ポップアップ・グローブ
ポップアップ・グローブ (英語: Pop-up Globe) はニュージーランドのオークランドに本拠地を置いていた劇団及びこの劇団が使用していた劇場の名称である。「ポップアップ」(Pop-up)は「飛び出し式の」という意味であり、「グローブ」(Globe)は近世ロンドンにあったグローブ座を指していて、「飛び出しグローブ座」というような意味合いの劇団名である。グローブ座のレプリカとなる特設仮設劇場で、ウィリアム・シェイクスピアの芝居を中心にジャコビアン演劇を上演している。ポップアップ・グローブは1614年に再建され、1644年頃まで存在していた2番目のグローブ座がモデルであるが、グローブ座はシェイクスピアとその劇団が建てて使用していた劇場である。2016年からオークランドで活動を開始し、オーストラリアでも公演を行っている。
来歴
編集ポップアップ・グローブは2015年にマイルズ・グレゴリーを芸術監督として設立された[1]。トバイアス・グラントが常務理事としてプロジェクトに参加した[2]。グレゴリーはこれより以前にイギリスで18年間、演出家及びプロデューサーとして働いていた[3]。
2016年2月から5月にかけて、オークランドの市中心部にあるオークランドタウンホールの脇に初めてポップアップ・グローブの劇場が作られた[4][5]。この劇場は世界初の第2グローブ座の実物大再建であるとも言われている[4]。政府からの補助金は入っていなかった[6]。最初のシーズンはシェイクスピアの没後450周年記念イベントの一部として2016年2月18日に幕開けし、ポップアップ・グローブ・シアター・カンパニーにより『十二夜』、『ロミオとジュリエット』が上演され、さらに別のカンパニーのプロダクションとして『タイタス・アンドロニカス』、『テンペスト』、『空騒ぎ』、『ヘンリー五世』、『アントニーとクレオパトラ』、『ハムレット』も上演された[7]。 このシーズンだけで9万枚を超えるチケットを売り上げ、南半球最大のシェイクスピア祭となった[8]。
当初はシェイクスピア没後450周年記念のみのイベントであったが、翌年以降も継続されることになった[9]。第2シーズンは2017年2月23日から5月17日にかけて、同じくオークランドのエラズリー競馬場に新しい設計で建てられた劇場で行われた[10]。第2シーズンはクイーンズとキングズと名付けられた2つの常駐劇団が出演し、それぞれ『空騒ぎ』と『オセロー』、『お気に召すまま』と『ヘンリー五世』を上演した[11]。このシーズンでは10万枚以上のチケットが売れた[12]。
2017年9月21日から2018年2月3日まで、ライブ・ネイションのプロモーションによってポップアップ・グローブ初の国際シーズンが行われ、オーストラリアのメルボルンにあるシドニー・マイヤー・ミュージック・ボウルのそばにあるキングズ・ドメインの一部地域が一時的にシェイクスピア・ガーデンズと改名されてポップアップ・グローブが建てられた[13]。
2017年12月より、オークランドで第3シーズンが開幕し、『ジュリアス・シーザー』、『ヴェニスの商人』、『間違いの喜劇』、『マクベス』が上演された[14]。『ジュリアス・シーザー』はジェンダーを入れ替えたキャスティングであり、これは現実の政治状況を反映した演出だと評価された[15]。
2018年11月に始まるシーズンについて、ポップアップ・グローブは7月に「権力の濫用」をテーマに『リチャード三世』と『じゃじゃ馬ならし』を上演する予定を事前に発表したが、この際オールメールキャストで#MeTooを宣伝に使用したため、ポップアップ・グローブは性差別の観点から強い批判を浴びた[16][17]。『尺には尺を』と『ハムレット』は男女両方のキャストであった[17]。批判を受けてポップアップ・グローブはオールメールキャストの採用を中止することとした[18]。
2019年の11月から2020年3月までのシーズンでは『ロミオとジュリエット』と『空騒ぎ』が上演された[19]。シーズン末には新型コロナウイルス感染症の流行に対策するため、社会距離拡大戦略を用いた客入れが行われた[20]。
劇場
編集劇場の建築プランはシドニー大学のティム・フィッツパトリック教授が刊行した研究に基づくもので、1630年代に描かれたヴァーツラフ・ホーラーによる絵をもとにしている[21]。
ポップアップ・グローブは16面体で、外径27メートルであり、これはロンドンにあるグローブ座のレプリカ劇場であるシェイクスピアズ・グローブより3.7メートル小さいが、現在のロンドンのグローブについては大きすぎると判断する研究者や演劇人もいる[22][23]。ニュージーランドの建築会社で、足場の建築を得意とするキャメルスペースが建設した[24]。
2021年3月に、新型コロナウイルス感染症の影響により破産した[25]。
脚注
編集- ^ “Welcome” (英語). Pop-up Globe. 2020年4月23日閲覧。
- ^ Holly Ryan (2017年4月30日). “PwC Herald Talks: Pop-up Globe's Tobias Grant” (英語). NZ Herald. ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Guest Blog: Why I want to build a Pop-up Globe Theatre”. whatsonstage.com. 21 November 2016閲覧。
- ^ a b David Skipwith (2019年4月26日). “Winter Festival coming to Pop-Up Globe thanks to seasonal roof” (英語). NZ Herald. ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ “The Pop-up Globe story” (英語). Pop-up Globe. 2020年4月23日閲覧。
