タメルラン・チェス

中世のチェスの一種

タメルラン・チェス: Tamerlane chess、タマレイン・チェス)またはティムール・チェスは、中世の変則チェスの1種である。現代チェスと同様に、チャトランガに由来する。皇帝ティムールの治世にイラン[2]で発展した(ティムールのチェス)。ティムール(1336年 - 1405年)は西方ではタメルランとも呼ばれ、この遊戯の考案者とされている[3]シャトランジ・カミールShatranj Kamil: شطرنج كَمِيل‎、完全なシャトランジ)あるいはシャトランジ・アルカビールShatranj Al-Kabir: شطرنج الكبير‎、至大なるシャトランジ)とも呼ばれる。現代チェスと似ているものの[4]ポーンに相当する駒が複数種類存在するのが特徴であり、これらは独自のやり方でプロモーション(成り)する[5]

初期配置。飛び出している升目が「城塞」。
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10a10 black upside-down bishopb10c10 black upside-down knightd10e10 black upside-down rookf10g10 black upside-down rookh10i10 black upside-down knightj10k10 black upside-down bishop10
9a9 black rookb9 black knightc9 black bishopd9 black giraffee9 black queenf9 black kingg9 black upside-down queenh9 black giraffei9 black bishopj9 black knightk9 black rook9
8a8 black pawnb8 black pawnc8 black pawnd8 black pawne8 black pawnf8 black pawng8 black pawnh8 black pawni8 black pawnj8 black pawnk8 black pawn8
7a7b7c7d7e7f7g7h7i7j7k77
6a6b6c6d6e6f6g6h6i6j6k66
5a5b5c5d5e5f5g5h5i5j5k55
4a4b4c4d4e4f4g4h4i4j4k44
3a3 white pawnb3 white pawnc3 white pawnd3 white pawne3 white pawnf3 white pawng3 white pawnh3 white pawni3 white pawnj3 white pawnk3 white pawn3
2a2 white rookb2 white knightc2 white bishopd2 white giraffee2 white upside-down queenf2 white kingg2 white queenh2 white giraffei2 white bishopj2 white knightk2 white rook2
1a1 white upside-down bishopb1c1 white upside-down knightd1e1 white upside-down rookf1g1 white upside-down rookh1i1 white upside-down knightj1k1 white upside-down bishop1
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「男性型」配置のタメルラン・チェス盤。
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10a10 black upside-down bishopb10c10 black upside-down knightd10e10 black queenf10 black kingg10 black upside-down queenh10i10 black upside-down knightj10k10 black upside-down bishop10
9a9 black rookb9 black knightc9 black bishopd9 black giraffee9 black upside-down rookf9 black pawng9 black upside-down rookh9 black giraffei9 black bishopj9 black knightk9 black rook9
8a8 black pawnb8 black pawnc8 black pawnd8 black pawne8 black pawnf8g8 black pawnh8 black pawni8 black pawnj8 black pawnk8 black pawn8
7a7b7c7d7e7f7g7h7i7j7k77
6a6b6c6d6e6f6g6h6i6j6k66
5a5b5c5d5e5f5g5h5i5j5k55
4a4b4c4d4e4f4g4h4i4j4k44
3a3 white pawnb3 white pawnc3 white pawnd3 white pawne3 white pawnf3g3 white pawnh3 white pawni3 white pawnj3 white pawnk3 white pawn3
2a2 white rookb2 white knightc2 white bishopd2 white giraffee2 white upside-down rookf2 white pawng2 white upside-down rookh2 white giraffei2 white bishopj2 white knightk2 white rook2
1a1 white upside-down bishopb1c1 white upside-down knightd1e1 white upside-down queenf1 white kingg1 white queenh1i1 white upside-down knightj1k1 white upside-down bishop1
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「女性型」配置のタメルラン・チェス盤。
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10a10 black upside-down bishopb10c10 black upside-down knightd10e10 black queenf10 black kingg10 black upside-down queenh10i10 black upside-down knightj10k10 black upside-down bishop10
9a9 black rookb9 black knightc9 black upside-down rookd9 black bishope9 black giraffef9 black pawng9 black giraffeh9 black bishopi9 black upside-down rookj9 black knightk9 black rook9
8a8 black pawnb8 black pawnc8 black pawnd8 black pawne8 black pawnf8g8 black pawnh8 black pawni8 black pawnj8 black pawnk8 black pawn8
7a7b7c7d7e7f7g7h7i7j7k77
6a6b6c6d6e6f6g6h6i6j6k66
5a5b5c5d5e5f5g5h5i5j5k55
4a4b4c4d4e4f4g4h4i4j4k44
3a3 white pawnb3 white pawnc3 white pawnd3 white pawne3 white pawnf3g3 white pawnh3 white pawni3 white pawnj3 white pawnk3 white pawn3
2a2 white rookb2 white knightc2 white upside-down rookd2 white bishope2 white giraffef2 white pawng2 white giraffeh2 white bishopi2 white upside-down rookj2 white knightk2 white rook2
1a1 white upside-down bishopb1c1 white upside-down knightd1e1 white upside-down queenf1 white kingg1 white queenh1i1 white upside-down knightj1k1 white upside-down bishop1
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第3の配置のタメルラン・チェス[1]
本遊戯の考案者、跛者のティムール

