ザゼンソウ
ザゼンソウ(座禅草、坐禅草、地湧金蓮[3]、学名: Symplocarpus renifolius)は、サトイモ科ザゼンソウ属の多年草。
ザゼンソウ | |||||||||||||||||||||
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ザゼンソウの花
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Symplocarpus renifolius Schott ex Tzvelev[1][2] | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ザゼンソウ[2] | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Eastern Skunk Cabbage |
特徴
編集仏像の光背に似た形の花弁の重なりが僧侶が座禅を組む姿に見えることが、名称の由来とされる。また、花を達磨大師の座禅する姿に見立てて、ダルマソウ(達磨草)とも呼ぶ。
冷帯、および温帯山岳地の湿地に生育し、開花時期は1月下旬から3月中旬。開花する際に肉穂花序(にくすいかじょ)で発熱が起こり約25℃まで上昇する。そのため周囲の氷雪を溶かし、いち早く顔を出すことで、この時期には数の少ない昆虫を独占し、受粉の確率を上げている。開花後に大型の葉を成長させる。
ザゼンソウの発熱細胞には豊富にミトコンドリアが含まれていることが明らかになっている[4]。しかしながら、発熱の詳細な分子メカニズムは、現在のところ分かっていない。動物における発熱には、「脱共役タンパク質」(だつきょうやくたんぱくしつ)が関わっていることが突き止められているが、このタンパク質は、発熱しない植物にも幅広く存在しており[5]、ザゼンソウの発熱に関与しているかは不明である。
発熱時の悪臭と熱によって花粉を媒介する昆虫(訪花昆虫)であるハエ類をおびき寄せると考えられている。全草に悪臭があることから英語では Skunk Cabbage(スカンクキャベツ)の呼び名がある。
繁殖様式
編集一つの肉穂花序には約100個の小花(両性花)がある。個々の小花は雌性先熟の開花システムを持ち、雌性期(雌蕊のみが成熟して露出した期間)と短い両性期(雌蕊と雄蕊が同時に露出する期間)を経て、雄性期(雄蕊のみが露出した期間)の順で性表現を変える。花序での発熱は雌性期と両性期で顕著であり、雄性期に至ると急速に発熱は低下する。この植物は自家不和合であり、昆虫などによる送粉(花粉の運搬)を必要とする。しかしながら気温の低い時期に開花するため、訪花昆虫の活動は低調であり、そのため種子の結実率は低い。
多くの種子は野ネズミによって食害されるが、一部は野ネズミの貯食行為によって運ばれる。種子はそれによって散布され、被食を逃れて発芽することが出来る。
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ザゼンソウ群生
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ザゼンソウ群生
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ザゼンソウの葉
分布
編集北アメリカ東部(カナダのノバスコシア州とケベック州南部からアメリカ合衆国ミネソタ州にかけて、南限はノースカロライナ州とテネシー州)および北東アジア(北東シベリア、中国北東部および日本)。滋賀県高島市(旧・高島郡今津町)が日本の南限である[6]。
主な群生地
編集田中澄江が『花の百名山』で伊那山地の守屋山を代表する花の一つとして紹介し[7]、『新・花の百名山』で北信五岳を代表する花の一つとして紹介した[8]。守屋山の北側の長野県諏訪市の有賀峠付近には「ザゼンソウの里公園」がある[9]。兵庫県美方郡香美町では開花時期に合わせて、「ザゼンソウ祭り」が開催されている[10]。
人間との関わり
編集19世紀米国の薬局方では、ドラコンティウム(dracontium)の名で呼吸器系疾患、神経症、リューマチ、浮腫の治療に用いられた。北アメリカとヨーロッパでは、しばしば観賞用植物としてウォーターガーデンに植えられている[11]。北米先住民はザゼンソウをよく薬草、調味料、魔術的なお守りとして用いた[12]。
発熱制御アルゴリズム
編集上述の通りザゼンソウは開花時期に発熱を行なう。この発熱の研究を通して、ザゼンソウの発熱を制御するアルゴリズムが広く使われているPID制御と比較して優れている点が見出され、実用化された[13]。バイオミメティクス(但しja.wikipedia内ではバイオニクス)の例として紹介されることもある[14]。
フィクション中での扱い
編集「エルマーのぼうけん」シリーズでは「スカンクキャベツ」名義で登場し、「ダチョウシダ」と並び竜(少なくともメインキャラクターのボリス)の好物として挙げられ、挿絵にも数か所出てくる[15]。
種の保全状況評価
編集日本の以下の都道府県で、以下のレッドリストの指定を受けている[16]。2007年8月現在、環境省のレッドリストの指定はない[17]。上信越高原国立公園・八ヶ岳中信高原国定公園などで自然公園指定植物となっている[18]。
ザゼンソウ属
編集ザゼンソウ属(Symplocarpus)には、以下の種がある。日本で見られるものはザゼンソウ、ヒメザゼンソウとナベクラザゼンソウの3種である。ヒメザゼンソウは花の大きさが数cmでザゼンソウよりもかなり小さく、夏頃に開花する。ナベクラザゼンソウは長野県飯山市の鍋倉山で発見され、2001年に新種としてと登録された種で、2011年6月にザゼンソウと同じ発熱植物であることが確認された[20][21]。
