高野政晴
高野 政晴(たかの まさはる、1936年(昭和11年)11月25日[1] - )は、日本の研究者、教育者。学位は、工学博士(東京大学)。同大学名誉教授。精密工学、機械工学、ロボット工学を専門とし[1]、6自由度ロボットアームの効率的な逆運動学解法を提案した[18]。東京大学で助手、講師、助教授、教授、関西大学教授を歴任し、日本学術会議委員(第16期、第5部)も務めた[19][20]。2016年秋、瑞宝中綬章受勲[17]。
人物情報 | |
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生誕 | 1936年11月25日(88歳)[1] |
出身校 | 東京大学 |
学問 | |
研究分野 | 機械工学、ロボット工学 |
研究機関 | 東京大学、関西大学 |
博士課程指導教員 | 神保泰雄[2] |
指導教員 | 西村源六郎[2] |
博士課程指導学生 | 遠山茂樹[3]、佐々木健[4]、井上健司[5]、朴勇進[6]、青柳誠司[7] |
主な指導学生 | 関啓明[8] |
学位 | 工学博士(東京大学) |
特筆すべき概念 | RECSコンセプト[9][10] |
主な業績 | 6自由度マニピュレーターの効率的な逆運動学 |
主要な作品 | TOCARD[11][12][13] |
影響を受けた人物 | 藤井澄二[14]、中村雅哉[15] |
影響を与えた人物 | 白鳥正樹[16] |
学会 | 精密工学会、日本機械学会、日本ロボット学会、日本騒音制御工学会[1] |
主な受賞歴 | 瑞宝中綬章(2016年秋)[17] |
公式サイト | |
高野政晴HomewPage |
来歴・人物
編集東京大学工学部精密機械工学科を卒業。同大学院工学研究科精密機械工学専攻を1963年3月に卒業し、同年4月に助手へ就任[1]。歯車や振動の研究に従事し、1967年に論文博士で学位を取得する[21]。搬送装置やリンク機構の研究に従事し[22]、1965年10月から講師、1968年4月から助教授となる[1]。1978年には『機械運動学』を牧野洋と共著で出版し[23]、1980年に教授へ就任[1]。
1970代からロボットの研究にも取り組んでおり、遠山茂樹らとはロボットの高速化を手掛けた。1980年代前半、ロボットアームの逆運動学について研究し、論文を発表[注 1]。3自由度で位置決めする際に解が4次方程式を取る条件を見出し[24]、6自由度の一般的なマニピュレーターに対し、解析解と繰り返し演算を併用した効率的な手法を提案した[18]。また、佐々木健と高精度な超音波センサーに取り組んだ[25]。
井上健司らとロボットアーム設計システム「TOCARD」の研究開発を実施。これは川崎製鉄から特許出願もなされた[26]。また、青柳誠司が超音波センサーの研究を進め、複数の超音波センサーを用いたロボットの位置・姿勢計測システムに発展した[27][注 2]。お手玉ロボットなどにも取り組み、位置と速度の状態を制御する手法に対し、PTP制御(Point To Point)にちなんでSTS制御(State To State)と名付けている[28]。これは後年、ベルトコンベアに同期するロボットアームの制御にも発展した[28][29]。
一般的な車輪移動ロボットの統一的解析を導出し[30]、階段を昇降可能なTO-ROVERシリーズを開発。東芝と特許を出願した[31]。なお、東大時代の研究は、いろいろな企業からの研究奨励支援が用いられたことに特徴がある[15]。大学以外では国家プロジェクト「極限作業ロボットプロジェクト」において、開発には参加しないものの、技術委員会の委員長を務めた[32]。精密工学会では副会長を務め[33]、日本学術会議では1994年から3年間の第16期において、第5部の委員を務めている[19][20][34]。
1997年、東京大学を60歳で定年すると、教え子の青柳誠司がいた関西大学工学部管理工学科で教授に就任[9]。メカトロニクス研究室でロボット研究を続け[9]、前述のSTS制御や冗長ロボットアームの制御、指の動作計測システムの開発を実施した[35]。2003年、関西大学も退職した後は同大学で非常勤講師を務め[36]、2016年現在は京都市に在住[17]。
受賞・栄典
編集主な著作
編集学位論文
編集- 『精密機器用小型歯車のかみ合い精度とその測定に関する研究』東京大学〈博士学位論文(乙第1356号)〉、1967年12月14日 。
主な著書
編集(単著)
- 『詳説 ロボットの運動学』 オーム社、2004年12月、ISBN 4274087549。
(共著)
- 『機械運動学』牧野洋、高野政晴 著、コロナ社〈精密工学講座6〉、1978年9月、ISBN 4339041505。
- 『演習機械運動学』高野政晴、遠山茂樹 著、サイエンス社〈セミナーライブラリ機械工学 5〉、1984年6月、ISBN 4781903622。
- 『ロボット工学とその応用』辻三郎ほか著、電子通信学会 編、コロナ社、1984年6月。ISBN 4885520525。
(編著・監修)
- 『ロボット・モーション ―計画と制御― 動力学編』 M. Bradyほか編、高野政晴 監訳、HBJ出版局、1985年7月。[38]
- 『メカトロニクス概論』高野政晴 監修、高野政晴ほか著、実教出版、ISBN 4407031832。
