パトロール』(Guardians of Time(1960)、深町眞理子, 稲葉明雄訳、ハヤカワSFシリーズ) 1966、のち早川書房 世界SF全集21 1971、のちハヤカワ文庫SF 1977
  • 『タイム・パトロール / 時間線の迷路』上・下(The Shield of Time(1990)、大西憲訳、ハヤカワ文庫SF) 1995

「ドミニク・フランドリイ」シリーズ

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  • 『地球帝国秘密諜報員』(Agent of the Terran Empire(1965)、浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF) 2006
「虎口を逃れて」「地球諜報員」「謎の略奪団」「好敵手」「名誉ある敵」「<天空洞>の狩人たち」

「ホーカ」シリーズ

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ゴードン・R・ディクスンとの共著)

  • 『地球人のお荷物』(Earthman's Burden(1957)、伊藤典夫, 稲葉明雄訳、ハヤカワ文庫SF) 1973 - 短編集
  • 『星の王子チャーリー』(Star Prince Charlie(1975)、鎌田三平訳、立風書房 海外SF&ファンタジー) 1981、のち改題『がんばれチャーリー』(宇佐川晶子訳、ハヤカワ文庫SF) 1988 - 長編
  • 『くたばれスネイクス!』(Hoka!(1983?)、伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SF) 1987 - 短編集

短編集

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  • 『地球人よ、警戒せよ!』(Strangers from Earth(1961)、榎林哲訳、創元推理文庫) 1971
「地球人よ、警戒せよ!」「野生の児」「ドン・キホーテと風車」「宇宙のジプシー」「さしあたり」「火星上の決闘」「運命の野獣」「分解する空」「宇宙の群盗」

ジュブナイル

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  • 『五百年後の世界』(Vault of the Ages(1952)、平田みつ子訳、石泉社/銀河書房、少年少女科学小説選集4) 1956 、のち改題『タイム・カプセルの秘密』(内田庶訳、岩崎書店、エスエフ少年文庫16) 1972、のち岩崎書店フォア文庫 1981、のち岩崎書店 SFロマン文庫16 1986、のち岩崎書店 SF名作コレクション16 2006

※以上の他に、日本語訳が未刊の作品が多少ある。

小説への登場

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フィリップ・K・ディックの「水蜘蛛計画」にはポール・アンダースンが主要キャラクターとして登場している。

脚注・出典

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  1. ^ Lee Gold. “Tracking Down The First Deliberate Use Of "Filk Song"”. 2012年12月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年6月27日閲覧。
  2. ^ Heinlein, Robert A (1986). The Cat Who Walks Through Walls. New England Library. ISBN 0-450-39315-1 
  3. ^ Jane Davitt; Tim Morgan. “Heinlein's Book Dedications”. site: Robert A. Heinlein. 2019年5月25日閲覧。
  4. ^ “Poul Anderson, Science Fiction Novelist, Dies at 74”. The New York Times. (2001年8月3日). https://www.nytimes.com/2001/08/03/books/poul-anderson-science-fiction-novelist-dies-at-74.html 2019年5月25日閲覧。 
  5. ^ Science Fiction & Fantasy Books by Award: 2001 Award Winners & Nominees”. Worlds Without End. 2009年3月28日閲覧。
  6. ^ Poul Anderson on Locus Award Nominees List”. Locus magazine. 2012年4月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月24日閲覧。
  7. ^ 『脳波』解説(水鏡子)

参考文献

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  • Miesel, Sandra (1978). Against Time's Arrow: The High Crusade of Poul Anderson. Borgo Press. ISBN 0-89370-124-6 
  • Tuck, Donald H. (1974). The Encyclopedia of Science Fiction and Fantasy. Chicago: Advent. pp. 8–10. ISBN 0-911682-20-1 

外部リンク

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