Kh-47M2 キンジャール

ロシアの極超音速空対地ミサイル

Kh-47M2 キンジャールKh-47M2 Kinzhal ロシア語: Х-47М2 «Кинжал» 「短剣」の意)は、ロシア連邦軍極超音速空対地ミサイル。最大速度はマッハ10とされ、核弾頭も搭載可能である[9]北大西洋条約機構(NATO)の用いるNATOコードネームでは、AS-24「キルジョイ」(Killjoy)と呼ばれる[10]

Kh-47M2 キンジャール
  • Kh-47M2 Kinzhal
  • Х-47М2 «Кинжал»
本装備を吊架したMiG-31K戦闘機
(2018年5月9日の軍事パレードにて)
種類
原開発国 ロシアの旗 ロシア
運用史
配備期間 生産中
配備先 ロシア宇宙軍
関連戦争・紛争
開発史
開発者 ロシア国防省[2]
製造業者 ロシア国防省
製造期間 2017年–現在
諸元
射程
  • 2000 km1240 mi)(MiG-31K戦闘機搭載時)[3]
  • 3000 km1860 mi)(Tu-22M3爆撃機搭載時)
精度 1 m[4]
弾頭
炸薬量 500 kg[4]

推進剤 固体燃料ロケット[4]
最大高度 20 km (65617 ft)[4]
誘導方式
発射
プラットフォーム
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概要

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当初発表された能力は以下の通り。(飛翔体単体で)2,000 km(1,200 mi)以上の航続距離[11]、最大マッハ10の速度で飛行し[9]、全ての段階で回避運動を実行する能力を備えていると発表されていたが、実際の速度や航続距離は発表数値に及ばないとする疑問がもたれている[12]。通常弾頭の他に核弾頭も搭載可能。Tu-22M3爆撃機またはMiG-31K戦闘機(本来の主用途は迎撃機)に搭載される空中発射弾道ミサイル(ALBM)である。

2017年12月に就役し、2022年現在はロシア連邦軍の南部軍管区西部軍管区空軍基地に配備されている。

2018年3月1日に行われた、ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンによる年次教書演説において、新型大陸間弾道ミサイルRS-28)、原子力推進巡航ミサイル9M730」、戦略核魚雷と共に発表された6つの戦略核兵器の1つである[13]

なお、本装備がイスカンデル短距離弾道ミサイルと酷似していることが知られており、イギリスの国防省は「キンジャルは、イスカンデルの空中発射型に過ぎない」と評価している[14]。 (空中発射型であることを勘案しても)実際の射程が公表値より短い可能性があることが2018年当初の公表時点において既に指摘されており[11][15]、後のタス通信による記事においても射程2000 kmは母機MiG-31Kの戦闘半径を含めたもの(Tu-22M3であれば3000 km)とされている[16][17]。ただし、空中給油により作戦母機の戦闘半径は延長されうる。

飛翔体単体の射程は非公表[16]

配備と実戦投入

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2017年12月1日、キンジャール極超音速ミサイル装備型に改造されたMiG-31Kが運用実験を開始した[18]

2018年5月、改造された10機のMiG-31Kが模擬戦闘任務に就き、実戦配備の準備が整った[19]。また同月9日に実施された大祖国戦争戦勝記念日パレードにて、本装備を吊架したMiG-31Kがデモンストレーション飛行を実施した[20]。同年12月までに、同型機は黒海ならびにカスピ海周辺において延べ89回の訓練出撃が実施された[21]

2019年2月までに、MiG-31Kの乗組員は、ミサイルを装備して380回以上の訓練出撃を行い、そのうち少なくとも70回は空中給油を実施した[22][22][23][24]。また、同2019年8月のアヴィアダーツロシア語版国際競技大会でも本装備搭載のMiG-31Kが参加した[25]

イタルタス通信によると、Arcticでのキンジャールの最初の発射は、2019年11月中旬に行われた。伝えられるところによると、発射はMiG-31Kによって行われた。 オレニヤ空軍基地英語版から、ミサイルはハルミェール=ユーの試験場に設置された地上目標に命中し、飛行速度はマッハ10に達した[26]

2021年6月、ロシア連邦航空宇宙軍によるシリア空爆の拠点となっているフメイミム空軍基地から発進したMiG-31Kによってキンジャール極超音速ミサイルがシリアの地上目標に発射された[27]。2021年にキンジャールを搭載したMiG-31Kを装備した別の航空連隊が編成された[28]

2022年8月18日、ロシア国防省はロシア最西端の飛び地領土カリーニングラード州にキンジャールを装備したMiG-31を3機配備したと発表した[9]。同年2月初旬の未確認の報告によると、キンジャールで武装したMiG-31Kが、ノヴゴロド州ソリツイ2空軍基地からロシア西部のカリーニングラード州チェルニャホフスク海軍空軍基地に展開した[29][30][31][32]

ロシア航空宇宙軍は、2022年2月19日にキンジャールの発射実験に成功している[33]

