ロシアと朝鮮の関係
ロシアと朝鮮の関係(ロシアとちょうせんのかんけい、ロシア語: Российско-корейские отношения)は、ロシア(ソビエト連邦を含む)と朝鮮(李氏朝鮮、日本統治時代の朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国を含む)の関係を述べる。
概要
編集ロシアと朝鮮の関係は、李氏朝鮮が清の命令でロシア・ツァーリ国との戦いに参加させられたことに始まる。朝鮮ではこれを羅禅征伐という。19世紀になると国境を越えて朝鮮人が沿海州に移住し始め、これを高麗人と称するようになる。19世紀末から20世紀初めには、朝鮮は大日本帝国、清、ロシア帝国の勢力争いの場となった。一時期、朝鮮で親露派が権力を握り、高宗がロシア公使館に居住する(露館播遷)という異常事態となる。その後、日露戦争の結果、日本が朝鮮を併合した。日本統治時代の朝鮮から逃れて、ソ連に逃げ込んだ朝鮮独立運動の武装勢力(義兵)が、「イルクーツク派」、「上海派」などに分裂して主導権争いを起こした後、武装解除を求めるソ連の赤軍と対立して壊滅させられた。これを自由市惨変という。また1930年代には、ヨシフ・スターリンの政策によりカザフスタンなどの中央アジアに強制移住させられた。
第二次世界大戦の後、ソ連は朝鮮の北半分を占領し、抗日パルチザンの金日成を送り込んで朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を建国、更に朝鮮戦争が勃発する。その後、朝鮮労働党内部の権力争いである8月宗派事件でソ連派は粛清された。ソ連と大韓民国は対立関係が続いていたが、1990年に国交を樹立した。一方、冷戦中はソ連が北朝鮮を援助していたが、90年代からKGBによる北朝鮮クーデター陰謀事件などでほぼ停滞し、ソ連崩壊後に新たに成立したロシア連邦は北朝鮮よりソ連時代に関係正常化した韓国を重視するようになった[1]。国際連合安全保障理事会決議1718から国連での北朝鮮への経済制裁にも度々賛成して北朝鮮から中国とともに「米国に追従した」などと批判されている[2][3][4][5][6][7]。1996年に更新されなかったソ朝友好協力相互援助条約の代わりとして2000年にロ朝友好善隣協力条約を結んでからは南北等距離外交を行うも軍事同盟の条項は削除された。韓国軍はT-80の供与など経済借款返還によりロシアの軍事協力も受けている。大韓民国はロシアの協力でロケット羅老を打ち上げ、2回失敗してから3回目に成功した。
2022年ロシアのウクライナ侵攻が開始されると、ロシアが北朝鮮に対して弾薬などの提供を打診したとの報道がなされた[8]。北朝鮮側は否定したが[9]、2023年に入るとウクライナの前線では北朝鮮製の武器が一部で出回り始めた[10]。2023年9月13日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記による首脳会談が行われ、ロシア側からは軍事協力の可能性、北朝鮮側からは人工衛星の開発支援などが提案された[11]。翌月には、露朝国境の豆満江駅に過去に例をみない規模の貨物列車の到着が確認されたことから、武器輸出が行われたとの報道がなされた[12]。2024年6月19日、プーチン大統領と金正恩総書記が平壌で首脳会談し、有事の際に相互支援することなどが盛り込まれたロ朝戦略的パートナーシップ条約に署名した[13][14]。ここにきて、ロシアはそれまでの韓国よりも北朝鮮を最重視するようになったといえる。
歴史
編集- 1654年 第1次羅禅征伐
- 1658年 第2次羅禅征伐
- 1860年 ロシアと清の北京条約で沿海州がロシア領となり、ロシアと朝鮮が接するようになる
- 1884年 露朝修好通商条約
- 1885年 露朝密約事件
- 1888年 露朝陸路通商条約
- 1896年 露館播遷、山縣・ロバノフ協定
- 1898年 西・ローゼン協定
- 1904年 日露戦争
- 1921年 自由市惨変
- 1945年 ソ連が朝鮮半島の北部(現在の北朝鮮)にソビエト民政庁が発足
- 1948年 朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国が建国を宣言。ソ連は北朝鮮とのみ国交を樹立
- 1950年 朝鮮戦争勃発
- 1953年 朝鮮戦争休戦
- 1956年 朝鮮民主主義人民共和国でソ連派が粛清される
- 1961年 ソ朝友好協力相互援助条約
- 1978年 大韓航空機銃撃事件
- 1983年 大韓航空機撃墜事件
- 1988年 ソ連がソウルオリンピックに代表選手団を派遣
- 1990年 ソ連と大韓民国が国交樹立
- 2000年 ロ朝友好善隣協力条約
- 2003年 六者会合 アメリカ、北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシア
- 2023年 露朝首脳会談
- 2024年 露朝首脳会談、ロ朝戦略的パートナーシップ条約
大韓民国とロシアのミサイル開発
編集- 2009年 羅老1号打ち上げ失敗
- 2010年 羅老2号打ち上げ失敗
- 2012年 羅老3号打ち上げ成功
出典
編集- ^ 李述森「ロシアの朝鮮半島政策」
- ^ “北朝鮮が中国、ロシアを「米国におじけづいた」と非難”. Sputnik (2017年8月6日). 2017年12月30日閲覧。
- ^ 北朝鮮がまたまた中国を非難Yahoo!ニュース 2017年8月25日
- ^ 露も北朝鮮との金融取引全面停止 米メディア報道 スイスも資産凍結、口座閉鎖 アジアプレス・インターナショナル2016年5月20日
- ^ 中国とロシア、北朝鮮の貨物船4隻の入港を拒否=韓国ネット「北朝鮮が滅びる日も遠くない」「中国とロシアが国連決議をちゃんと守れば…」 Record China2016年3月8日
- ^ ロシア、北朝鮮への燃油輸出を中止か? デイリーNK2016年5月20日
- ^ 「北制裁決議:北朝鮮の外交官、「血盟」ベトナムでも追放」 朝鮮日報2016年4月29日
- ^ “ロシア、北朝鮮の弾薬調達 米高官「数百万発の可能性」”. 日本経済新聞 (2022年9月7日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “北朝鮮「ロシアに兵器は売らない」の本当の意味”. 東洋経済オンライン (2022年10月5日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “ウクライナ、北朝鮮製ロケット弾使用か 弾薬不足で”. 日本経済新聞 (2023年7月9日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “金総書記とプーチン大統領が4年ぶり会談 軍事協力の「可能性」を協議”. BBC (2023年9月4日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “「豆満江駅に73両の貨物列車…北朝鮮、ロシアに弾薬提供の情況」”. 中央日報 (2023年10月9日). 2023年10月9日閲覧。
- ^ “「攻撃に対して相互援助」 ロ朝が条約に署名 プーチン大統領が言及”. 朝日新聞. (2024年6月19日) 2024年6月20日閲覧。
- ^ “ロシアと北朝鮮、「有事の際に相互支援」の条約締結”. CNN. (2024年6月19日) 2024年6月20日閲覧。
関連項目
編集- ソビエト連邦の外交関係#朝鮮半島
- 朝鮮民主主義人民共和国の国際関係#ロシア
- 大韓民国の国際関係#ロシア及びソビエト連邦
- 南北等距離外交#ソ連・中国の朝鮮半島政策
- 鹿屯島:豆満江の河口にある島
- カール・イバノビッチ・ヴェーバー
- 高麗人
- 露朝国境
- 北朝鮮クーデター陰謀事件