Wikipedia

LGBアライアンス

LGBアライアンス'もしくはLGB同盟（エルジービーアライアンス、英語: LGB Alliance）は、トランスジェンダーに関連してLGBTの権利活動に反対するために2019年に設立されたイギリスの非営利団体[1]。

歴史

編集

2019年9月、ヨーロッパ最大のLGBT権利組織であるイギリスの慈善団体ストーンウォール宛にトランスジェンダーに対する姿勢を問う公開質問状がサンデー・タイムズに掲載。これを契機としてストーンウォールの共同創設者の一人だったサイモン・ファンショー（英語版）らがストーンウォールから脱退し、アリソン・ベイリー（英語版）やマルコム・クラークが加わってLGBアライアンスが設立された[1]。

2020年にはLGBアライアン理事だったアン・シノットが、イギリス人権平等委員会（英語版）を相手取って一部の活動団体が2010年平等法（英語版）の趣旨を歪めているとして訴訟を起こしたが、訴訟は退けられたばかりか人権擁護活動を萎縮させる目的の訴訟と指摘している[2]。

活動

編集

LGBアライアンスは、自身の目的を「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人々を、性的指向に基づく差別や不利益から自由にさせる」ことだと主張している[3]。しかし、実際には設立以来、トランスジェンダーの権利（英語版）に反対する言動が確認されている[3][4]。

トランスジェンダーの権利に関する活動を「トランスジェンダリズム」（性自認至上主義）と表現したうえで、それは疑似科学であり、子どもにとって危険であると主張し（LGBTグルーミング陰謀論）、イギリスのトランスジェンダーの平等に関わる法律の制定や改正に反対するキャンペーン（反ジェンダー運動）を行っている[5]。LGBアライアンスの共同創設者であるケイト・ハリスは「ジェンダー・アイデンティティが存在するという証拠はどこにもない」とメディアで語っている[6]。

また、Twitterにて「同性結婚に反対することは同性愛差別（ホモフォビア）にはあたらない」とコメントしたこともある[7]。2022年にエムポックスの感染拡大が報告された際は、同性愛者が集まるような施設を緊急閉鎖するように要求した[8]。

「LGB」にこれ以上の「+」を付け加えると獣姦などの性的倒錯を含めることになりかねないともコメントした事例もある[9]。

LGBアライアンス自身は宗教的組織との関連性はないと述べているが、LGBアライアンスの立ち上げに関与した主要な活動家であるゲイリー・パウエルは代理出産に反対し、女性の中絶のアクセスを否定する保守系シンクタンクのヘリテージ財団とも関わりがある[10]。このゲイリー・パウエルが所属する非営利団体内での上司にあたるジェニファー・ラールは、LGBTに反対して性的少数者は小児性愛者であると主張するキリスト教系の組織、Alliance Defending Freedomの主催するイベントに参加したこともある[10]。

批判

編集

LGBアライアンスはトランスジェンダー排外主義的な団体として認知され、その活動は発足当初からトランスジェンダー差別（トランスフォビア）であるとして多くの有識者や性的少数者当事者から批判されている[11]。「ヘイトグループ」であると表現されることもある[12]。

LGBTを題材にした作品を数多く手がけてきた、脚本家・プロデューサーのラッセル・T・デイヴィスは、「Tを切り取ることは殺すのと同じだ」と、同団体を厳しく非難した[13]。同性愛者のコメディアンであるマット・ルーカスは、LGBアライアンスを「アンチ・トランス」であると表現し、「ゲイの人々を代表する団体ではない」と言い切った[14]。2022年にはトランスジェンダー差別発言でたびたび話題になるJ・K・ローリングがプライベートでも親しくLGBアライアンスの創設者でもあるアリソン・ベイリーの写真をTwitterにアップし、レズビアン可視化の週（英語版）を祝うコメントをしたところ、レズビアン可視化の週の創設者であるリンダ・ライリー（英語版）が「#LWithTheT」のハッシュタグをつけて「私たちのコミュニティをより多くの憎しみで書き立てる手段として使うためにレズビアン可視化の週を作ったわけではない」と反論した[15]。また、労働党の国会議員でクィアでもあるナディア・ウィット―ム（英語版）は議会で「私たちのコミュニティは決して分裂しない。TのないLGBはありません」と演説した[16]。