ロシアのウクライナ侵攻

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2022年3月18日、ロシア連邦軍はウクライナ西部のイヴァーノ=フランキーウシク州デリアティン英語版の地下兵器庫を破壊するためにキンジャールを使用したと述べた[34][35]

2023年3月9日、ロシア国防省イゴール・コナシェンコフ報道官が「キンジャールを含む兵器が、ウクライナの軍事インフラの重要な部分を直撃した」と説明した[36]。またウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は同日侵攻史上最大の6発が発射されたと発表している[37]

2023年5月4日、ウクライナのニュースサイトDefence Expressが、撃墜されたとされるミサイルの残骸の写真等を根拠に「キンジャール」極超音速ミサイルが4日午前2時40分頃にキエフ上空で撃墜された可能性があると報じた。これに対しウクライナ空軍のユーリー・イグナット報道官は公共放送Суспільне(suspilne)の取材に対し、「私はすでにこれに1000回反論してきた。昨日見たはずだ。使用の可能性はあったが、弾道ミサイルは記録されていない」と述べ、キンジャール撃墜を否定した[38]

5月9日、アメリカ国防総省報道官パット・ライダー准将は記者からの「ウクライナ人はロシアのキンジャールを迎撃するためにパトリオットを使用したと主張しているが米国はそれを確認できたのか?」との質問に対し、「彼らがパトリオットミサイル防衛システムを使用してロシアのミサイルを撃墜したことを確認出来る。」と述べるに留め、ロシアのミサイルを迎撃したことは確認したが、それがキンジャールだったかどうかは明言しなかった[39]。ロシアメディアのイズベスチヤは「キンジャールはイスカンデル-Mと同タイプであり設計に多くの共通点がある。どちらも同じ設計局であり、破片の特徴からどのミサイルか正確に判断できるのはおそらく製造者だけだ。」 と述べ、実際のウクライナ軍は過去に迎撃したイスカンデルの破片を用いて、あたかも今回キンジャールを迎撃した様に偽っている、という可能性を主張した[40]。ロシア側はパトリオットが発するレーダー装置の電波を傍受して居場所を把握し、キンジャールを撃ち込んだとみられる[41]