- 『電子機械応用』高野政晴ほか著、実教出版、2003年[注 5]
学会誌記事
編集- 「リンク機構の動特性」『精密機械』第44巻第523号、1978年、828-833頁。
- 「メンテナンスロボット開発の技術的問題」『精密機械』第48巻第1号、1982年、119-122頁。
- 「ロボットの運動の高速化技術」『計測と制御』第21巻第12号、1982年、1122-1128頁。
- 「ロボットの高速化」『精密機械』第51巻第1号、1985年、68-72頁。
- 「ロボット機構系の設計」『日本ロボット学会誌』第4巻第4号、1986年、394-400頁。
- 「DDロボットの問題点」『日本ロボット学会誌』第5巻第1号、1987年、12-13頁。
- 「自律移動ロボットの機構と移動制御技術」『日本ロボット学会誌』第5巻第5号、1987年、384-390頁。
- 「最近の制御技術のメカニズムへの適用の効果」『精密工学会誌』第54巻第5号、1988年、806-810頁。
- 「ロボットの最適制御と機構構成」『日本ロボット学会誌』第9巻第4号、1991年、497-483頁。
- 「極限作業ロボットプロジェクト」『日本ロボット学会誌』第9巻第5号、1991年、614-618頁。
- 「車輪移動機構のABC〔第3回〕運動学」『日本ロボット学会誌』第13巻第3号、1995年、355-360頁。
- 「自動制御の動向 第13回国際自動制御連盟世界会議に出席して」『学術の動向』第1巻第6号、1996年、66-68頁。
- 「マレイシアにおける科学技術の動向について」『学術の動向』第2巻第1号、1997年、54-57頁。
脚注
編集注釈
編集- ^ Masaharu Takano (1985).“A New Effective Solution for Inverse Kinematics Probrem (Synthesis) of a Robot with Any Type of Configuration”. Journal of the Faculty of Engineering The University of Tokyo 38 (2):107-135. [18][24]
- ^ 科学技術振興事業団により特許も取得した。- 特許第3101099号(2000年特許登録、2008年期限[27])
- ^ 受賞論文 - 佐々木健、小野勝久、高野政晴「ロボットのための高精度超音波センサの開発研究」、『精密機械』第51巻第6号、1238-1243
- ^ 受賞論文 - 青柳誠司、桑原一義、神野崇治,高野政晴「軌道計画と軌道更新に基づくSTS制御の実現手法の提案とオープンアーキテクチャ型ロボットを用いたその有効性の実験的検証」『日本ロボット学会誌』第19巻第1号、2000年1月、131-141頁。[29]
- ^ 文部科学省検定済教科書(高等学校工業科用)[39]。2014年版はISBN 978-4-407-20290-8。
出典
編集- ^ a b c d e f g 青柳ほか 2000, p. 141.
- ^ a b 西村源六郎、神保泰雄、高野政晴「長周期振動計(第1報) ―高周波振動摩擦が作用する時の振子の自由振動について―」、『精密機械』第32巻第373号、1966年、133-142頁。
西村源六郎、神保泰雄、高野政晴「長周期振動計(第2報) ―振子の強制振動について―」、『精密機械』第32巻第380号、1966年、614-623頁。
西村源六郎、神保泰雄、高野政晴「長周期振動計(第3報) ―試作した長周期ねじり振動計について―」、『精密機械』第33巻第385号、1967年、95-102頁。 - ^ 『ロボットの運動の高速化に関する研究』 東京大学〈博士論文(甲第5448号)〉、1981年3月30日。
- ^ 佐々木健「高性能超音波センサシステムの開発とロボットの外界認識への応用に関する研究」東京大学 工学博士, 乙第8540号、1987年、NAID 500000051503。
- ^ 井上健司「ロボットマニピュレータの総合設計システムに関する研究」東京大学 博士 (工学),乙第11266号、1993年、NAID 500000119446。
- ^ 朴勇進『ロボットの基本的な運動パターンの学習制御に関する研究』東京大学〈博士学位論文(甲第10218号)〉、doi:10.11501/3100746、NAID 500000118863、1993年7月15日。
- ^ 青柳誠司『超音波センサによるロボットの3次元位置・姿勢計測システムの開発研究』 東京大学〈博士学位論文(乙第11595号)〉、1994年2月10日、doi:10.11501/3082168、NAID 500000119775。
- ^ 関啓明「ニューラルネットワークによるロボットの作業対象物の運動拘束認識に関する研究」東京大学 博士 (工学), 甲第11589号、1996年、NAID 500000148005。
- ^ a b c 関西大学システム理工学部機械工学科 ロボット・マイクロシステム研究室「研究所・研究室紹介 ロボットとMEMSの研究と,将来的なそれらの融合を目指す」『精密工学会誌』第77巻第3号、2011年、280-281頁。
- ^ 高野 2004, p. 270.
