被曝

人体が放射線にさらされること

被曝(ひばく、radiation exposure)とは放射線に曝(さら)されること[注釈 1]。「」が常用漢字でないので「被ばく」と表記される場合もある。

放射線使用施設の警告看板

外部被曝か内部被曝かによって対策は大きく異なる。

概要

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放射線の歴史は1895年のヴィルヘルム・コンラート・レントゲンの X 線の発見に始まるが、放射線の利用とともに、人体が放射線を浴びること、被曝(radiation exposure)によって様々な放射線障害[注釈 2]が発生することが徐々に認識されていった。

原子爆弾など戦争兵器にも用いられ、健康被害をもたらす放射線被曝はできる限り避けねばならない、しかしながら、放射線治療などに用いられる放射線技術は大きな利益をもたらす技術である。そこで、放射線技術による利益を享受しつつ、被曝に伴う放射線障害を防止することを目的とした放射線防護(radiation protection)の概念が、放射線障害の認識と共に発達してきた。今日においては以下の目標が掲げられている[2][3]

放射線防護の目標
  1. 利益をもたらすことが明らかな放射線被曝を伴う行為を、不当に制限することなく、人の安全を確保すること
  2. 個人の確定的影響の発生を防止すること[注釈 3]
  3. 確率的影響の発生を制限すること[注釈 4]

放射線防護にあたって最も重要であるのは放射線源から被曝を受ける形態であり、次の二つに分類される[注釈 5][注釈 6]

外部被曝(external exposure、体外被曝)
体の外部にある放射線源からの放射線被曝
内部被曝(internal exposure、体内被曝)
経口摂取、吸引などにより体内に取り込んだ放射性物質による被曝

点放射線源からの外部被曝の場合、最も単純な防護方策はその点線源との距離を大きく取ることであるが、同じ被曝でも空気中に放射性物質が拡散してしまい吸引による内部被曝が疑われる場合は、放射線防護策としては全く異なる方法(マスクの着用など)を取らなくてはならない[注釈 7]

放射線防護策を検討・実施するにあたって場所の放射線量[注釈 8]および被曝をしている個人の線量[注釈 9]を計測(モニタリング)することは重要である。 放射線防護を行う(確率的影響の発生リスク[注釈 10]を人々が容認可能なレベルに抑える)にあたって基本的尺度となる線量概念が実効線量(単位:シーベルト、記号:Sv)であり、個々人の被曝した実効線量は、定められた実効線量限度以下に抑えられる[注釈 11][注釈 12]

なお、低線量の放射線被曝による健康被害については各種議論がある。

被曝の形態とその防護

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放射線の透過能力:アルファ線(原子核)は紙1枚程度で遮蔽できる。ベータ線(電子)は厚さ数mmのアルミニウム板で防ぐことができる。ガンマ線(電磁波)は透過力が強く、コンクリートであれば50 cm、であっても10cmの厚みが必要になる。中性子線(中性子)は最も透過力が強く、やコンクリートの厚い壁に含まれる水素原子によってはじめて遮断できる。

放射線は、放射線物質(放射線源)あるいは放射線発生装置より発生する。放射線源が密封線源[注釈 13]の場合、被曝は身体の外部からの被曝である外部被曝(external exposure)だけであるが、非密封線源[注釈 14]の場合、外部被曝に加えて身体の内部に放射線物質が入り込むことによる被曝である内部被曝(internal exposure)も考慮しなくてはならない。

外部被曝(external exposure)

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外部被曝として問題になる線種はガンマ線X線ベータ線中性子線[注釈 15]、これら放射線を防護する方法には次の三つがある[7]

密封線源の三原則
  1. 線源と人体との間に遮蔽物を置く(ガンマ線[注釈 16]、ベータ線[注釈 17]、中性子線[注釈 18]かで遮蔽物として効果的なものは異なる)
  2. 線源と人体の距離を大きく取る[注釈 19]
  3. 放射線を受ける時間を短くする[注釈 20]

内部被曝(internal exposure)

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放射性物質が空気中などに拡散して存在している場合、その放射性物質が体内に入り込むことによる内部被曝の恐れが生じる。そのため、内部被曝については放射性物質を体内に取り込まないような防護が基本となる。体内に取り込まれる経路としては、次の三つがある[8][9]

