トロポミオシン受容体キナーゼC

TrkCから転送)

トロポミオシン受容体キナーゼC(トロポミオシンじゅようたいキナーゼC、: tropomyosin receptor kinase C、略称: TrkC[5]またはNTRK3(neurotrophic receptor tyrosine kinase 3)は、ヒトではNTRK3遺伝子にコードされるタンパク質である[6]。TrkCは神経栄養因子NT-3英語版(ニューロトロフィン3)に対する高親和性の酵素共役型受容体英語版であり、神経分化や生存など、この神経栄養因子の複数の効果を媒介する。

NTRK3
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

1WWC, 3V5Q, 4YMJ

識別子
記号NTRK3, GP145-TrkC, TRKC, gp145(trkC), neurotrophic receptor tyrosine kinase 3
外部IDOMIM: 191316 MGI: 97385 HomoloGene: 49183 GeneCards: NTRK3
遺伝子の位置 (ヒト)
15番染色体 (ヒト)
染色体15番染色体 (ヒト)[1]
15番染色体 (ヒト)
NTRK3遺伝子の位置
NTRK3遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点87,859,751 bp[1]
終点88,256,791 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
7番染色体 (マウス)
染色体7番染色体 (マウス)[2]
7番染色体 (マウス)
NTRK3遺伝子の位置
NTRK3遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点78,175,959 bp[2]
終点78,738,012 bp[2]
RNA発現パターン




さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 ヌクレオチド結合
protein tyrosine kinase activity
neurotrophin binding
protein kinase activity
トランスフェラーゼ活性
transmembrane receptor protein tyrosine kinase activity
キナーゼ活性
neurotrophin receptor activity
GPI-linked ephrin receptor activity
ATP binding
p53結合
血漿タンパク結合
受容体型チロシンキナーゼ
膜貫通シグナル伝達受容体活性
細胞の構成要素 細胞質
integral component of membrane

receptor complex
integral component of plasma membrane
細胞膜
glutamatergic synapse
integral component of postsynaptic membrane
神経繊維
生物学的プロセス 概日リズム
positive regulation of peptidyl-serine phosphorylation
ephrin receptor signaling pathway
response to ethanol
activation of protein kinase B activity
positive regulation of synapse assembly
多細胞個体の発生
positive regulation of actin cytoskeleton reorganization
positive regulation of cell migration
response to corticosterone
自己リン酸化
negative regulation of cell death
心臓発生
positive regulation of apoptotic process
peptidyl-tyrosine phosphorylation
cochlea development
神経系発生
positive regulation of gene expression
negative regulation of protein phosphorylation
activation of GTPase activity
タンパク質リン酸化
neurotrophin signaling pathway
cellular response to retinoic acid
neuron fate specification
positive regulation of axon extension involved in regeneration
positive regulation of cell population proliferation
modulation by virus of host transcription
lens fiber cell differentiation
mechanoreceptor differentiation
response to axon injury
positive regulation of positive chemotaxis
細胞分化
negative regulation of astrocyte differentiation
positive regulation of protein phosphorylation
neuron migration
リン酸化
transmembrane receptor protein tyrosine kinase signaling pathway
positive regulation of phospholipase C activity
positive regulation of phosphatidylinositol 3-kinase signaling
regulation of postsynaptic density assembly
regulation of presynapse assembly
negative regulation of signal transduction
positive regulation of neuron projection development
神経活動電位伝播
myelination in peripheral nervous system
negative regulation of apoptotic process
positive regulation of ERK1 and ERK2 cascade
cellular response to nerve growth factor stimulus
regulation of MAPK cascade
positive regulation of MAPK cascade
positive regulation of neurotrophin TRK receptor signaling pathway
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)
NM_001007156
NM_001012338
NM_001243101
NM_002530
NM_001320134

NM_001320135
NM_001375810
NM_001375811
NM_001375812
NM_001375813
NM_001375814

NM_008746
NM_182809

RefSeq
(タンパク質)
NP_001007157
NP_001012338
NP_001230030
NP_001307063
NP_001307064

NP_002521
NP_001362739
NP_001362740
NP_001362741
NP_001362742
NP_001362743
NP_002521.2

NP_032772
NP_877961

場所
(UCSC)
Chr 15: 87.86 – 88.26 MbChr 15: 78.18 – 78.74 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

TrkC受容体は、受容体型チロシンキナーゼファミリーの一員である。チロシンキナーゼは、標的タンパク質(基質)の特定のチロシン残基にリン酸基を付加することができる酵素である。受容体型チロシンキナーゼは細胞膜に位置するチロシンキナーゼであり、細胞外ドメインにリガンドが結合することで活性化される。TrkCによってリン酸化される基質タンパク質にはPI3キナーゼなどがある。

機能

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TrkCは、ニューロトロフィン3(NTF3、NT-3)に対する高親和性酵素共役型受容体である。他のNTRK受容体(Trk受容体)や一般的な受容体型チロシンキナーゼと同様に、リガンドの結合が受容体の二量体化を誘導し、その後、受容体の細胞内(細胞質)ドメインに位置する保存されたチロシン残基のトランス自己リン酸化が行われる。これら保存されたチロシン残基は、下流のシグナル伝達カスケードを開始するアダプタータンパク質のドッキング部位として機能する。活性化されたTrkCの下流では、PLCG1英語版、PI3キナーゼ、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介してシグナルが伝達され、細胞の生存、増殖、運動性が調節される[7]

さらに、TrkCは興奮性シナプスの発生を担う新規シナプス接着分子としても同定されている[8]

