阪神3000系電車(はんしん3000けいでんしゃ)は、阪神電気鉄道1983年に導入した優等列車用の電車で、赤胴車と呼ばれる急行系車両の形式である。7801・7901形3521形による3両編成を種車に、制御装置を抵抗制御から界磁チョッパ制御に更新改造して登場した[1]

阪神3000系電車
3101 1985年 今津駅付近(地上駅時代)
基本情報
運用者 阪神電気鉄道
製造所 川崎車輛汽車製造武庫川車両工業
種車 7801・7901形3521形
製造年 1963年 - 1969年
改造年 1983年 - 1989年
改造数 36両
引退 2003年3月14日
主要諸元
編成 3両編成 (2Ⅿ1T)
軌間 1,435 mm
電気方式 直流1,500V
架空電車線方式
最高運転速度 110 km/h
車両定員 先頭車140名 中間車150名
自重 36.5 t (制御電動車)
35.0 t (中間電動車)
30.5 t (制御車)
全長 18,880 mm
全幅 2,800 mm
全高 4,106 - 4,163 mm (先頭車)
4,065 mm (中間車)
台車 FS341・341T
主電動機 東洋電機製造製TDK-8175-A
主電動機出力 110 kW × 4基
駆動方式 中空軸平行カルダン駆動方式
制御方式 界磁チョッパ制御
制動装置 HSC-R回生併用電磁直通ブレーキ
抑速ブレーキ
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概要

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1973年1979年の2度のオイルショックによって省エネルギーの機運が高まり、阪神では駅間距離が短く加減速の頻度が高い普通系車両(ジェットカー)で回生ブレーキ付きの電機子チョッパ制御を採用し、30%の高い回生率を達成した[2]。しかし急行系車両では加減速が少なく、高速走行によりブレーキ初速も高いため、電機子チョッパ制御では省エネ効果が不十分と判断された[3]。このため、価格面で有利な界磁チョッパ制御を急行系車両で採用することとなった[4]

改造種車は、経済車の7801・7901形3521形である[2]。3521形は単車走行が可能な片運転台の増結車であったが、冷房改造の際に床下スペースの関係から冷房電源が搭載できなかったため[1]、7901形に搭載した大容量の110kVAのMGから給電を受ける形を取り、3521形の12両は7801・7901形7801-7901から7912-7812までの2両×12ユニットとの3両固定編成となっていた[5]

普通系車両の代替新造が一段落した1983年より、この3両編成を回生・抑速ブレーキ付きの界磁チョッパ制御車に更新改造することとなり、3000系として登場した[1]。1983年9月に3101Fと3102Fの2本が竣功し、1年に1 - 2編成のペースで改造が行われ、1989年7月に3111が登場して全編成の改造が完了した。

従来の阪神の車両は、車両形式に関係なく複数形式の併結運転が可能であったため、「系」の区分を持たず「形」のみで示していたが、3000系は同一系列だけでの編成を前提にしたことから、阪神で初めて「系」の呼称が付くようになった[2]。以後、阪神の新形式車は1986年3801・3901形を改造して登場した8701・8801・8901形7890・7990形を除いて「系」で呼ばれている[2]

改造内容

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編成構成

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編成は梅田方から3101 (Mc) - 3001 (M') - 3201 (Tc) で[5]、種車のMc-T-Mc編成とは異なり、中間車を電装改造して神戸方先頭車の電装を解除することでMM'ユニットを組むこととなり、制御装置の改造に併せて回生ブレーキも搭載し性能の向上・省電力化・保守の省力化を図った[6][7]

編成中の7901形全車に電装改造を実施して中間電動車の3001形としたが、3101形と3201形については、大阪方の7801形、3521形の奇数車とも制御電動車の3101形とし、神戸方の3521形・7801形偶数車の電装を解除して制御車3201形とした。パンタグラフはMc車の3101形に搭載されたほか、電装解除したTc車の3201形にも回生ブレーキ作動時の離線対策として種車のものが存置された[5][8]

連結器は運転台側がバンドン式、編成中間が棒連結器となっている[2]

外観・内装

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外観については大きな変化はなく、3521形後期車から改造された車両[9]は前面の雨樋が埋め込まれているほか、車体断面や冷房装置取り付け高さも7801形および3521形前期車から改造された車両と異なっている。種車が奇数・偶数で向きが異なっていたため、中間車の3001形は奇数車・偶数車で戸袋の位置が逆になっている[4]