非密封線源が体内に取り込まれる経路
呼吸器を通しての摂取(吸入)
放射性物質で汚染した空気を吸い込むことによって、気道や肺胞を通して体内に放射性物質が侵入することを言う。マスクの着用などで防護できる[注釈 21]
口、消化器を通しての摂取(経口摂取)
放射性物質で汚染された水や食物を摂取することで、胃や小腸などの消化管から体内に放射性物質が侵入することを言う。基準値を超える放射能を持つ食品を摂取しないことで防護できる[注釈 22][注釈 23]
皮膚、特に傷口を通しての摂取
皮膚の毛穴や汗腺または皮膚にある傷から放射性物質が侵入することを言う[注釈 24]。放射性物質と接触する皮膚表面に傷があるときは、放射性物質の取り扱いを避けることで防護できる[注釈 25]

内部被曝の特徴

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内部被曝をした場合、すなわち一度体内に放射性物質が取り込まれた場合、その取り込まれた放射性物質を除くには、物理的減少(放射性崩壊)と共に生体機能の代謝による排出を待つよりほかない。その場合、物質により放射性物質としての半減期に生物学的な半減期が加わるために、内部被曝の線量の計算には多くの困難がある。

体内に取り込まれた放射性物質がどのように振舞うか(体内のどの部位に沈着するか)は、その元素の化学的性質によって異なる。たとえばヨウ素131は吸気から、皮膚から、食事や飲水からなど多くの経路で内部被曝の推定には難しさがある。

ヨウ素は選択的に甲状腺に取り込まれ沈着する。甲状腺には多くのチログロブリンの蓄積があり、それがヨウ素と結合している量も変動が大きい。たとえば海産物を多く摂取する日本人の場合はヨウ素の飽和量が高いといわれるが、海から遠く離れた地域の住人はヨウ素の飽和度が低いといわれる。このように、甲状腺に蓄積するヨウ素131の量については、被曝にいたる経路が複数であること、また甲状腺のヨウ素の飽和度などにも個人差があり、また内部被曝の影響が長時間にわたると考えられる。このため、多くの仮定と推定により50年間にわたる生体の内部被曝量を預託等価線量として推定するが、その算出には多くの議論がある。

したがって内部被曝防護の立場では、最初に飛散するヨウ素131が住人に到達する前のなるべく早い段階でヨウ素剤を投与し、甲状腺のヨウ素飽和度をあげて、ヨウ素131の蓄積を減らすことが最も重要である。このために原子量発電所の近傍や作業にあたる自治体、警察、軍隊組織などにヨウ素剤の蓄積されているが、わが国では住民にあらかじめ配布されていないので、原子量発電所の事故などの混乱時に短時間にヨウ素剤を配布することが困難であるとの指摘がある[注釈 26]アルカリ土類金属であるストロンチウム中の同じくアルカリ土類金属であるカルシウムと置き換わって体内に蓄積することが知られている[16]。一方で、カリウムセシウムは水に溶け込み全身の細胞内に広がる[注釈 27]。このように、放射性物質の種類によって体内に摂取された後に存在する場所が変わる。

体内に入ってしまった放射線物質を検査する一般的な方法として、ホールボディカウンターによってガンマ線を測定・分析する方法がある。ヨウ素131は半減期が短いため早期に測定しないと正確な値が測定できない。なお、この装置はガンマ線が人体を透過することを利用したものであるため、ガンマ線を出さない核種の測定は不可能である[注釈 28]

放射線防護策の選定と実施

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人工的に発生させた放射線(人工放射線)は人間の諸活動に伴って発生する放射線であり、全ての被曝が放射線防護の対象となる[注釈 29]。そこで、放射線被曝を伴う行為を導入・実施などする際は、放射線防護の目標達成のため放射線防護体系(system of radiological protection) の三原則を遵守する必要がある[21]

放射線防護体系の三原則[22][23][24][注釈 30]
  1. 行為の正当化(justification of practice)
    「いかなる行為も,その導入が正味でプラスの利益を生むものでなければ採用してはならない」
  2. 防護の最適化(optimization of protection)
    「すべての被曝は,経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り,低く保たなければならない」
  3. 線量限度(dose limitation)
    「医療被曝を除く,すべての計画被曝状況では個人の被曝は線量限度[注釈 31]を超えてはならない[29]

