蒲蒲線
蒲蒲線(かまかません)、もしくは新空港線(しんくうこうせん)は、東京都大田区などが計画中の鉄道路線[1]。約800メートル離れている東急電鉄の蒲田駅と京浜急行電鉄(京急)の京急蒲田駅を連絡する予定である[1][2]。他の鉄道事業者との相互直通運転も多い東急線[注 1]と京急空港線を結ぶことで、羽田空港と首都圏北西部を往来しやすくする[1]空港連絡鉄道の役割を担うとともに、大田区内の東西移動を便利にする狙いもある[1]。
大田区は2022年9月20日、事業推進のために第三セクター設立で東急と協定を締結し[3][4][5]、同年10月14日に整備主体として羽田エアポートライン株式会社が設立された[6][7]。2030年代の開業を目指すとしている[3][4]。
計画の経緯
編集東急多摩川線矢口渡駅付近から、現在の東急蒲田駅・京急蒲田駅付近の地下を経由し、京急空港線大鳥居駅に至る。東急蒲田駅・京急蒲田駅の地下には新たな地下駅を計画している[注 2]。
東急多摩川線は狭軌(1067 mm)、京急空港線は標準軌(1435 mm)と軌間が異なるため、両線の接続方法が問題となるが、2015年1月19日に行われた新空港線「蒲蒲線」整備促進区民協議会[8]で大田区が示した案(新大田区案)[9]では次のようになっている。
- 第一期:矢口渡駅 - 京急蒲田地下駅を狭軌複線で建設、東急多摩川線の全列車乗り入れ(多摩川駅 - 京急蒲田地下駅間で運行)。
- 第二期:京急蒲田地下駅 - 大鳥居駅を標準軌単線で建設、途中軌道変換装置を設け、開発中の軌間可変電車(フリーゲージトレイン)によって東京メトロ副都心線や東急東横線・目黒線方面からの直通列車を東急多摩川線経由で運転。
蒲田駅東口にある、現在は大田区役所となっている建物の西端の地下には、トンネルは掘られていないものの鉄道トンネルを建設するための用地が確保されており、そのための用地であることが建物図面にも表記されている[10]。
大田区によると、2007年10月に国、都、区、東急、京急による勉強会を立ち上げたところ、都以外は前向きな姿勢を示したとされる[11]。また、東急は2011年11月15日までに投資家への説明において蒲蒲線建設検討を発表、国などに支援を求める計画を明らかにしている[12]。
2016年4月20日、国土交通省の交通政策審議会が公表した交通政策審議会答申第198号[13]では、第一期区間については「矢口渡から京急蒲田までの先行整備により、京浜東北線、東急多摩川線及び東急池上線の蒲田駅と京急蒲田駅間のミッシングリンクを解消し、早期の事業効果の発現が可能」「矢口渡から京急蒲田までの事業計画の検討は進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」としている一方、第二期区間については「大鳥居までの整備については、軌間が異なる路線間の接続方法等の課題があり、さらなる検討が行われることを期待」という表現にとどまっている。
2017年3月28日、大田区は東急矢口渡駅 - 京急蒲田駅間の事業費を試算した結果、1260億円になると整備促進区民協議会にて公表し、費用便益比は1.5で事業推進の目安である1を上回り、開通後は羽田空港までの所要時間が東急田園調布駅からは30分で従来より20分の短縮、中目黒駅からは37分で従来に比べ11分短縮可能としている。累積資金収支は31年かけて黒字化する見込み。この試算結果を踏まえて関係者に事業実現を促している[14][15]。新大田区案では、事業化する場合の組織体制は線路・トンネルの鉄道施設を整備する主体と電車を運行する主体を切り離す上下分離方式を採用する予定で、営業主体は東急電鉄を想定している[14]。
東京都では、2018年度予算案において、東京メトロ株式の配当を原資とした「鉄道新線建設等準備基金」を創設し、当線の蒲田駅 - 京急蒲田駅間を含む6路線[注 3]の事業化を検討するとしている[17]。
2022年6月、東京都と大田区は事業費負担の自治体分[注 4]について、東京都が3割、大田区が7割を負担することで合意した[18]。この時点での開業予定(第1期分)は2030年代後半となっている[19]。
2022年9月20日、大田区と東急電鉄は新空港線整備に向けて第三セクター設立の協定を締結[4][5]。設立時の出資金は2億9500万円で、大田区が61%(1億8000万円)、東急が39%(1億1500万円)を出資し、同年10月14日に羽田エアポートライン株式会社が設立された[6][7]。
過去に検討されていたルート
編集都市鉄道調査案
編集1999年度から2000年度にかけて、運輸省・国土交通省が行った「都市鉄道調査」では、「営団13号線(現:東京メトロ副都心線)と東急東横線、東急目蒲線(現:目黒線・東急多摩川線)と京急空港線の接続」が調査対象となった[20]。
蒲蒲線については以下の3ケースについて検討を行ったが、当時の建設費補助の仕組みでは採算を取ることは不可能という結論であった。なお、以下にある目蒲線は現在の東急多摩川線を指す。