- ^ 井上健司、高野政晴、佐々木健「感度を利用した動力学に基づくロボット構造の最適設計システム」、『日本ロボット学会誌』第9巻第1号、1991年、18-28頁。
- ^ 井上健司、椎名建一、高野政晴、佐々木健「ロボットマニピュレータの総合設計システムに関する研究」、『日本ロボット学会誌』第14巻第5号、1996年、710-719頁。
- ^ 森山和道 (2017年3月14日). “豆蔵+東京農工大、産業用ロボットの短期間設計手法を実現 ―誰でも高精度ロボットアームが作れる時代が到来―”. Tech Note. iPROS. 2017年9月9日閲覧。
- ^ 高野政晴 (2001年4月4日). “ロボット評論 (2) 日本におけるロボット研究の流行(2001.4.4)”. 高野政晴HomePage. 2016年9月4日閲覧。『高野政晴退官記念論文集』にも同じ記述がある。
- ^ a b 高野 2004, 謝辞.
- ^ 白鳥正樹「「海外の機械工学」私の薦める一冊」、『日本機械学会誌』第110巻第1063号、2007年、452-453頁。
- ^ a b c d “平成28年秋の叙勲(瑞宝中綬章)”. 平成28年秋の叙勲受章者名簿. 内閣府. 2017年9月8日閲覧。
- ^ a b c 杉原知道「逆運動学の数値解法」、『日本ロボット学会誌』第34巻第3号、2016年、167-173頁。
- ^ a b 土居範久「国立計算機科学高等研究所の設立に向けて」『コンピュータ ソフトウェア』第14巻第1号、1997年、66-67頁、doi:10.11309/jssst.14.1_64。
- ^ a b 「自動制御研究連絡委員会報告―メカトロニクス教育と研究への提言―」日本学術会議 自動制御研究連絡委員会(1997年6月20日) 2017年9月9日閲覧。
- ^ 高野 1967.
- ^ 高野 1978.
- ^ “機械運動学”. CiNii図書. 国立情報学研究所. 2018年5月5日閲覧。
- ^ a b Jorge Angeles (2003). Fundamentals of Robotic Mechanical Systems. Theory, Methods, Algorithms, second Edition. Mechanical Engineering Series. Springer, New York. pp.123-124, ISBN 0-387-95368-X
- ^ a b “学会の賞”. 精密工学会. 2017年9月9日閲覧。
- ^ 特開平5-245783(特願平4-80527)
- ^ a b “特許 超音波によるロボットの3次元位置・姿勢計測装置及びその計測方法”. 特許情報. j-platpat. 2022年3月10日閲覧。特許公報(特許第3101099号)。
- ^ a b 高野 2004, pp. 119–122.
- ^ a b c “過去の「論文賞(含む特別賞)」一覧(平成14年から平成23年)”. FA財団. 2017年9月9日閲覧。
- ^ 特許公報(特許第3241564号「通常車輪型全方向移動ロボットの運動制御のための制御装置および方法」)
- ^ “技術 走行車”. 技術情報. j-platpat. 2022年3月10日閲覧。公開特許公報(特開平06-092272号)。
- ^ 高野 1991b.
- ^ “歴代会長・副会長”. 学会概要. 精密工学会. 2018年5月6日閲覧。
- ^ 高野 2004, 著者紹介.
- ^ “技術 指の動作計測システム”. 技術情報. j-platpat. 2022年3月10日閲覧。公開特許公報(特開2002-065641号)。
- ^ 高野 2004, 著者略歴.
- ^ 高野 1986, p. 400.
- ^ “ロボット・モーション : 計画と制御 2 (HBJ出版局) : 1985”. 書誌詳細. 国立国会図書館サーチ. 2018年5月5日閲覧。
- ^ “電子機械応用”. CiNii図書. 国立情報学研究所. 2018年5月5日閲覧。
関連文献
編集- Takano, Masaharu (1986). “Takano Laboratory, Department of Precision Machinery Engineering, Faculty of Engineering, University of Tokyo”. Advanced Robotics (Taylor & Francis) 1 (3): 285-288. doi:10.1163/156855386X00184 .
外部リンク
編集- 高野政晴HomePage
- 高野政晴 - CiNii Research
- Masaharu Takano - DBLP Bibliography Server