- ^ Dionne Christian (2019年8月28日). “Pop-up Globe farewells Auckland” (英語). NZ Herald. ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Shakespeare's death remembered at the Pop-up Globe theatre”. stuff.co.nz (2016年4月23日). 21 November 2016閲覧。
- ^ “The Pop-up Globe story” (英語). Pop-up Globe. 2020年4月23日閲覧。
- ^ Dionne Christian (2017年10月9日). “Could live theatre like Pop-up Globe be an export opportunity for NZ?” (英語). NZ Herald. ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Pop-up Globe to rise in the gardens at Ellerslie Racecourse”. stuff.co.nz (2016年10月25日). 21 November 2016閲覧。
- ^ “Pop-up Globe Theatre to rise again - at Ellerslie Racecourse”. nzherald.co.nz. 21 November 2016閲覧。
- ^ “Pop up Globe announces Australian dates” (英語). NZ Herald 2017年9月2日閲覧。
- ^ O'Brien, Kerrie (2017年7月4日). “Melbourne's Pop-Up Globe unleashes Shakespeare's plays as they were intended” (英語). The Age. 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Pop Up Globe returns for third season” (英語). Stuff (2017年9月27日). 2020年4月23日閲覧。
- ^ Tess Nichol (2018年1月12日). “Gender flipped Julius Caesar part of Pop Up Globe's 2018 run” (英語). NZ Herald. ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ Eleanor Ainge Roy (2018年7月20日). “Pop-up Globe apologises for marketing #MeToo season with all-male cast” (英語). the Guardian. 2020年4月23日閲覧。
- ^ a b “Pop-up Globe's all-male cast 'seems bizarre'” (英語). RNZ (2018年7月18日). 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Pop-up Globe reverses position on all-male casts” (英語). NZ Herald. (2018年7月27日). ISSN 1170-0777 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Pop-up Globe’s Farewell Auckland Season | Scoop News”. www.scoop.co.nz (2019年11月2日). 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Covid-19 is pushing New Zealand's performing artists to the brink”. The Spinoff (2020年3月18日). 2020年4月23日閲覧。
- ^ “Reconstructing Shakespeare's second Globe using 'Computer Aided Design' (CAD) tools”. Early Modern Literary Studies. Sheffield Hallam University. 21 November 2016閲覧。
- ^ “The 1599 Globe and its modern replica: Virtual Reality modelling of the archaeological and pictorial evidence”. Early Modern Literary Studies. Sheffield Hallam University. 21 November 2016閲覧。
- ^ Egan, Gabriel (2001). "Globe Theatre" in The Oxford Companion to Shakespeare (1st ed.). OUP. p. 166. ISBN 9780198708735 21 November 2016閲覧。
- ^ “Roof raised on Auckland's Pop-up Globe as construction nears completion”. Stuff. 2017年9月2日閲覧。
- ^ https://www.nzherald.co.nz/business/from-750000-ticket-sales-to-1m-liabilities-the-demise-of-aucklands-pop-up-globe/HZAACBEURMTQVSA4ZQKH3ZG5PI/