さらに、モニタリング(monitoring)により、放射線源、環境および個人の管理が厳重に行われていることを確認しなければならない。

なお、人工放射線の対として、地球誕生以来生活環境に存在している放射性同位元素からの大地放射線と宇宙からの放射線である宇宙放射線を合わせて自然放射線と呼ぶ。自然放射線による被曝により、人々は実効線量で世界平均合計年間2,400 μSv(=2.4 mSv)前後の被曝を受けているとされる[注釈 32]が、自然放射線による被曝は人為的にコントロールすることができないために放射線防護の対象から外されている(規制除外[注釈 33])。

放射線管理とモニタリング

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被曝は、線源-環境-人が相互に関わり合う中で生じることから、防護措置も1線源管理、2環境管理、3個人管理の三つに分類される。このうち線源管理が最も効果が大きく、防護策を講ずる上で最も優先させるべきである[注釈 34]

さらに、各管理に対応した以下のモニタリング概念が存在する[34][35]

1 線源モニタリング(source monitoring)
放射線源の健全性、管理状況を確認するために行なわれるモニタリングを言う。最も基本的なモニタリングである。
2 環境モニタリング(environmental monitoring)
施設内の作業環境あるいは施設外の一般環境で行なわれるモニタリングであり[注釈 35]、線源の管理状況を確認し、環境安全が測られていることを確認するために行なわれる。
3 個人モニタリング(individual monitoring)
直接、作業者個人に着目して行なわれるモニタリングで、各作業者の線量が基準以下であることを確認するために行なわれる。一般公衆に対する個人モニタリングは、大規模事故などのごく特殊な場合を除いて実施されることはない[注釈 36][注釈 37]

被曝対象の区分

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放射線防護の観点から被曝の対象は医療被曝、職業被曝、公衆被曝の三つに分類される。

医用画像における実効線量
対象臓器 検査 実効線量(大人)[37] 環境放射線
等価時間[37]
頭部CT 単純CT 2 mSv 8カ月
造影剤を使用 4 mSv 16カ月
胸部 胸部CT 7 mSv 2年
がん検診のための胸部CT 1.5 mSv 6カ月
胸部単純X線撮影 0.1 mSv 10日
心臓 冠状動脈CT血管造影 12 mSv 4年
冠状動脈CT、カルシウム走査 3 mSv 1年
腹部 腹部・骨盤CT 10 mSv 3年
腹部・骨盤CT、低線量プロトコル 3 mSv[38] 1年
腹部・骨盤CT、造影剤あり 20 mSv 7年
CT結腸検査 6 mSv 2年
静脈内腎盂造影 3 mSv 1年
上部消化管造影 6 mSv 2年
下部消化管造影 8 mSv 3年
脊椎 脊椎単純X線撮影 1.5 mSv 6カ月
脊椎CT 6 mSv 2年
四肢 四肢単純X線撮影 0.001 mSv 3時間
下肢CT血管造影 0.3 - 1.6 mSv[39] 5週間 - 6カ月
歯科X線撮影 0.005 mSv 1日
骨密度測定(DEXA法) 0.001 mSv 3時間
PET-CT 25 mSv 8年
マンモグラフィー 0.4 mSv 7週間

職業被曝(occupational exposure)

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放射線業務従事者または放射線診療従事者[注釈 38]が、業務[注釈 39]の過程で受ける被曝を職業被曝(occupational exposure)と呼ぶ[注釈 40] 。職業被曝に対する防護の責任は、事業者と作業者自身にあり、職業被曝をする人々は被曝管理、健康管理、定期的な教育・訓練を受けることなどが義務づけられている。被曝線量に対しては、法令で線量限度が決められており、放射線業務従事者はサーベイメーターなどを装着し、線量限度を超えないようにしなければならない[40][注釈 41]

公衆被曝(public exposure)

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職業被曝、医療被曝以外の被曝、すなわち、原子力・放射線利用に伴う一般の人々の被曝(例えば原子力施設の周辺の住民の被曝など)を公衆被曝(public exposure)と呼ぶ[注釈 42]。公衆被曝に対する防護の責任は、公衆被曝をもたらす放射線源を利用する事業者にあるが、職業被曝とは異なり、公衆の構成員の一人ひとりを管理(個人被曝管理)することは実態として難しいため、公衆の放射線安全が確保されていることは、線源モニタリングと環境モニタリングによって確認される[44]。つまり、公衆被曝では基本的に個人モニタリングは行なわれない。

