Requiescat in pace
requiescat in pace(ラテン語発音: [rekʷiˈeːskat in ˈpaːke]〈古典ラテン語、レクゥィエースカト・イン・パーケ〉、ラテン語発音: [rekwiˈeskat in ˈpatʃe]〈教会ラテン語、レクウィエスカト・イン・パーチェ〉直訳:「平和の内に休みたまえ」)は、カトリック[1]、ルーテル派[2]、聖公会、メソジスト[3]などの伝統的なキリスト教の礼拝や祈りにおいて、亡くなった人の魂の永遠の安らかな眠りと平安を願うために使われるラテン語のフレーズである。
18世紀から広く墓石に刻まれるようになり、今日では誰かの死に言及する際に広く用いられるようになった。
略称・訳
編集頭文字を取ってR.I.P.またはRIPと略され、英語の場合は rest in peace など、各言語に訳したフレーズも使用される。
なお、RIPは元のラテン語の requiescat in pace の略称であるが、英語の rest in peace も同じ略称になることから、一般には rest in peace の略と解されている。
日本語では安らかに眠れと訳され、「ご冥福をお祈りします」と意訳されることもある。
概要
編集dormit in pace(彼は安らかに眠る)というフレーズは、初期のキリスト教徒の墓地で見ることができ、「彼らは教会の平和の中で、つまりキリストに結ばれて死んだ」ことを示していた[4][5][6]。Requiescat in pace もしくは Rest in peace を意味する "R.I.P." という略語は、特にカトリック教派、ルーテル派、聖公会[7]においては、今でもキリスト教徒の墓石に刻まれている[8]。
カトリック教会のトリエント・ミサでは、このフレーズが何度か登場する[9]。
他のバリエーションとして、"Requiescat in pace et in amore"(愛と平安のもとに眠りたまえ)、"In pace requiescat et in amore" などがある。ラテン語の構文上の関係は語順ではなく、語尾によって示されるため、語順は様々である。命令法(「安らかに眠れ」)として使われる場合、二人称単数形では "Requiesce in pace"、二人称複数形では "Requiescite in pace" となる[10]。よく使われるフレーズ "Requiescat in pace" は、語尾が "-at" の接続法であり、三人称単数形である。
歴史
編集このフレーズが墓石に刻まれるようになったのは5世紀以前のことである[11][12][13]。18世紀にはキリスト教徒の墓で広く使用されるようになった[7]。このフレーズは、高教会派、メソジスト[14]、そしてローマ・カトリック教徒にとっては、本来は、死後の世界で魂が平安を得られるようにとの祈りの言葉であった[8]。この言葉が慣用的なものになったとき、このフレーズに魂への言及がないことから、人々は、このフレーズは肉体に対して「墓の中で安らかに眠れ」と言っているものであると考えるようになった[15]。これは、キリスト教の最後の審判の教義と関連している。つまり、魂は死によって肉体から離れるが、最後の審判の日に魂と肉体は再び結ばれるということである[16]。
2017年、北アイルランドのオレンジ国教党のメンバーは、プロテスタントに対して"RIP"や "Rest in Peace" という言葉を使用しないよう呼びかけた[17]。福音プロテスタント協会の幹事であるウォレス・トンプソンは、BBCラジオ・アルスターの番組で、プロテスタントに"RIP"という言葉の使用を控えるよう呼びかけると語った[18]。トンプソンは、"RIP"は死者への祈りであり、聖書の教義に反すると考えていると述べた[19][20]。同じ番組の中で、長老派のケン・ニューウェルは、人々がこの言葉を使うとき、死者のために祈っているとは考えていないと述べた。
ギャラリー
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ルター派のキリスト教徒の墓。Requiescat in paceに相当する地元ポーランド語のチエズィン・シレジア方言で刻まれている。
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サン・セバスティアンの教会墓地の墓石に刻まれたR.I.P.
