高橋虫麻呂
概要
編集『万葉集』巻9に、虫麻呂作の「検税使大伴卿登筑波山時歌」(長歌1首・短歌1首)がある。この「大伴卿」を大伴旅人に比定する説によれば、養老3年(719年)頃に虫麻呂が常陸国にいたこととなり、当時の常陸守・藤原宇合の下僚であった可能性が論じられてきた。しかし、検税使の史料初出が『撰定交替式』によると天平6年(734年)であることから、養老3年まで遡れないとする考え方や、加えて『万葉集』の当該作品の前に天平3年(731年)の歌が配列されていることからも、虫麻呂の作品を天平6-7年のものとして、「大伴卿」を大伴道足や大伴牛養に比定する説もある。
『万葉集』に34首の作品が入集し、そのうち長歌が14首・旋頭歌が1首である。巻6の2首目からは「虫麻呂の歌(=高橋連虫麻呂歌集)の中に出ず」として載せている(巻6の1首目は笠金村の歌)。下総国真間(現在の千葉県市川市)の手児奈(てこな)の歌や、摂津国葦屋(現在の兵庫県芦屋市)の菟原処女(うないおとめ)の歌など、地方の伝説や人事を詠んだ歌が多い。虫麻呂が歌に詠んだ地域は、常陸国から駿河国にかけての東国と、摂津国・河内国・平城京などである。