金玉 (俗語)
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金玉(きんたま、きんだま[1])は、一般的に哺乳類の雄(ヒトでは男性)が持つ睾丸を表す俗語である。倒語の「たまきん」も広く普及している。器官としての精巣については「精巣」の項を参照。
概要
編集遅くとも江戸時代には用例が見られる[2]。古くは陰茎なども含めた男性器を表す言葉であったが、時代が下るにつれて精巣のみを指すようになった[3]。陰嚢は広義では金玉に含まれ、狭義では金玉袋として区別される[4]。
倒語の「たまきん」が使用される場合も多い。名前が「たまき」の人物を揶揄する意味で「たまきん」というあだ名がつけられることもある[5]。
語源
編集語源には諸説あるが、どれも推測の域を出ない。1590年(天正18年)の用字集『節用集』に仮名でキンタマとあることから、金玉は当て字と考えられる。
- 「キノタマ(酒の玉)」ここでの酒はどぶろく。外見がどぶろくに類似する液体を作る玉[3]。阿刀田高も、『ことばの博物館』のなかでこの説を唱えている[6]。
- 「キノタマ(気の玉)」宇宙の動きや心の動きの原因たる根本としての「気」[7]
- 「イキノタマ(生の玉)」生命の玉[8]。昭和の国語辞典『大言海』にもこの説が記載されている[9]。
- 「キビシタマ(緊玉)」命に関わる玉[10]
- 「キモダマ(肝玉)」新村出による説[11]。また、井上章一も「肝っ玉が小さい」と「金玉が小さい」の意味の類似から同様の説を唱える[12]。
その他、大切なものであるから貴金属のゴールドの名を冠した、という説がある。なお、金色だから金玉というのは誤り(精巣は赤褐色)[13]。
類語
編集ことわざ・慣用句
編集- 「狸の金玉 八畳敷き」
- 「蚤の金玉」小さい物を表す。「蚤の金玉八つ切り」あるいは「蚤の金玉八つ割り」のように使用される。同義語に「蚤の心臓」がある。
- 「金玉が縮み上がる」恐怖で震え上がる様。
放送禁止用語
編集大半の放送メディアが放送禁止用語に認定しているとされるが、例外も散見される。
ザ・ドリフターズのコント番組では加藤茶、志村けんなど児童に扮したボケ役が用いることがある。また、志村けんのコント番組では成人に扮した演者が使用した場合でもカットせずに放送されていた。たとえば、文脈から判断する限り「たのきんトリオ」というべきところ、「たまきんトリオ」とボケている[17]。どちらもゴールデンタイムに放送された子供向けコント番組である。
深夜番組『北野ファンクラブ』の替え歌コーナーでは、ビートたけしらが扮するバンド「亀有ブラザーズ」が、『ザ・ヒットパレード』のテーマソング「Hit Parade、Hit Parade、みんなのHit Parade」を「引っ張れ、引っ張れ、たまきん引っ張れ」と歌った。
アニメ『おぼっちゃまくん』では、「茶魔語」と呼ばれるギャグ表現で「ありがとう」をもじった「ありがたまきん」が使用されていた[18]。
2016年東京都知事選挙の政見放送で、候補者の後藤輝樹が「金玉」と発言した部分をNHKがカットして放送した。NHK側は「公職選挙法をふまえて、過去の判例をもとに、選挙管理委員会の見解も参考にした上で削除をしたのであり、放送禁止用語だからという短絡的な理由ではない」と説明した[19]。この対応について後藤は、再度出馬した2020年東京都知事選挙の政見放送で批判声明を出した[20]。(関連項目:政見放送削除事件#その後の政見放送削除)
2019年の映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』では不妊治療をする主人公が「だめ金玉」と揶揄される描写があり、主演の松重豊は記者会見で放送禁止用語ではないと主張した[21]。
ロンパールーム金玉事件
編集昭和時代の子供向け番組『ロンパールーム』に出演した幼児が「き」で始まる言葉をいうゲームで「金玉」と発言し、言い直しを促されてもなお「綺麗な金玉」と答えたため急遽CMに移り、再開後にその幼児の席にクマのぬいぐるみが置かれていたという言い伝えがある。