出典

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  1. ^ Russia Inducts Its Own 'Carrier Killer' Missile, and It's More Dangerous than China's”. 2022年3月19日閲覧。
  2. ^ Kh-47M2 Kinzhal ("Dagger") – Missile Defense Advocacy Alliance”. 2022年3月19日閲覧。
  3. ^ Victor Baranets (2018年3月1日). “"Avant-garde", "Sarmat" and "Dagger": what is the latest Russian weapons”. Komsomolskaya Pravda. 2018年3月12日閲覧。
  4. ^ a b c d e Alexey Leonkov (2018年5月23日). “Hypersonic Dagger Throw: competitors are still in diapers”. zvezdaweekly.ru. 2018年5月24日閲覧。
  5. ^ Эксперт: новое российское оружие сделано для адекватного отражения угроз”. ria.ru (12 March 2018). 4 March 2019閲覧。
  6. ^ Russia should deploy MiG-31 squadrons with Kinzhal missiles in Black Sea region — expert”. 30 July 2018閲覧。
  7. ^ “Бомбардировщики Ту-22М3 вооружат гиперзвуковыми ракетами "Кинжал" (The Tu-22M3 bomber will be able to carry four hypersonic "Dagger" missiles)”. Риа Новости. (2 July 2018). https://ria.ru/defense_safety/20180702/1523755997.html 
  8. ^ Ten Years Later, Russia Finally Begins Production of the Su-57 Stealth Fighter”. Popular Mechanics (31 July 2019). 2022年3月19日閲覧。
  9. ^ a b c 「露、飛び地基地 極超音速弾配備 NATOけん制」『読売新聞』夕刊2022年8月19日3面
  10. ^ ロシアが米軍も止められない極超音速ミサイルをベラルーシに配備”. ニューズウィーク (2022年11月2日). 2022年11月26日閲覧。
  11. ^ a b Russia Test Fires New Kh-47M2 Kinzhal Hypersonic Missile” (2018年3月12日). 2022年3月28日閲覧。
  12. ^ プーチン大ショック、極超音速「キンジャール」まで撃墜、封じられる核攻撃” (2023年5月23日). 2023年5月23日閲覧。
  13. ^ ロシアが誇る「無敵」核兵器をアメリカは撃ち落とせない”. Newsweek Japan (2018年3月7日). 2018年4月1日閲覧。
  14. ^ ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと”. CNN (2022年3月23日). 2023年1月6日閲覧。
  15. ^ Putin's Air-Launched Hypersonic Weapon Appears To Be A Modified Iskander Ballistic Missile” (2018年3月2日). 2022年3月28日閲覧。
  16. ^ a b Russian strategic bomber to extend Kinzhal hypersonic missile’s range — source”. タス通信 (2018年7月18日). 2022年3月28日閲覧。
  17. ^ RUSSIA’S NEW NUCLEAR WEAPON DELIVERY SYSTEMS”. NTI. pp. 19-20. 2022年3月28日閲覧。(なお、当資料では装着可能な核弾頭の威力を10-50キロトン級としている)
  18. ^ Kinzhal complex substantially boosts Russia's Aerospace Force capabilities – commander”. Tass. 2022年3月28日閲覧。
  19. ^ Интервью заместителя Министра обороны России Юрия Борисова о новой военной технике”. bmpd.livejournal.com (6 May 2018). 5 May 2019閲覧。
  20. ^ Военный парад на Красной площади - ウェイバックマシン(2022年1月22日アーカイブ分)
  21. ^ Russian MoD sums up 2018 results, details 2019 deliveries - archive.today(2019年5月4日アーカイブ分)(https://www.janes.com/)
  22. ^ a b Russia picks MiG-31 fighter as a carrier for cutting-edge hypersonic weapon”. TASS (6 April 2018). 18 September 2018閲覧。
  23. ^ Russian fighters armed with Kinzhal hypersonic missiles hold drills with strategic bombers”. イタルタス通信 (19 July 2018). 18 September 2018閲覧。
  24. ^ New Russian weapons to guarantee security of the country without increasing costs and involvement in the arms race”. eng.mil.ru (20 February 2019). 5 May 2019閲覧。
  25. ^ Авиамикс в этом году стал самым зрелищным за историю конкурса «Авиадартс-2019» - ウェイバックマシン(2021年1月16日アーカイブ分)
  26. ^ Источники: испытания гиперзвуковой ракеты "Кинжал" впервые проведены в Арктике” (ロシア語). イタルタス通信 (30 November 2019). 30 November 2019閲覧。
  27. ^ “[https://avia.pro/news/istrebitel-mig-31k-nanyos-udar-giperzvukovoy-raketoy-kinzhal-po-neizvestnoy-celi-v-sirii MiG-31K戦闘機がシリアの未知の標的にキンザール極超音速ミサイルを発射した Подробнее на: https://avia.pro/news/istrebitel-mig-31k-nanyos-udar-giperzvukovoy-raketoy-kinzhal-po-neizvestnoy-celi-v-sirii]” (ロシア語) (29 June 2021). 2 July 2021閲覧。
  28. ^ Russian troops receive over 5,000 advanced weapon systems in 2021 — defense chief”. イタルタス通信 (2021年1月20日). 2022年2月9日閲覧。
  29. ^ Newdick, Thomas. “Russian MiG-31s Armed With Air-Launched Ballistic Missiles Have Arrived In Kaliningrad”. The Drive. 2022年2月9日閲覧。
  30. ^ MiG-31K Jets Deploy to Kaliningrad: 'Dagger' Hypersonic Missiles Pointed at the Heart of Europe”. militarywatchmagazine.com (9 February 2022). 2022年3月19日閲覧。
  31. ^ Shestak, Evgueniya (8 February 2022). “Появились данные о переброске МиГ-31К с «Кинжалом» в Калининградскую область” (ロシア語). Vzglyad. 2022年3月19日閲覧。
  32. ^ Russia Deploys Hypersonic Missile To Baltic In Range Of NATO Capitals”. Forbes (2022年2月8日). 2022年3月19日閲覧。
  33. ^ Russian MoD Releases Footage of Strategic Forces Drills”. YouTube. 2022年3月19日閲覧。
  34. ^ Новости, Р. И. А. (2022年3月19日). “ВС России уничтожили подземный склад ракет в Ивано-Франковской области” (ロシア語). RIA Novosti. 2022年3月19日閲覧。
  35. ^ Ukraine-Russia latest news: Kremlin claims to have used 'invincible' hypersonic missiles for first time”. The Telegraph (March 19, 2022). 2022年3月19日閲覧。
  36. ^ ロシアが極超音速ミサイル使用、ウクライナ各地に大規模攻撃」『BBCニュース』。2023年3月11日閲覧。
  37. ^ 極超音速ミサイル「キンジャール」まで…ロシア、ウクライナ全域に爆撃降り注ぐ”. Yahoo!ニュース. 2023年3月11日閲覧。
  38. ^ Повітряні Сили спростували збиття над Києвом гіперзвукової ракети "Кинжал" вночі 4 травня”. СУСПІЛЬНЕ МОВЛЕННЯ. 2023年9月1日閲覧。
  39. ^ Pentagon Press Secretary Air Force Brig. Gen. Pat Ryder Holds a Press Briefing May 9, 2023 Brigadier General Pat Ryder, Pentagon Press Secretary”. U.S. Department of Defense. 2023年9月1日閲覧。
  40. ^ Неопознанный объект: что Киев выдал за сбитый «Кинжал»”. イズベスチヤ. 2023年9月1日閲覧。
  41. ^ パトリオット狙った極超音速ミサイルを逆に撃墜、ウクライナ”. CNN.co.jp. 2023年5月15日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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