静岡2女性殺害事件
概要
編集2005年10月頃、静岡県駿東郡清水町のリフォーム業の男K(当時39歳)は約990万円の債務返済を免れるため、当時、不倫関係にあった交際相手の女性A(当時22歳)を静岡県沼津市西椎路の自宅アパート室内で首を絞めて殺害。その後、Aの預金口座から数回にわたり現金計約2000万円を不正に引き出した。Aの遺体はしばらくは自宅に保管していたが、2006年1月頃に青いビニールシートでくるんでドラム缶に入れた後、静岡県沼津市東原の空き地に隠匿した[1]。 2005年の終わりごろからAと家族が連絡が取れなくなり行方不明になった。家族は2006年に捜索願を静岡県警察本部御殿場警察署に提出。しかし、この当時は足取りが全く掴めなかった。
その後、Kは妻と別れて女性Bと再婚。しかし、2010年2月23日に静岡県駿東郡清水町久米田の自宅でB(当時25歳)を殺害して遺体を御殿場市の空き家に捨てた[2]。Bの家族は静岡県警察本部大仁警察署に捜索届を提出。
2010年3月5日に振り込め詐欺の手口で女性から100万円近くを騙し取ったとして詐欺容疑でKが逮捕された[3]。その後、Kは詐欺罪で起訴された[4]。Kが起訴された後、静岡県御殿場市萩原にある物置小屋で青いビニールシートで包まれたBの遺体が発見された[4]。そして、同年6月18日にKを女性Bの殺人、死体遺棄罪で起訴した[5]。
2010年8月12日、Kの「遺体をドラム缶に入れ、静岡県沼津市内に遺棄した」との供述に基づき捜索した所、沼津市東原の空き地にあったドラム缶から、青いビニールシートにくるまれ一部が白骨化していたAの遺体が発見された[6]。
裁判経過
編集当初、2011年3月14日に初公判が予定されていたが、東日本大震災に伴う計画停電による影響で公判が全て延期となった[9][10]。その後、同年6月13日〜6月21日の期間で公判日程が再度設定された[11]。
2011年6月13日、静岡地裁沼津支部(片山隆夫裁判長)で裁判員裁判による初公判が開かれ、Kは起訴内容を認めた[12]。
2011年6月15日、検察側は「犯行は強固な殺意に基づき、冷酷かつ残虐。遺族も極刑を望んでいる」と女性の遺族の処罰感情も踏まえた上で「生命をもって罪の償いをさせなければいけない」として裁判員裁判での全国9例目となる死刑を求刑した[13]。弁護側は起訴内容については大筋で認めて事実関係についての争いはなかったが、被告が犯行当時に前科がなかったことなどから無期懲役とするように求めた[13]。最終意見陳述でKは「ご遺族の気持ちが晴れることは絶対にないが、死刑になってそれがかなうのであれば、自分にはふさわしいと思う」と涙ながらに述べ、傍聴席の遺族に向かって頭を下げた[14]。
2011年6月21日、判決公判が開かれ、Kに求刑通り死刑を言い渡した。裁判員裁判での死刑判決は全国で7例目で静岡地裁では初[15][16]。判決では一連の犯行について「殺害方法はいずれも残虐で、動機も身勝手極まりない」と指摘した[15]。また、弁護側が主張した情状酌量については「更生の可能性がないとまではいわないが、格別有利な情状とはいえず、採用できない」として情状酌量を認めなかった[16]。 その上で女性の遺体を遺棄、金品を奪うなどした行為は非人間的として「責任は重大で、極刑をもって臨むほかない」と結論づけた[15]。弁護側は判決を不服として即日控訴した[15]。
2012年7月10日、東京高裁(山崎学裁判長)は「強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐な犯行で、一審判決が重すぎて不当とは言えない」としてK側の控訴を棄却した[17]。 判決では「被告は好き勝手な女性関係を続け、都合が悪くなると邪魔者とみて殺害した。動機は身勝手で短絡的だ」と指摘した[17]。同年7月23日、K側は判決を不服として最高裁へ上告した[18]。
2014年12月2日、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)はK側の上告を棄却する判決を言い渡した[19]。この判決によりKの死刑が確定した。弁護側は「計画性はなかった」などと死刑回避を求めたが、第三小法廷は「殺害が計画的でないことや、反省を示している点などを考慮しても、刑事責任は重大で死刑を認めざるを得ない」と判断した[19]。
