ピュー語
ピュー語(IPA: [pjù bàðà])とはシナ・チベット語族に属する消滅した言語で、1千年紀までのビルマ(ミャンマー)中央部で使用されていた。
ピュー語 | |
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話される国 | ピュー、パガン王朝 |
消滅時期 | 13世紀 |
言語系統 | |
言語コード | |
ISO 639-3 |
pyx |
Linguist List |
pyx |
Glottolog |
burm1262 [1] |
消滅危険度評価 | |
Extinct (Moseley 2010) |
ピュー語は、紀元前2世紀から9世紀にかけて繁栄していたピュー族の都市国家で公用語として使用されていた。また、ピューの宮廷ではサンスクリットとパーリ語もピュー語と共に使用されていた。中国の史料には、800年と802年に楽人を伴ったピューの使節が唐の宮廷を訪れ、舞踏とサンスクリットの歌曲を披露したことが記録されている[2]。雲南の南詔から進出したビルマ族がピューの都市国家を圧迫した9世紀後半から、ピュー語の使用頻度は減少していく。ビルマ族が建国したパガン王朝時代の碑文にもピュー語は使用されており、ビルマにおける公用語としての地位を喪失した後も12世紀末までは使用されていた。パガン王朝の元でビルマ語が主要な地位を占めるようになり、13世紀に入るとかつてのピューの支配領域だった上ビルマでもピュー語は消滅する[3]。
分類
編集ピュー語はシナ・チベット語族に属する古ビルマ語と関連があるが[4]、両者の類似性の程度については意見が分かれている。言語学者のジェイムズ・マティソフは暫定的にピュー語をロロ・ビルマ語群に分類し、David Bradleyはピュー語はサク語に極めて近い言語と推定している。一方で、ジョージ・ヴァン・ドリームはピュー語をシナ・チベット語族から分岐した「落葉」の一つと見なし[5]、ヌン語群と呼ばれる小語群との類似性を指摘されることもある[6]。
ピュー文字
編集ピュー語はブラーフミー系文字に属する文字で書き表されていた。南インドのカダンバ文字がピュー文字の原型だと推定されている[7]。研究者のAung-Thwin Michaelは、ピュー文字はビルマ語やモン語を書き表すモン文字の原型だと推測している[8]。
パガン王朝時代、1112年頃に奉納されたミャ・ゼーディー碑文にはビルマ語、モン語、パーリ語と共にピュー語も刻まれていた。ピュー語の話者は政治的・文化的影響力を失って久しいと思われるが、碑文が奉納された時点では文字の読み書きができる人間はまだ存在していた[9]。1911年にイギリスのオットー・ブラグデンはミャ・ゼーディー碑文に刻まれていた他の三つの文字と比較してピュー文字を解読し、プローム(ピェー、ピイ)近辺で話されていたチベット・ビルマ系の言語と結論付けた[10]。
脚注
編集- ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “ピュー語”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History
- ^ Aung-Thwin, 35–36頁
- ^ Htin Aung, 51–52頁
- ^ Language List, PYX
- ^ van Driem, George. “Trans-Himalayan Database”. 7 November 2012閲覧。
- ^ 大林太良『東南アジアの民族と歴史』(民族の世界史, 山川出版社, 1984年5月)、67頁
- ^ 綾部、石井『もっと知りたいミャンマー』、104頁
- ^ Aung-Thwin, 167–177頁
- ^ 綾部、石井『もっと知りたいミャンマー』、97-99頁
- ^ 大野徹『謎の仏教王国パガン』(NHKブックス, 日本放送出版協会, 2002年11月)、112頁
参考文献
編集- 綾部恒雄、石井米雄編『もっと知りたいミャンマー』(弘文堂, 1994年12月)
翻訳元参考文献
編集- Aung-Thwin, Michael (2005). The mists of Rāmañña: The Legend that was Lower Burma (illustrated ed.). Honolulu: University of Hawai'i Press. ISBN 978-0-8248-2886-8
- Harvey, G. E. (1925). History of Burma: From the Earliest Times to 10 March 1824. London: Frank Cass & Co. Ltd
- Htin Aung, Maung (1967). A History of Burma. New York and London: Cambridge University Press