内装は荷物棚が網棚からパイプ製のものに交換されたほか、化粧板も従来の青系から7001・7101形以降で採用された緑系の格子柄に変更された[8]。1987年改造の3107F以降6編成の内装は、8000系と同じベージュ系の化粧板に更新された[6]。3111Fと3112Fは化粧板を客室のみベージュ系に更新し、乗務員室は従来の緑系のまま存置された。

主要機器

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主電動機は、東洋電機製造製の直流複巻整流子電動機であるTDK-8175-A(1時間定格出力110kW)に換装した[8]。制動装置は回生ブレーキ併用のHSC-Rに換装され、制御装置は三菱電機製の界磁チョッパ制御装置であるFCM-118-15-MRHを3101形に装備した[8]

補助電源装置は7901形が搭載していた110kVAのCLG-350-Mを、改造後も3001形に継続して装備し、空気圧縮機は7901形から流用したDH25-DまたはM-20-Dを3201形に2基搭載したが、3207以降はC-2000-Mに換装された[8]

台車は種車の住友金属工業FS-341およびFS-341Tを流用、3001形は3201形になる7801形・3521形にFS-341Tを譲り、自車は逆にFS-341に換装した[8]。いずれの台車も鋳造式である[8]

改番対照表

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7801形1次車および3521形から3000系への改番は下表の通り[10]。3011と3012は2代目で、3011形とは無関係。

3000系新旧車両番号対照表
新/旧
梅田
元町
備考
新車種
(旧車種)
クモハ

Mc
(クモハ) (Mc)

モハ

M'
(サハ) (T)

クハ

Tc
(クモハ) (Mc)

クモハ

Mc
(クモハ) (Mc)

モハ

M'
(サハ) (T)

クハ

Tc
(クモハ) (Mc)

新番号
(旧番号)
3101
(7801)
3001
(7901)
3201
(3522)
3102
(3521)
3002
(7902)
3202
(7802)
3103
(7809)
3003
(7909)
3203
(3530)
3104
(3527)
3004
(7908)
3204
(7808)
3105
(7803)
3005
(7903)
3205
(3524)
3106
(3531)
3006
(7912)
3206
(7812)
3107
(7805)
3007
(7905)
3207
(3526)
3108
(3523)
3008
(7904)
3208
(7804)
3109
(7807)
3009
(7907)
3209
(3528)
3110
(3525)
3010
(7906)
3210
(7806)
3111
(7811)
3011
(7911)
3211
(3532)
3112
(3529)
3012
(7910)
3212
(7810)

運用の変遷

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登場後は急行系運用に幅広く投入された。多くの優等列車運用では本系列3両×2本で6両編成を組んで運用されていたが、当時は急行・準急運用の一部に5両編成が残っていたため、本系列に3501形2両や7801形・7861形2両を併結して5両編成を組成して運行されることもあった。7801形や7861形と併結する場合、3000系の回生ブレーキは作動するが、抑速ノッチは作用しなかった[2]。また、1986年から1993年にかけては7801形と7861形で3両ユニットを組んだ編成とも6両編成を組んで運用されていた。

本線の急行系運用が全て6両編成化されると、以後は3両編成2本を連結した事実上の6両固定編成となり、中間に入った先頭車同士の幌は中間車用の1枚幌に換装された[4]。このほか、3102F+3101Fの編成以外は大阪方に奇数番号の編成+神戸方偶数番号の編成で6両編成を組成したことから、3102・3201の2両を除いて旧3521形改造の先頭車はすべて中間に入り、雨樋を埋め込んだ後期車からの改造車も営業運転時に先頭車として運用されることはなくなった。この他、時期は不明であるが3201 - 3206に搭載の空気圧縮機を3207以降と同じC-2000-Mに換装している[8]

阪神・淡路大震災

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1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により、3000系は2編成12両が被災した[4]。被災編成とその後の経過については以下の通り。

  • 3103F+3104F
    石屋川車庫12番線において脱線。大阪市西淀川区に設けられた仮設の車両置き場搬出後、尼崎車庫に搬送の上修繕、3103Fが6月14日に、3104Fが6月26日に復旧した[11]
  • 3109F+3110F
    石屋川車庫6番線において脱線。仮設の車両置き場搬出後、3月31日付で廃車[11]