医療被曝(medical exposure)

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医療の現場における、患者への病気の治療を目的とした意図的な放射線照射による被曝を医療被曝(medical exposure)と呼ぶ。医療被曝に対する防護の責任は、事業者(施設の責任者)および実際に放射線診療に関わる医師と診療放射線技師等によって行なわれる[注釈 43]

医療被曝には、職業被曝や公衆被曝に適用される線量限度は存在せず[注釈 44]、線量は防護量である等価線量実効線量(単位:シーベルト[Sv])ではなく全て吸収線量(単位:グレイ[Gy])で表される。さらに、法律で規制される被曝限度には、医療被曝によるものは含まれない[注釈 45]

日本における被曝の法規制

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被曝のおそれのある場所は放射線管理区域に指定され、厳密に管理される。さらに、放射性物質の付着や内部被曝のおそれがある区域は「汚染のおそれのある管理区域」(その他は「汚染のおそれのない管理区域」)として、防護服を着用するなどの汚染防止策が採られる。

また、業務上放射線を扱うため被曝のおそれがある労働者については年間等の被曝線量に限度が設けられており、これを超えて従業することは国際放射線防護委員会の勧告に基づいた放射線障害防止法電離放射線障害防止規則人事院規則10-5、医療法施行規則等により多重規制されている。

管理区域に立ち入らない一般公衆の被曝線量限度は、これらの法令による放射線管理区域等からの漏洩放射線線量率や、放出される放射性同位元素濃度の規制により放射線業務に従事する者の限度より遥かに低く抑えられるように義務付けられている[46]

食品のもつ放射能に関する規制

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チェルノブイリ原子力発電所事故を契機に、輸入食品内における放射能の暫定限度が370 Bq/kg(セシウム134+セシウム137の合計値)に設定され、これを超える食品は日本に輸入することができない[47]

福島第一原子力発電所事故後の暫定基準値(ざんていきじゅんち)については食品に含まれる放射能に関する暫定規制値の項目を参照。

被曝と社会運動

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上記の被曝のうち、特に核兵器による被曝や、核実験また「原子力の平和的利用」として開発と設置が進められてきた原子力発電などの原子力事故を受けて、放射性物質による被曝および被曝のリスクも含めて、これまでに世界規模で反核運動が行われてきた。

日本では第五福竜丸被爆事件を契機に安井郁(やすいかおる)が原水爆禁止運動を組織化し、1955年に原水爆禁止日本協議会を設立した。以降、大規模な事故や事件に応じて、様々な反核運動や原子力撤廃運動が展開した。2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、様々な運動が展開している(福島第一原子力発電所事故の影響を参照)

※各運動団体、運動の歴史、また各界による発言や対応などについては反核運動および原子力撤廃を参照のこと。

被曝事故・事件 

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医療介入

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  • 胃洗浄、緩下剤、吸着剤
  • 去痰剤の服用、点滴投与
  • 気管支肺胞洗浄[48]


  • 2023年5月15日米国立保健研究所(NIH)は、体内に入った放射性物質を排出する「飲み薬」「HOPO14―1」と名付けられたカプセル錠の臨床試験を始めたと発表した。[49]