狸の金玉
編集擬人化あるいはキャラクター化されたタヌキの代名詞として巨大な金玉が描写されることが多い。例、化け狸、信楽焼の狸の置物など。
大きく広がった物を意味する「狸の金玉 八畳敷き」という慣用句も存在する。これは金箔を製造する際、タヌキの陰嚢の皮を使用すると1匁(3.75グラム)の金から畳8畳分の金箔が得られるという俗説に由来する[22]。
浮世絵にも多く残されており、特に歌川国芳の一連の作品が知られる。
替え歌
編集賛美歌『まもなくかなたの』[23]の替え歌として春歌『たんたんたぬき』(あるいは『たんたんたぬきの』)が知られる。
替え歌の普及時期は不明。明治期に賛美歌を原曲とする唱歌経由で普及したとする説[24]や、賛美歌を引用したとされる1937年発売のヒット曲『タバコやの娘』の替え歌説もある。
全国各地で伝承されており、出だしの歌詞「たんたんタヌキの金玉は風もないのにぶ~らぶら」はほぼ一致するが、後半の歌詞の相違が発生している。後半部分がなく、出だしの歌詞で完結するバージョンもある。
古くは「金玉」を「金時計」と歌うバージョンが女子の間で普及していた。これについて「風もないのに揺れる」という描写は、大きすぎて揺れにくい狸の金玉より、狸とあだ名される嫌味な先生が懐中時計を見せびらかす描写だとする方が自然であり、こちらが先にできて同時期に両バージョンが普及したが、腕時計の普及により金時計バージョンのみ廃れたという考察もある[25]。
民話・昔話
編集日本各地に狸の金玉を題材にした民話・昔話がある。
- 『狸の金玉八畳敷き』
- 村に訪れた偉い僧侶の正体が狸であったという話[26]。説教に退屈した村人が畳を毟ったところ僧侶が痛そうに顔を歪めたことから、その畳が化け狸の金玉だと気づく。文献による初出は大田南畝『蝶夫婦』[27]。
- 『化狸と和尚』
- 和尚が次々と行方不明になる寺があり、その原因が旅の僧に化けた狸であったという話[28]。新しい和尚も狸の金玉で生け捕りにされそうになるが、焼け石を利用して退治する。地域により、話好きの老人と毎日話を聞きに来る謎の小僧など設定や題名が異なる[29]。
その他の用例
編集山口県の一部地域で、ツルリンドウを「たぬきのきんたま」「たぬきのきんたまはちじょーじき」と呼ぶ[30][31]。果実の見た目が由来とされる。
大衆文化
編集楽曲
編集- つボイノリオ『金太の大冒険』1975年
- ブリーフ&トランクス『ゴールデンボール』2012年
- 『お爺きんたま』 - 高知県のわらべ歌[32]
小説
編集- 青島幸男『蚤のキンタマ』1976年
漫画
編集その他
編集- キンタマウイルス - 2004年に初確認された暴露型コンピュータウイルス「Antinny.G」の通称[33]
出典
編集- ^ 日本国語大辞典 第二版 編集委員会, 小学館国語辞典編集部 編『日本国語大辞典 第二版』 第四巻、小学館、2001年4月20日、692頁。
- ^ 穎原退蔵、尾形仂(編)『江戸時代語辞典』角川学芸出版、2008年11月30日、463頁。ISBN 978-4-04-621962-6。
- ^ a b 小松奎文(編著)『いろの辞典』文芸社、2000年7月3日、236頁。ISBN 4-8355-0045-8。
- ^ 池田稔 (2018年8月27日). “ぶ~らぶらには意味がある【しもじもの話】”. nishinippon.co.jp. 株式会社西日本新聞社. 2020年7月21日閲覧。
- ^ “民進・玉木雄一郎氏が約3週間ぶりにツイッターを再開 「こんな大きな問題になるとは思わなくて…」「もう加計学園問題はツイッターでつぶやかない」 実はネット上の批判に凹んでいた!”. sankei.com. 株式会社産経デジタル (2017年9月16日). 2020年7月21日閲覧。
- ^ 阿刀田高『ことばの博物館』旺文社〈旺文社文庫〉、1984年、18-19頁。ISBN 4-01-061452-8。
- ^ 南清彦『名数絵解き事典』叢文社、2000年1月1日、147頁。ISBN 4-7947-0320-1。