タメルラン・チェス盤は10×11、110マスから成り、市松模様には塗り分けられていない。「城塞」と呼ばれる追加のマスが、9列目の左と2列目の右に飛び出しているため、合わせると112マスとなる[3][6]。相手の王(シャー)がプレーヤーの城塞を占拠すると、ゲームは引き分け英語版と宣言される。王以外の駒は城塞を占めることはできない。

初期配置にはいくつかのやり方が存在する、一般的な配置は以下の通りである。

  • 白、1段目(左から): ピール(象)、〈空白〉、ジャマル(駱駝)、〈空白〉、ダッバーダ(攻城兵器)、〈空白〉、ダッバーダ、〈空白〉、ジャマル、〈空白〉、ピール。
  • 2段目(左から): ルフ(戦車)、ファラス(馬)、タリア(哨兵)、ズラーファ(キリン)、フィルズ(将)、シャー(王)、ワズィール(宰相)、ズラーファ、タリア、ファラス、ルフ。
  • 3段目(左から): バイダクのバイダク(兵)、ダッバーダのバイダク、ジャマルのバイダク、ピールのバイダク、フィルズのバイダク、シャーのバイダク、ワズィールのバイダク、ズラーファのバイダク、タリアのバイダク、ファラスのバイダク、ルフのバイダク。
 
タメルラン・チェスセット。駒は14世紀ペルシアにおけるタメルラン・チェス駒の外観に近い。
  •    シャーshah、王)– 伝統的なキングと同様に動くが、試合中に1度だけ、チェック/チェックメイトあるいはステイルメイトを避けるための味方の駒のいずれかと位置を交換することができる。
  •    フィルズferz、将) – 斜めに一歩動く。
  •    ワズィールwazīr、宰相) – 横あるいは縦に一歩動く。
  •    ズラーファzurafa、キリン)– 斜めに一歩動いた後、横あるいは縦に最低3歩動く。
  •    タリアtali'a、哨兵)[7] – チェスのビショップのように動くが、最低2歩移動しなければならない。
  •    ファラスfaras、馬)– ナイトと同じ動き(八方桂)。
  •    ルフrukh戦車)– ルークと同じ動き。
  •    ピールpil、象)– 斜めに2マス移動する。間にある駒は飛び越えられる。
  •    ジャマルjamal/shutur、駱駝)– 1歩斜めと2歩前に進む。間にある駒は飛び越えられる。
  •    ダッバーダdabbaba、攻城兵器)– 横あるいは縦に2歩動く。間にある駒は飛び越えられる。
  •    バイダクbaydaq、兵)– 前に進む。チェスとは異なり、最初に2歩前進することはできない。またアンパッサンもできない。(バイダクも含め)全ての駒は対応するバイダクを有する。
 
左から右: ファラス(馬)、ズラーファ(キリン)、ピール(象)、タリア(哨兵)。

規則

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試合の開始

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先手はサイコロを振ることで決定される。

目的

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タメルラン・チェスの目的は、現代チェスと同様に、相手のシャー(王)をチェックメイトすることである。現代チェスとは異なり、相手をステイルメイトすると引き分けではなく勝ちとなる。

プロモーション(成り)

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盤の最終ランクに到達すると、バイダク(兵)は対応する駒にプロモーションする。したがって、ズラーファのバイダクはズラーファに成る。この例外はシャー(王)のバイダクとバイダクのバイダクである。シャーのバイダクはシャーザーダ英語版Shâhzâda、太子、王子)となる。シャーザーダはシャーと同じように動く。もしシャーザーダとシャー(王)が盤上に同時に存在するならば、勝つためにはまず一方を取ってから、もう一方をチェックメイトあるいはステイルメイトしなければならない(各プレーヤー毎に複数の王の存在が許されるという着想は、日本でもこれより1世紀ほど前に大将棋において偶然に考案された。太子 (将棋)の項も参照されたい)。