脚注
編集- ^ “男はなぜ、元交際相手の遺体入りドラム缶を放置したのか…犯行から浮かび上がる未熟な精神構造(1/5ページ)”. MSN産経ニュース. (2010年8月22日) 2011年2月4日閲覧。
- ^ “男はなぜ、元交際相手の遺体入りドラム缶を放置したのか…犯行から浮かび上がる未熟な精神構造(2/5ページ)”. MSN産経ニュース. (2010年8月22日) 2011年2月6日閲覧。
- ^ 『読売新聞』2010年4月17日 静岡 東京朝刊 静岡31頁「地検職員装い詐欺容疑の2人逮捕=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 『朝日新聞』2010年5月9日 朝刊 1社会35頁「遺棄容疑、元夫を逮捕 殺害認める供述 静岡・御殿場の遺体」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2010年6月19日 静岡 東京朝刊 静岡31頁「御殿場の死体遺棄 前夫を殺人で起訴 裁判員裁判に=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ “妻殺害の被告「別の女性遺棄」供述通り遺体発見”. 日本経済新聞. (2010年8月12日). オリジナルの2024年11月28日時点におけるアーカイブ。
- ^ “妻殺害の被告を再逮捕 元交際相手も殺害の疑い”. 日本経済新聞. (2010年8月13日). オリジナルの2024年11月28日時点におけるアーカイブ。
- ^ 『読売新聞』2010年9月3日 静岡 東京朝刊 静岡29頁「裁判員裁判 元交際相手強殺 死刑求刑も 被告追起訴 妻殺害と併合審理=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2011年3月14日 静岡 東京朝刊 静岡17頁「妻ら2人殺害 求刑争点 裁判員裁判、きょう初公判=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2011年3月15日 全国版 東京朝刊 2社30頁「計画停電 被災地も 千葉・茨城 医療や信号 機能不全「どうして」怒りの声」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2011年3月29日 静岡 東京朝刊 静岡25頁「強殺公判 6月13〜6月21日に 計画停電で延期 死刑求刑も=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2011年6月13日 全国版 東京夕刊 夕2社14頁「交際女性と妻殺害 起訴事実認める 初公判」(読売新聞東京本社)
- ^ a b “静岡・女性2人殺害:被告に死刑求刑--裁判員裁判”. 毎日新聞. (2011年6月16日) 2011年6月21日閲覧。
- ^ 『朝日新聞』2011年6月16日 朝刊 静岡・1地方29頁「裁判員に重い選択 女性2人殺害公判、死刑求刑 21日判決、評議は4日間 /静岡県」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b c d “交際女性と妻殺害に死刑 裁判員裁判7例目”. 日本経済新聞. (2011年6月21日). オリジナルの2018年4月9日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “死刑判決7例目 静岡の裁判員裁判、2女性殺害の被告に”. MSN産経ニュース. (2011年6月21日) 2011年6月25日閲覧。
- ^ a b “静岡の女性2人殺害、二審も死刑 東京高裁”. 日本経済新聞. (2012年7月10日). オリジナルの2015年4月2日時点におけるアーカイブ。
- ^ 『読売新聞』2012年7月24日 静岡 東京朝刊 静岡35頁「死刑判決の被告上告 女性2人殺害事件=静岡」(読売新聞東京本社)
- ^ a b “静岡の2女性殺害、死刑確定へ 最高裁が上告棄却”. 産経新聞. (2014年12月2日) 2018年2月23日閲覧。
- ^ 年報・死刑廃止 2021, p. 235.
- ^ 年報・死刑廃止 2021, p. 232.