AMD K5
K5は、AMDが開発したマイクロプロセッサ。インテルのx86命令セットを採用したAMDの第5世代の互換プロセッサである。K5というコードネームはジェリー・サンダースによる命名で[1]、当時のインテル製品の開発呼称がPと数字(製品の世代)と組み合わせたものであったことに倣ったと考えられる。K5の5は第5世代を表し、Kとは漫画および映画『スーパーマン』に登場するスーパーマンの故郷の惑星クリプトン[1]、あるいはスーパーマンの弱点とされる架空の物質クリプトナイトの頭文字から取られているとされる[2]。ライバル企業であるインテルをスーパーマンに見立てた上で、それを超越するという対抗意識が込められているといわれる[2]。
AMD K5 PR166 | |
生産時期 |
SSA/5は1996年3月27日(米国時間), 5k86は1996年10月7日(米国時間)から |
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販売者 | AMD |
設計者 | AMD |
生産者 | AMD |
CPU周波数 | 75 MHz から 133 MHz |
FSB周波数 | 50 MHz から 66 MHz |
プロセスルール | 0.5μm から 0.35μm |
アーキテクチャ | IA-32/x86 |
拡張命令 | なし |
コア数 | 1 |
ソケット |
Socket 7 |
パッケージ | CPGA |
前世代プロセッサ | Am5x86 |
次世代プロセッサ | K6 |
トランジスタ | 430万個 |
L1キャッシュ |
8 KB + 16 KB (データ + 命令) |
L2キャッシュ | なし |
インテルの同じく第5世代プロセッサであるPentiumプロセッサへの対抗として1993年に発表された製品であるが、実際の発売は遅れて1996年になった。設計はAm29000開発チームが手がけ、そのマイクロアーキテクチャをインテルのそれと比較するとPentiumシリーズのP5マイクロアーキテクチャよりもP6マイクロアーキテクチャ(Pentium Pro)に近く、Am29000の流れを汲むRISCコア(FPUを含む)にx86命令デコーダを組み合わせた構造となっている。430万トランジスタで構成されている。開発時期の関係でPentiumプロセッサの後期製品で実装されたMMX命令はK5には実装されておらず、次世代のK6プロセッサを待つこととなる。
Pentiumとの相対的な性能指標としてPレーティングを採用している。例えばP100はPentium 100 MHz相当の製品という意味を持つ。
特徴
編集- 5個の整数演算ユニット(ALU*2個、分岐1個、ロードストア2個)を持ち、アウト・オブ・オーダー実行機能を実現。また、浮動小数点ユニットをひとつ持つ。
- 分岐ターゲットバッファはPentiumの4倍のサイズであるが、K5は1BitカウンターであるためPentitumよりは精度が落ちる(Pentiumは2Bit、Pentium Proは4Bitカウンター)、また分岐先予測用のアドレスを保持するバッファを持ってないなどの欠点がある。
- レジスタ・リネーミングにより並列実行性能を向上させている。
- 投機的実行によりパイプラインストールを減らしている。
- リオーダーバッファは16エントリー、リザベーションステーションは11エントリーであった。
- 命令キャッシュは16Kバイト、4ウェイ・セットアソシアティブで、Pentiumは8Kバイト、2ウェイ・セットアソシアティブであった。
- データキャッシュは8Kバイト4ウェイ・セットアソシアティブである。Pentiumは8Kバイト2ウェイ・セットアソシアティブであった。
経過
編集K5プロジェクトによるAMDの目的は技術上のリーダーシップをインテルから奪うことだった。インテルの次世代マイクロアーキテクチャの構造を先取りしていることから方向性は妥当だったと言えるが、製造の面でそれを実現できるだけの量産設備をAMDは持っていなかった。Am29000から流用されたFPUによる浮動小数点演算能力はCyrix 6x86より優れていたが、Pentiumには劣っていた。整数演算ではCyrix 6x86の方が優れていた。開発が難航し、発売が大きく延期されたことから競合他社はより高性能化していたことが成功しなかった大きな理由である。K5には前期版の社内コード名SSA/5と後期版の同じく5k86の2種類のバージョンが存在する。製品名は当初5k86だったが、社内コードが5k86に変更されてからは、旧モデルも含めて全てK5に改名された。商業的には成功したとは言い難いが、Pentium向けSocket 5/7搭載マザーボードにおける動作互換性はライバルのCyrix 6x86と比較して格段に高く、内部構造の相違から生ずる命令実行クロック数の差異に起因するソフトウェアのごく僅かな動作不具合が発生した程度に留まる。スクラッチから新規に開発されたプロセッサとしては非常に完成度の高い製品であったと言えよう。K5は、成功したAm486 や AMD K6-2のようにシェアを獲得することはできなかったが、Pentium FDIV バグの影響によりPentiumが買い控えられた時期には、代わりにK5が一時的にではあるがシェアを確保することができた。
各モデル詳細
編集SSA/5
編集- 製品名:5K86 P75~P100、後に K5 PR75~PR100
- プロセス:430万トランジスタ、0.5un または 0.35um
- 一次キャッシュ:8 + 16 KB (データ + 命令)
- 接続:Socket 5 および Socket 7
- 電源電圧:VCore 3.52V
- 外部バス:50 (PR75), 60 (PR90), 66 MHz (PR100)
- リリース時期:1996年3月27日
- 動作周波数:75, 90, 100 MHz
5k86
編集- 製品名:K5 PR120~PR166 (200)
- プロセス:430万トランジスタ、350nm
- 一次キャッシュ:8 + 16 KB (データ + 命令)
- 接続:Socket 5 および Socket 7
- 電源電圧:VCore 3.52V
- 外部バス:60 (PR120/150), 66 MHz
- リリース時期:1996年10月7日
- 動作周波数:90 (PR120), 100 (PR133), 105 (PR150), 116.6 (PR166), 133 MHz (PR200)
注:PR200は計画されたものの、後継であるK6の製品化が迫っていたことから発売には至らなかった。
脚注
編集- ^ a b 吉川明日論 (2015年7月27日). “第2回 巨人Intelに挑め! - K5の挫折、そしてK6登場 K5開発の経緯”. TECH+. マイナビ. 2022年6月2日閲覧。
- ^ a b 吉川明日論 (2022年5月31日). “第226回 吉川明日論の半導体放談 CPUコアのコードネームの今昔 AMD K6に込められた思いとは?”. TECH+. マイナビ. 2022年6月2日閲覧。