脚注

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注釈

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  1. ^ (参考)「被曝」と「被爆」どちらも「ひばく」と読むが「被曝」は放射線に曝(さら)されること・「被爆」は爆撃されること[1]
  2. ^ 被曝した放射線の線量に応じて放射線障害は大きく確定的影響(deterministic effects)と確率的影響(stochastic effects)に分類される。
  3. ^ 確定的影響には閾線量が存在し、線量をそれ以下に抑えることによって、発生を完全に防止することができる。
  4. ^ 確率的影響の被曝に伴う発生モデルは閾線量無しの直線関係仮説(Linear No-Threshold : LNT仮説)が取られているため、被曝線量をゼロにしない限り、確率的影響の発生を完全に防止することはできない。そこで、被曝に伴う確率的影響の発生については、確率的影響の発生確率を人々が容認するレベルに制限することとしている。
  5. ^ また、照射を受ける身体の範囲により全身被曝と局部被曝に、照射を受ける時間分布により急性被曝と慢性被曝に分類される。[4]
  6. ^ 国連科学委員会(UNSCEAR)では放射線の種類やその用途、一般大衆と職業上などの切り口で以下のように分類している。
  7. ^ なお、同一の放射性物質からの放射線に被曝する場合でも、外部被曝より内部被曝の方が危険な場合がある。アルファ線は体外からの照射では、その大部分は皮膚の内側に達することはないが、体内にアルファ線を出す放射性物質が入ると、その周囲の細胞が照射されるため組織や器官の受ける放射線の量が大きく異なる透過力の弱いベータ線とエネルギーの低いガンマ線を出す放射性物質も外部被曝では影響を与える程ではないが体内にある場合の影響は大きくなる。
  8. ^ 職業被曝であれば作業場所、公衆被曝であれば一般環境
  9. ^ ただし、公衆被曝の場合全ての人々に個人線量計を配布することは困難である。
  10. ^ なお、定量的リスクが絡む事柄一般に言えることだが、いわゆるブラックスワン(想定しにくいまれな現象)が存在しないことは証明不可能である。[5]
  11. ^ ただし、眼の水晶体の被曝、皮膚の限られた面積の被曝は実効線量を算出する際の組織加重係数が与えられていないため、この2つの臓器(ただし、広い面積の皮膚が被曝した場合は実効線量に加えられる)に関しては臓器の等価線量で線量限度が規定されている。[6]
  12. ^ 実効線量等価線量はあくまで、この放射線防護を行うための防護量である。実効線量、等価線量は被曝による確率的影響の生物影響を基に定められたものであるので、確定的影響に対しては、シーベルト[Sv]ではなく吸収線量とその単位であるグレイ[Gy]が用いられる。
  13. ^ 密封された形態の放射性物質。密封されているため、放射性物質の拡散はしない。
  14. ^ 密封されていない放射性物質。密封されていないため、放射性物質は拡散してしまい、体内に入り込む可能性がある。
  15. ^ アルファ線は紙一枚で遮蔽できるので、外部被曝ではあまり問題にならない。
  16. ^ γ線(およびX線のような電磁放射線あるいは光子線)は主に原子核周囲の電子と相互作用して阻止されるため、や金といった密度の高い物質(電子の密度も高い)のほうが効果的に遮蔽することができる。コンクリートならば厚さ30 cmごとに、鉛板ならば厚さ5 cmごとに線量を10分の1にまで減らす(コバルト60のγ線の場合)。
    点状線源の場合、遮蔽物の厚さに応じて、遮蔽物を透過した放射線の強度は指数関数的に減少する。
  17. ^ ベータ線の遮蔽は、ベータ線の最大飛程以上の厚みのものを使用する。ベータ線のみを防ぐのであれば、10〜15mm厚のプラスチック板で十分効果がある。ただし、エネルギーの大きいベータ線が原子番号の大きい物質に衝突すると、制動 X 線が発生するので、その場合は X 線の遮蔽も合わせて行わなくてはならないが、そのようにエネルギーの大きいベータ線を発生する物質は少ない。ただ、ベータ線を薄くて密度の高い物質で遮蔽しようとすると、制動放射X線が多く発生しかえって被曝線量を増やすおそれがある。
  18. ^ これは、荷電粒子(電荷を持つ粒子)や光子が電磁気力で物質と相互作用して透過を阻止されるのに対して、電荷を持たない中性子は物質を構成する粒子と直接衝突することで運動エネルギーを失い、透過を阻止されるためで、中性子の運動エネルギーを効率よく奪うためには同程度の質量の粒子、つまり陽子(水素の原子核)と衝突させることが最も有効だからである。また、中性子の遮蔽体は中性子吸収材(中性子を比較的捕獲しやすい非放射性同位元素を含む物質)と組み合わせて使うこともある。