- ^ 増井金典『日本語源広辞典[増補版]』ミネルヴァ書房、2012年8月10日、303頁。
- ^ 大槻文彦, 大槻清彦 編『新編大言海』冨山房、1982年5月10日、559頁。ISBN 4-572-00062-X。
- ^ 前田富祺(監修)『日本語源大辞典』小学館、2005年4月1日、408頁。ISBN 4-09-501181-5。
- ^ 新村出『新村出全集4 言語研究篇IV』筑摩書房、1971年、319-320頁。
- ^ 斎藤光, 井上章一, 澁谷知美, 三橋順子 編『性的なことば』講談社、2010年、423頁。ISBN 978-4-06-288034-3。
- ^ 日本博学倶楽部『雑学博物館』(電子書籍)PHP研究所、2001年12月17日。ISBN 978-4-56957664-0。
- ^ 中島智邦『日本民俗・粋・洒落辞典』日本ブックマネジメント、1989年9月27日、44頁。ISBN 4-89056-014-9。
- ^ 米川明彦『日本俗語大辞典』東京堂出版、2003年11月10日、195頁。ISBN 4-490-10638-6。
- ^ @itazura_journey (2024年4月20日). "2024年4月20日午後7:00のツイート". X(旧Twitter)より2024年8月21日閲覧。
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- ^ HideI (2016年3月17日). “今じゃハレンチすぎて使えない!『おぼっちゃまくん』復活で振り返る「茶魔語」の数々”. おたくま経済新聞. シー・エス・ティー・エンターテインメント株式会社. 2020年7月19日閲覧。
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- ^ “後藤輝樹氏が「政見放送」で過激発言を連発、何を言っても許されるの? 都知事選”. 弁護士ドットコムニュース. 弁護士ドットコム株式会社 (2020年6月26日). 2020年6月26日閲覧。
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- ^ 日本福音連盟新聖歌編集委員会 編『新聖歌』教文館、2001年、766頁。ISBN 4764291010。
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- ^ 武笠俊一「<論説>たぬきの金時計 : 童謡の隠された謎に迫る」『人文論叢』第18巻、三重大学人文学部文化学科、2001年3月25日、53-54頁。
- ^ 納富信子. “狸の金玉八畳敷き”. sagaminwa.xyz. さが昔話の会. 2020年7月19日閲覧。
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- ^ 六渡邦昭(再話), 井上瑤(語り). “化狸と和尚”. minwa.fujipan.co.jp. FUJI BAKING Group. 2020年7月19日閲覧。
- ^ 川俣町生涯学習課中央公民館管理係 (2012年7月1日). “タヌキの八畳敷き(昔話のうまいじいさまと古ダヌキの話)”. town.kawamata.lg.jp. 福島県伊達郡川俣町: 川俣町役場. 2020年7月19日閲覧。
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- ^ 社団法人日本植物友の会 編『日本植物方言集(草木類篇)』八坂書房、1972年、163頁。本田正次, 佐藤達夫, 松田修(監修)
- ^ 園尾正夫et al『徳島高知のわらべ歌』柳原書店〈日本わらべ歌全集 22〉、1981年、284頁。浅野建二et al.(監修)
- ^ 佐々木俊尚 (2004年5月27日). “インターネット事件簿 第12回 Winnyのもうひとつの脅威 個人情報暴露の実態”. INTERNET Watch. インプレス. 2023年3月10日閲覧。