バイダクのバイダクのプロモーションのルールは複雑である。

  1. バイダクのバイダクが最終ランクに到達すると、そこで動かなくなり、相手からも取られなくなる。相手の駒の(斜め)前にバイダクを配置したら相手が逃げられない状況、あるいはバイダクを置くと両取り(フォーク)がかかる状況が発生した場合はいつでも、最終ランクのバイダクを持ち上げて、その位置に置くことができる。もしこのマスが味方あるいは相手の駒がいたとしても、移動することができ、元いた駒は盤から取り除かれる。
  2. 2回目のプロモーションでは、シャーのバイダクの初期位置に戻る。
  3. 3回目のプロモーションでは、シャー・マスヌーア(Shâh masnû‘a、僣王)に成る。この駒はシャーの動きを持つが、城塞に関して1つの特別な例外がある(次節を見よ)。シャー・マスヌーア(僭王)ならびにシャーザーダ(太子)とシャー(王)の両方またはどちらか一方が盤上に同時に存在する場合、勝つためには残りが1つになるまで普通の駒と同様に取ってから、最後の1つをチェックメイトあるいはステイルメイトしなければならない[8]

城塞

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9段目の左と2段目の右に飛び出している2つの追加のマスは城塞(husun、単数形hisn)と呼ばれる。もし、試合中のいかなる時でもプレーヤーはシャーを相手の城塞に移動させることができる、引き分けを宣言できる。これは、タメルラン・チェスにおいてステイルメイトは負けとなるため、勝ち目のないプレーヤーにとって得になる。別の方法として、プレーヤーが太子あるいは僭王を盤上に持っている場合、シャーが相手の城塞に入ると、シャーを太子あるいは僭王のいずれかと位置を交換でき、試合を続く。太子あるいは僭王はその後に城塞を出ることができるが、交換の特権は一度しか使用することができない。

シャーは太子よりも位が高く、太子は僭王よりも位が高い。盤上で3種類中最も位が高い駒だけが相手の城塞に入ることができる。

僭王は全ての駒の中で唯一自陣の城塞に入ることができる。入ると、攻撃を受けることがなくなり、これによって相手が城塞に入って引き分けを宣言するのを阻止できる[9]

その他

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試合中一度だけ、プレーヤーはチェックされたシャーを他の駒と交換することができる。キャスリングアンパッサンは存在しない。相手のシャーを裸にする英語版ことはタメルラン・チェスでは勝ちと見なされない。これは裸のシャーはまだ相手の城塞に入るチャンスを有しているためである。スリーフォールド・レピティション英語版50手ルールは存在しない。

タメルラン・チェス・クラブ

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アメリカ合衆国ニューヨーク州ジェームズタウンにはタメルラン・チェス・クラブ(Tamerlane Chess Club)という名前のパブリック・チェスクラブは、タメルラン・チェスやその他の古代チェスに打ち込んでいる[10][11]

出典

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  1. ^ Muhammad ibn Arabshah. “Aja'ib al-Maqdur fi Nawa'ib al-Taymur”. 17 July 2020閲覧。
  2. ^ Tamerlane chess”. www.chessvariants.com. 2019年10月1日閲覧。
  3. ^ a b Cazaux, Jean-Louis and Knowlton, Rick (2017). A World of Chess, p.31. McFarland. ISBN 9780786494279. "Often known as Tamerlane chess, [its invention] is traditionally attributed to the conqueror himself."
  4. ^ Gollon, John (November 21, 1968). “Chess variations, ancient, regional, and modern”. C. E. Tuttle Co.. 2019年10月1日閲覧。
  5. ^ Marinelli, Filippo (November 21, 1826). “Triple Chess”. Valpy. 2019年11月21日閲覧。
  6. ^ Falkener, Edward (1892). Games Ancient and Oriental, p.. Longmans, Green and Company. Template:Pre-ISBN.
  7. ^ Cazaux and Knowlton (2017), p.360, n.21. "Tali'a means scout, vanguard, outpost, picket, advanced post, spy, a group of soldiers or troops placed on a line forward of a position to warn against an enemy advance."
  8. ^ John Gollon, Chess Variants, Ancient, Regional and Modern, pp. 76–77
  9. ^ H.J.R. Murray, A History of Chess, 1913
  10. ^ Tamerlane Chess Club”. www.facebook.com. 2019年11月21日閲覧。
  11. ^ US Chess MSA - Affiliate Details   (General)”. www.uschess.org. 2018年8月28日閲覧。

推薦文献

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外部リンク

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