  19. ^ 線源はトングやマジックハンドを用いて扱い、直接触らないようにする。放射性物質が皮膚に付着しないよう、ゴム手袋などの保護具を装備する。
  20. ^ そのため、放射線場での作業時間ができるだけ短くなるよう、作業計画などを綿密に立てることが求められる。屋内退避も推奨されている。
  21. ^ ただし、内部被曝対策としてのマスク等の呼吸保護具は、外部被曝対策としては役に立たない。[10]
  22. ^ チェルノブイリ原子力発電所事故で甚大な被害を蒙り、内部被曝により病気になる人が多発したベラルーシやウクライナでは、食品中に含まれる放射性セシウムの基準値を定めて、基準値を超える食品を流通させないことで内部被曝を防止している。[11][12]
  23. ^ セシウム等の放射性物質を摂取後、速やかにプルシアンブルーを服用すると、消化管からの吸収を抑制する効果があるとも言われることがある。[13]
  24. ^ 皮膚に傷が無い場合はほとんど吸収されないと考えてよいとされる。[14]
  25. ^ また、手を汚染した場合は、その後の飲食、喫煙または化粧などによって汚染を体内に取り込む可能性が高い。したがって、放射性物質を取り扱う区域内では飲食、喫煙または化粧を行ってはならず、また取り扱いを中断・終了するときは必ず手に汚染がないことを放射線測定器で確認しなければならない。
  26. ^ ヨウ素は甲状腺ホルモンであるチロキシンを構成する元素であり、ヨウ素の放射性同位体も、ヨウ素の一つの同位体であり化学的にはヨウ素に他ならないため甲状腺に取り込まれることになる。
    放射性ヨウ素に対する防御
    原子力発電所において事故の際には、揮発性の高い放射性ヨウ素(ヨウ素131)が環境中へ放出される可能性が高く、甲状腺に高い被曝線量を受ける人が出てきてしまう。これをある程度防ぐ(甲状腺への被曝線量を低減する)ために、放射性ヨウ素を摂取する前かあるいは摂取後比較的早い時期(6時間後までは効果がある)に安定ヨウ素剤を投与することで、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれることを制限することができる。[15]
  27. ^ 放射性セシウム体内除去剤としては、紺青(別名:ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)、プルシアンブルー)がある。商品名では「ラディオガルダーゼカプセル」と呼ばれる。[17]
  28. ^ 例えば、ストロンチウム90はベータ線しか出さず、その娘核種のイットリウム90も極稀にしかガンマ線を出さないため、検出できない。 そのような核種による被曝を調べるには、尿などの排泄物を検査・測定し、推定することになる。 [18][19]
  29. ^ なお、放射線防護の視点からは、放射線はどんなに微量であっても人体にとって有害であると仮定されている。[20]
  30. ^ 原水爆実験に起因した死の灰の被曝許容量を現代的に定義づけた武谷三男による武谷説を取り入れたものであると思われる。[25]
  31. ^ 公衆に対する計画被曝の限度は 1mSv とされる。[26][27][28]
  32. ^ 自然放射線による被曝は次のように分類される[30]
    • 大地放射線(地球起源の放射性元素が放出する放射線)
    • ラドン[222Rn]およびその娘核種
    • 体内に存在する放射性同位元素 カリウム40[40K]
    • 宇宙線(実効線量で年間約380 μSv(=0.38 mSv)程度の外部被曝と言われる。)
    • 宇宙線起源の放射性同位元素 炭素14[14C]など
    ※1 ラドンは、地球起源の放射性同位元素の放射性崩壊によって生じる放射性のガスであるが、肺の組織加重係数が比較的大きいこともあり、自然放射線からの被曝線量として大きな寄与をするので別に分類される。空気中に含まれているラドン222の吸引によって実効線量にして年間約1,200 μSv(=1.2 mSv)程度の被曝を受けているといわれる。[30]
    ※2 カリウムは、生体必須元素であることから成人男性で120〜150 g、成人女性で80〜100 g程度の一定量を体内にもっている。カリウムの放射性同位体であるカリウム40の割合は一定であることから、摂食量に関わらず成人男子であれば約4000ベクレル程のカリウム40を体内に一定に持つことになる。[31][32]
  33. ^ かつては自然放射線による被曝はすべて管理の対象外と考えられていたが、最近は制御できるもの、例えばラドンや航空機被曝などについては管理対象とする考え方に変わってきた。[33][29]
  34. ^ 環境管理や個人管理は線源管理を補うために行われるものである。だが、例えば、線源が極めて広範囲に拡散してしまい、実質的に線源管理が困難な状況下においては、環境管理および個人管理を中心に防護策を講じることとなる。
