1RXS J160929.1-210524

さそり座の恒星

1RXS J160929.1-210524(以下、1RXS 1609と略す)は、さそり座の方角に地球からおよそ470光年の距離にある、前主系列星である。

1RXS J160929.1-210524
星座 さそり座
見かけの等級 (mv) 13.75(写真)[1]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  16h 09m 30.307s[2]
赤緯 (Dec, δ) −21° 04′ 58.95″[2]
固有運動 (μ) 赤経: -11.2 ミリ秒/[2]
赤緯: -21.9 ミリ秒/年[2]
距離 473 ± 46 光年[注 1]
(145 ± 14 パーセク[3]
物理的性質
半径 1.35 R[4]
質量 0.85 +0.20
−0.10
M[4]
スペクトル分類 M0[5]
光度 0.43 L[4]
表面温度 4,060 +300
−200
K[4]
年齢 1.1 ×107[6]
他のカタログでの名称
2MASS J16093030-2104589, GSC 06213-01358
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特徴

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大きさの比較
太陽 1RXS J160929.1-210524
   

1RXS 1609は、リチウムの組成やX線の放射、HR図上での位置などから考えて、さそり座-ケンタウルス座アソシエーションの中の上部さそり座小グループの一員である若い天体と同定されている[7][8]。そのスペクトルから、1RXS 1609は太陽よりも低温で、スペクトル型はK7またはM0と推定される赤色矮星である[4][5]質量太陽の8-9割程度、表面温度は4,000K強と推定される[4]。上部さそり座グループの年齢はとても若く、A3型より高温の星でなければ、主系列段階まで進化していないと考えられ、1RXS 1609のような質量の小さい星は、前主系列段階にとどまっているとみられる。当初、このアソシエーションの年齢は500万年と見積もられたが、その後の分析で1100万年と修正され、1RXS 1609の年齢も同程度と考えられている[8][6]

伴天体

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発見

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2008年9月、ジェミニ北望遠鏡での撮像観測から、太陽系外惑星"1RXS J160929.1-210524 b"(以下、1RXS 1609 bと略す)の検出が発表された[4]。画像に写った惑星は、質量木星の8倍くらいあり、中心星からおよそ330AU(500億km)の距離にあるとみられた[4]。発見者らは2010年、1RXS 1609 bの固有運動を調べ、この天体が1RXS 1609の周りを公転し、重力的に結び付いていることを確認した[9]。母星からこれほど離れた位置を公転する既知の惑星としては、最も小さいものになる[10]。また、1RXS 1609は、直接撮像によって「恒星」系で発見された初めての惑星質量天体でもある[11]。それまでに撮像された惑星質量天体は、自由浮遊惑星褐色矮星を公転する惑星(2M1207 b)、或いは惑星よりも褐色矮星である可能性が高い天体である。

疑問

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惑星が母星から非常に遠くにあるというのは、現在の惑星系形成理論に反している[4]。なぜならば、への降着の過程でこの距離に惑星が形成されるのにかかる時間は、推定される母星の年齢よりも大幅に長くなってしまうからである。これを回避する一つの可能性としては、惑星は母星にもっと近い位置で形成された後、原始惑星系円盤や他の惑星との相互作用によって、遠い軌道へと移動した、ということが考えられる。惑星が現在の位置で、重力不安定性によって形成されたという仮説もあるが、そのためには質量が異常に大きい原始惑星系円盤が必要となる。

1RXS 1609 bの発見後、上部さそり座グループの年齢が高く修正されたことにより、1RXS 1609 bの質量もより大きく、木星の14倍程度とされた[6]。1RXS 1609星系の年齢が上がることで、低質量褐色矮星の進化理論に基づく推定質量が大きくなった。このことで、1RXS 1609 bは褐色矮星で、連星系の形成と似たような経緯で形成された可能性がでてきた。その後の観測と分析でも、1RXS 1609 bの質量は木星の12倍から16倍と、惑星と褐色矮星の境界付近の値が求められている上、1RXS 1609 bには母星よりもずっと大きい減光がみられ、星周円盤の存在が予想されている[12][13]。これは、惑星では考えられないことである。

特徴

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分光観測による推定では、1RXS 1609 bのスペクトル型はL2からL4で、表面温度は1,700から2,000K光度太陽の0.03から0.04%と求められている[12][13]