廃車

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3000系は6両編成で本線の特急・急行などで運用されていたが、阪神梅田 - 山陽姫路間の直通特急運転開始後は運用の幅が狭まった[1]1998年2月の直通特急運転開始に伴うダイヤ改正によって急行系車両の運用減少により、3102F+3101Fおよび3103F+3104Fが2月13日に運用を離脱[12]5500系5505F・5507F・5509Fに置き換えられて2月16日付で廃車された。

2001年以降9300系の新造に伴って再び置き換えが始まり[13]、3105F+3106Fが9501Fに代替されて同年3月31日付で廃車され、この時点で3000系は6両編成2本の12両が残るのみとなった[14]。残る編成も3107F+3108Fが9503Fの代替新造に伴って2002年3月31日付で廃車、最後に残った3111F+3112F[15]も9505Fの登場により2003年3月14日の運用を最後に営業運行を終了[16]、直後の3月16日付で廃車され、3000系は形式消滅となった[1]

編成表

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登場時

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1989年9月20日現在[17]

← 梅田
元町 →
改造竣工
クモハ

Mc

モハ

M'

クハ

Tc

3101 3001 3201 1983年9月1日[18]
3102 3002 3202 1983年3月30日[18]
3103 3003 3203 1984年8月4日[18]
3104 3004 3204 1984年9月29日[18]
3105 3005 3205 1985年12月24日[18]
3106 3006 3206 1986年6月9日[18]
3107 3007 3207 1987年9月28日[18]
3108 3008 3208 1987年8月3日[18]
3109 3009 3209 1988年6月2日[18]
3110 3010 3210 1988年7月15日[18]
3111 3011 3211 1989年7月18日[18]
3112 3012 3212 1989年5月16日[18]

6両固定化後

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震災の前日、1995年1月16日現在[19]

← 梅田
元町 →
廃車
クモハ

Mc

モハ

M'

クハ

Tc

クモハ

Mc

モハ

M'

クハ

Tc

3102 3002 3202 3101 3001 3201 1998年2月16日[18]
3103 3003 3203 3104 3004 3204
3105 3005 3205 3106 3006 3206 2001年3月31日[18]
3107 3007 3207 3108 3008 3208 2002年3月31日[18]
3109 3009 3209 3110 3010 3210 1995年3月31日[18]
3111 3011 3211 3112 3012 3212 2003年3月16日[18]

脚注

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  1. ^ a b c d e 小松克祥「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、電気車研究会。40頁。
  2. ^ a b c d e f 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、191頁。
  3. ^ 塩田・諸河『日本の私鉄5 阪神』104頁。
  4. ^ a b c d レイルロード『サイドビュー阪神』22頁。
  5. ^ a b c 塩田・諸河『日本の私鉄5 阪神』64頁。
  6. ^ a b 塩田・諸河『日本の私鉄5 阪神』65頁。
  7. ^ 飯島・小林・井上『私鉄の車両21 阪神電気鉄道』56頁。
  8. ^ a b c d e f g h 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、192頁。
  9. ^ 3104・3106・3112・3203・3209・3211の6両。
  10. ^ 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、193頁。
  11. ^ a b レイルロード『サイドビュー阪神』126頁。
  12. ^ 3000系初期車が引退 まにあっく・阪神 1998年2月(ウェブアーカイブ)
  13. ^ 引退迫る3000系3105 - 3206 まにあっく・阪神 2001年1月(ウェブアーカイブ)
  14. ^ 3000系3105-3206引退 まにあっく・阪神 2001年4月(ウェブアーカイブ)
  15. ^ 3000系力走中 まにあっく・阪神 2002年7月(ウェブアーカイブ)
  16. ^ 3000系が引退 まにあっく・阪神 2003年3月(ウェブアーカイブ)
  17. ^ 塩田・諸河『日本の私鉄5 阪神』142頁。
  18. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 「阪神電気鉄道 現有車両履歴表」『鉄道ピクトリアル』2017年12月臨時増刊号、電気車研究会。287頁。
  19. ^ レイルロード『サイドビュー阪神』124頁。

参考文献

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  • 飯島巌・小林庄三・井上広和『復刻版 私鉄の車両21 阪神電気鉄道』ネコ・パブリッシング、2002年(原著1986年、保育社)。
  • 塩田勝三・諸河久『カラーブックス 日本の私鉄5 阪神』1989年、保育社。
  • 阪神電車鉄道同好会「私鉄車両めぐり (157) 阪神電気鉄道」『鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号、電気車研究会。180-207頁。
  • レイルロード編『サイドビュー阪神』1996年。