ツインスクロールターボ

ツインスクロールターボ (英語: twin scroll turbo) とは排気通路に特徴のあるターボチャージャー過給機)で、エキゾーストマニホールドからタービンハウジングへの流路が2つに分割されたものを指す。

ツインスクロールターボのカットモデル。排気が導入されるタービンハウジング(赤い部分)の内部が二つに分かれている。

概要

編集

通常ターボチャージャーを低回転域より作動させるためには、タービンハウジングのA/R[1]を小さくする。その場合、排気ガスの流路の断面積が狭くなる傾向にあるため、高回転域で排気ガスが流れにくくなり、エンジン出力の頭打ちが早くなる。

それに対しツインスクロールターボは、タービンホイールへの排気ガスを導く流路(エキゾーストマニホールドからタービンハウジング)を2つに分けることにより他気筒からの排気エネルギーの干渉を低減させ、A/Rを小さくすること無く、低回転域でのタービン回転の立ち上がりを早めたもので、低回転域でのレスポンスとパワーを向上させるものである[2]

シーケンシャルツインターボの様に、低回転域と高回転域等で使うタービンを変えるものでもなく、また可変ノズルターボの様に、機械的にタービンブレードに当たる排気を制御するような機構は備えないため、低回転域以外の特性は一般的なターボと変わらない。

元来、マツダ2代目サバンナRX-7(前期型)に搭載された、分割された2つのスクロール入り口の片方に開閉バルブを設け[3]、タービンブレードに当たる排気ガスの流速と角度を変化させることによって、可変ノズルターボの様な特性を持たせたものをツインスクロールターボと呼んでいたが、近年では、スバル・インプレッサスバル・レガシィ三菱・ランサーエボリューション等に採用されている、切替えバルブを持たない前述のタイプ(自動車技術会ではツインエントリーターボチャージャー[4]、マツダではツイン・インディペンデントスクロールターボ[5]と呼ぶ)をツインスクロールターボと呼ぶことが多い[4]

ツインエントリーターボチャージャーとツインスクロールターボはターボチャージャー単体での構造は非常によく似ている。しかし、前者は排気干渉を低減することを目的とするためターボまでの排気管は2本で接続され、後者は可変ジオメトリーの一種で排気管はターボ入り口までに1本に集合され、セカンダリースクロール入り口にバルブが設置された上で接続されるという違いがある。

利点

編集
  • シーケンシャルツインターボ同様に、低回転域から過給を始めつつ、中回転域以上では高い最大過給圧を得ることができる。このため、一般的なシングルターボを用いるよりは、低回転域のトルクと高回転域のパワーを両立させやすい。
  • スロットル開度が小さい場合(部分負荷状態)においてもターボが効率的に作動するため、スロットルを踏んでからパワーが出るまでの微妙な時間差(ターボラグ)を軽減でき、レスポンスが良くなる。
  • 同様の効果が得られるシーケンシャルツインターボに対し、ツインスクロールターボではタービンを1基だけ搭載するため、タービン本体やウェイストゲートバルブ等の補器類がとるスペースを小さくできる。

欠点

編集
  • レイアウトによっては前述の利点に相反するが、タービンまで流路を2本取り回さなければならないため、スペース的に不利となる場合がある。
  • 切替えバルブ付の場合、1つのターボで段階的に過給圧を変化させる機構のため、複雑な電子制御を必要とすることからコストが高くなる。
  • ウェイストゲートバルブも2つの流路に対応させなければならないため、コストが高くなる。

現状

編集

シーケンシャルツインターボは低回転での過給よりは、高回転域での最大過給圧を重視する傾向があるため、スポーツカーに搭載されることが多い。その影響もあり、ツインスクロールターボは低回転域のトルクを重視するGTカーに搭載されることが多く、一種の棲み分けができている。

本来の目的である「過給によって熱効率を高め、同じ馬力とトルクを得るうえで、自然吸気エンジンに比べて低燃費化を図る」という点では、ツインスクロールターボは優れているとされる。2 Lの自然吸気から1.6 L直噴ツインスクロールターボに切り替えたプジョーは、CO2排出量の低減と車体の大型化・高級化を両立させている好例と言える。

搭載車種

編集
トヨタ
マツダ
三菱
富士重工スバル
ダイハツ
BMW
プジョー
ルノー
メルセデス・ベンツ
三菱ふそうトラック・バス
フォード

脚注

編集
  1. ^ ターボチャージャーの仕組み”. グーネット. 2023年7月9日閲覧。 “タービンハウジングへの排気通路の断面積をA、排気通路の中心からタービンの中心までの距離をRとして、AをRで割った値をエイバイアール(A/R)という。”
  2. ^ S15型シルビアの純正のターボは、約2,000 rpmより作動し始め、約3,000 rpmで最大過給圧の約0.7 kg/cm2に達する。 BL5/BP5型レガシィでは、約1,500 rpmより作動し始め、1,500 - 2,000 rpmで0.4 kg/cm2程度、約2,000 rpmを超えると最大過給圧の約0.8 kg/cm2に達する。
  3. ^ タービン軸に対し、直角方向にスクロールを分割。ターボ出口側をプライマリースクロール、コンプレッサ-側をセカンダリースクロールとし、セカンダリー側にバルブを設けている。
  4. ^ a b 『自動車技術ハンドブック<設計(パワートレイン)編>』社団法人 自動車技術会、103頁。 
  5. ^ GP企画センター 編『マツダ・ロータリーエンジンの歴史』グランプリ出版、2003年、123-126頁。ISBN 4-87687-242-2 
  6. ^ a b トヨタ自動車75年史「技術開発・エンジン”. 2014年7月29日閲覧。
  7. ^ ポスト新長期排出ガス規制適合車第一弾 最高の燃費性能とトップクラスの環境対応力を兼ね備えた大型トラック「新型スーパーグレート」を新発売~次世代を担う新開発大型エンジン「6R10」とBlueTecシステムを搭載~』(プレスリリース)三菱ふそうトラック・バス、2010年4月22日http://www.mitsubishi-fuso.com/oa/jp/news/news_content/100422/100422.html2018年5月21日閲覧 

関連項目

編集