1RXS J160929.1-210524の惑星[12]
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
b 12 ± 1 MJ ~330

脚注

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注釈

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  1. ^ 距離(光年)は、距離(パーセク)× 3.26により計算。

出典

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  1. ^ Morrison, J. E.; et al. (2001-03), “The Guide Star Catalog, Version 1.2: An Astrometric Recalibration and Other Refinements”, Astronomical Journal 121 (3): 1752-1763, Bibcode2001AJ....121.1752M, doi:10.1086/319383 
  2. ^ a b c d 1RXS J160929.1-210524 -- Pre-main sequence Star”. SIMBAD. CDS. 2018年2月17日閲覧。
  3. ^ de Zeeuw, P. T.; et al. (1999-01), “A HIPPARCOS Census of the Nearby OB Associations”, Astronomical Journal 117 (1): 354-399, Bibcode1999AJ....117..354D, doi:10.1086/300682 
  4. ^ a b c d e f g h i Lafrenière, David; Jayawardhana, Ray; van Kerkwijk, Marten H. (2008-12), “Direct Imaging and Spectroscopy of a Planetary-Mass Candidate Companion to a Young Solar Analog”, Astrophysical Journal 689 (2): L153, arXiv:0809.1424, Bibcode2008ApJ...689L.153L, doi:10.1086/595870 
  5. ^ a b Bowler, Brendan P.; et al. (2014-03), “Spectroscopic Confirmation of Young Planetary-mass Companions on Wide Orbits”, Astrophysical Journal 784 (1): 65, Bibcode2014ApJ...784...65B, doi:10.1088/0004-637X/784/1/65 
  6. ^ a b c Pecaut, Mark J.; Mamajek, Eric E.; Bubar, Eric J. (2012-02), “A Revised Age for Upper Scorpius and the Star Formation History among the F-type Members of the Scorpius-Centaurus OB Association”, Astrophysical Journal 746 (2): 154, Bibcode2012ApJ...746..154P, doi:10.1088/0004-637X/746/2/154 
  7. ^ Preibisch, Thomas; et al. (1998-05), “A lithium-survey for pre-main sequence stars in the Upper Scorpius OB association”, Astronomy & Astrophysics 333: 619-628, Bibcode1998A&A...333..619P 
  8. ^ a b Preibisch, Thomas; Zinnecker, Hans (1999-05), “The History of Low-Mass Star Formation in the Upper Scorpius OB Association”, Astronomical Journal 117 (5): 2381-2397, Bibcode1999AJ....117.2381P, doi:10.1086/300842 
  9. ^ Lafrenière, David; Jayawardhana, Ray; van Kerkwijk, Marten H. (2008-12), “The Directly Imaged Planet Around the Young Solar Analog 1RXS J160929.1 - 210524: Confirmation of Common Proper Motion, Temperature, and Mass”, Astrophysical Journal 719 (1): 497-504, arXiv:1006.3070, Bibcode2010ApJ...719..497L, doi:10.1088/0004-637X/719/1/497 
  10. ^ Fazekas, Andrew (2010年6月30日). “"First" Picture of Planet Orbiting Sunlike Star Confirmed”. National Geographic. 2018年2月17日閲覧。
  11. ^ First Picture of Likely Planet around Sun-like Star”. Gemini Observatory (2008年9月14日). 2018年2月17日閲覧。
  12. ^ a b c Lachapelle, François-René; et al. (2015-03), “Characterization of Low-mass, Wide-separation Substellar Companions to Stars in Upper Scorpius: Near-infrared Photometry and Spectroscopy”, Astrophysical Journal 802 (1): 61, Bibcode2015ApJ...802...61L, doi:10.1088/0004-637X/802/1/61 
  13. ^ a b Wu, Ya-Lin; et al. (2015-07), “New Extinction and Mass Estimates of the Low-mass Companion 1RXS 1609 B with the Magellan AO System: Evidence of an Inclined Dust Disk”, Astrophysical Journal Letters 807 (1): L13, Bibcode2015ApJ...807L..13W, doi:10.1088/2041-8205/807/1/L13 

関連項目

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外部リンク

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座標:   16h 09m 30.307s, −21° 04′ 58.95″