  35. ^ 一般環境モニタリングの場合には、ある特定の線源に着目して行なわれる線源関連の環境モニタリングと、複数の線源から放射線を受ける個人に着目して行なわれる人関連の環境モニタリングとがある。
  36. ^ 例えば、1万人が公衆被曝を受ける場合、個人モニタリングを行うには、その一万人に対して個人線量計(ガラスバッジなど)を配布しなければならなくなる。しかしながら、供給側の供給能力と配布実務から現実的ではない。
  37. ^ ただし、大規模事故など特殊なケースで、供給側と配布(およびガラスバッジ、フィルムバッジであれば測定結果の読み取り側の体制)に問題がなければ個人モニタリングが実施されることもある。 例えば、福島第一原発事故では当初からの環境モニタリングに加えて途中から個人モニタリングも行なわれることとなった。 [36]
  38. ^ 日本の放射線防護関連法令では、放射線や放射性物質を取扱うことができるばしょをあらかじめ許認可を受けた管理区域に制限しており、管理区域以外のところで放射線や放射性物質を取扱うことはできない。常時、管理区域に立ち入る作業者を放射線業務従事者(医療法では放射線診療従事者)と呼ぶ。[40]
  39. ^ 放射線業務従事者の業務の例としては、核燃料サイクル従事者、放射線医学従事者、放射性物質の産業・教育・軍事利用にたずさわる業務の他に、天然に存在する放射性物質(NORM;Naturally occurring radioactive material)からの作業環境での増幅された被曝があり、鉱山、石油、天然ガス、航空産業などがあげられる。
  40. ^ UNSCEAR2008報告書にはさまざまな業種の平均集団積算線量などが掲載されている。[41]
  41. ^ ; 原子力関連施設事故による被曝
    原子力発電所や、原子力潜水艦の事故を原子力事故といい、原子力の利用がはじまって以来、多数の事故が発生しており、多数の人間が被曝している。日本の1999年の東海村JCO臨界事故など、急性放射線症候群のような重大な放射線障害をもたらす事故も発生することがある。
  42. ^ 公衆被曝の例
    生活用品などによる被曝
    地球誕生以来存在している自然由来の放射性物質が少量含まれた製品が出荷されていることがある。一般消費財である場合、日常的に低線量ながら被曝してしまうため、それらに関するガイドラインなどが策定されている。[42][43]
    原子爆弾の投下(atomic bombings)
    太平洋戦争末期に広島と長崎に投下された核兵器原子爆弾は、高温の熱線と強い爆風だけでなく、強い放射線を放出し、放射能を有する塵などを多量に排出した。被害は爆発熱や爆風だけに留まらず、原爆症と呼ばれる急性・晩発性の放射線障害被曝者に引き起こした。
    なお、被爆爆撃による被害を受けること、他方、被曝は放射線にさらされた場合を指すため、厳密には、核爆弾による直接攻撃を受けた者は「被爆者」、直接の被害は受けず、核爆発に伴う残留放射能を浴びた者は「被曝者」であるが、日本では便宜上前者を「一次被爆者」、後者を「二次被爆者」と呼ぶ。
    原子爆弾の投下に伴う放射線被曝と放射線障害との関係を明らかにするため、アメリカ原子力委員会の資金によって米国学士院(NAS)が1947年に設立した原爆傷害調査委員会(ABCC;現放射線影響研究所)は様々な疫学的調査を行った。それら結果および知見はICRPの勧告などに取り入れられている。
    放射性降下物(nuclear fallout)
  43. ^ なお、放射線防護体系の「行為の正当化」、すなわち放射線診療の適用の判断は医師・歯科医師によって行なわれ、「防護の最適化」の判断は医師・歯科医師および診療放射線技師等によって行なわれる。[44]
  44. ^ これは、医療被曝は患者にもたらされる利益が大きく、しかも、個々の患者や病状によって必要とされる線量が異なり、線量の上限値を設けることによって、必要な放射線診療が制限されないようにするためである。[44]
  45. ^ なお、自然放射線による被曝も含まれない。[45]

出典

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参考文献

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関連項目

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  • トロトラスト - 放射性物質を含んだ造影剤。内部被ばくを起こすことから、日本国内初の薬害ともされる。

外部リンク

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