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ポーランド・シフィエンチェホバにて、ある教区長の墓石。ドイツ語で記された墓碑銘がR.I.P.で締めくくられている。
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1720年の十字架に刻まれた"Requiescant in pace"
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西暦525年の葬儀用石版。このフレーズで始まっている。
脚注
編集- ^ (English) Catholic Prayers in Spanish and English. Harvard University Press. (1900). p. 45
- ^ Kurtz, Benjamin (1860) (English). Lutheran Prayer Book. T. Newton Kurtz. p. 124
- ^ Langford, Andy (1 December 2010) (English). Christian Funerals. Abingdon Press. p. 56. ISBN 9781426730146
- ^ Yaggy, Levi W.; Haines, Thomas Louis (1886). Museum of Antiquity: A Description of Ancient Life—the Employments, Amusements, Customs and Habits, the Cities, Places, Monuments and Tombs, the Literature and Fine Arts of 3,000 Years Ago. Law, King & Law. p. 885
- ^ Tuker, Mildred Anna Rosalie; Malleson, Hope (1900). “Introduction to the Catacombs”. Handbook to Christian and Ecclesiastical Rome: The Christian monuments of Rome. A. and C. Black. p. 411 . "Dormit, he sleeps, as an expression for death is proper to Christianity. Dormitio, in somno pacis, dormivit are therefore very frequently found. These and the expression Dormierit in Domino (may he sleep in the Lord) are to be seen especially in loculi of the II. and II. centuries, and occur in S. Agnese."
- ^ Leahy, Brendan (2012). His Mass and Ours: Meditations on Living Eucharistically. New City Press. p. 53. ISBN 9781565484481. "Signs such as "RIP" (Rest in Peace) on the tombs of the early Christians did not just mean they died "peacefully" but that they died in the peace of the Church, that is, united in Christ in the Church and not apart from it."
- ^ a b Tarling, Nicholas (16 May 2014). Choral Masterpieces: Major and Minor. Rowman & Littlefield Publishers. p. 87. ISBN 9781442234536
- ^ a b Mytum, H. C. (31 December 2003). “Christian Denominations”. Mortuary Monuments and Burial Grounds of the Historic Period. Springer Science & Business Media. p. 139. ISBN 9780306480768
- ^ Holy See (1961), Graduale Romanum, 1961 Edition by the Benedictines of the Solesmes Monastery, Desclée, pp. 94*–112*
- ^ Expert: Maria – 7/31/2009 (2009年7月31日). “Experts on Latin phrase”. En.allexperts.com. 2012年7月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年4月17日閲覧。
- ^ Spencer Northcote (1878). Epitaphs of the Catacombs During the First Four Centuries. London: Longmans, Green. p. 79
- ^ The Church of England magazine. Church Pastoral-aid Society. (1842). p. 208
- ^ Robert Jefferson Breckinridge, Andrew Boyd Cross. “Antiquity of the Religion”. The Baltimore literary and religious magazine. 3. p. 206
- ^ Gould, James B. (2016-08-04). Understanding Prayer for the Dead: Its Foundation in History and Logic. Wipf and Stock. p. 58. ISBN 9781620329887 2017年7月25日閲覧。
- ^ Joshua Scodel (1991), The English poetic epitaph, Cornell University Press, p. 269, ISBN 978-0-8014-2482-3
- ^ Karl Siegfried Guthke (2003), Epitaph culture in the West, p. 336
- ^ Edwards, Rodney (2017年7月20日). “Orangemen warned to 'reject Rome' and not use RIP on social media”. The Impartial Reporter 2017年7月25日閲覧。
- ^ William Crawley (24 July 2017). "Protestants should not use the phrase 'RIP', Orange Order says". BBC Radio Ulster (Podcast). Talkback. 2017年7月24日閲覧。 Segment begins at 42:20 into the podcast, and ends at 1:00:11.
- ^ “Orange Order calls on Protestants not to use the phrase 'RIP'”. (2017年7月24日) 2017年7月24日閲覧。
- ^ Thompson, Wallace (2013年12月15日). “Why Protestants Should not Use 'RIP'”. Truth Tracts. 2020年8月25日閲覧。 “The redeemed do not need our prayers, and the lost cannot benefit from them once they have passed from us. We would be better to pray more for them while they are alive.”
関連項目
編集- ラテン語の成句の一覧
- トップレベルドメイン一覧 .ripドメインがある