カルパ・スートラ
『カルパ・スートラ』(Kalpa-sūtra)は、ジャイナ教の経典のひとつで、とくにマハーヴィーラの生涯や他のティールタンカラについて記していることで知られる。
概要
編集『カルパ・スートラ』は、ジャイナ教シュヴェーターンバラ派(白衣派)の正典であるアーガマのうち、チェーヤ・スッタ(戒律部)の経典のひとつである『アーヤーラダサーオー』の第8章に含まれている。作者はバドラバーフ(紀元前300年ごろ)と伝えられる[1]。
伝承によれば、ドゥルヴァセーナ王が息子を亡くしたとき、王をなぐさめるために読まれたと言われる[2][3]。
3部から構成される。第1部「ジナ・チャリヤ」はマハーヴィーラの生涯を記す。マハーヴィーラに先だつ23人のティールタンカラについても記すが、パールシュヴァ、ネーミナータ、リシャバについての簡単な記述があるだけで、それ以外の20人については名前と時代を記すのみである。
第2部「テーラーヴァリー」はマハーヴィーラの高弟と、それ以降の教団長の系譜について記す。その最後にはマハーヴィーラ没後980年または993年にヴァラビー(現グジャラート州)で行われた聖典結集を指導したとされるデーヴァルッディの名が見えており、そこからこの書物が書かれた時代を推定できる[2]。
第3部「サーマーヤーリー」は雨季における戒律を規定する。
翻訳
編集1848年にスコットランド国教会の宣教師であるジョン・スティーヴンソン(1798-1858年)によって英語に翻訳された(第1部のみ)[4]。この翻訳はジャイナ教プラークリット文献の初めての西洋語訳という歴史的意義があるものの、翻訳は不完全である[5]。
- Stevenson, J. (1848). The Kalpa Sútra, and Nava Tatva: Two works illustrative of the Jain religion and philosophy. London
1884年にヘルマン・ヤコービによって英語に翻訳されたものは東方聖典叢書に含まれている。
- Jacobi, Hermann (1884). Gaina Sûtras: Part I. The Sacred Books of the East. XXII. Oxford: Clarendon Press
日本語訳は『世界聖典全集』に収録されている(マハーヴィーラの生涯の部分のみ)。
- バドラバーフ 著、鈴木重信 訳「聖行経」『耆那教聖典』世界聖典全集刊行会〈世界聖典全集 前輯 第7巻〉、1920年、101-148頁 。
『ジャイナ教聖典選』にも「ジナ・チャリヤ」の翻訳(抄訳)を含む。
- 河﨑豊・藤永伸 編、藤本有美 訳「『ジナチャリヤ』(抄)―誕生から入滅まで」『ジャイナ教聖典選』国書刊行会、2022年、369-408頁。ISBN 9784336073914。
脚注
編集- ^ 渡辺(2005) pp.129-130
- ^ a b Schubring (1962) p.110
- ^ ヤコービ訳 p.270 の注1を参照
- ^ Numark N. (2011). “Translating Dharma: Scottish Missionary-Orientalists and the Politics of Religious Understanding in Nineteenth-Century Bombay”. The Journal of Asian Studies 70 (2): 471-500. JSTOR 41302315.
- ^ Schubring (1962) pp.2-3
参考文献
編集- Schubring, Walther (1962). The Doctrine of the Jainas: Described After the Old Sources. translated by Wolfgang Beurlen. Motilal Banarsidass
- 渡辺研二『ジャイナ教』論創社、2005年。ISBN 4846003132。
関連項目
編集- カーラカ物語 - しばしば『カルパ・スートラ』と組み合わせられる。
外部リンク
編集- 『ジャイナ教の聖典『カルパ・スートラ』の写本』神谷武夫とインドの建築 。
- 辻村節子『インド細密画の小径』三陸書房 。(『オリーヴ』連載記事。41・42回(2015年4・6月号)が『カルパ・スートラ』関係)