M1902陸軍士官刀
M1902陸軍士官刀(M1902りくぐんしかんとう、Model 1902 Army Officers' Saber)は、アメリカ陸軍が1902年に士官用軍刀として採用したサーベルである[1]。儀礼用の装備としてではあるものの、現在でもアメリカ陸軍の士官用軍刀として使用されている。
概要
編集この軍刀の現在の制式名称は「全士官用軍刀M1902」(Saber for all officers, Model 1902)とされる。1902年7月17日、一般命令81号(General Order No. 81)において制式化された。M1902軍刀は従軍牧師を除く全ての士官に帯刀の権利が認められた。やや湾曲した刃の刃渡りは30-34インチで、最初に陸軍が指定したところによると、重量は20.2-22.8オンス程度である。重心は柄から3.25インチ程度の箇所で、歩兵用軍刀として適したバランスである[2]。M1902軍刀は、従来配備されていたM1850徒歩士官刀およびM1872騎兵刀の後継装備と位置づけられていた。設計は軽量で斬撃および刺突に適した「実戦的な兵器」たる軍刀を求める将兵の声に応える形で行われた[3]。
かつては士官の身長に応じ、刃渡り30インチ、32インチ、34インチのいずれかのモデルが支給された[4]。現在では31インチのモデルのみ支給される。
歴史
編集1889年に招集された歩兵将校委員会においては、当時配備されていたM1860参謀・佐官刀(M1860 Staff and Field Officers Sword)について、刃が軽すぎて斬撃と刺突のどちらにも適さず、騎兵や砲兵にとっても使いづらいと指摘された。これを受けて軍部は新たな軍刀の模索を始めた[5]。
最終的なM1902軍刀のデザインは、1871年からヘンリー・V・アリアン&カンパニー社(Henry V. Allien & Company)にて数年を費やし行われた研究および実験に基づいている。陸軍人事総監で剣術の専門家でもあったジョン・C・ケルトン将軍も設計に協力した。社長ヘンリー・アリアンはヨーロッパ各地を何度も歴訪して研究を重ね、複数の軍刀を試作した。この中には曲刀だけではなく直刀も含まれていた。ケルトンは現用の軍刀とも比較しつつ、中央から切先に掛けての湾曲が少なく、中央より下は柄と平行に近いことが望ましいと指摘し、それによって強い力で刺突することが可能になるとした。1902年6月、ワシントンD.C.にて軍部高官らの委員会が催され、アリアン社製の試作軍刀5本が審査を受けた。このうち3本が直刀、2本が曲刀だった。また、武器省からも同数ずつの試作軍刀が提出されている。そして最終的に選ばれたのは、アリアン社の軍刀のうち、ケルトンが最も好ましいと評価したデザインのものだった[6]。
当初、鞘や護拳の材質は洋白だったが、後にニッケルメッキ鋼に改められた。黒い牛角材製だった柄の握りは、すぐに硬質ゴムに改められ、後には樹脂製となった[4]。
アメリカ国内では、エイムス・マニュファクチャリング・カンパニーのみが製造を行った。スプリングフィールド造兵廠も当初は生産を行っていたが、1918年に中止した。スプリングフィールド造兵廠では、1902年から1918年までに5,735本のM1902軍刀を製造した。そのほか、アメリカ国内の軍需品納入業者を通じ、ドイツ、フランス、スペインなどヨーロッパ諸国のメーカーにも製造が委託されていた[4]。
現在でも、アメリカ陸軍の教範『FM 3-21.5, Drill and Ceremonies』において、士官用軍刀としてM1902を用いる旨が言及されている。パレードや式典の際、部隊指揮官たる士官が帯刀するほか、晩餐会、結婚式や葬儀、退官式などの際にも帯刀することが多い。一般的にはアーミー・サービス・ユニフォーム(ASU, 常装)着用時に帯刀し、メス・ユニフォーム(Mess uniform, 礼装)着用時に帯刀することは極めて稀である[7]。
脚注
編集- ^ Nalty, Bernard C. (1999). War in the Pacific Pearl Harbor to Tokyo Bay. University of Oklahoma Press. p. 58. ISBN 9780806131993 6 January 2016閲覧。
- ^ Annual Reports of the War Department for the Fiscal Year Ended in June 30,1905. Vol. IX Chief of Ordnance. (Washington: Government Printing Office, 1905.) p. 126, 136
- ^ Harold Peterson, The American Sword 1775-1945 (New York: Dover Publications, INC., 2003) p. 61.
- ^ a b c “SABER - U.S. SABER MODEL 1902 STAFF & FIELD OFFICER'S”. Springfield Armory Museum. 2018年9月7日閲覧。
- ^ “SABER - U.S. SABER MODEL 1902 STAFF & FIELD OFFICER'S”. Springfield Armory Museum. 2018年9月7日閲覧。
- ^ Annual Reports of the War Department for the Fiscal Year Ended in June 30,1905. Vol. IX Chief of Ordnance. (Washington: Government Printing Office, 1905.) p. 124.
- ^ “Appropriate Times to Wear the Army Saber”. Marlow White Uniforms, Inc.. 2018年9月8日閲覧。
関連項目
編集- M1840陸軍下士官刀 - 1840年に採用された下士官向けの軍刀。現在でも儀礼用軍刀として使用されている。