NTRK3遺伝子座には、キナーゼドメインを持たないものや主な自己リン酸化部位に隣接して挿入が存在するものなど、少なくとも8種類のアイソフォームがコードされている。これらのアイソフォームは選択的スプライシングによって生じ、異なる組織や細胞種で発現している[9]。NT-3による触媒型TrkCアイソフォームの活性化は、神経堤細胞の増殖と神経分化の双方を促進する。一方、非触媒型TrkCアイソフォームへのNT-3の結合は神経分化を誘導するものの、神経細胞の増殖は誘導されない[10]

Trk受容体ファミリーのメンバー

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トロポミオシン受容体キナーゼ英語版(Trk受容体)は、神経栄養因子によって活性化されるシグナルを媒介することで神経細胞の生物学に必要不可欠な役割を果たしている。TrkA英語版TrkB英語版、TrkC(それぞれNTRK1NTRK2NTRK3遺伝子にコードされる)の3種類の膜貫通受容体が存在し、Trk受容体ファミリーを構成している[11]。このファミリーの受容体は、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、ニューロトロフィン4英語版(NT-4)によって活性化される。TrkAはNGFの効果を媒介し、TrkBはBDNF、NT-3、NT-4が結合することで活性化される。TrkCはNT-3の結合によって活性化される[12]。TrkBはNT-3よりもBDNFやNT-4を強固に結合する。TrkCはTrkBよりも強固にNT-3を結合する。

TrkCは依存性受容体英語版であることが示されている。すなわち、リガンドであるNT-3が結合した際には細胞増殖を誘導することができるが、NT-3が存在しない場合にはアポトーシスの誘導が引き起こされる[13]

疾患における役割

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多くの研究により、TrkCやTrkC:NT-3複合体の欠損や調節異常がさまざまな疾患と関係していることが示されている。

NT-3またはTrkCのいずれかを欠くマウスは知覚に重大な欠陥を示す。これらのマウスは侵害受容英語版は正常であるが、四肢の空間定位を担う固有受容英語版に欠陥が生じる[14]

アルツハイマー病パーキンソン病ハンチントン病などの神経変性疾患では、TrkCの発現の低下が観察される[15]。Trkを発現している脊髄運動ニューロンを喪失する筋萎縮性側索硬化症モデルを用いて、治療を目的としたNT-3の役割の研究が行われている[16]

さらに、TrkCはがんとも関係していることが示されている。発現しているTrk受容体やその機能は腫瘍の種類に依存している。一例として、TrkCの発現は神経芽腫では予後の良さと相関しているが、乳がん前立腺がん膵臓がんではがんのプログレッションや転移と関係している[17]

がんにおける役割

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Trkファミリーが発がん性の融合遺伝子として同定されたのは1982年であるが[18]、近年になって多くの種類の腫瘍でNTRK1(TrkA)、NTRK2(TrkB)、NTRK3(TrkC)遺伝子の融合やその他の発がん性の変化が同定されたことにより、ヒトのがんにおけるTrkファミリーの役割に対する関心が高まっている。Trk阻害薬は臨床試験が行われており、ヒトの腫瘍の縮小に関して初期段階での有望性が示されている[19]。NTRK3などの神経栄養因子受容体ファミリーは、浸潤性や走化性の増大など多面的な応答を悪性腫瘍細胞に誘導する[20]。NTRK3の発現の増加は、神経芽腫[21]髄芽腫[22]、神経外胚葉性脳腫瘍[23]で示されている。

NTRK3のメチル化

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NTRK3プロモーター領域には、転写開始部位に比較的近接した位置にCpGアイランドが密集して存在している。HumanMethylation450英語版アレイ、メチル化特異的定量PCR英語版(qMSP)、MethyLightアッセイによって、NTRK3は全ての大腸がん細胞株でメチル化されているが、正常な上皮試料ではメチル化されていないことが示されている。この大腸がん細胞における選択的メチル化、そして神経栄養因子受容体としての役割から、NTRK3のメチル化が大腸がん形成に機能的役割を果たしていることが示唆されている[24]。また、NTRK3プロモーターのメチル化状態によって、大腸がん試料と隣接する正常組織とを識別できることが示唆されている。したがって、NTRK3は大腸がんの分子的検出のためのバイオマーカーとして、SEPT9英語版など他のマーカーと併用して利用することができると考えられている[25]。またNTRK3は、8種類の遺伝子のプロモーターまたはエクソン1領域に位置する9つのCpGメチル化プローブパネルの中の1遺伝子(他の遺伝子はDDIT3FES英語版FLT3SEPT5英語版SEPT9SOX1英語版SOX17英語版)として、食道扁平上皮癌患者の予後予測への利用が示唆されている[26]

TrkC阻害薬

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エヌトレクチニブ英語版(RXDX-101)はIgnytaによって開発された治験薬であり、抗腫瘍活性を示す可能性がある。エヌトレクチニブはTrk全般、ALKROS1英語版に対する経口阻害薬であり、マウス、ヒトの腫瘍細胞株、患者由来異種移植腫瘍モデルで抗腫瘍活性が実証されている。In vitroでは、エヌトレクチニブはTrkファミリーのメンバーであるTrkA、TrkB、TrkCをnM濃度で阻害する。血漿タンパク質に非常に良く結合し(99.5%)、血液脳関門(BBB)を越えて容易に拡散する[27]。2019年8月15日、FDAはTrk遺伝子融合を有する12歳以上の固形腫瘍患者の治療に対しエヌトレクチニブを承認した[28]

相互作用

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NTRK3は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。

リガンド

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TrkC受容体の細胞外ドメインを標的とした、NT-3のβターン構造に基づくペプチド模倣低分子は、TrkCのアゴニストとなることが示されている[40]。その後の研究では、有機骨格を持ち、NT-3のβターン構造に基づくファーマコフォアを持つペプチド模倣分子は、TrkCのアンタゴニストとしても機能することが示されている[41]

出典

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関連文献

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