そのほか亜種として、ザゼンソウの斑入りである「フイリザゼンソウ」とザゼンソウの苞が緑色や黄緑がかった白色をしている「アオザゼンソウ」、ヒメザゼンソウに斑が入った「フイリヒメザゼンソウ」とヒメザゼンソウの苞が緑色をした「ミドリヒメザゼンソウ」がある。
- ザゼンソウ(S. renifolius Schott ex Tzvelev)
- アメリカザゼンソウ(S. foetidus (L.) Salisb. ex W.P.C.Barton) - 北米の湿地帯でよく見られる植物で、花と葉に強烈な臭気があり英名 Skank cabbege (スカンク・キャベジ)とよばれる[22]。
- フイリザゼンソウ(S. foetidus Salisb. ex W.P.C.Barton var. latissimus H.Hara f. variegatus Otsuka) - ザゼンソウの葉に斑が入ったもの[23]。
- アオザゼンソウ- ザゼンソウの苞が緑色や黄緑がかった白色をしたもの。
- ナベクラザゼンソウ(S. nabekuraensis Otsuka et K.Inoue)[20] - 長野県の危急種[24][25]。
- ヒメザゼンソウ(S. nipponicus Makino) - 本州の多数の都道府県でレッドリストの指定を受けている[26]。
- フイリヒメザゼンソウ(S. nipponicus Makino f. variegata T. Koyama) - ヒメザゼンソウに斑が入ったもの。
- ミドリヒメザゼンソウ(S. nipponicus Makino f. viridispathus J.Ohara ) - ヒメザゼンソウの苞が緑色をしたもの。
- ロシアザゼンソウ(仮称)(S. egorovii N.S.Pavlova & V.A.Nechaev)[23] - 2005年にロシアで発見された新種。
脚注
編集- ^ “Symplocarpus foetidus (L.) Salisb. ex Nutt.” (英語). ITIS. 2011年12月28日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Symplocarpus renifolius Schott ex Tzvelev”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年9月20日閲覧。
- ^ 三省堂百科辞書編輯部 編「ざぜんそう(坐禅草・地湧金蓮)」『新修百科辞典』三省堂、1934年、885頁。
- ^ ミトコンドリア、植物発熱の鍵(岩手日報、2009年9月5日)
- ^ [1] PLANT UNCOUPLING MITOCHONDRIAL PROTEINS(Annual Review of Plant Biology)
- ^ 北村治滋・森真理・西堀康士・大谷博 (2008年). “ザゼンソウ苗の大量増殖法に関する研究” (PDF). 滋賀県. 2011年12月28日閲覧。
- ^ 花の百名山 (1995)、251-254頁
- ^ 新・花の百名山 (1997)、249-252頁
- ^ “ザゼンソウの里公園開花情報”. 諏訪市. 2022年12月27日閲覧。
- ^ “「ザゼンソウ祭り」が行われました”. 香美町. 2011年12月28日閲覧。
- ^ 北アメリカの植物(英文)
- ^ モーアマン博士の植物民俗学データベース(英文)
- ^ ザゼンソウ温度制御アルゴリズム
- ^ 田崎他 生物模倣技術と新材料・新製品開発への応用 技術情報協会
- ^ 言及は第2巻『エルマーとりゅう(Elmer and the Dragon)』から、この巻の裏表紙ではボリスが前足で赤紫もしくは茶色のスカンクキャベツを抱えている姿が描かれている。
- ^ “日本のレッドデータ検索システム(ザゼンソウ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年12月28日閲覧。
- ^ “植物絶滅危惧種情報検索”. 生物多様性情報システム (2007年8月3日). 2011年12月28日閲覧。
- ^ “国立・国定公園特別地域内指定植物(サトイモ科・ミズバショウ)” (PDF). 環境省自然環境局. p. 10. 2011年12月28日閲覧。
- ^ 米国農務省植物プロフィール(英文)
- ^ a b 大塚孝一 (2011年6月3日). “長野県北部鍋倉山におけるナベクラザゼンソウの生育環境” (PDF). 長野県. 2011年12月28日閲覧。
- ^ “絶滅危惧種ナベクラザゼンソウが発熱植物であることがわかりました” (PDF). 長野県 (2011年6月3日). 2011年12月28日閲覧。
- ^ メグ・マッケンハウプト 著、角敦子 訳『キャベツと白菜の歴史』原書房〈「食」の図書館〉、2019年4月23日、35–36頁。ISBN 978-4-562-05651-4。
- ^ “フイリザゼンソウのタイプ標本”. 長野県 (2002年5月1日). 2011年12月28日閲覧。
- ^ “日本のレッドデータ検索システム(ナベクラザゼンソウ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年12月28日閲覧。
- ^ “ナベクラザゼンソウのタイプ標本”. 長野県 (2001年6月19日). 2011年12月28日閲覧。
- ^ “日本のレッドデータ検索システム(ヒメザゼンソウ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年12月28日閲覧。
参考文献
編集- 田中澄江『新・花の百名山』文藝春秋、1995年6月10日。ISBN 4167313049。
- 田中澄江『花の百名山』文藝春秋〈愛蔵版〉、1997年5月。ISBN 4163527907。
関連項目
編集外部リンク
編集- ヒメザゼンソウ - 厚生労働省