茶葉のパラドックス(ちゃばのパラドックス、tea leaf paradox)とは、ティーカップにお湯と茶葉を入れて撹拌すると、茶葉が遠心分離機のようにカップの端に押しやられるのではなく、カップの底の中央に移動する現象のことである。

茶葉は、ティーカップの縁ではなく真ん中に集まる。
青い線は、茶葉を真ん中に押し出す二次流れ。
1926年にこのパラドックスを解決したアルベルト・アインシュタイン
リバーベンドモデルにおける二次流れの可視化(1913年、A.Ya.Milovichによる[1]。右から左への流れ)。底面近くの流線はピペットで注入した染料でマークされている。

このパラドックスは、1857年にジェームズ・トムソンが初めて物理的に正しく説明した。トムソンは、二次流れ英語版の出現(地球大気とティーカップの両方)を「底面の摩擦」と正しく結びつけた[2]円環における二次流れの形成については、1868年にはジョセフ・バレンティン・ブシネスク英語版が理論的に扱っている[3]。川の曲がりくねった流れにおける底面近くの粒子の移動については,1913年にA.Ya. Milovichが実験した[1]。1926年にアルベルト・アインシュタインが発表した論文では、川岸浸食を説明し、ベーア=バビネの法則を否定している[4][5]

説明

編集

液体をかき混ぜると、遠心力によって螺旋状の流れが生じる。そのため、茶葉はその質量からカップの縁に移動することが予想される。しかし、外側の水はカップと接しているので、摩擦により、内側の水と外側の水で、水圧の違いが生まれ、高圧境界層が発生する。

この高圧境界層は内側に向かって広がり、遠心力で動く茶葉の質量の慣性力よりも強く働く。

すなわち、茶葉の質量に求心力をもたらすのは、カップと水の間の摩擦である。

高圧境界層は、スパイラルパターンを生み出す流れの模式図にも影響を与える。撹拌によって生じる高圧境界層は、水を外側に押し出し、圧力が高まるカップの縁に押し上げる。その後、水は中央部を中心に、下方、内側、そして上方へと移動する(右図参照)。このようにして、茶葉の質量を上回る内向きの力が発生し、茶葉の外向きの力(遠心力)を効果的に封じ込め、観測可能な(求心力の)パラドックスを引き起こす。

同時に、水の円運動(x軸方向)は、カップの底の方が上の方よりも摩擦面が大きいため、遅くなる。この違いにより、水の動きが渦巻状に捻じ曲げられる。

応用

編集

この現象は、赤血球血漿を分離する新しい技術の開発[6][7]、大気圧のシステムの解明[8]、ビール醸造の過程で渦巻流(ワールプール)により凝固物を分離する[9]のに利用されている。

また、アインシュタインはこの概念を用いて引力(重力)を理解したとの説がある。[10]

脚注

編集
  1. ^ a b His results are cited in: Joukovsky N.E. (1914). “On the motion of water at a turn of a river”. Matematicheskii Sbornik 28.  Reprinted in: Collected works. 4. Moscow; Leningrad. (1937). pp. 193–216; 231–233 (abstract in English). http://books.e-heritage.ru/book/10075055 
  2. ^ James Thomson, On the grand currents of atmospheric circulation (1857). Collected Papers in Physics and Engineering, Cambridge Univ., 1912, 144-148 djvu file
  3. ^ Boussinesq J. (1868). “Mémoire sur l'influence des frottements dans les mouvements réguliers des fluides”. Journal de mathématiques pures et appliquées. 2e Série 13: 377–424. http://portail.mathdoc.fr/JMPA/PDF/JMPA_1868_2_13_A17_0.pdf. [リンク切れ]
  4. ^ Bowker, Kent A. (1988). “Albert Einstein and Meandering Rivers”. Earth Science History 1 (1). http://www.searchanddiscovery.net/documents/Einstein/albert.htm 2008年12月28日閲覧。. 
  5. ^ Einstein, Albert (March 1926). “Die Ursache der Mäanderbildung der Flußläufe und des sogenannten Baerschen Gesetzes”. Die Naturwissenschaften (Berlin / Heidelberg: Springer) 14 (11): 223–4. Bibcode1926NW.....14..223E. doi:10.1007/BF01510300.  English translation: The Cause of the Formation of Meanders in the Courses of Rivers and of the So-Called Baer’s Law, accessed 2017-12-12.
  6. ^ Arifin, Dian R.; Leslie Y. Yeo; James R. Friend (20 December 2006). “Microfluidic blood plasma separation via bulk electrohydrodynamic flows”. Biomicrofluidics (American Institute of Physics) 1 (1): 014103 (CID). doi:10.1063/1.2409629. PMC 2709949. PMID 19693352. オリジナルの9 December 2012時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20121209001530/http://link.aip.org/link/?BIOMGB/1/14103/1 2008年12月28日閲覧。. 
  7. ^ Pincock, Stephen (17 January 2007). “Einstein's tea-leaves inspire new gadget”. ABC Online. http://www.abc.net.au/science/news/stories/2007/1828408.htm 2008年12月28日閲覧。 
  8. ^ Tandon, Amit; Marshall, John (2010). “Einstein's Tea Leaves and Pressure Systems in the Atmosphere”. The Physics Teacher 48 (5): 292–295. Bibcode2010PhTea..48..292T. doi:10.1119/1.3393055. https://aapt.scitation.org/doi/10.1119/1.3393055 2019年9月25日閲覧。. 
  9. ^ Bamforth, Charles W. (2003). Beer: tap into the art and science of brewing (2nd ed.). Oxford University Press. p. 56. ISBN 978-0-19-515479-5. https://archive.org/details/beertapintoartsc00bamf_620 
  10. ^ THE HIDDEN REALITY. BrianGreene. pp. 15-16 

関連項目

編集

外部リンク

編集