レイシズムやファシズムに反対する団体のHope not Hateは、極右グループが頻繁にトランスジェンダー差別的な主張を展開するようになっている傾向を指摘し、LGBアライアンスとの繋がりを報告している[17]。2022年12月には、イギリスで最も影響力のある右翼シンクタンクの所在地ともなっているタフトンストリート55番地（英語版）にオフィスを借りていることが、これまでに公開されていなかった文書によって明らかになった[18]。LGBアライアンスはオーストラリアにも支部があり、オーストラリアでは「Global Project Against Hate and Extremism（GPAHE）」によって「極右および過激派グループ」と特定されている[19]。

イギリスの放送の規律・監督を行う規制機関であるOfcomは、LGBアライアンスにメディアがコメントを求めるのは不適切であると語っている[5]。

こうした相次ぐ非難もあり、LGBアライアンスへの助成金を一時停止する動きもある[20]。

出典

編集
[脚注の使い方]
  1. ^ a b Hurst, Greg (24 October 2019). “Transgender dispute splits Stonewall”. The Times (London). https://www.thetimes.co.uk/article/transgender-dispute-splits-stonewall-535v3qnb0 13 February 2021閲覧。 
  2. ^ Parsons, Vic (6 May 2021). “Judge throws out LGB Alliance founder's fight to ban trans women from women's spaces”. オリジナルの20 December 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221220143850/https://www.thepinknews.com/2021/05/06/lgb-alliance-ann-sinnott-judicial-review-fails-london-high-court-equality-act/ 10 May 2021閲覧。 
  3. ^ a b “LGB Alliance: Anti-trans lobby group’s troubling, ugly history”. PinkNews (2022年9月14日). 2023年2月8日閲覧。
  4. ^ “It’s not just drag artists who need to worry about bounty hunting bills”. Xtra Magazine (2023年3月16日). 2023年4月15日閲覧。
  5. ^ a b “‘Entirely inappropriate’ to quote LGB Alliance on trans issues, says Ofcom chief”. The Scotsman (2020年12月16日). 2023年2月8日閲覧。
  6. ^ “The quest for trans rights has exposed a deep divide in the UK. Scotland may show a way forward”. CNN (2020年4月4日). 2023年2月8日閲覧。
  7. ^ “LGB Alliance, which claims to stand for gay rights, argues it isn’t homophobic to oppose same-sex marriage in deleted tweet”. PinkNews (2020年6月19日). 2023年2月8日閲覧。
  8. ^ “LGB Alliance ‘insults’ gay men with call to shut venues over monkeypox”. openDemocracy (2022年5月31日). 2023年2月11日閲覧。
  9. ^ “LGBTQ+ charity Mermaids take LGB Alliance to court”. Canary (2022年9月16日). 2023年2月11日閲覧。
  10. ^ a b “Activist instrumental in the launch of the LGB Alliance linked to anti-abortion and anti-LGBT+ hate groups”. PinkNews (2020年6月3日). 2023年2月8日閲覧。
  11. ^ “‘LGB Alliance’ group faces criticism for being transphobic”. The Independent (2019年10月24日). 2023年2月8日閲覧。
  12. ^ “Labour leadership contenders split over trans group pledge card”. The Guardian (2020年2月13日). 2023年2月8日閲覧。
  13. ^ “Russell T Davies takes down LGB Alliance in incendiary speech: ‘To cut out the T is to kill’”. PinkNews (2021年10月14日). 2023年2月8日閲覧。
  14. ^ “‘Matt Lucas calls LGB Alliance ‘anti-trans’: ‘It doesn’t represent me or any gay people I care to know’”. The Independent (2021年9月30日). 2023年2月8日閲覧。
  15. ^ “JKローリングに再び物議、「レズビアン可視化の週」祝う投稿が批判受ける”. フロントロウ (2022年4月27日). 2023年2月11日閲覧。
  16. ^ ““There Is No LGB Without the T”: British MP Delivers Stunning Pro-Trans Speech to Parliament”. Them (2023年2月3日). 2023年2月8日閲覧。
  17. ^ “Transphobia and The Far Right”. Hope not Hate (2022年3月16日). 2023年2月8日閲覧。
  18. ^ “Revealed: LGB Alliance has secret office at UK’s libertarian think tank hub”. openDemocracy (2022年12月19日). 2023年2月8日閲覧。
  19. ^ “Australian Christian Lobby, LGB Alliance, One Nation Listed As Hate & Extremist Groups: Report”. Star Observer (2022年10月17日). 2023年2月11日閲覧。
  20. ^ “London Community Foundation ‘suspends’ grant to LGB Alliance”. Civil Society (2022年4月12日). 2023年2月8日閲覧。

関連項目

編集
  LGBTポータル
プロジェクト LGBT


「https://ja.wiki.x.io/w/index.php?title=LGBアライアンス&oldid=102219042」から取得