デュタステリド
デュタステリド(Dutasteride)は、テストステロンからのジヒドロテストステロン(DHT)生成を阻害する5α-還元酵素阻害薬である[1]。前立腺肥大症の治療に使用されるが、日本と韓国では男性型脱毛症の治療にも使用される。日本での商品名はアボルブ(前立腺肥大症)、ザガーロ(男性型脱毛症)。イギリス・アメリカ・韓国ではAvodart、フィリピンではDUTAVOLVEなど。
IUPAC命名法による物質名 | |
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臨床データ | |
販売名 | Avodart |
Drugs.com | monograph |
MedlinePlus | a603001 |
胎児危険度分類 |
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法的規制 | |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 60% |
血漿タンパク結合 | 99% |
代謝 | Hepatic (CYP3A4-mediated) |
半減期 | 5 weeks |
排泄 | Fecal |
識別 | |
CAS番号 | 164656-23-9 |
ATCコード | G04CB02 (WHO) |
PubChem | CID: 6918296 |
IUPHAR/BPS | 7457 |
DrugBank | DB01126 |
ChemSpider | 5293502 |
UNII | O0J6XJN02I |
KEGG | D03820 |
ChEBI | CHEBI:521033 |
ChEMBL | CHEMBL1200969 |
別名 | GG-745, GI-198745 |
化学的データ | |
化学式 | C27H30F6N2O2 |
分子量 | 528.53 g/mol |
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効能・効果
編集前立腺肥大症
編集世界100か国以上で前立腺肥大の改善作用を承認されている[2][3]。日本国内で実施された前立腺容積30cc以上の前立腺肥大症患者に対して実施された二重盲検比較試験で、用量依存的な前立腺容積の減少が認められた。24週間の連日投与により0.5mg 前立腺容積は平均3/4に縮小し、プラセボに比して有意な差を示した。またI-PSS(国際前立腺症状スコア)と最大尿流率の改善も確認されている。
男性における男性型脱毛症
編集日本と韓国で、デュタステリドが男性における男性型脱毛症の治療薬として承認されている(世界中で男性型脱毛症の適応承認を受けているのは、この2か国のみである)。保険収載はされていないので(自費治療・自由診療)[4]。女性には承認されていない。容量は2種類で、0.1mgのものと0.5mgのものがある。抜け毛の防止効果はフィナステリドを上回ることが確認されており、フィナステリドでは不十分だった増毛効果もある。ただし毛根が失われた箇所については再生しない。増毛効果は、毛が長く太くなることと、単一毛根から複数の毛が生えることによる。円形脱毛症等には効果がない。また20歳未満での安全性および有効性は確立されていない。
禁忌
編集女性、小児・幼児・乳児・新生児、重度の肝機能障害のある患者、製剤成分に過敏症の既往歴のある患者 には禁忌である[2][4]。フィナステリドに過敏症を示した患者にも使用してはならない。
妊娠中にデュタステリドや他の5α-還元酵素阻害薬を服用すると、胎児に悪影響を与える。これらの薬剤は皮膚から吸収されるので、妊婦または妊娠の可能性のある女性は薬剤を取り扱わないことが望ましい。カプセルの内容物に触れてしまった場合は、直ちに石鹸および流水で洗い流す事。
デュタステリド服用中の患者は献血してはならない。血中半減期が長いため、投与中止後6ヶ月間は献血できない[5]。
副作用
編集重大な副作用として、肝機能障害(アボルブ:1.5%、ザガーロ:頻度不明)・黄疸(頻度不明)が記載されている。前立腺肥大症の日本国内臨床試験での副作用発現率は10.9%で、主な副作用は勃起不全[6](3.2%)、性欲減少[7]、リビドー減退(1.7%)、乳房障害(女性化乳房、乳頭痛、乳房痛、乳房不快感)(1.5%)であった[2]。男性型脱毛症の第II/III相国際臨床試験での副作用発現率は17.1%で、主な副作用は勃起不全(4.3%)、リビドー減退(3.9%)、精液量減少(1.3%)であった[4]。
性的影響
編集この系統の薬剤は勃起不全の副作用を持つ[6]。この副作用はQOL低下を来し、社会的ストレスの一因となる[6]。また性欲低下の原因ともなる[7]。薬剤服用中止後もこれらの副作用が継続し得るとの報告がある[7]。
前立腺癌
編集デュタステリドの前立腺癌発生リスクに関する上昇・低下・中立的影響は確立していない。良性前立腺腫瘍の肥大および有病率を低下させることを示唆するデータがあるが、米国FDAはデュタステリドについて高悪性度前立腺癌のリスクが上昇する旨を警告している[8]。
デュタステリドが前立腺癌を増やすのか減らすのかという影響とは別に、デュタステリドやフィナステリドなどの5α-還元酵素阻害薬は、血清PSAの値を低下させ、PSA高値と根拠とした前立腺癌の確定診断の検査を受ける機会を減少させることが懸念されている。デュタステリドを服用中に前立腺癌が発生した場合、PSAの値が低く抑制されていることで診断が遅れ、早期治療の機会を逃して後期ステージに進展する可能性がある[9]。
その他のリスク
編集2008年には、死亡リスクや他の重篤な事象の危険性を減少させるか否かについては充分なデータがないとされている[10]。2017年には、血糖値と血中脂質を増加させて糖尿病や高脂血症、非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD)のリスクを増加させることが報告されている[11]。
作用機序
編集デュタステリドは5α-還元酵素阻害薬に属する薬剤で、3-オキソ-5α-ステロイド-4-デヒドロゲナーゼを阻害してテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換される過程を遮断する。DHTはテストステロンよりも強力なアンドロゲンであり、前立腺に作用する主要なアンドロゲンである[12]:20。またDHTは頭髪の毛乳頭細胞に作用して毛周期の内の成長期を短縮させて硬毛を軟毛へと変え、最終的に脱落させる[13]:21。従ってDHTの生成を抑える事で、前立腺の肥大および頭髪の脱毛が抑制される。
デュタステリドとフィナステリドの比較
編集フィナステリドも前立腺肥大症(BPH)や男性型脱毛症(AGA)の治療薬として承認されている同種同効薬である。