- ケース1:矢口渡駅 - 蒲田駅 - 京急蒲田接続駅 - 糀谷駅 - 大鳥居駅 4.1 km
- ケース2:矢口渡駅 - 大鳥居駅 3.4 km
- 途中駅は設けず、単線での整備も考慮。大鳥居駅は京急空港線と別に島式ホームを設置。
- 13号線からの直通列車のみ乗り入れ、目蒲線普通列車は従来通り地上ホーム発着。
- ケース3:矢口渡駅 - 京急蒲田接続駅 1.8 km
- 途中駅は設けず、単線での整備も考慮
- 13号線からの直通列車のみ乗り入れ、目蒲線普通列車は従来通り地上ホーム発着。
なお、2000年1月に運輸省の運輸政策審議会が公表した運輸政策審議会答申第18号[21]では、大鳥居駅 - 京急蒲田駅 - 蒲田駅として、大鳥居駅で京急空港線と接続(乗換)、蒲田駅で東急目蒲線と相互直通運転を行う旨表記されている[22]。
大田区案
編集2002年度から2004年度まで大田区が行った整備調査による案であり、2011年に発表された『新空港線「蒲蒲線」整備調査のとりまとめ』[23]でも踏襲されている。
2003年度から2004年度にかけて、国土交通省による『鉄道整備等基礎調査「鉄道整備における新たな整備方式に関する調査」』[24]で、上下分離方式のケーススタディとして取り上げられた。この調査では、無償化資金50%で30年以内での資金収支黒字化が実現可能と結論付けられている。
- 矢口渡駅 - 東急蒲田駅地下 - 京急蒲田駅付近(新蒲田駅、南蒲田駅)- 大鳥居駅 2.7 km
- 全線単線で建設、矢口渡駅 - 東急蒲田駅地下は狭軌、東急蒲田駅地下 - 大鳥居駅は標準軌として、東急蒲田駅地下で乗り換え。
しかし、単線かつ東急蒲田地下駅は狭軌・標準軌が1線ずつという構造となるため、東急多摩川線の全列車が地下駅に乗り入れられない。蒲田駅の移動が複雑となる上、用地買収に時間を要し、早期整備が難しいという問題点があり、東急多摩川線を地下に集約することで移動の煩雑さを解消し、かつ地下化により用地買収箇所を削減できるとする新大田区案に移行した。
現行計画の年表
編集- 1987年(昭和62年):大田区による調査開始[25] 。
- 1989年(平成元年):大田区が『大田区東西鉄道網整備調査報告書』を発表[26]。
- 2000年(平成12年)1月:運輸政策審議会答申第18号の中で、「京浜急行電鉄空港線と東京急行電鉄目蒲線を短絡する路線の新設」として、目標年次(2015年(平成27年))までに整備着手することが適当である路線に位置づけられる[27]。
- 2005年(平成17年)10月:整備促進のための区民組織として、区内自治会・町会、商工団体などからなる「大田区蒲蒲線整備促進区民協議会」が発足[28][25]。
- 2006年(平成18年)1月:大田区が『大田区東西鉄道「蒲蒲線」整備計画素案』をまとめる[26]。
- 2007年(平成19年)10月:国、都、区、東急、京急による勉強会が発足。
- 2011年(平成23年)11月:事業主体の一つになることが予想される東急電鉄が投資家へ構想を発表。
- 2015年(平成27年)
- 2016年(平成28年)4月:交通政策審議会答申第198号[13]で、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として取り上げられた[14]。
- 2017年(平成29年)3月28日:大田区が整備促進区民協議会で矢口渡駅 - 京急蒲田駅間の事業費の試算結果を公表し、鉄道施設保有と車両運行主体を分ける上下分離方式を採用し、整備主体となる第三セクターの創立を2017年度中に検討[14]。
- 2018年(平成30年)1月26日:東京都が2018年度予算案を発表し、「鉄道新線建設等準備基金」の創設と共に、今後の事業化を検討する対象となる6路線を公表。蒲田駅 - 京急蒲田駅間が検討対象に含まれた[17]。
- 2022年(令和4年)10月14日:整備主体となる第三セクターとして、大田区と東急電鉄の出資で羽田エアポートライン株式会社が設立[6][7]。
- 2024年(令和6年)8月27日 :国土交通省が2025年度(令和7年度)予算案の概算要求で、整備主体の第3セクターが東急矢口渡駅から京急蒲田駅までの1.7km区間(第1期区間)の調査や設計にあたるための3000万円の補助金を要求した[30]
本計画の課題
編集本計画実現には以下に挙げるような課題がある。今後、計画具体化するまでにこれらの課題解消が必要となる。
- 短い路線のため、既存の補助制度では単独線としての事業採算性が期待できないことや、整備事業者と他の事業者との調整が困難[31]。ただし、大田区は都市鉄道等利便増進法の制定でこれらの問題が解決されたとしている[32]。
- 地上が建物密集地のために全線地下線とせざるを得ず、建設費が高額になる[31]。
- 2011年の大田区長選挙(第17回統一地方選挙)では、羽田空港の再国際化が地元活性化に繋がっていない、または蒲田は単なる通過点だとして、蒲蒲線計画中止を公約に掲げた候補者が現れた[33]。
