ケチャップマニス

インドネシアのソイソース

ケチャップマニスインドネシア語: kecap manis)は、インドネシア調味料大豆を原料として発酵させたソイソースであり、黒光りして粘性が高い[1][2]

ケチャップマニス(左)とケチャップアシン
ケチャップマニス

ケチャップインドネシア語ソース全般を指し、マニスは「甘い」という意味を持ち、添加するパームシュガー由来の特有の甘みがある[2]。塩味はそれほど強くなく、「みたらし団子のタレのような味のバランス」とも形容される[2]

塩分の高い辛口のケチャップアシン(kecap asin)や中間的なケチャップセダンもあり、こちらはマレー人よりも華人の間で使用されることが多い[3]。近隣のマレーシアkicapタイのsee eewと類似している[3]が、風味は明確に異なるとされる[2]

特徴

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同じソイソースである日本醤油と比較すると、呈味物質であるグルタミン酸の濃度は1/10以下であり、自然発酵のためアミノ酸の組成も大きく異なる[4]。加糖や濃縮のプロセスのため比重は1.2 - 1.4g/cm3とやや高く、pHはやや低い[4]

パームシュガーを多量に添加しているため、

という特徴がある[5]

含まれる有機酸としては乳酸が最も多く、パームシュガー由来のコハク酸ピログルタミン酸なども含まれる[6]。また、発酵を進める菌株は醤油のようなAspergillus oryzaeではなく、Aspergillus flavus系のものとされる[5]

原料・製法

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原料の比率は、一例として下記の通りである[7]

ここから、最終的に220Lのケチャップマニスが得られる[7]小麦などの穀類を加えないのが特徴で、製麹までの原料の選び方は豆豉豆味噌に近い[3]

大豆は水洗の後、常圧下で2回煮沸して水切りをし、場合によってはここで脱皮も行う[7]。さらに平らなザルなどに広げて半乾燥状態にし、粘調性の高い麹の発生などを防ぐ[7]。麹菌の種付けはせずに自然に発酵させるほか、テンペないしその発酵スターターであるラルを加えるケースもある[3]。2 - 14日ほどかけて外観を観察しながら常温で製麹を進め、豆麹を得る[7]

これに食塩の全量と水(上記の分量の例では90L)を加え、コンクリート製の水槽や陶器製の壺などに入れてもろみを熟成させる[7]。この時点で水分に対する食塩濃度は20%程度であり、屋外で1 - 3か月天然醸造を進めていく[7]。なお、ここまでのプロセスはタウチョ英語版やケチャップアシンとほぼ共通である[7]

熟成が完了したら井戸水または塩水を加えて煮沸・抽出ろ過を5 - 7回繰り返し、パームシュガーを添加する[8]。最後に加熱・濃縮を行い、瓶詰めして製品となる[7]

使用法

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インドネシア料理では加熱調理のほか、卓上で料理にかけるソースとしても用いられる[9]。焼き鳥料理サテのソース、ソトトンセン英語版のようなスープ類、カンクン・トゥミスインドネシア語版などの炒め物の調味に使われる[3]。特にスムール英語版にはケチャップマニスが欠かせないとされる[9]

歴史と由来

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製麹の大豆のみを原料として加塩発酵を進める製法は、6世紀に書かれた中国の『斉民要術』の作豉法と共通している[10]kecap語源厦門の方言魚醤を意味するke-tsiapの転用とみられること、現代でも製造業者が華人中心であることなどから、中国から大豆発酵の技術などが伝わって作られるようになったと考えられている[10]

文献では、テンペブルムなどの発酵食品について言及した1365年の『ナーガラクルターガマ英語版』でケチャップについての記述がないことから、この頃には存在していなかったとみられる[11]。一方で15世紀以降にはジャワ島の中国系居留民が大きく増加しており、ジャワ島やバリ島での大豆栽培が確実視されている18世紀にはケチャップやタウチョの生産が始まっていた可能性が高い[11]。その後、マレー系住民の間に普及する中でパームシュガーが添加されるようになったとみられる[11]

脚注

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参考文献

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  • ユドアミジョヨ R.ムルヨノ、松山晃「インドネシアの伝統的大豆発酵調味料 ケチャップとタウチョ」『日本食品工業学会誌』第32巻第10号、日本食品工業学会、1985年、774-785頁、doi:10.3136/nskkk1962.32.10_774 
  • 福留奈美「アジアのソイソース『日本におけるアジアのソイソース利用』」『Food culture』第27巻、キッコーマン国際食文化研究センター、2017年、14-23頁、NAID 40021222713 

関連項目

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