デュタステリドは5α-還元酵素のSRD5A1、SRD5A2、SRD5A3を阻害する。一方のフィナステリドはSRD5A2およびSRD5A3を阻害する[1]。半減期はデュタステリドの方が長く、3.4±1.2週間である。(フィナステリドは4時間[14]。)
承認取得状況
編集2001年11月、米国でFDAが前立腺肥大症治療薬として承認[15]。
出典
編集- ^ a b Yamana K, Labrie F, Luu-The V (January 2010). “Human type 3 5α-reductase is expressed in peripheral tissues at higher levels than types 1 and 2 and its activity is potently inhibited by finasteride and dutasteride”. Hormone Molecular Biology and Clinical Investigation 2 (3). doi:10.1515/hmbci.2010.035.
- ^ a b c “アボルブカプセル0.5mg 添付文書” (2016年1月). 2016年7月4日閲覧。
- ^ Slater, S; Dumas, C; Bubley, G (March 2012). “Dutasteride for the treatment of prostate-related conditions.”. Expert opinion on drug safety 11 (2): 325–30. doi:10.1517/14740338.2012.658040. PMID 22316171.
- ^ a b c “ザガーロカプセル0.1mg/ザガーロカプセル0.5mg 添付文書” (2015年10月). 2016年6月27日閲覧。
- ^ “FDA prescribing information” (June 2011). 15 September 2013閲覧。
- ^ a b c Gur, S; Kadowitz, PJ; Hellstrom, WJ (January 2013). “Effects of 5-alpha reductase inhibitors on erectile function, sexual desire and ejaculation.”. Expert opinion on drug safety 12 (1): 81–90. doi:10.1517/14740338.2013.742885. PMID 23173718.
- ^ a b c Traish, AM; Hassani, J; Guay, AT; Zitzmann, M; Hansen, ML (March 2011). “Adverse side effects of 5α-reductase inhibitors therapy: persistent diminished libido and erectile dysfunction and depression in a subset of patients.”. The journal of sexual medicine 8 (3): 872–84. doi:10.1111/j.1743-6109.2010.02157.x. PMID 21176115.
- ^ 5-alpha reductase inhibitors (5-ARIs): Label Change - Increased Risk of Prostate Cancer | U.S. Department of Health & Human Services
- ^ Walsh, PC (Apr 1, 2010). “Chemoprevention of prostate cancer.”. The New England Journal of Medicine 362 (13): 1237–8. doi:10.1056/NEJMe1001045. PMID 20357287.
- ^ Wilt TJ, MacDonald R, Hagerty K, Schellhammer P, Kramer BS (2008). “Five-alpha-reductase Inhibitors for prostate cancer prevention”. Cochrane Database Syst Rev (2): CD007091. doi:10.1002/14651858.CD007091. PMID 18425978.
- ^ 『Popular prostate drug has negative impact on men's overall health, study suggests』 Boston University Medical Center 2017年6月24日閲覧
- ^ “アボルブカプセル0.5mg インタビューフォーム” (PDF). グラクソ・スミスクライン (2014年5月). 2015年10月3日閲覧。
- ^ “ザガーロカプセル0.1mg/ザガーロカプセル0.5mg インタビューフォーム” (PDF). グラクソ・スミスクライン (2015年9月). 2015年10月3日閲覧。
- ^ “プロペシア錠0.2mg/プロペシア錠1mg 添付文書” (2016年7月). 2016年7月31日閲覧。
- ^ “Drug Information » FDA Approved Drugs » 2001 » Dutasteride”. Center Watch. 2015年10月3日閲覧。
- ^ “前立腺肥大症治療薬「アボルブ」、承認取得”. グラクソ・スミスクライン (2009年7月7日). 2015年10月3日閲覧。
- ^ “5α還元酵素1型/2型阻害薬「ザガーロカプセル0.1mg」「ザガーロカプセル0.5mg」、「男性における男性型脱毛症」の効能・効果で承認取得”. グラクソ・スミスクライン (2015年9月28日). 2015年10月3日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- Avodart full prescribing information
- Frye, S. (2006). “Discovery and Clinical Development of Dutasteride, a Potent Dual 5α- Reductase Inhibitor”. Current Topics in Medicinal Chemistry 6 (5): 405–21. doi:10.2174/156802606776743101. PMID 16719800.