- 東京都は、羽田空港のアクセス路線として東日本旅客鉄道(JR東日本)が計画している羽田空港アクセス線(田町駅付近・大井町駅付近・東京テレポート駅 - 羽田空港)をより高く評価し、2015年7月10日に公表された『広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫』[16]において、「整備について優先的に検討すべき路線」としている。羽田空港アクセス線と新空港線(蒲蒲線)の両方を整備した場合、蒲蒲線の収支採算性の確保に課題があるという試算結果を出している。2017年3月の協議会でも答申された[14]。ただし、2018年に蒲田駅 - 京急蒲田駅間について事業化を検討する対象路線に挙げている。
- 京急は「東京都がどう判断するかを待ちたい」と、静観の構えだが、蒲蒲線開通で京急本線の乗客を減らすと見ており、建設促進に積極的な東急と一線を画している。京急蒲田駅周辺で約1892億円(うち国と都、区が約1534億円出資)をかけて高架工事を進めていた2012年には、「まずは目の前の工事で手いっぱい。先のことを考える余裕はない」としていた[34]。
- 従来の矢口渡駅 - 京急大鳥居駅間の総事業費が1080億円と試算されていたが、2017年3月の試算では矢口渡駅 - 京急蒲田駅間に限って行ったものの資材価格・人件費の上昇で事業費が上方修正された。さらに事業費が膨らめば「費用便益比」がさらに低下する可能性があり、国や鉄道事業者を含めた関係者との合意にも影響する[14]。
かつて存在した「蒲蒲連絡線」
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地図外部リンク | |
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蒲蒲連絡線(通称) | |
減速進行 廃止鉄道ノート 「京浜急行電鉄 空港線」 ⇒【1951年】で貨物線を地形図上に表示 | |
地図の不具合を報告 | |
第二次世界大戦後に、日本を占領下に置いた連合国軍の主力であるアメリカ軍が接収した羽田空港への物資輸送用として、国鉄蒲田駅から京急空港線(当時は東急穴守線)に乗り入れる通称「蒲蒲連絡線」が存在した[27]。1945年9月、京浜蒲田駅(現在の京急蒲田駅)より先は従来の上り線を撤去し、代わりに1067 mm軌間の線路が敷設され、国鉄の運行によるアメリカ軍の貨物輸送が1952年11月まで行われていた。国鉄蒲田駅と京浜蒲田駅の間には小規模の操車場も設置されていた。箱根駅伝の京浜蒲田駅付近の記録映像に、現在の国道15号を電気機関車が横切る姿が残されている。いずれも現在は撤去され、連絡線跡地は道路などに転用されている。
2022年10月、この軍用線(羽田航空基地側線)をモチーフとして、美術家の大洲大作による個展「Logistics / Rotations」が路線跡の道路を舞台に、大田区と大田区文化振興協会の主催で開催されている[35]。
大東急による連絡線計画
編集大東急(現在の小田急電鉄、京王電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道の路線を含んでいた時代の東京急行電鉄)時代にも、戦後復興策の一環として目蒲線蒲田駅と品川線京浜蒲田駅を連絡線を敷設して結合する計画が浮上したが、まもなく大東急が分割されたため、この計画は自然消滅した。
脚注
編集注釈
編集- ^ 東急の駅がある渋谷のほか、東京メトロ線経由で直通列車がある新宿・池袋エリア、さらには東武東上線や西武池袋線でと結ばれた埼玉県の川越・所沢などと羽田空港のアクセス性向上が期待されている。
- ^ 東急蒲田地下駅からは現在の東急蒲田駅への連絡通路が設けられる計画。これによりJR蒲田駅西口へも通じる。しかしJR蒲田駅東口への連絡通路の計画については現状不明。
- ^ 当線以外は2015年の「広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫」[16]で「整備について優先的に検討すべき路線」とした5路線(羽田空港アクセス線、東京メトロ有楽町線の豊洲駅 - 住吉駅間延伸、都営地下鉄大江戸線の光が丘駅 - 大泉学園町までの延伸、多摩都市モノレール線の上北台駅 - 箱根ケ崎駅間および多摩センター駅 - 町田駅間延伸)。
- ^ 全体の3分の1。残りは国と第3セクターがそれぞれ3分の1を負担。
出典
編集- ^ a b c d “新空港線(蒲蒲線)整備促進事業”. 大田区. 2022年10月19日閲覧。
- ^ “800mをつなぐ「蒲蒲線」に期待が集まるワケ その効果は羽田アクセス強化だけではない”. 東洋経済オンライン. (2016年2月2日)
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